第26話:補習2日目
今日も理科は、オルガとソフィと一緒だ。
カーラとフローラも近くに座っている。
カーラはオルガを気にした様子だけど、フローラはおっとりと微笑んでいるだけ。
こうしてみると、良いところのお嬢様なんだけどね。
女流棋士ならぬ、女流騎士を目指す武闘派お嬢様にはとてもじゃないけれども見えない。
ちなみに、髪は長いけど巻いてない。
騎士を目指すなら、短い方が良いと思うんだけど。
これを言ってバッサリと切られたら、責任を感じてしまうので敢えて突っ込まないよ。
言ったらバッサリ切りそうなところはある子だしね。
オルガがなんで行動を共にしようと思ったのかは分からないけど、流れるような動きでこちらに合流したからにはそういうつもりなのだろう。
「初日である程度のグループ構成は終わってしまったみたいですので」
そう言って少し残念そうに、扇子で口元を隠して微笑んでいた。
なるほど……?
いや、身分至上主義派閥の権力者の娘なら、そっちに行けば普通に受け入れてもらえそうだけれども。
「あの方たちとは話が合いませんもの。一緒にいても、楽しくない思いしかしませんし」
いや、まあそれは良いことだと思うけど。
カーラが尻尾をおったてた猫みたいな威嚇をしている。
柳に風とばかりに受け流しているのは、流石の風格かな?
「それから、これをぜひソフィアさんへと思いまして」
「ああ! それ!」
そう言って彼女が取り出した箱には、見覚えのあるマークが。
昨日私が2人に話した、美味しいお菓子のお店の箱。
ということは、中身はもちろん……
「ええ、ルイスのチョコレート菓子ですわ」
それも、結構いい価格帯のやつだ。
ぐぬぬ……
「実は私も……」
そして私は、恥じらいながらも同じ箱を取り出した。
「まぁ」
そのことに、オルガが華やいだ声をあげた。
いや、私としてはちょっと気まずいんだけど。
「2つも!」
うん、ちゃんとオルガの分も用意してある。
もしかしたらこっちに来るかなと思ったし、来なくても昨日話したときに興味を抱いていたからね。
だったらということで、彼女の分も念のために用意したんだけどね。
「じゃあ、私の分はカーラとフローラにあげるから、オルガはソフィにあげたらいいよ」
うん、別にオルガとソフィアの仲が深まることは、良い事だしね。
本音としては、かなり残念だけど。
私としては、自分でプレゼントして彼女の喜んだ顔が見たかったんだけどね。
断腸の思いで譲ることにした。
「そうですか? せっかくですから、2つともソフィアさんに渡してもいいと思うのですが」
「確かに勉強してたら脳が疲れて糖分が必要だし、チョコレートはもってこいだけどさ……食べ過ぎは流石に」
「一度に食べませんよ、勿体ないです! 少しずつ頂きますって」
私たちの会話に、見かねたソフィアが口を挟んで来た。
これは、2つとも欲しいってことかな?
この欲しがりさんめ。
「じゃあ、両方ともいる?」
「えっと……少しずつ頂くので、こんなに貰ったら食べきれないと思います」
「大丈夫、チョコレートってすっごく長持ちだから」
なんのかんの言い合ったけれども、横で盗み聞きしていたカーラとフローラの百面相を見たらソフィアもオルガも遠慮することになった。
形勢が受け取らないに傾くと2人とも目を輝かせて、祈るような表情になってたもんね。
この際、3つともソフィアにという流れでは、絶望の表情を浮かべていた。
そこまで期待の籠った目で見られたら、ソフィアも受け取れないか。
「では、当初の予定通りエルザ様から私が一つ、ソフィアさんが一つ貰ったので宜しいのでは? 貰ったものをそのまま他の人に渡すのは大変失礼ですが、この様子ですからね。そのうえで、私が自分で用意したものとエルザ様から頂いたものを、カーラ嬢とフローラ嬢にお送りしますわ」
なんて、回りくどい。
「私がどちらか一人だけに渡すのは角が立ちますし、エルザ様はソフィアさんに送りたさそうでしたから。だったら、私がお二人にお近づきの印にと、お送りした形の方が良いかなと」
「良いよ、それで。私は気にしないし。食べたことないって言ったから買って来たけど、その様子じゃ昨日食べたみたいだしね」
「ええ、とても美味しゅうございましたわ。思わず食べ過ぎてしまいまして、夕飯を残してしまいました。シェフに申し訳ないことをいたしましたわ」
おお?
「もしかして、オルガは残さず食べる派?」
「ええ、作り手の方や犠牲になった動物のことを考えると、残すなんてとんでもないと思いますよ。淑女の間では一口残すのが美徳のようですが、私は素材の作り手である農家の方や料理の作り手、そして素材そのものに感謝して余さず食べることの方が美徳に思えるのです……ただ、うちの親は足りなかったのかと心配して、追加の料理を用意しようとするのです。それを止めるのが大変で」
溺愛されているのかな?
普通だったら、みっともないと怒られそうだけど。
ちなみに、うちでも怒られることはない。
私が農業改革や漁の効率化に熱心で、色々な食材を家に入れているからね。
娘の用意したものを流石に残すわけにはいかないからと、私の母もクリントの母親でもあるレジーナも完食してくれてるし。
私も自分の用意したものを残すとか、ありえないと思ってるからね。
「お二方はエルザ様と仲が宜しいのですね。ぜひ、私もその輪に加わらせていただけたら、幸せと存じますわ。それと、こちらはお近づきの印に……流石に詰まらないものですがとは言いませんが」
……この子。
普通じゃない気がする。
日本の感覚として何か物を送るときに、詰まらない物でとか大した物ではありませんがと言うことは多々ある。
でも、この世界だとそういった謙遜はあまり見られない。
仮に謙遜していても、その裏にある自慢や皮肉が隠しきれていない。
いやいや、大したことじゃないよ……と言う場合、この程度のことも出来ないお前らが無能なんだよといった、蔑んだ意味合いがあったり。
あれ? 俺、また何かやっちゃいました? 並みにうすら寒い感覚を覚えることが多い。
私も当然謙遜はするけれども、ついうっかり出ちゃった時以外はなるべく自信ありげな態度を出すことの方が多いしね。
ああ、目上の人に対しては謙遜する連中は多いか。
自分を下げて相手を立てて、取り入ろうとするようなタイプ。
そして、下をとことん見下して、卑下するんだよね。
そういう連中って。
いや、別に他意はないよ。
身分至上主義派閥のことを言ってるわけじゃないよ。
だって、こいつら私にはあまり敬意を払わないからね。
派閥内の会話だと、そういう自分下げ相手上げのごますりを見ることが多いけどね。
「授業が終わったら食べてね。このあと、私とカーラは算数の補習があるし」
それから先生が入ってきたので、席について授業を受ける。
「諸君らに補習を受けさせることになってしまったのは、長年教鞭を振るうものとして遺憾でもあるし、申し訳ない気持ちもある。もちろん君たちの努力不足ということもあるだろうが、それは私がこの教科に対して君たちの興味を向けられなかったということでもあるのだよ」
おお、先生が急に語りだした。
授業の途中で。
さっきまで、魔石の種類による用途の分類について語っていたはずなのに。
といっても1年生で習うのはざっくりと、大きさによるものだ。
本当に数百年に一つか二つくらいしか採掘場から取れない、巨大魔石の用途は主に大都市のインフラの中心に使われることが多い。
水の巨大魔石が王都の上下水道の中心となっているとか。
無論、魔力の補充は必要だけれども。
蓄積できる魔力量も一度に放出できる魔力量も、魔石の大きさに比例して変わってくるからね。
巨大な魔石であれば、王都の下水の最終処理の浄化に使ったり。
あとは、各家庭に水を供給するために使ったりと。
本当に、重要な役割を持っている。
そしてその巨大魔石……とまではいかないけれでも、かなり大きな魔石を私も持っている。
ドラゴンを討伐した際に、巣穴にため込んでいた物の中に混じっていた。
複数個。
だから、その用途について思いを馳せていたのだけれども。
「はぁ……その私の授業中にぼんやりと他所事を考えていた生徒が、満点で合格をしたのだがね。その子が何故か補習を受けに来ていて、またぼんやりとしている。私は自信を失いそうだよ」
おっと、どうやら先生は私のことをぼやいているようだ。
私のことだよね?
たぶん……
「そんなに私の授業は退屈かね? レオハート嬢」
あっ、名指しで問いかけられてしまった。
しかし、これは全面的に私が悪い。
確かに、授業の内容から派生した他所事を考えていたのは、紛れもない事実だもんね。
「いえ、興味深い内容のお話でしたので、ついついそのことについてあれこれと思いを馳せてしまいました。申し訳ありません」
「まあ、そういうことにしておくがね。今の内容について、集中して学ぶことも重要だよ。私の話した内容から色々と先を考えるのはいいけどね、それはこの先に習うことでもあるのだがね」
「なるほど! そちらの方が興味がありますので、後程個人的にお話を伺いに行っても宜しいでしょうか?」
「大変結構と言いたいところではあるが、であれば補習など受けずに最初からそのように言ってくれたら、私も時間を用意したのだがね。まあ、そのことについては後程、話をしよう。明日も補習にくるなら、午後から時間を用意しておくので訪ねてくるように。ただ、今やっていることに関しても、しっかりと聞いておくといい。今やっている基礎を常識だと思って、当たり前のように知識として活用できることも重要だからね」
おおう……個人授業が発生することになった。
まあ、私としては願ったり叶ったりだ。
流石に王都の学園で教えるような先生であれば、その辺りの造詣は相当に深いと思えるし。
うん、でも授業は真面目に受けているふりだけでもしておこう。




