閑話:2-6フィフス君
僕の名前はフィフス。
父は、レガリオ伯爵領で領主を務めている。
領地の規模はそこまで大きくない。
伯爵領の中では、真ん中くらいだ。
王都からは離れた場所にある領地だけれども、今年から王都の学園に通うことが決まった。
そこまで経済的に余裕があるわけでもないので、王都に邸宅は無い。
伯爵家だからって、必ずしも裕福とは限らないのだ。
だから、仕方なく学園の敷地内にある寮から通うことになった。
一応、寮ではそれなりに大きな部屋を借りることができた。
リビングと僕の私室、それから使用人のための部屋が2部屋。
ツインの部屋が1室供えられた所もあったけど、ついてきた従者が男性と女性が一人ずつだったのでシングルを2部屋ということになった。
初めて寮の部屋に入った時は、少し感動した。
自分の屋敷のように思えたからだ。
いよいよ学園生活が始まった時は、胸がわくわくしたなぁ。
でも、実際は派閥同士による衝突があったりと、少し物騒な学園だということにすぐに気付かされた。
あまり王都に行くことがないので、我が校での最大派閥である身分至上主義派閥には属していない。
誘われることも無かった。
地味だからかな?
これでも、堅実な領地運営でコツコツと長い歴史を積み重ねてきた家なんだけどね。
この学園にはもう一つ、最強派閥がある。
うん、最大派閥とか巨大派閥ではなく、最強派閥。
今は少しずつ勢力を拡大していってる……と言えるのかな?
友達が増えて、一緒に行動する人が増えてるだけ。
実質は一人で最強派閥。
そう、我がクラスきっての問題児と噂されている、レオハート公爵家のご令嬢。
公爵の孫である、エルザ様だ。
彼女が目下、身分至上主義派閥の対抗馬として名前が挙がっている。
というのも、相手が何人だろうと一人で斬りこんで行く姿は、まさに獅子の心を名前にするレオハート公爵家の令嬢に相応しいと思う。
その力も込みで。
だから教室移動の時とかは、僕みたいな派閥に属していない人間は彼女の後ろを歩くだけでも歩きやすい。
別に虫よけ代わりにしているわけじゃないよ。
彼女の後ろは、妙な安心感があるんだよね。
たとえ正面に竜が立ちはだかっても、彼女の後ろは安全地帯のように思える。
あはは、言いすぎかな。
いくらなんでも、個人でドラゴンを倒せるような人間は伝記でしか見たことが無い。
冒険者の中でも、一握りの人間だけが成し得る偉業。
冒険者と関りが無いから、実際にそんな人間は見たことがないけどね。
風の噂では、ギース・フォン・レオハート公は、その僕が見たことのない人種の一人らしい。
……うん、エルザ様もその一握りの人間だという噂が。
この国で、ギース公に次いで2番目にレベルが高いとの噂。
レベルかぁ……
騎士を目指すなら上げる必要はあるけど、僕は内政官志望だから。
そこそこでいいと思う。
有事の際に、騎士が駆け付けるまで生き残れる程度で。
だって、レベルを上げるには魔物を殺さないといけない。
いたずらに生き物の命を奪う行為というのは、やはり貴族の中では忌避されることが多いし。
いや、遊びで狩りをするのも、貴族の嗜みだけど。
あれは主に、野生の動物だからね。
それに狩りの成果より、そこで話す会話の方が重要だったりする。
レベル上げのための魔物狩りとは、少し趣が違うよね。
魔物は害獣が多いけど。
一般の村人が熊を態々探して狩ったりはしないのと一緒で、普通の人はそんな危険を冒すようなことはしない。
それにレベルだけが、全てじゃないし。
エルザ様は見ていると、とても面白い。
本人はこの国で王族に次ぐ権力を持つ家のご令嬢なのに。
とても気さくで、親しみやすい方だ。
いつも教室で、大きな声で皆に挨拶をしてくれる。
挨拶を返すと、嬉しそうに笑って頷いてくれる。
とても綺麗な方だから、それだけで緊張してしまうけど。
一部の女子たちからは、そのことで陰口を叩かれていることが多い。
面と向かって言える子はいない。
流石にね……
授業中はよくぼーっとしていることが多いし、なんなら寝てるんじゃないかなって思う時もあるのだけれども。
先生が声を掛けると、しっかりと受け応えしているから起きてるのだろう。
いや、どうかな?
感覚が鋭いだけなのかもしれない。
船を漕いでる時もあったし。
寮からだから通学に殆ど時間が掛からないので、割と時間ギリギリに登校することが多い僕だけれども。
最近は、少し早くクラスに向かうことが多い。
というのも、エルザ様が早く来た時には少しだけれども、会話をしたりしてくれることがあるからだ。
なかなか、興味深い話をしてくれることもある。
この間は、ポイズンボアについて一生懸命語ってくれた。
勿論、2人というわけではない。
カーラ嬢もいるし、他にも数人の生徒を交えての話。
それからこちらが質問をすると、基本的に丁寧に返してくれる。
高位貴族というか、最上位に位置にしながらも気取ったところがなく親しみを覚える。
嫌味がなくて素直なのもポイントが高い。
ダリウス殿下の婚約者に選ばれたのも、納得できるほどに性格が良い。
困っている人にはすぐに声を掛けて手を差し伸べるし、身分至上主義派の横暴を許さない姿勢も良い。
たとえ相手が先輩であっても、物怖じすることなく突っ込んでいく。
そして、見事なまでに叩き伏せる。
最近はその活躍があまり見られなくて、残念。
身分至上主義派閥に対抗した、全生物平等主義派閥なるものが立ち上がったからだ。
これまた極端だし、下手したら宗教染みた臭いのする派閥だと思ったけど。
そうではないらしい。
ただの皮肉とのことだった。
主なメンバーはクリント様と、シャルロット先輩。
それからダリウス殿下と懇意にしている高位貴族の先輩方だ。
クリント様もレオハート公の孫だけれども、第二夫人のご子息だ。
そしてシャルロット様は、ニシェリア侯爵のご令嬢だ。
あとはロータス先輩かな?
ロータス様は、ナミール侯爵家のご子息。
そして、殿下の側近候補だ。
南西の侯爵家の子息令嬢が手を組んだことで、南西派閥対、北東派閥という構図になった。
とはいえ、それぞれの方位に位置する貴族でも、派閥はちぐはぐだったりすることもある。
その全生物平等主義派が、エルザ様の手を煩わせないようにと先回りして行動することが多いから。
残念ながらエルザ様よりは、手際が悪い。
相手が複数人でも、エルザ様は一人でどうにかされる。
それに対して、こちらは数を揃えて対抗することが多い。
相手よりも家格も人数も上ならば、負けることは無いと思うけど。
総力戦になったら、やはり身分至上主義派閥に軍配が上がると思う。
エルザ様なら総力戦でも、一人でなんとかしそうだ。
そんなエルザ様だけれども、残念なことに頭も良かった。
前期の習熟度テストで、堂々の満点での学年トップ。
もう一人、レイチェル嬢が同率で一位だったけど。
レイチェル嬢は少しふくよかな女性だけれども、授業態度は真面目だと友人に聞いた。
勉強に意欲的だとも。
エルザ様は……授業中、よそ事を考えていることが多い。
上の空で聞いていることの方が多いと思う。
板書も全然しないし、教科書も開いてるだけっぽい。
だというのに満点……うん、エルザ様の方がたぶんレイチェル嬢よりは上だと思う。
強くて賢いとか、反則だよね。
その上、眉目秀麗ときた。
どうあがいても性悪の身分至上主義派閥の女性じゃ、太刀打ちできない相手だ。
それでも妬んでいる側というのは、何かしらの欠点を見つけて乏しめる。
凄い才能だと思うけど、もう少し違う方面でその観察力や語彙は使った方が良いんじゃないかな?
偉そうに、賢そうなこと言ってるけど……結構、補習組が多い。
馬鹿につける薬は無いというのは、あながち間違いではないかもしれない。
成績発表が終わって、帰るときにエルザ様に挨拶をして帰ろうと思ったらカーラ嬢との会話が聞こえてきた。
「この3位のフィフスってのは、誰だろうね」
うん……
とりあえず、2人に声を掛けてみよう。
「エルザ嬢、カーラ嬢、僕はお先に失礼しますね」
「あら、わざわざどうも。寮だから近いけど、気を付けて帰ってね」
「また明日お会いしましょう」
顔は認識されているし、個人も認識されていると思うけど。
名前は知られていなかった。
いや、自己紹介してないからかな?
でも、最初のホームルームで自己紹介したし。
拍手もくれましたよね?
カーラ嬢も僕の名前を覚えていなかったみたいだし、もう少し頑張って前に出ないといけないかな?
ほら、やっぱり地味だもんね。
伯爵家の子息なのに、身分至上主義派も近づいてこないくらいに。
もう少し、勉強以外も頑張ろう。




