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第33話:魔法も凄いんです

「まあ、とりあえず寝る場所を確保しないとね」


 私はそう言うと、開けた場所でさらに木を切って広くする。

 それから、切株は土を操作してモコモコさせてどけていく。

 勿論腕力で引っこ抜けるけど、それをやると色々と捨てることになりそうだし。

 周りの反応が、凄く気持ちいい。


「す……凄いですね」

「これだけ広ければ、周りの見通しも良いですし」

「本当に、野宿をするのですか? 夕方には街に連れて行ってもらいませんか?」


 レイチェルが褒めてくれて、テレサが少し安心した様子なのが嬉しい。

 カーラだけが、相変わらず不安そうだ。

 着いて来た子たちの2人も、唖然とした表情をしつつどこか安堵している。

 残りの3人は、顔を引き攣らせている。

 そして、後を付けていた男子3人組は……逃げてった。

 もうこの時点で、目的は果たせそうにないんだから女の子3人も帰ればいいのにと思わなくはない。


「ですが、ここからどうされるのですか? あるのは、マントと持ってきた荷物だけですし」


 着替えの入った鞄を、一応みんな持っている。

 カーラは不満そうだったけど、自主参加した手前文句も言えず仕方なく運んでいた。

 しょうがないから、皆の荷物を私の肩掛けバッグに入れたけどね。

 マジックバッグだから。

 

 だって、みんな手提げの旅行鞄なんだもん。 

 流石に貴族のご令嬢は、頭陀袋なんか使わないよ。

 でも、家族で馬車で長期間の移動するときは、鞄じゃなくて木箱だったりする。


 皆てっきり馬車で移動した先にも使用人がいて、運んでもらえると思っていたのだろうから当てが外れたわけだし。

 マジックバックなら、重量は関係ない。

 仮にあったとしても、私の膂力の前には問題ない。


 ……と思ったけど私に運ばせるのは駄目らしかったので、そのマジックバッグはみんなで交代で運んでいた。

 私の番はいつまでも来なかったけど。

 入れ物を提供した代金替わりってことにしておこう。


 とりあえず、寝床の準備からかな?


「拠点を作らないとね」

「の……野宿なんですよね? わたし、本当に虫とか駄目みたいです」


 カーラが、かなり不安そうにしている。

 安心して良いよ。

 私の魔法の研究は、今日のような日のためにあったと思うんだ。


「ん? まずは、雨風を凌げるように壁と屋根はいるよね?」


 とりあえず土魔法で、床と壁を作る。

 別に住むわけじゃないから、床下の通気性とかは二の次だ。

 とはいえ、虫対策で少しは浮かせているけどね。


 屋根はさっき切った木を、適当にスライスして乗せたらいいだけだし。

 上に乗せるのは人力になるかなぁ。

 一度できあがった箱を、魔法で土を沈めて地面の下に埋めていく。

 ちょうど天辺が、地面より少し出るくらいの高さに。

 それから、その上に板を敷き詰める。


「レイチェル、手伝ってくれる」

「いいですけど」

「私たちも、手伝いますよ」


 レイチェルと2人でやろうと思ったら、他の子たちも手伝ってくれた。

 箱の上に綺麗に木の板を並べると、壁を加工して落ちないように補強する。

 それから土を盛り上がらせて、また箱を持ち上げる。

 うん、簡単に屋根が乗せられた。


「簡単でしたけど、嘘みたいな魔力の無駄遣いですね」

「そう? 別に魔法で結界を張っても良かったんだけどね。そっちの方が良かったかな? 満点の星空を見ながら寝るのも素敵だよね?」

「その間、ずっと魔力を消費すると思うのですが」

「大丈夫、私の魔力からしたら微々たるものだし」

「流石に外から丸見えなのは……男性もいますし」


 そうか……透明の膜状のシールドで雨も風もしのげるんだからそっちの方がおしゃれだったか。

 しょうがないから、一部の板を加工して天窓代わりにそれを設置しよう。

 

「ちょっと、天窓作ってくる」


 土魔法で足場を作って屋根の上に飛び乗ると、適当に正方形にカットしてそこに魔法でシールドを設置。

 うん、立派な天窓だ。

 床が土だとゴツゴツして、寝にくいよね。

 かといって、草の上で寝るのもね。

 虫がついてきそうだし。

 いくら魔法が万能でも、木を加工してベッドを作るのは時間が掛かるし。

 倉庫に取りに行っても良いんだけど。


 まあいいか。

 とりあえず、寝る場所が確保できたし。

 お風呂も用意しないと。

 その前に、野営らしく楽しいこともしたい。


 せっかく、湖があるんだから釣りとかかな?

 泳ぎたいけど、流石に貴族令嬢は泳いだりしない。

 水着?

 はしたないと思われるだけだし。

 肌を露出させすぎるのは、やっぱりだめらしい。

 湖で水浴びとかすることもあるらしいけれど、基本は見張りを立てて絶対に見られないようにするらしいし。

 そのうえで、肌着着用で入るらしい。

 

 まあ、食料確保のために釣りでいいかな?

 魚も一応、捌けるし。

 あっ、普通に合宿だと思ったから刃物の類が無い。

 知ってる子たちは、みんなそれなりに準備しているから食事と引き換えに借りようか……

 うん、サガラさんところに、取りに行って来よう。


「虫……ですか」


 餌を針につける時点で、ほぼみんなリタイアしていた。

 虫は殺せるけど、捕まえて針に刺すのはアウトらしい。

 意外なのは、オルガ。

 普通に虫を手でつかんで、針に刺していた。


「お父様やおじいさまと、よく釣りにいきますので」


 竿は現地調達だけど、糸と針はマジックバッグから取り出したことにしてある。

 こんなことも、あろうかと! と言って取り出したら、仲間うちの皆は呆れていた。


 レイチェルまで餌を付けられないと思わなかったので、私とオルガで釣りをする。

 他の子たちには薪や木の実の採集をお願いする。

 レイチェルとテレサとフローラには、剣を渡してある。

 こんなこともあろうかと! と言いながら、袋から取り出して。


「色々なシチュエーションを想定しすぎて、妄想の域に突入してますね」


 とレイチェルに言われてしまった。

 いいじゃん、結果役に立ってるんだから。

 いや、取りに帰ってるからそういうわけでもないんだけど。

 それは、言えないよね。

 転移でとなると、寝るときは街に戻ろうと言い出しかねないし。


「薪、集め終わりました」

「ああ、ありがとうオフィーリア」


 じゃない方の二人のうちの一人が、野営の準備が整ったと呼びに来てくれた。

 ちなみに釣果は、8対2で10匹だったよ。

 ……オルガが8匹だけど。


 じゃない方の二人は良く働いてくれるけど、怪しい方の三人は働きぶりがいまいちだな。

 炊事の時に、こき使おうかな?

 そこは、平等じゃないとね。


「美味しいです!」

「凄いです!」

「こんな場所で、こんな本格的な料理が食べられるなんて」


 食事の時だけは、凄く主張してくるな。

 この三人。

 いや、皆に大好評だけどさ。

 私の手料理。

 調味料も調理道具も調理設備も、こんなこともあろうかと! と言いながら、鞄から出したけど。

 おかげで、家で作るのと同じものができた。

 バターと小麦粉を使った、謎の川魚のムニエルが大人気だ。

 鱒っぽい感じだったし、鑑定結果にお勧めの調理法が乗ってたしね。

 それから、フライも作ったし。

 アユっぽいのも掛かったから、自分用に背越しも用意した。

 醤油っぽいものと、西洋わさびで頂こう。

 流石に生食は他の子も嫌がるだろうから、こっそりと隠れてだね。

 時間停止を掛けて、鞄に入れておく。


 ちなみに主食は、平焼きのパンだ。

 小麦粉を水と練って、竈の内側に張り付けて焼いただけだけど。

 雰囲気と相まって、十分に美味しい。


「エルザ様は、素晴らしいシェフになれそうですね」

「女性なのが、勿体ないです」


 料理上手でも、良い奥さんになれるとは言われないのがこの貴族社会。

 うん、貴族の夫人はほぼ料理なんかしないもんね。

 それに、シェフはやっぱり男性の方が多いみたいだし。 

 一般家庭だと、女性がご飯を作るのに。

 なぜ、料理のプロは男性の方が多いのだろうか?

 一説には手の温度が、男性の方が調理向きだと聞いたことがある。

 なら、家のご飯も男が作れや! と思ったり、思わなかったり。

 いや、思ったけど……前世のおとんの料理を食べて、たまに食べる分には良いかな程度だった。

 うん、前世の父親はお父様ではなく、おとんだ。

 今世の父親は……パパでもあり、エロ親父ともいえるけど。

 親父はみんなエロいもの?

 それは、偏見だよ。

 

「結局、ほとんどエルザ様のおかげでしたね」

「合宿に参加せずに、皆で集まってお泊り会したのでよかったかもね」

「お泊り会とは楽しそうな響きですね」


 お泊り会とは言わないのか。

 私のつけた火を囲んで、色々と話をしていると少し眠そうな子たちが出てくる。

 カーラなんか途中でずっと足が痛いって言ってたから魔法で癒してあげたら、そのまま寝ちゃうしね。

 今は、また起きて会話に参加している。


 とりあえず、順番にお風呂を済ませてもらおう。


「魔法でお風呂も作ってあるから。脱衣所もあるよ!」

「本当に、万能ですね……森で遭難しても、普通に暮らせるの羨ましいです」

「色んなスキルもあるから、まず迷うことは無いとおもうけどね。あっ、一人で着替えられない子は、私が手伝うよ」


 私の言葉に、カーラとオフィーリアたちが恥ずかしそうにうつむいていた。

 だよね。

 君たちは、絶対に着替えさせてもらう派だもんね。

 ファスナーの製品化が急がれるね。

 試作品で作った服を、一応持ってはきているけど。

 量産には至ってないから。


 それから順番にお風呂を済ませた。

 髪を自分で洗えない子がいたのには、驚いたけど。

 いくら侍女に洗ってもらってるといっても、見てて覚えそうなものなのに。

 あっ、はいカーラです。

 それと、挙動の怪しい三人の一人のジェシカも。

 カーラの初対面の問答は、余所行きの理想のお嬢様像を語ってるのかと思ったけど。

 ガチの、箱入り娘だった。


 流石にそこまではと思ったので、今日くらいは我慢してもらう。

 そもそも、毎日洗わない子もいるし。


 全員で箱の中に入って、就寝だ。

 ベッドなんかない、渡された分厚いマントだけ。

 とりあえず衣類の入った鞄を、枕代わりに。

 余った服を掛け布団に。

 魔法で室温は適温にしてあるし、灯りも魔法で用意してある。

 辛いかもしれないけど、外で寝るよりはかなり快適なはずだよ。


「さて、夜寝るときに女性だけで集まったら、当然あれだよね?」

「あれ?」

「ええ、こわ「恋バナですね!」」

「あっ、はい……」


 小中学生の合宿の定番、怖い話をしようと思ったら……普通にレイチェルに恋バナを提案されてしまった。

 でも、普通はそっちだなと思い直したので、レイチェルに全力で乗っかる。


「こわ?」


 オルガさん、突っ込まなくていいから。


「恋バナとは、なんでしょう?」


 フローラがいつものようにおっとりした口調で、レイチェルと私に視線を向けて問いかけてきた。


「お互いのいまや過去の恋のお話をするのです! お姉さまが教えてくれました」


 ミッシェルさんナイス! 

 ナイスかな?

 いや、でも私も興味あるし。


 ということで、結局かなり遅くまで恋バナをすることになった。

 なかなか貴族令嬢の恋バナは、現実的過ぎる部分が多すぎて。

 結局、実体験や将来のことじゃなくて、理想の恋愛について夢想する形に収まった。


「でも、レイチェル嬢はクリント様のことが「わー! わー!」」


 オルガが何か言いかけて、レイチェルが慌てて口を塞いでいた。

 その騒ぎで、半分寝落ちしていたカーラも目を覚ます。

 眠いのを必死でこらえて船を漕ぐのも、カクっと寝たのも可愛いけど、慌てて起きて周囲をキョロキョロして私聞いてましたって顔してるのも可愛いな。


 それよりもオルガの口から、何やら聞き捨てならない言葉が。

 レイチェルがクリントを?

 まさか。


「それはないよ、オルガ。だって、クリントだよ? ねえ? そんな勘違い、レイチェルに失礼だよ! もっと、良い人がいるって」


 私の言葉に、いつもの5人どころか他の子たちも首を傾げている。

 

「いや、レオハート公のお孫さんで、第二夫人の第一子ですよね?」

「エルザ様と同日生まれの、お兄さまですし」

「婿に入られることになると思うので、たぶん引く手あまたかと」

「変な家に嫁がされるのを回避できるうえに、あの容姿であの性格ですからね」

「学年でもダントツの一番人気ですよ」


 あっ、そうなんだ。

 ちょっと待って、じゃあもしかして私は女性の中で一番人気の可能性も。


「エルザ様は、もう婚約されてるじゃないですか……それも、殿下と」


 そうでした。


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