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第35話:第二章エピローグ 魔獣掃討戦!

 獲物を前にして急に撤退を始めたポイズンボアの群れを、第二波の四足獣たちが飛び越えるようにして追い越してその場に向かう。

 獰猛な牙を持ち、爛々と目を光らせながら。

 大きな足には鋭い爪が隠されており、力強く大地を踏みしめ、時に地を這う蛇を踏み付けながら一目散にそこへと向かうそれらはまるで雪崩のように押し寄せてきた。


 灰色の毛並みを持つそれは月の光を反射させ、銀狼と呼ばれるに相応しい姿を見せる。


「第二波、会敵します! 生徒たちの避難は完了しました」


 開けた場所に不釣り合いな箱型の建物があり、その場には二人の男女が立っていた。

 いや、一人は女と言うにはいささか歳が足りておらず、少女と呼ぶに相応しい風体だ。


 横の茂みから少女と同世代と思われる男の子を6人ほど連れた、年若い男性が二人に声を掛ける。

 その言葉を受けて、少女が安心したように頷く。


「では、貴方も建物の中へ」

「いえ、私も戦います」


 少女の指示に男性が首を横に振って、剣を抜く。

 それを見た少女が、溜息を吐く。


「これは命令よ」

「ですが、エルザ閣下代理殿も我々にすれば保護対象の一人です! むしろ、家格的に最優先されるべき人物です」


 エルザの言葉になおも食い下がる同僚の姿を見て、一緒にいた男性が首を横に振っていた。


(そういえば、そうだった。こいつの出鱈目な強さについつい当てにしちまってたが、本来ならこっち側だったな)


 そう考えながら、奇妙な箱型の建物に目をやる。

 それを作ったのも、横にいるエルザなのだが。

 彼女の言によれば、竜の突進をも防ぐとかなんとか。

 ただの灰色の切り出しの石材のような建物で大げさなと思いつつも、完全に疑うことはできない。

 それほどまでに担任としてエルザを見てきた彼にとって、彼女は非常識に過ぎた。


 そして、建物を見て目を(しばたた)かせる。

 いつの間にか、その建物に大きな正方形の穴があいていたからだ。


「おい、あれ!」

「大丈夫ですよ、ブライト先生。ちゃんとシールドは張ってあるから」


 ブライトの視線の先を見て彼の言いたいことを理解したエルザは、彼の理解できない返答で応えた。

 

「それに、観客(オーディエンス)は多い方が盛り上がるでしょ?」


 この目立ちたがり屋が! と思わず声に出しかけて、すぐにその気配に視線を前に戻す。

 いや、気配どころではない。

 足音が、確実にその場に迫っていた。

 時間は無い。


 遅れてきた教師が連れた生徒たちはすでに建物の中に避難しており、その彼も建物の前で剣を構えている。

 エルザは若い教師に目を向けると、溜息を吐いて前に一歩踏み出す。


「馬鹿、不用意に飛び出すな! なっ!」


 慌てて彼女の後を追おうとしたブライトは、自身の目を疑う。

 確かに彼女は、一歩前に歩み出ただけだ。

 その動作自体におかしなことは無かった。

 ただ、その一歩はまるで空間を削り取ったかのように、彼女を移動させていた。

 目の前から消えた少女の姿を追った彼の目は、丁度、魔物の群れの目前に足を踏み下ろす彼女の姿を捉えた。

 そして、次の瞬間に彼女は魔物の群れに飲み込まれた。

 

「レオハート!」


 焦って駆けだす彼の目の前で、エルザは腕を、首を、肩を、足を、頭を……全身のありとあらゆるところを狼に食らいつかれていた。


(馬鹿が、甘く見やがって!)


 レベルが異常に高いから噛まれたところで死ぬことは無いだろうと分かっていても、心臓に悪いことには違いない。

 彼はなるべくエルザを早く助け出すために、駆けだす。

 エルザの強さを知っていても、信用はしていない。

 少しの油断で命を落とす強者など、数多も話に残っている。

 それこそ伝記に、戦記に、おとぎ話に、歴史書に。

 ただ、その誰もが彼女程の異常なレベルではなかったが。

 それでも、万が一を想定して急ぐ。

 

 一方、そんなことを知らない生徒たちからすれば、阿鼻叫喚もののショッキングな場面だった。

 さきほどまで笑っていた少女が、いま狼の群れに全身を噛みつかれているのだ。

 誰もが悲惨な未来を想像し、言葉を失う。

 いや、一部余裕の表情を浮かべているものもいるが


(まあ、私でもあれはギリ耐えられるし……たぶん、大丈夫……かな?)


 他の子たちと違い自身もレベル上げに邁進していたレイチェルは、エルザのそのスペックを正しく理解していた。

 柔肌に見えても、魔力を通し力を入れればそれなりの頑丈さを発揮する。

 それがレベルアップによる身体能力の補正の一つだと知っている彼女からすれば、なんら問題のない光景だった。 

 むしろエルザほどのレベルなら、竜の噛みつきにすら耐えるのではと考えるほどに彼女は出鱈目だった。


 そして、ブライトがそこにたどり着くか否かといった瞬間に、目も眩むような閃光が放たれ……辺りに爆音が響き渡る。


「なっ! 何が!」


 薄暗い月明りの景色になれた彼らの目にその光は容赦なく襲い掛かり、視力を奪った。

 ブライトは目をこすりながら、急いで魔力による身体強化での視力回復を図る。


 一方の生徒たちが覗く窓のようなシールドには光の刺激を軽減させる効果があるのか、彼らはすぐにエルザの姿を捉えることが出来た。

 視線の先の彼女は、黄色と白の混ざった炎に包まれて平然と立っていた。

 そしてその手には先ほどまでは無かったはずの、反りの入った誰も見たことのない長剣を携えて。


 その周囲に焦がされた魔物の肉片が降り注ぐ。

 その肉片も彼女に触れるかどうかというところで、ジュッという音が想像できるような発火を見せ蒸発するかのように消える。

 あまりに狂気染みたその景色は、獣の毛を焦がした火の粉の中に光を纏った少女と相まって、彼らの目に酷く幻想的に映っていた。


「綺麗……」

「怖いほどにね……」


 誰が言い出した言葉かは分からないが、適切に彼らの心情を表していた。

 いや、大半が次いで漏らされた、怖いの部分に同意することになっていたのだが。

 

 そして剣を持った少女が、獰猛に笑みを浮かべる。

 獲物を狙うその目は、完全に捕食する側だ。

 

 闇の中に光る無数の赤い目が、微かに揺れる。

 彼女の持つ狂気に浮かされ、香の力によって奪われていた僅かばかりの知性が戻ってくる。


 だが、時すでに遅し。

 目の前の彼女は……ノッていた。


(超、気持ちいー! 一回やってみたかったんだよね、これ! 全身を猛獣に食いつかれた状態からの、爆裂系の魔法でバーンってやつ! とりあえず、雨は降りそうにないから魔法で消火だけはしとかないとね)


 とりあえずとばかりに、彼女は火のついた範囲内に空気を通さないドーム状の結界を張る。

 彼女自身が目立つために、自身に食らいついてる獣を吹き飛ばす程度の魔法だったため、範囲はそこまで広くない。

 そしてその結界内の酸素は急激に消耗され、火の勢いがみるみる弱まっていく。

 と同時に、その範囲内の魔物も弱まっていく。


(あれっ? あっ、私もこれ……息止めないと)


 一酸化炭素中毒である。

 酸素不足に陥った狼たちは、慣れない頭痛と眩暈に悲鳴をあげながらその場を離れる。

 それと入れ替わりに突っ込んくる狼もいるが、そっちはもっと酷い。

 飛び込んだ先の空間の酸素濃度は、遥かに低くなっているのだ。

 一瞬で意識を奪われ、飛んだ速度そのままにその場に滑るように落ちると、舌をだらしなく垂らして痙攣し始める。


 然しもの獣たちも、流石に得体のしれない攻撃に恐怖が湧き上がる。

 そうなれば、正気を取り戻した者たちからその場を立ち去るのは、当然のことだった。

 

 魔物寄せの香によって、理性も知性も奪われた獣たちは一目散にこの場所を目指す。

 本能に従って、獲物である香りの元を狙い。

 だが、すぐそばに他の獲物が居ればそちらを狙う。

 そして、腹が膨れれば怒りは和らぐ。

 そういった連鎖があり、弱い魔物はたどり着くこともできずに、淘汰される。

 そうしてたどり着いた強者ともいえる狼たちも、圧倒的な脅威の前には殺戮衝動よりも生存本能の方が優先されるのは当然だ。

 

 しかし、それを許すエルザではなかった。

 まだまだ、色々と目立つシチュエーションを考えていたからだ。 

 (ひとえ)に、友人たちにかっこいところを見せたいという理由で。

 あと、ちやほやされたいという本音も。


「狩る側から、狩られる側になった気持ちはどうかな?」


 そう言って、背後から追い立てるように剣で襲い掛かるエルザは、(おおよ)そ貴族令嬢と呼べるような者ではなかった。

 奇しくも彼女の思惑通りに、窓には目を輝かせてその雄姿に見入ってる人物もいるが。


 オルガ、テレサ、フローラの三人だ。

 カーラは余りの惨状に、耳を手で塞いで部屋の隅で蹲っている。

 そしてレイチェルからすれば、特に驚くほどの光景でも無かった。

 彼女の姉も出鱈目なレベルで、エルザのようなことをたまにしているからだ。

 見慣れているともいえる。


(レベルが高すぎると、似たようなことをしたくなるのかしら)


 どうやら、彼女の姉とエルザはどこか似た部分があるのだろう。


 その後も狼を追いかけ回し、千切っては投げ千切っては投げを繰り返した彼女は、第三波として現れたフォーハンドベアを鎧袖一触に斬り捨て追撃の手を緩めることは無かった。

 ある程度の知恵を持つ魔物の感情をなんとなく理解できる彼女にとって、理性を失った獣を殺すことに罪悪感はさほどないように見えた。

 なまじレベルというシステムのせいで、経験値を持つ魔物をゲームのモンスターのように考えているが故に成せた業といえる。

 本当に業の深い所業だ。


 元をただせば、ジェシカの撒いた魔物寄せの香のせいだというのに。


 ようやく周囲の魔物を一掃したエルザは、とても困った状況に追い込まれていた。


「さて、ここまでのことをしでかしたんだ。覚悟は出来てるんだろうな」


 目の前で絶望した表情で泣きじゃくる少女を、野盗のような厳しい目付きで睨みつける教師を見て。

 出来れば身分至上主義派に利用されただけの、いたいけのない少女を助けたいと思っている。

 ジェシカも例にもらさずエルザの感覚からすれば、可愛い女の子だ。

 何度も騙されているのに、反省することがない。

 凄く可愛い子ですらいじめに加担する現場を見ておきながら、可愛らしい少女というだけで助けたいと思うエゴの塊のようなエルザ。

 しかし、今度ばかりはジェシカのやらかしたことは、到底庇いきれるようなものではない。

 魔物を呼びよせ、教師と生徒達の命を脅かしたのだ。

 しかもすでに、教師によって緊急時の救援用の狼煙がたかれていた。

 まもなく、付近の領主か代官が騎士を派遣してくるだろう。

 

 そうなれば、間違いでしたではすまないのだ。


 退学なんて生ぬるい処分ではなく、投獄は間違いない。

 下手すれば、当主をも巻き込んでの連座処分もありえる。

 そうなる前に、親子の縁を切られるだろうが。

 それに加担した子たちも、相応の処分が下されるだろう。

 

 にもかかわらず、首謀者のジニーとレイモンドにそこまでの処分は下されない。

 証言だけで、証拠となりえるものが無いのだ。

 指示書があるわけでもなく、全てが口頭でのやり取り。

 それも匂わせるような形で、直接的に指示となるような言動は発してないとのことが彼女たちの証言で分かった。

 歯がゆいことこの上ない。

 

「先生……」


 エルザがブライトに声を掛けようとしたら、鋭い視線だけが返ってきた。


「そうだ、俺は先生だ。だから、生徒であるお前たちの命を奪おうとした、この者たちを許すことはできん」


 取り付く島も無いとは、このことだろう。

 ジェシカと男子生徒を睨みつけるブライトには、苦渋の決断を終え覚悟のみが残った強い意思が感じられる。

 どうにもできない……

 自身の無力感に苛まれつつも、なんとかできないかと思案する。


「彼女たちも生徒です」

「さっきまでは……な。魔物寄せの香を使った時点で、もう生徒じゃない。未遂とはいえ、殺人犯だ。いや、レオハートがいなければ未遂では済まなかったはずだ」

「でも、先生ならこの森の魔物ならいくら来ても、大丈夫って言ってたじゃないですか」

「それとこれとは、話が別だ」


(無理だよなー……これは、完全に詰んでる。いっそのこと魔法で記憶の改竄とか……バレたら、私が捕まるわ! いや、私を捕まえられるような戦力は無いけどさ)


 エルザからしても、可愛い女の子だから許すというラインは遥かに超えている。

 ただ、操られての行動だし、酷い目に合わされていたと考えれば。

 酷い苛めでとことん人格を破壊された後、精神的にも肉体的にも追い詰められた先に仲間にするという甘言。

 乗らない方が、珍しい。


(むしろ、身分至上主義派を野放しにしている学園側の過失も大きいよね)


 そこが、エルザが一番口惜しいと感じている部分なのだ。

 ジェーンも、ジェシカほどではないが厳しい処分が下る予定らしい。

 エルザたちの寝所に忍び込もうとした男子たちは、最悪退学も覚悟しろと言われていた。


 しかし、エルザだけは納得がいかなかった。

 首謀者である身分至上主義派が、注意程度で終わりそうな流れに。

 エルザはブライト先生はこちら側だと考えつつも、学園長があちら側のように見えるのでどちらにしろ軽い処分どころか何もないかもしれないと思い、深く溜息を吐く。


「不満そうだな。被害者張本人なのに」

「トカゲのしっぽをいくら切り刻んでも、本体は痛みませんよ。むしろ尻尾と戯れる私たちを、遠くから嘲笑ってるでしょうね」


 幾分か皮肉の利いた言葉だったと思ったが、エルザは訂正する気は無かった。

 彼女も、怒っていたからだ。

 ジェシカにではなく、身分至上主義派にでもなく、学園に対して。

 いや、身分至上主義派にも怒ってはいるが、学園に対して強い憤りを感じていた。


「被害者の訴えなんて関係ない。それほどのことをしでかしたんだ。明確な悪意もあった以上、子供の悪戯で済まされる話じゃない」

「よしっ、消すか……」

「ちょっとまて、物騒なことを言うな」


 記憶を消そうと思い呟いたエルザの言葉だったが、ブライトは違う意味で捉えたらしい。

 さきほどの戦闘を見れば、消すのは難しくないと考えたのだろう。


「違いますよ、記憶をですよ」

「それも、駄目に決まってるだろう」


 結局その後、近くにいた冒険者が救援に駆け付け事情を説明している間に、最寄りの町から派遣された騎士達も到着しジェシカたちは引き渡された。


 ジェイは自分も仲間だと白状したが、取り合ってもらえなかった。

 実質的に何もしてなかったことと、エルザについたことを周りが証言した。

 なによりジェシカとジェーンが、ジェイを友達でもなんでもないと言い切ったことが決定的となった。

 

 憔悴しきった様子で歩くジェシカをジェーンが慰めながら、一緒に騎士に連れていかれた。

 その後姿を、ジェイが寂しそうに悔しそうに眺めていた。


これにて、第二章完結です。

第三章まで、今少しお待ちください。(なるべく早くお届けいたします……遅くても一週間以内)


ここまでで良きと思われた方は、是非ブクマ、評価をよろしくお願いいたします。

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