第8話:まったくこいつらは
さて、ミッシェルとの和解というか、関係修復はとても有意義なものだったと思う。
あとは、ポーラとの話し合い次第か。
といっても、ミッシェル自身もまだすべてを語ったわけじゃないし。
とりあえずは、週末の話し合いの結果次第かな?
土の日の放課後に話し合うことになったからね。
次の闇の日は学校が休みだから、あわよくばお泊りしてレイチェルのベッドにもぐりこんでやる。
それはともかく、私の目標は全てを許す王妃様だ。
もちろん、許すといっても無条件ではない。
罪を憎んで人を憎まずの精神を貫くという意味で。
だから、罪は罪として償わせることは忘れない。
その代わり、罪を償って反省したら私は許そう。
たとえ、身分至上主義派の人間であっても。
とりあえず、ジェシカは許した!
だから、彼女を救う方策も改めて練り直さないと。
彼女を利用したいシャルルとオルガにも、要相談だね。
それはそれとして、学園内での身分至上主義派の動きが少し静かになっている。
表向きは。
裏ではやっぱり、それなりに悪辣なことをしているみたいだけど。
表立っては動くことが減った。
私が少しでも抑止力になってたらいいけど。
それとは別に、兄のクリスのことも噂になってたからね。
特に女子たちの動きが鈍くなったのは笑えるよ。
身分に関係なく付き合える女性が良いなんて公言してるものだから、あからさまにわざとらしく下に優しくするようになった子もいる。
無駄な努力だ。
いくらそれをやったところで、兄の耳に入らないと意味がない。
そして、兄と接点が無ければアピールのしようもないだろう。
だから、兄との接点を求めるよね?
私に……
身分至上主義派の少女たちに囲まれて、若干辟易してきた。
彼女たちの目に、私が映ってないから。
それにも関わらず、私と仲良くしたいとアピールしてくる。
悪い事ではないんだけどさ……カーラたちまで困ってるんだよね。
演技じみた仲良しごっこに付き合わされて。
「あら、カーラ嬢はご存知なかったのかしら? エルザ様は、このお菓子がお気に入りなのですよ」
そう言って身分至上主義派の子に、以前オルガに教えてあげたお菓子屋さんのショコラを差し入れされた。
ごめん……私は別にチョコレートが特別好きってわけでもないんだよね。
カーラは知っているからか、少し困ったような表情を浮かべている。
「普段から懇意にしてるようで、そこまで親しくはないのですね」
うーん、自分の方が私についてよく知っているというアピールなのだろうけど。
正直、全然響かない。
その……下心が明け透けて見えすぎてるから。
フローラとテレサも困惑気味だ。
「剣ばかりではなく、お茶なども嗜まないとエルザ様には付き合えませんわよ」
うん、私はお茶よりも剣の方が好きなんだけど。
「よく、殿下やシャルロット様とお茶会を開いているみたいですし」
「凄いですわ! 流石、公爵家のご令嬢ともなるとお付き合いされるお相手も、格が違いますわね」
そのシャルルを目の敵にしてるのが、君たちの派閥なんだけどね。
休憩時間の度に私の周りに集まって、元々仲の良かった子たちを押しのけてこんなことを言ってくる彼女たちにストレスを感じ始めた。
とはいえ、私は全てを許すと決めたんだ。
ここは、大人になって……
「カーラ、レイチェルを迎えに行って、食事にしましょう」
カーラを強引に連れ出して、レイチェルやテレサたちを迎えに行く。
「私たちもご一緒しても、宜しいですか?」
「あー、あまり大人数で集まると、他の方の迷惑になるし。また、今度ね」
当然、彼女たちも着いて来たがったけど、やんわりとお断り。
これは、敵対していた時以上に厄介な状況だ。
表向き好意的に接してきているから、無下にも出来ないし。
ただ、元々仲の良かったことを貶めるようなことを言うのは、いただけない。
怒りたい。
叱りたい。
ブチ切れたい。
廊下に出たら出たで、他のクラスの子たちがこっちを見てくるし。
これは、本当に面倒極まりない。
「珍しいですね、エルザ様が我慢なされるなんて」
「それは、流石に酷いよ。私だって、好意的に話しかけてくる子たちに冷たくなんてできないし」
食堂で食事をしながら、レイチェルたちと今の状況について相談。
流石に、食堂で騒動を起こすような子たちは、もういなくなったか。
いたら、今の私はそこまで優しくできないな……と思った。
八つ当たり気味に、ぶつかっていくだろう。
「でも、これが正しい形ですよね? 身分至上主義を謳うなら、エルザ様には最大限の敬意を払って当然ですから」
オルガは相変わらず上品だ。
小さく切り分けたお肉を、これまた小さなお口に運んで上品に食べている姿に感心する。
レイチェルの前には、相変わらず定食が二つ用意されていた。
大盛と、小盛りのセット。
いや、それなら普通盛りのセットでよくないかな?
「量を選べるようになったのは、嬉しいです。気になる方を多く食べられますから」
そういう考え方もあるのか。
今日は、魚の気分だったのかな?
魚料理の方が大盛だった。
小盛りは日替わりだ。
私は日替わりを普通盛りにしてもらっている。
蛇肉フィーバーが終わったおかげで、ようやく色々な種類の料理が出てくるようになった。
今日の日替わり定食は、おじやかなという印象を受ける和風テイストのリゾットだった。
お肉がゴロゴロと入っているけど、味付けがね。
チーズでも入れたら、良いんじゃないかな?
「蛇肉が無くなったのは、残念ですね」
懐かしい気持ちになりながらリゾットもどきを食べていると、レイチェルから驚きの発言が。
あれだけ毎日学食で蛇を食べさせられたのに、まだ足りなかったのだろうか?
「終わりの方に出てきた、レオハート領がレシピを提供したという唐揚げ。あれは、本当に美味しかったんですもの」
「ごめんレイチェル。本当は、あれ鳥のもも肉で作る料理だから。今度、本物を食べさせてあげるよ」
「本当ですか! それは、とても楽しみです」
ああ、彼女は唐揚げにはまっただけだったのか。
だったら、美味しい唐揚げをぜひ食べさせてあげたい。
うん、今度の話し合いの時は、下味をつけた鶏肉をマジックバックに入れてもっていこう。
マジックバック内は時間経過はするけど、中の温度は調節できるからね。
拡張型マジックバックだから、氷を大量に入れておけば冷えるはずだし。
氷に状態保存の魔法を掛けて、突っ込めばいいだろう。
「それにしても、露骨ですね」
「まあ、クリス様と結婚なんてことになれば、派閥内での地位は鰻登りでしょうし」
「他の令嬢のやっかみを受けることになると思いますが」
うーん、クリス争奪戦は加熱の一途を辿っている。
このままでは、刃傷沙汰とかになるかもしれないね。
「それとは別に、身分至上主義派の貴族たちが会議で、エルザ様について陛下に直談判したらしいですよ」
なんだそれは。
初耳だ。
こら、ダリウス!
これは、私に報告すべきことじゃないの?
こういう時こそ、強引さを発揮してお茶会を開きなよ
「彼らの子供たちが、学園でエルザ様に危害を加えられたとか。あとはエルザ様の我がままで横柄な態度を何とかしてほしいとか。子供たちが、学園で徐々に肩身の狭い思いをしていってるとか……」
「何それ。自業自得じゃないですか!」
「自分たちの行動を棚にあげて、よく言えたものですね。恥知らずだとは、思わないのでしょうか?」
オルガの言葉に、カーラとテレサが憤慨している。
別に、私は気にしないけど。
どうせ子供たちが、あること無い事を親に吹き込んだだけだろうし。
裏どりをしてないのはどうかと思うけど、子供の言うことを鵜呑みにしそうな親たちだしね。
この子供にして、この親ありって感じかな?
「レイチェル、これあげるよぉ」
「こら、ジェイ! ちゃんと、ピーマンも食べないとだめだよ」
ふと横を見たら、ジェイが自分のお皿からピーマンをレイチェルのお皿に移していた。
それをジェーンが注意しているけど、なんだか微笑ましい。
というか、ジェイは誰に対してもあんな態度なのかな?
大物っぽい。
「あんな子だから、身分至上主義派の当たりが最初は特に強かったんですよ! でも、あんな子だから……あまり堪えてなくて」
「どこか、達観した印象を受けますね」
私の疑問を感じ取ったのか、なぜかジェーンが説明をしていた。
そして、フローラがおっとりとした感じで、頬に指を当てて呟いていた。
うん、なんかまあ……良い性格だとは思うよ。
「ピーマン食べてくれたら、このお肉も一切れあげる」
「まあ、お肉をくれなくても、ピーマンも好きですから良いんですけどね」
「じゃあ、要らない?」
「それは、要りますけど」
ジェイとレイチェルが凄く仲良くなってる気がする。
ジェーンが妬いちゃうんじゃないかな?
「分かります? 私も、これで結構苦労してきたんですよ」
「その割には、彼女のことを気に入ってるみたいですね」
「まあ、弟と似てるというか……妹みたいに見えますし。放っておけないんですよね」
ああ、フローラと意気投合しているから、特には問題なさそうだ。
とりあえず、身分至上主義派の子たちの暴走について、建設的な意見は出なかったよ。
一過性のものとして、落ち着くまで耐えて様子見ようという結論になった。
いや、私のストレスが、割とあれなんだけど?




