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第2話:王城お茶会part2

 実際には何度目か分からないけど、王城の庭園でのお茶会も慣れたものだ。

 今日は東屋ではなく、薔薇園の中で行われるらしい。

 アーチをくぐって石が敷き詰められた道を進むと、小高い場所がある。

 芝生の小山のような場所に、太い一本の支柱に支えられた傘のような屋根のある場所があった。

 春バラには遅く、秋バラには早い時期と思ったけれども、色とりどりの薔薇が花を咲かせている。

 うん、ピンクと白が圧倒的に多いけど、チョロチョロと黄色や赤いバラも顔を覗かせていた。

 気候的には秋に近いのかもしれないけど、地球じゃないしね。

 植物の生態も違うだろう。

 そもそも一年が10ヶ月しかないから、季節的なものも違うか。


「ありがとう」


 お城の侍女から、お茶を淹れてもらう。

 薔薇の香りがティーカップからも漂ってくる。

 うん、周囲からも薔薇の香りに囲まれているから、若干食傷気味だ。

 ダリウス的には周りの雰囲気と合わせた、ベストチョイスだったのだろう。

 お茶の香りを嗅ぐ私を見て、満足そうに頷いている。


 ただ、私が一瞬だけどウッとなったのを見た侍女の方は、目で謝ってくれていた。

 まあ、殿下の希望だったら、何も言えないよね。

 こういうときこそ、お母様の出番だと思うのだけれども。

 王妃様は、何をしていたのだろう。


 チラリと横を見たら、シャルルは微笑んでいた。

 ただただ、微笑んでいた。

 色々な感情を含んだような色彩の目をして、微笑んでいるだけだった。


 あっ、心を殺したんだなとすぐに理解したよ。

 彼女は言いたいことが言えない場面で不満が限界突破したら、ああなるんだよね。

 誰も不幸にならない、見事な処世術だよ……

 彼女以外……


 とりあえず慰めるようにシャルルの肩をさすってあげたら、微笑んだままこちらをチラリと見て紅茶に視線を落としていた。

 表情は微動だにしない。

 重症かもしれない。


「それで、横槍を入れてまでこのお茶会を強硬した理由は?」

「なんだか、言葉に棘がないかい?」


 周囲が薔薇だらけだからね、

 棘が生えても仕方ないよね?


 ……これだけストレートに言っても棘がある程度にしか感じないなら、もう一度社交の勉強を一からしなおすべきだと思うよダリウス。

 

「皮肉ではなく、ストレートに詰問しているのですが? 女性同士のお茶会を邪魔するなら、それなりの理由があるのでしょう」

「私が、エリーに会いたかった……じゃ、駄目かな?」


 こいつは、何を目指しているんだ一体。

 あと、それは自己中すぎるぞ。

 相手の都合を考えずに、自分の都合を最優先させるとかどこの王族だ!

 ここの王族か……


「エルザ様、私のことはお気になさらずに」


 うん、微笑んだまま言われても、なんの説得力もないけどね。

 そんなに我慢を重ねて、いつか爆発するんじゃ……いや、過去に何度か爆発してるけど。

 私のせいで2回くらい、お嬢様の仮面が剥がれた時もあったような。

 まあ、この国の王太子相手じゃ我慢するしかないか。


「夏の合宿の件は、委細報告は受けているからね。こちらからの伝達がメインかな?」

「ほう?」

「怖いよ」


 てっきり夏合宿の事情聴取が行われるのかと思った。


「最近の身分至上主義派の、旺盛な様子についてだけどね」

「何か理由でも?」

「ああ、来年彼らの神輿のスペアステージア家の当主のお孫さんが、入学するために王都に来るだろう?」


 それなら、知っている。

 カーラから、聞いたし。


「双子の姉弟なんだけどね」


 ……孫としか聞いてなかったけど、てっきり一人だと思ってた。

 へえ、双子ちゃんかぁ。

 可愛いのかな?


「変なことを考えてますわね」

「うん、私にも分かったよ」


 二人が何やら分かり合っている。

 婚約者の私でも、ダリウスを理解できていないというのに。

 全然、妬けることもないけど。


「エルザに関することは、シャルロット嬢と分かり合える気がする」

「私もエルザ様の話の時だけ、殿下と話が合いますね」


 そうですか。

 二人とも私のこと、好きすぎやしませんかね?

 嬉しいことで。


「まあ、それで身分至上主義派の子たちが調子に乗るのは分かるけど、親までも?」

「まあ、基本的にスペアステージアの人間は、王都には当主である公爵以外は来られませんからね。ただ、来年からは孫や子供、甥、姪の様子を見に来たという名目で多くの血族が来るでしょうね」


 ということは、悪だくみも捗るってことか。

 厄介だとは思わない。

 むしろ、好機だと思うんだけど。

 ビルウッド以外にも、何人か送り込めば情報収集も捗るんじゃない?


「向こうの動きが派手になるなら、こっちは裏で動けば良いんじゃない? 適当に目立つ人間を使って目を眩ませておいて、地味な人間を送り込むとかさ」

「……具体的には?」

「うーん……おじいさまに暴れてもらって、ニシェリア侯爵の寄子の貴族を送り込むとか」

「えっと」


 なんだ、察しが悪いな。

 

「誰でもいいから、私たち所謂貴族のトップ層が下から不満を持たれるような振る舞いをして、それを見せつけるの。といっても、誰もかれもってわけじゃないよ? 先に話を通しておいた、そういった情報収集や演技の得意そうなこっち側の貴族に対してね」

「なるほど……」

「流石に、陛下に頼むわけにはいかんな」


 ダリウスが何か言ってるけど、あんたの場合はそのまま自分でやったら良いんだよ。

 将来の国王陛下なんだから、スペアステージアの直接の障害だし。

 

「なんで、そんな目でみてくるんだい?」

「ダリウス殿下の場合は、別に自分でやっても効果はありますから。将来の国王陛下に、理不尽に当たられたらねぇ? この国の将来に悲観して、スペアステージアに付く流れが自然になりますし」

「エルザ様、殿下をそのような権謀の道に唆さない。王族が、そんな(はかりごと)をする必要なんてないのですから」

「あら、そうね。殿下は素直だから、難しいか」


 私とシャルルの会話を横で聞いていたダリウスが、大きく頷く。


「私に任せてくれ! 上手くやってみせよう」


 ……こういうところは、本当に不安になる。

 こんなに簡単にのせられて大丈夫なのだろうか。


「大丈夫に決まっているだろう。エルザの謀りにしか、私は乗らないからね」

「十分に不安ですけど、まあ詳しい内容はこれから考えましょう」

「ですね」


 あっ、シャルルが投げやりになってる。

 目下のところ、来年から本格的な勝負になるってことか。

 ということは、この後期でどれだけの準備が出来たかが重要になってくるってことね。

 うん、腕がなる。


「それと、スペアステージアがここまで強気なのにも理由があった。ハンドレッズという騎士部隊を秘密裏に用意していた」

「ハンドレッズ?」

「ああ、レベル100オーバーの騎士部隊だ。現時点で、20人を超えているらしい」


 へえ、レベル100オーバーの騎士部隊。

 それは興味あるけど。


「たぶんことを起こすときは、この騎士隊を使って王城の制圧を行うつもりなんだろう。被害や人命を無視して、私たちの首を狙って来たら……それなりに高い確率で成功すると考えているのだろう」


 まあ、実際には効果はあるかもしれないけど。

 城の壁を破壊できる人材も現れるかもしれないし。

 そしたら、文字通り気配探知を鍛えた人間を使って王族の場所を探り当てて、壁を突き破ったりして一直線に向かえばいいからね。

 まあ、存在がバレてる時点で、無理だと思うけど。

 王族用のパニックルーム的な場所もあるだろうし。

 壁を魔法で強化する方法もあるし。

 せめて、もう少しそのハンドレッズとやらの存在を秘匿できていたら。


 ……というか、レベル上げを推奨している人間がいるってことか。

 しかも、部隊名的にちょっとあれな人材かもしれない。

 拗らせてる。


 いや、大真面目なのかもしれないけど。

 この世界基準でその方法に思い至ったなら、大真面目なのだろう。

 貴族が付ける騎士隊の名前にしては、妥当といえなくもないし。


 そうじゃなければ……


「てか、レベル100って……」

「ああ、まさに精鋭のみの部隊だな」

「えっ?」

「えっ?」


 ああ……あれ?

 うちの領軍の方が、秘匿性高かったかな?

 うち、相当数レベル100オーバーの騎士達を抱えているけど。

 おじいさま、陛下に報告してないのかな?

 そうか。

 いちいち、部下のレベルまで報告しないか普通。

 うん、普通はそうだよね。


 てことは、スペアステージアはハンドレッズなんて名前の騎士隊を発足したから、目を付けられたわけだ。

 というか、レベル100超えたのを宣伝しちゃった状態だ。

 自慢したかったのかな?


 馬鹿じゃないかな?

 魔物倒したらレベル上がるのなんて普通だし。

 戦力の詳細の把握は、確かに重要だけど。

 軍規模になると、個人の能力をいちいち報告されてもね。

 集団戦がメインなわけだし。

 いや、部隊配置や昇進の意味合いでは、必要だけど。

 それは、領主と実際に差し配する人員だけが知ってればいいだけだしね。


「最高でレベルいくつくらいの方が。いっらしゃるのでしょうか?」

「5人一組で、それぞれの隊の隊長は200前後らしい」

「その程度か……」

「えっ?」

「いや、何でもないです」


 横でシャルルが呆れたような視線を送ってきているけど。

 いや、なんというか。

 私とおじいさまは別として、マリアもセバスも300超えだし。

 この二人だけで、制圧出来る気がする。


 あっ、二人ともそういうの得意だった。

 

「レベルって偉大ですね」

「ああ、そういえばレベルの話で思い出しました。レイチェル嬢の姉のミッシェル様……この間、500レベルを超えたらしいですよ?」

「それマ?」

「えっ?」

「いや、えっ? どこ情報?」


 シャルルの爆弾発言に、思わず素が出てしまった。

 てか、レベルのインフレがやばないですか?


「レイチェル嬢から直接聞きました。まだ足りない、まだ足りないと言いながら、夜な夜な魔物狩りに出てるみたいで……」

「足りない?」

「そうみたいです」


 私に対抗するのに、まだ足りないということらしい。

 いや、なぜ私に対抗意識をもっているのかが、よく分からないけど。

 とりあえず、やっぱりレイチェルのお姉さんは色々とヤバイ人みたいだと再認識。


 ちなみに私とおじいさまはこの長期休暇で……サウザンズって名乗れそうなレベルになりました。

 ただ、それでも人類未踏ではなかった。

 他の大陸を入れると、この世界には過去も含めてたら三桁ほどいるらしい。

 現時点では、16人ほどとのこと。

 この大陸では四人らしい。

 へぇ……あとの二人が気になりすぎる。


 こんなどうでも良い話、誰に聞いたかって?

 サガラさんが教えてくれた。

 この世界の主神に聞いたんだってさ。

 

 そっちも会いたいといったら、会ったら馬鹿になるといって取り合ってくれなかった。

 その直後に時空にひずみが出来て、何やら出てきそうな雰囲気だったけど……サガラさんが、親指と人差し指でそのひずみを閉じてしまった。

 

「酷い!」


 っていう声が聞こえたけど、もしかして主神様の声かな?

 とりあえず、色々と楽しみなことが増えた。


「しかし、本当に色気のないお茶会でしたね」


 あっ、最後にぼそりとシャルルが毒吐いた。

 そして、ダリウスが地味にダメージを負った。

 

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