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第3話:後期開始

「さて、皆さんは休暇の間はどのように過ごされたのでしょうか? きっと、学生の本分を忘れることなく、様々なことに挑戦し経験してこられたことでしょう。顔を見れば分かります。2ケ月前よりも、ずっと素敵な顔をしてますね」


 グレイドルフ学園長の長い長い朝礼で、後期日程の幕が開ける。

 最初から覚悟していれば、この長い話も耐えられなくはない。

 うん……たぶん。


「私はですね、まず家族と一緒に故郷に戻りまして、そこで素晴らしい時間を過ごしました。幼少期の思い出が蘇ってきて、久しぶりに童心に帰って孫と色々なことをしました」


 うーん、相も変わらずの自分語りが始まった。

 てか、領地持ちの貴族だったのか。

 てっきり、王都住みの貴族だと思ってたよ。


「その時に皆さんのことを考え、色々なことに思いを馳せておりました。ちなみに孫とは、魚を釣ったり野山を探検したりと本当に楽しいひと時でした」


 普通のおじいちゃんというか、田舎のおじいちゃんだな。

 勉強とかは、教えたりとかしなかったのかな?


「この休暇では、皆さんもご存知の通り大変な事件も起きました。えっ? あっ……いえ、なんでもないです」


 ああ、合宿の時の出来事の話かな?

 学園長が何か言いかけたところで、他の教員からストップが掛かっていた。


 緘口令が敷かれているってほどでもないけど、大々的に発表したわけでもないからね。

 関係者と一部の貴族しか、知らない話だ。

 噂として多くの人の耳には入ってるだろうけど、敢えて自ら話すようなことでもないと思うんだけどね。


「まあ、色々とあったのです。誠に遺憾ではございますが、学園としてはより厳しい目で生徒の監視を行っていくべきだという考えで……」


 いやいや、厳しい目で見るのは身分至上主義派の連中だけにして欲しい。

 学園内では特に。

 どちらかというと、贔屓にされているんじゃないかという疑惑すらわるから。

 でも、補習率は高いけどね。

 流石に成績の改竄まではやらないよね。

 子供たちのためにならないだろうし。

 他の教員の目もあるだろうしね。


 ……そういえば合宿に参加していた教員たちは、全員が身分至上主義派に与していない先生たちだった。

 余計なことを勘繰ってしまうのは、考え過ぎだろうか。

 そもそもが魔物寄せのお香まで使わせるようなことを、子供がするだろうか?

 ……しそうだよね。

 ジニーもレイモンドも。

 事態の大きさ的には、大人が介入をしていてもおかしくない気がするけど。


「最後に、私がこの休暇で……」


 はいはい、最後の締めはやっぱり自分語りですね。

 休暇で学園における目標を色々と打ち立てて、それを実行するためにいかに努力したかを力説されて終わった。

 みんなぐったりしているけど、ここから教室でオリエンテーションがあるのかと思うとげんなりだ。


「こうして全員が揃って戻ってきてくれて、ほっとしたよ」


 教壇でブライト先生が、しみじみとそんな言葉を漏らした。

 合宿の件もそうだけど、こういう世界だからね。

 やっぱり、休暇中に色々とあって学園に来なくなる生徒もいるらしい。

 うちのクラスにはいないだけで、他の学年やクラスにはいるらしいし。

 すぐにジェシカのことが思い浮かんだけども。


 理由は様々だ。

 親の汚職で、来られなくなる子もいるらしいし。

 それに、魔物がいるからね。

 貴族の子供でも関係なく、事故も起こったりする。

 病も怖いし。

 流行り病が出た時なんかは、それなりの子たちが戻ってこなかったりすることもあるとか。

 最近ではそういったことは、減っているとか。

 流行り病自体が、少なくなっているらしい。

 ただ、それは都会や貴族たちの中の話だ。

 農村部では、やはりそういった病が猛威を振るうこともあるとか。


 それから1時間ほど、後期の日程や行事の説明を受けたあとで解散、帰宅の流れになった。

 クリントとカーラと一緒に、隣の隣のクラスに向かう準備をする。

 うん、ジェイとジェーンの様子を見るためだ。

 うちのクラスですら、私たちに対して隠す気の無い敵意を向けている子がいるからね。

 ジニーの友達とかかな?


 睨み返すと、すぐに目を反らすのは可愛いけどね。

 そのまま近づいて行って、下から覗き込んだら「ひいっ」って言われてちょっとショックを受けることになったけど。

 そんなに怯えるくらいなら、最初から睨まなければいいのに。


「飴食べる?」


 とりあえず物で釣ろうとしたら、無言で首を横に振られてしまった。

 なんだ、残念。

 私の持ってる飴ちゃんには、桃太郎もびっくりのきびだんご効果があるのに。

 いや別に、変な薬をもってるわけじゃない。

 お菓子をあげてたら、割と警戒心を緩めてくれる子が多いからね。


 というわけで、隣の隣のクラスに。

 うわぁ……うわぁ……


 そこで見たのは一生懸命机を拭いているジェーンと、特に気にした様子も無くそれを眺めているジェイだ。

 机が汚されているのに、このクラスの担任は何も言わないのか?

 そう思って室内を見渡したけど、先生はすでに教室を出たあとぽかった。

 そして、二人の姿を遠巻きに見ている集団がいる。

 意地の悪い笑みを浮かべている。


 ジニー達はこのクラスだったのか。

 もう一人、どこかで見たような子がいるけど。

 どこだっけ?


 王城のパーティとかかな?

 そのどこかで見たような子が、こっちに気付いたとたんにニヤリと笑った。

 そしてそのまま顎をあげて見下したような視線で、フンッと鼻で笑った。

 なんだろう……


「これはこれは、裏切り者のカーラ様ではないですか」

「オリビア……」

「馴れ馴れしく、呼ばないでくださる?」


 オリビア……ああ、カーラと一緒にソフィを虐める話をしていた子か。

 入学式の時に。


 最初オリビアという名前を聞いた時は、全然違う子を思い出しちゃったけど。

 もっと、違うところで会った気がしたと思って、一生懸命考えてたら思い出した。

 うん、王城のパーティであった4つ下の天使ちゃんだ。

 素直な子で、飴を二つあげたら二個とも一気に口に入れて、頬っぺたが両方とも膨らんだ可愛い天使ちゃん。

 と、この小狡い感じの少女が、同じ名前なのか。

 とりあえず、オリビアの名前を変えさせた方が良いかな?


「聞けば、あの平民とも仲良くしてらっしゃるんですって? 本当に、落ちたものね」


 私には目もくれずに、カーラに何か言ってるけど。

 そんなことはどうでもいい。

 いや、どうでも良くない。


「ねえ? なんで、あの二人の机は汚れているのかな?」

「はあ? そんなの、エルザ様には関係ないでしょう!」

「あるよ。あの二人は私の友達なんだけど、誰がこんなことしたのかな?」

「っ!」


 私の言葉にオリビアが一瞬ひるんだのが分かる。

 もう一度、問いかける。


「誰が、私の友達の机を汚したのかな?」


 一瞬オリビアが、ジニー達の方に視線を送っていた。

 ジニー達は、すぐに視線を反らしていたけど。

 また裏切られてら。


「知りませんわよ!」

「そうなの? まあ良いけど」


 左手でジェイとジェーンの机を撫でると、泥やらインクやらの混じった汚れがほぼ完璧に綺麗になる。

 高速で振動する熱湯と、水蒸気の力だ。

 魔法で作りだした高温のお湯を使った、魔法だね。

 火魔法と水操作も合わせて使ってるから、そこそこ難しいかもしれない。

 普通の人からしたら。


「すぐに犯人を見つけ出してみせるから。今日ここで白状すればよかったと、後悔させてあげるよ」

「分かるわけないでしょう! 見ていたわけでもあるまいし」

「オリビアさんだっけ? なかなか度胸があるのは結構だけど、誰を敵に回そうとしているか改めて考えた方が良いと思うよ」

「お……脅す気?」

「はぁ……私相手に喧嘩を売るってことは、自分が潰される覚悟ははなより家ごと叩き潰される覚悟もあるってことよね?」


 私の言葉に顔色が悪くなってるけど、普通に考えて分かりそうなものだ。

 私のレベルを、知らないわけでもあるまいし。

 最新情報は知らないにしても、おじいさまとこの国のワンツートップに立ったことくらいしってそうだけど。

 だから家格的にも、物理的にも家を潰せるんだけどね。


「私は、脅しなんかに決して屈しない」

「まあ、ご立派! とでも言うと思った? 脅す側の人間相手に、手加減する必要なんてないし……というか、脅しじゃなくて普通にやるだけだから大丈夫」

「何が、大丈夫なのですか!」


 少しだけ、言葉が丁寧になった気がする。

 しかし、学園初日から前途多難だな。

 

「何かあったのですか?」

「何事ですか?」


 あっ、テレサとソフィアの登場で一部の男子がビクッとなってた。

 レイチェルは?

 ああ、先生に捕まってるのね。

 なんで?



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