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第9話:埋伏の毒

 放課後、レイチェルを迎えに行ったら人だかりの中にいた。

 すわ何事かと飛び込んでみたが、様子が少しおかしい。

 どちらかというと、和やかな雰囲気というか。

 レイチェルがちやほやされている。


「もう、あのお店をレイチェル嬢のお姉さまがやられているなんて、知りませんでしたわ! 教えてくださったらよかったのに」

「そうですよ、水臭いですわ」

「ミッシェル様といえば、学園始まって以来の天才と名高いお方ですし。あの方の美貌を保つ秘訣でもある、様々な商品を扱う商店なのでしょう?」

「私たちも、よく利用しているんですよ」


 うん、ここでも下心満載の子たちだ。

 ラッシーのお店の経営者を知って、取り入りにきたのだろう。

 大方、値引きやブレゼントを狙ってのことだと、すぐに分かる。


「そうなのですね……」


 あっ、レイチェルの目が死んでる。

 これは、早々に助けにいかないと。


「聞けば、お友達の方にプレゼントされたのでしょう? それに、少しお安く買えるようになるって」

「私たちも、友達ですよねぇ?」

「えっ?」


 露骨すぎるし、みっともないとは思わないのかな?

 貴族令嬢が、あからさまに物を強請るとか。

 よほどに、経済的に困っているのだろうか。

 困ってるんだろうね。

 いきなりの友達面に、レイチェルもドン引きだ。


「その……私には、身分至上主義派の友達はいませんよ? あぁ……オルガ様だけですね」

「まあっ!」

「私たちは、友達ではないと言うのですか?」

「なんて、酷いことを!」


 掌を返したかのように、口々に非難が始まった。

 これは、流石に不味いよね。

 よしっ!


「笑わせてくれますね!」


 さぁ、乗り込もうと思ったら、底冷えのするような声が聞こえてきた。

 レイチェルの口から。

 なんだろう、おこなのかな?


「さんざん人のことを馬鹿にしておいて、こんな時だけ都合の良い……恥を知りなさい!」

「なんて、生意気な!」

「そんな口を利いて、ただで済むと思ってるの?」


 あれ?

 本当にレイチェル?

 誰かが、幻影魔法でレイチェルのフリをしているとかじゃないよね?

 いつもと違うレイチェルの迫力に、私の方がビビッてしまった。


「私は別に、身分至上主義派でなければ……仲良くしてさしあげても良いと思ってましてよ?」

「まっ! 何様のつもりよ!」

「そんな、上から目線でものを言えるような立場だと思ってるの!」


 レイチェルがダークサイドに落ちてしまったかもしれない。

 そして、出るに出られなくなってしまった。

 何が、彼女を変えたのか。


「立場ねぇ……あなた達こそ、いつからそんなに偉くなったのかしらねぇ?」


 怖いよー……怖いよー……

 無表情で堂々と言い返しているレイチェルが、怖く感じてきた。

 

「それは、ご先祖様の代からよ!」

「そうねぇ……でも、子孫の方々がこうも愚かだと、それもいつまで続くことやら」

「ぐぅっ……そのうち、もっと偉くなるんだから! スペアステージア公爵が王位につけば、きっと私たちの立場ももっと上がるわよ!」

「ですって、殿下」

「ほう、それは面白い話だな。余にも聞かせてもらおうか?」


 おおう……ダリウスさん、居たのか。

 女子の集団の中にいた一人が、男子の方に声を掛けたらダリウスが登場した。

 あの子、どこかで見たことあるような……

 いや、それよりもいつから居たんだ? ダリウスさん?


「先ほどから、話は聞かせてもらったよ」

「ダ……ダリウス殿下……」

「いつから、そこに?」


 ありがとう、私の代わりに質問してくれた少女A! いや、Bかな?

 どっちでも良いか。


「君たちが、彼女を囲んで少ししてからかな? 何かあれば、呼んでもらうように言ってたからね」

「はぁ……もう、こんなことはこれっきりにしてください! 私には無理です」


 あっ、レイチェルが半泣きでダリウスを睨んでる。

 もしかして、ダリウスに頼まれたのかな?


「最近の貴女たちの行動は目に余るものがありましたからね。王族の方に報告させてもらっていたのですよ」

「シシリー嬢、裏切ったのね!」

「はぁ……最初から、仲間でもなんでもないですよ。うちは、別に身分至上主義派閥ではありませんし」


 シシリー嬢……誰かは分からないけど、オルガみたいなスパイだったってことかな?

 いや、見覚えのある顔なんだよ。

 凄く印象に残ってるんだけど、どこで見たかが思い出せない。 

 長期休暇前……いや、長期休暇入ってすぐくらい。

 合宿ではない……となると、舞踏会でか……

 すましたというよりも、どこか感情が読み取れない表情。

 誰かに似てるのも……


「せっかく私たちのグループに入れてあげたのに、こんな形で恩を仇で返すなんて! 恥を知りなさいよ!」


 おおう……盛大なブーメランだ。

 恥知らずの集団にあんなこと言われて、シシリー嬢も可哀そうに。


「恩? こんなくだらない派閥の子の仲間になるのが? 恩ですって? 馬鹿じゃないの?」


 辛辣だなぁ。

 でも、本当に誰だ?

 この子。


「さてと、君たちは明確にスペアステージア家の反意を口にしたわけだが……証拠はあるのかな? 無ければ、スペアステージア家に対する侮辱とみなすけど? もし、証拠があるのなら君たちの親に、詳しく事情を聞かないとね? 国家反逆罪の容疑で、公爵ともども王城に召喚しないと」


 物凄く、頭が痛い展開だね。

 なんというか、杜撰で雑過ぎる。

 私がダリウスならここで登場はしないし、発言は記録として留めておく。

 というか、そもそもレイチェルを使わない。

 このあとの展開がどうなるのか、ワクワクしているけど。

 その後のレイチェルへの手当は、しっかりと考えているのだろうか?


 こんな、行き当たりばったりに等しいような、浅知恵で身分至上主義派に牽制を掛けて何か変わると本気で思ってるのかな?


「それは、お父様が!「馬鹿っ! 黙ってなさい!」」

「お父様が? ふーん……それは、詳しい話を聞かないとね? クチガカールイ子爵令嬢?」


 知ってた。 

 だって、馬鹿だもんね貴女たち。

 一部のちゃんと考えて動ける子たちと、ただ調子に乗ってるだけの馬鹿の集団だもんね。

 そして、圧倒的に馬鹿の比率が高い集団。


「呆れちゃうでしょ? 殿下の突飛も無い行動も、彼女たちの馬鹿さ加減も」

「出たな、胡散臭い男第一位!」

「えっ?」

「いや、お久しぶりですね。ロータス先輩」


 気配感知化物の私に、直前まで気付かせないこの男。

 出来る!

 じゃなくて、本当に胡散臭いんだよね。

 あと、たぶんオーラが無さ過ぎて、逆に気付かないだけだと思いたし。

 こんなやつの隠密に負けたなんて、絶対に嫌だし。


「色々と先輩に対して失礼なことを考えているのは分かるけど、未来の主の夫人になる女性だから、気にしないようにするよ。それよりも、気になるでしょ? 殿下のあの間抜……意欲ある行動」

「いや、まあ気になりますけど。強引過ぎないですか? 手法が……それに、なんでレイチェル? 私の友達を使うなら、事前に許可を取ってもらいたいです」

「まあね……だいぶ前から送り込んでた子が、色々と情報をくれてね」


 そう言って、シシリー嬢を見つめるロータス先輩を見て思い出した。

 うん……あれ、ロータス先輩の婚約者だ。

 というか、王太子の側近候補の婚約者なのに、身分至上主義派に引き入れようとしたのか……あの子たちは。

 何か思惑があってのことだろうが……何故、彼女たちはこうも毎回勝算の低い賭けに、自信満々に出るのだろうか。

 自分たちは選ばれし家系だから、上手くいくと思ってるのかな?


「情報収集だけじゃなくて、情報操作もさせてるでしょう?」

「よく分かったね? でも、させてるというのは語弊があるよ……彼女が、自らやってることだから」

「ああ……そういうの、好きそうですもんね。誰かに似て。似た者同士、お似合いのカップルですよ」

「やっぱり知ってた? 殿下でしょ? 僕の婚約者のこと話したの」


 うん、そうだけどね。

 なるほど、使えるものはなんでも使えるタイプか。

 この先輩は。


 しかし、なんでまたこんな短絡的なことを。


「あー……直接王族に対して害意があるところを押さえないとさ……「全部言わなくても良いです。殿下が私たちと一緒に悪巧みして、何か行動を共にすることが出来ないからですね」」


 私の言葉に、ロータス先輩が黙って微笑んだ。

 正解ってことだろう。

 成長しているようで、本当に成長しないなこの王子様は。


「馬鹿ですね」

「酷いことを言うね」

「そうでしょう? こんな子供たちの言質に、証言としてそこまでの価値があるわけがないでしょう。家庭内での冗談で済まされて終わりですよ」

「それでも、反逆罪に強引に持って行けなくは無いけどね」

「これでも、そこそこのポジションにいる方たちのご令嬢ですよ? 一斉に粛清したら、国の運営に支障が出るから陛下も慎重に動いているというのに」


 そうなんだよね。

 結局、何かしらの要職についてる貴族も、多くいるわけで。

 全員を同時に入れ替えるというのは、無理がある。


「彼女たちにラッシーのことと、先日のお店での出来事を伝えたのは彼女ですね」

「正解」

「そして、今日こうなるように誘導したと。しかも、私が来るタイミングを見計らって……浅はか! 率直に言って、浅はかとしか言えませんよ! 現に、私にバレちゃった時点で、駄目じゃないですか」

「だよねぇ……本当に、エルザ嬢は見た目によらず「ん?」」


 見た目によらず、何かな?

 まあ、早い話が王族が特定の派閥に肩入れは出来ないけど、王族に対して明確な敵意を持つ派閥に対しては行動が出来るから。

 だから、ダリウスはこういった行動に出たのだろう。

 彼も、身分至上主義派に思うところがあったのは事実だし。

 本人としては、良いアイデアだったのだろうけど。

 シシリー嬢を送り込んだところまでは、まあ良いと思う。

 人の……しかも、友達の婚約者を送り込むのはどうかと思うけど。

 ロータス先輩の婚約者だから、家格は十分に資格があったのだろうけどもさ。

 だからって……


「ああ、シシリーはこういったことが、大好きだからさ。望んで、この役目を買って出てたよ」

「シシリーさんはね……でも、レイチェルは違うでしょ? 何を対価に?」

「王宮の料理人の派遣」

「嘘でしょ? そんなもので?」

「……を含めて、色々」

「でしょうね」


 流石に料理だけにつられて、こんな慣れないことをしたとなると驚愕だったけど。

 他にも特典があるのなら、まあ分からなくもない。


「希少性が高く、王族でも滅多に食べられない食材の提供」

「……」

「王家の料理に使われている、代々継ぎ足して作られる秘伝のソース」

「ああ、それ……継ぎ足す量にもよるけど、数ヶ月から一年くらいで中身全部入れ替わるみたいですよ」

「嘘!」

「本当ですよ。塩分とか低温殺菌もあるけど中身が入れ替わるから、腐らないんですよ」

「それは、知りたくなかったなぁ……レイチェル嬢には、内緒にしてください」

「勿論。彼女の夢を壊すつもりはないから」


 それにしても、何故か複雑な気持ちになったよ。

 何はともあれ、ダリウスは説教確定だね。

 なんか悲喜こもごもな状況になってるけど、おそらくダリウスが陛下に叱られて終わるだろう。

 あとは、彼女たちが家で怒られるくらいか。

 だから、普通に彼女たちは学園に戻ってくる。

 レイチェルに対するアフターフォロー次第では、ダリウスを殴ることになるかもしれないね。


 しかしこうなると……シシリーは身分至上主義派のご令嬢に対する埋伏の毒だったのか、はたまたダリウスに対する埋伏の毒だったのか……

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