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第34話:まるっとお見通し(ほぼ全員が)

「本当にやるの?」

「男子には話がついてるから、大丈夫よ」


 夜中にコソコソと、話声がするのが聞こえてくる。

 ジェシカ、ジェーン、ジェイの三人だ。

 怪しい三人だね。

 そもそも、こんな合宿に参加しそうにない見た目だったし。


「ジェイ、起きて」


 あっ、一人はぐっすり眠ってるのか。

 このまま、三人に催眠魔法を掛けてやり過ごしてもいいかも。

 ジェイの様子を見て、そんなことを考えてしまった。


「んん? もうあさぁ?」


 こいつ、寝ぼけてやがる。 

 早すぎたんだ。


「いや、これから男子をここに引き入れるよ」

「あぁ……眠いからパース」


 ……そんな理由で、諦められる程度なのか。

 何を企んでるのか知らないけど、12歳の男子を引き込んだところで。

 何かされるとも思わないけど。

 あれかな? 一緒に寝たら、子供が出来るとか思ってるのかな?

 コウノトリさんが運んでくるとか。


「何言ってるの。貴女も、巻き込まれるわよ」

「それにほら、三人でこの仕事を成功させて一緒に身分至上主義派に入るんでしょ?」

「うーん……私、別にエルザ様派でもいいよぉ……」


 なっ! なんて、結束の固い三人なんだ。

 速攻で、皹が入ってる。

 流石、ジェ三姉妹と呼ばれているだけのことはある。

 隣国の漫画やドラマに出てきそうな名前だと思ったけど。


 本当の姉妹じゃないよ。

 全員がジェから始まる名前だから、仲良くなったみたい。


「私はもう嫌よ。あの人たちに怯えて学校に通うのは」

「私だって嫌だよ……なんで、男子が鞄を女子の私に持たせるのよ」

「私もいやぁ……だから、エルザ様と仲良くするぅ……」


 ジェイ……私の何が彼女を虜にしたのか。


「もういいわよ。この裏切り者!」

「私たち二人だけでやるもん! せめてもの情けで忠告するけど、すぐにここから離れた方がいいわよ」


 うーん、ジェーンも悪い子じゃなさそうなんだけど。

 やることがえげつないよね。

 男子を、女子だけの寝床に手引きするとか。

 もう少し歳がいってたら、危なかったかも。


「骨は拾ってあげるよぉ……どうせ、ここが一番安全だし。ここ出て、虫や魔物に襲われるのいやだし」

「……それは」

「それに、絶対失敗するよ。エルザ様、強くてかっこよくて……あと、料理がじょうずぅ」


 胃袋を掴んじゃったのかな?

 ふふん、私の腕も大した物じゃん。


「ここまでやって、失敗したら男子のせいだし」

「私たちは言われたことをやったんだから、きっと身分至上主義派に入れてもらえるよ」

「それで、身分至上主義派の最下層に加わって、余計に小間使いのように扱われるんだよぉ」


 ……ジェイが、凄くまともに思えてきた。

 というか、まともじゃないかな?


「なんなのよ、あんたは! もう、本当に知らないんだから」

「そうよ! もう、友達なんかじゃないから! でも私が身分至上主義派に入ったら、昔のよしみで貴女だけはいじめないけどね」


 ジェーン、良い子じゃない?

 いや、義理堅いというか。

 だったら、この合宿で色々としてあげた恩をここで返して欲しい。


「じゃあ、行ってくる」

「本当に、逃げなくていいの?」


 うん、ジェーンは友達思いで、情が厚いんだね。

 ただ、自分の身も可愛いから、今回こんなことをしてるんだろう。


「私がここで身分至上主義派に入らないと、来年入ってくる弟がきっと酷い目に合わされる……エルザ様には申し訳ないけど、可愛い弟が何よりも大事だから。だから、ジェイはエルザ様をお願い。あまり、酷いことにならないように」


 あっ……

 どうしよう。

 ここは、話は聞かせてもらった! と、しゃしゃり出る格好の場面ではないだろうか。

 

無問題(モーマンタイ)。きっとエルザ様が、まるっとなんとかしてくれると思うよぉ……どうせ失敗するだろうから、ジェーンの弟のこともエルザ様にお願いしておくねぇ」


 ここで、ポンコツ翻訳が発動するのか。

 緊張感が一気に薄れていくよ。

 この翻訳、管理者とかいるわけじゃないよね?

 もしくは自立思考型のスキルとか?

 会話が出来たりしないよね?

 

「なんで、失敗すること前提なのよ!」


 ジェシカさん、そんな大声出したら他の皆も起きちゃいますよ。


「ジェシカ……真面目な話、エルザ様のあの魔法の前に、男子が何か出来ると思うの? それに、レイチェル様も、テレサ様も、フローラ様も剣を持ってるのよ?」


 そしてジェイが真面目な顔で、二人に忠告を始めてた。

 冷静だし、マイペースだし。

 さて、こんな話を聞かされたら、上手い事立ち回らないとね。

 三人まとめて、お友達にしてあげるよ。

 正直ジェシカはちょっと……でも、ジェイとジェーンとセットみたいな感じだし。

 長いものに巻かれるタイプだから、私の周りが安全だと分かれば尽くしてくれそうだしね。


***

「本当に、眠ってるんだな」

「ええ、ぐっすりよ」

 

 睡眠薬を盛ったわけでもなし、なぜこんなに自信満々なんだこの子は。

 外で男子を招き入れて会話しているのを、木陰から盗み聞きしているけど。

 そもそも、こんな状況で深い眠りにつけるわけがない。

 私が色々と頑張ったから、皆眠れてるけど。

 緊張で目は覚めやすくなってると思うよ。


「あとは、俺たちが横で一緒になって寝たらいいだけだな」

「服を脱がした方いいって言われたけど、流石に起きるだろう」

「うん、それになんか変態っぽいし」


 あっ、やぱり男子もまだまだお子様だった。

 特に身の危険は無さそうだけど、余計な火種は作らないでおこう。 

 彼らのために。

 仮に何もないとしても、確実に噂とともに消されるだろうし。

 家ごと……陛下に。

 流石にね……王太子殿下の婚約者に暴力を働こうとしたら、それ相応の罰が下る。

 婚約披露宴前ならまだよかったかもしれないけど、正式に貴族と国民に発表は終えてるからね。


 きっと、騙されてるんだろうね。

 なまじスペアステージア家が歴史と家格だけはあるから、代替わりしたら悪い事にはしないとか言われてそう。

 なんなら、スペアステージア家が全力で庇って領地で匿うとか言われてたり。

 

「さて、そこまでにしてもらおうか」

「エルザ様の寝所に忍び込もうとは、見下げた根性だな」

「エルザ様は、ぐっすりと眠ってるから……静かに、懲らしめてあげますよ」


 ……入り口を開けてレイチェルとテレサとフローラが飛び出してきた。

 起きた気配はあったけど、まさかここに首を突っ込んでくるとは。


「ちっ、寝てないじゃないか!」

「失敗しやがったな!」

「これ、ヤバくない?}


 男子が喚いているし、ジェシカの顔が青い。


「そういえば、お前ら一人足りないな? さては、裏切りやがったな!」

「ちがっ! 私たちは、ちゃんとやったよ?」

「ジェイは……裏切ったけど、私たちは違う」

「そんなの、信用できるか!」


 仲間割れし始めたけど、そんな大きな声で騒いだら……


「お前ら、何事だ!」


 あっ、ブライト先生が来ちゃった。

 それから、すぐに笛を吹く。

 他の先生方も、こっちに向かってるのが分かる。


 分かるけど、魔物も集まってこないかな?

 魔物避けの笛を連絡用に使ってるのかもしれない。

 きっと、そうだろう。

 

「いや、これは……その、彼女たちが女性だけで野営というのが心配で」

「見回りの途中で、言い争ってる声が聞こえたから来たんだ! 本当のことを言え!」


 当然生徒の身の安全のために、見回りくらいはするよね。


「いえ、本当のことですよ。もう解決したんで大丈夫です。失礼します」


 なんでこういうやつらは、逃げ口上が一緒なんだろう。

 解決したから大丈夫で、何故逃げられると思うのか。


「先生! ジェシカさんたちが、男子を私たちのテント……野営地……陣幕……家! そう家に、引き込もうとしてました!」

「服を脱がせるとか言ってました! こいつら、変態です! ど変態です!」

「ばか、そこまではしないと言ったんだ」

「あっ……」


 テレサとフローラの言葉に、男子の一人がボロを出した。

 あれ? 私の出番は?


「もうおしまいよ……失敗しちゃったし、先生にバレちゃった。怒られる。ジニー様にも、親にも……きっと、レイモンド様にまた剣の訓練っていって、ボコボコに……いやぁ、もうぶたれるのは嫌!」

 

 ジニー?

 あいつかぁ! ジニー・フォン・ギリーとかってふざけた名前の赤巻き髪。

 それに、レイモンドは噴水でスケキヨやってた子だ。

 許さん!


「ジニー? レイモンド? ギリー伯爵令嬢と、ドリー伯爵子息か? あいつらの差し金か? 何を頼まれた! おい、ジェシカ! 答えろ!」


 レイモンドって、ドリー伯爵の子息だったのか。

 知らないけど。


「こうなったら!」


 あっ、それ駄目だよ! 

 流石に、かばいきれなくなる!


 ジェシカが胸元から紐で首に掛けられていた瓶を取り出した。

 ネックレスかと思ったけど、違ったのか。

 そして、蓋を開けた瞬間に匂いで何か分かった。

 分かってしまった。


 おじいさまと冒険に出たら、いっつもお世話になってる愛用品。

 魔物寄せのお香。

 しかも瓶には、ご丁寧に風魔法の魔石まで埋め込まれてる。

 ジェシカが、それを叩き割ると魔物寄せの香が一気に森に広がっていく。

 これは、不味いことになった。

 結界魔法で香りをすぐに閉じ込めたけど、すでに散っていったのは手遅れだ。


「みんな、箱に……家に、入って!」


 せっかく、テレサが家と言ってくれたんだ。

 家にしとこう。

 家にさえ入れば、問題は無いからね。

 そしたら、多少は余裕が出来るし。


「あの家には、ドラゴンの突進も防ぐ防御結界が張ってあるから! 何が来ても大丈夫よ」

「レオハート……お前」

「ブライト先生は私のお手伝いをお願いします。他の先生方は、生徒の避難と救助を最優先で」

「いや、お前が俺の手伝いをするなら分かるけど……というか、お前が仕切るな! ここは、俺たちに任せろ!」

「死亡フラグですかっ!」

「嫌なことを言うな! この森の魔物の生態くらい、完璧に調査済みだ! 安全マージンを取ってるに決まってるだろう! 俺一人で、対処できる程度の魔物しかおらん!」


 ふーん、そういうこと言うんだ。

 言っちゃうんだ。


「魔物寄せのお香ですよ? 物量で押し込まれても、同じことが言えますか? ほら、足音が聞こえて来たでしょう?」

「何匹来ようが構わん」

「こんな状況ですから、合宿は終了です! レオハート公爵家の者として命じます! 先生方は生徒の安全を最優先に行動! 生徒たちは、私の張った結界の中で待機! 以上です」

「強引な! だが、教員は全員爵位持ちだ! 公爵家の令嬢よりも、立場は上になる。それを、聞いてやることはできんな」

「ふふん、私は一部に限り当主代行執行権を持ってますの。魔物との戦闘において、私の指示は公爵の指示と同意と心得てください! この紋所が目に入らぬかー!」

「何を言ってるんだお前は! あっ……くそっ! 大公は、なんてもんを孫に持たせてるんだ!」


 私が懐から、レオハートの紋章の入った金のプレートを取り出すと、高く掲げて見せた。


「それ、本当にそんな意味があるんだろうな? あとで、レオハート家に確認取るぞ」

「えっ……いや、あはは。おじいさまが、これを見せれば大体の人が言うこと聞いてくれるって言ってました」

「いまは、確認が取れないからな。嘘だったら、たぶん大公に滅茶苦茶怒られるぞ」

「お……おじいさまは、私を溺愛しているから大丈夫です」

「ばか、それを語るに落ちると言うのだ」

「一つ、賢くなりましたわ」


 そんな軽口をたたきつつも、魔物が集まる気配を感じ急いで箱を拡張する。

 流石に合宿参加者全員を収容するのには、手狭だったからね。


「ブライト・フォン・イコール、ただいまよりエルザ・フォン・レオハート公代理の指示下に入ります……ところで、閣下代理殿! 一つ、提案があるのですが」

「なんでしょう? 聞きます」

「そんなにあの建物を大きくできるのなら、全員で入って救援の狼煙を上げた方がいいのでは?」

「……却下で」

「なんでだよ!」


 私がかっこいいところを、皆に見せたいからだし。


「エルザ様、私たちも手伝いますよ」

「いや、いいよ。建物で皆を守ってて」


 テレサが手伝いを申し出てきたけど、断る。

 正直、レイチェル以外は足手まといでしかないし。

 いや、出てくる魔物によるけど。


「第一陣来ます! 外にいる生徒たちは異変を察知し、こっちに集まってきているようです」


 教師の一人が、報告に来てくれた。

 なんで、ここに生徒が自主的に集まっているのかは分からないけど。

 回収が楽になっていいね。


「ん? 困ったら、ここに集合だと俺が言っておいた。ちなみに、万が一に備えて見張りの先生を交代で常駐させといたから、変な心配はいらんぞ」


 ああ……最初から、ジェシカたちの作戦は失敗する運命(さだめ)だったのか。


「当たり前だ馬鹿! いくらレオハートがいるとはいえ、女子だけの集団を放置するか。教えたら他の子たちの緊張感が無くなるから、言わなかっただけだ。交代の時に見張りいる? って言われたけど、付けといてよかった」

「上官に対して口が悪いな。ちなみに、私たちのための見張りであって、私の見張りじゃないですよね?」


 私の質問にブライト先生が、目を反らしていた。


「ちょっ! こっち見ろ!」

「じょ……女子たちの護衛だ」

「それに、見回りの途中って言ってたじゃないですか! 最初からいたのに、状況を確認するとか意地が悪いことをしますね」

「いや、まあ」

 

 なんだ、歯切れが悪いな。


「あっ! ……寝てたんですね」

「あはは……」


 どうりで……今来た感をだして、見張りそっちのけで寝てたのを胡麻化そうとしたのか。


「見えてきた!」

「さて、一狩り行こうぜ!」

「何キャラだよ!」


 そんなやり取りをしていたら、大量のポイズンボアが広場の外周から飛び込んできて……

 私を見て、固まった。

 後ろからどんどんポイズンボアがやってきているが、全部が私を見て固まった。

 ……嫌な汗が出るのを感じる。

 ポイズンボア以外にも、強烈な視線を感じているからだ。

 すぐ、横から。

 

 そして、少し時間をおいて蛇たちはギギギと首を反対側に反らしてから、慌てて引き返していった。

 先頭集団が急に向きを変えたから、ぶつっかたりなんだりで魔物の大渋滞が起きている。


「……あの蛇共、レオハートを見て逃げ出さなかったか?」

「さぁ? なんのことでしょう?」

「綺麗に揃った視線をお前に向けて、慌てて目を反らしていたが?」

「ははは、私が可愛すぎて傷つけられないと思ったのでしょうね」

「おい、吐け! お前、王都のポイズンボアの過剰供給に関わってるだろう! あれのせいで、職員の食事はずっと蛇肉なんだ!」

「おほほほほ、おっしゃられてる意味が分かりませんわ」

「お前は、普段そんな喋り方しないだろう!」


 とりあえず、少しだけ時間の余裕が出来て良かった。


 

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