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閑話:2-5シャルル

 私の名前はシャルロット。

 シャルロット・フォン・ニシェリアと申します。

 父はニシェリア領を預かる、侯爵という大層な身分を賜っておりますの。

 王都の西に位置し、西の侯爵とも呼ばれております。

 本人はいま宰相として王都で過ごしおり、お父様の弟である叔父様が領地を代官という形で治めております。


 私も王都に住んでおりますが、時折領地にて叔父の手伝いをしております。

 父が宰相の座を引くか弟が大きくなるまでは、叔父か私が領地を預かることになりそうですし。

 父と叔父との仲は良好ですし、叔父は少し気弱なところがあるので悪い心配はしてないのですが。

 ですので大きな決断を迫られた時は、引退したおじいさまを頼っております。

 おじいさまは領都からそう遠くない場所にある、風光明媚な土地に屋敷を持っておりますので。

 馬車でも半日、馬を飛ばせば数時間で連絡が取れますので。


 そして厄介な報告の際には、私か母を連れていかれることが多いですね。

 祖父が叔父を怒ることなど滅多にないのですが、それでも当人としては心強い味方を連れて行かないと不安なようです。


 そういったこともあり、割と幼少の頃から領主教育を受けさせていただいております。

 弟はまだ3歳ですし。

 3歳……そういえば、あの方と初めてお会いしたのもそのくらいでしたわね。


 エルザ・フォン・レオハート嬢。

 ギース公爵の孫にあたるご令嬢です。


 寄子というわけではないのですが、お父様はギース様に憧れておりましたので。

 レオハート公爵家には、懇意にさせてもらってます。

 おじいさまとギース様が同じ歳でご学友ということもあり、そちらの縁もありましたので。


 年に数度、お互いの家を行き来することもありました。

 その際に、私もついていくことも。

 ですので、周囲の貴族からは西側派閥と取られていたりします。

 ただの友人づきあいの延長のようなものですのに。

 政治の世界は、面倒ですの。


 私が4歳の時に、レオハート領へと連れて行ってもらいました。

 厳密には0歳と1歳の時にも行ってるみたいですが、かろうじて1歳の時の記憶はあるような無いような。

 ですので、物心ついてからは初めてですね。


 そこで紹介されたのがエルザ様でした。

 少し変わり者との評判でしたので不安でしたが、思ったよりは普通の子……思い返せば、そうでもないですね。

 当時の私は自分が侯爵家の孫であることを忘れて、公爵家の孫で変わり者……きっと、すごく我がままで手のかかる子なのねと思っておりましたので。

 そういった方面での心配は杞憂に終わったので、少し評価が甘くなってたのかもしれません。

 思い返せば……変な子でしたね。


 祖父もまだ現役で、父も領地で運営の補佐をしていた時ですから。

 レオハート家を訪れた際に、エルザ様は木の剣を持って庭におられました。

 まさか3歳の幼女が剣の鍛錬などするわけないと思い込んでいた私は、乱暴者なのねと溜息を吐いた記憶があります。

 きっとあれで、気に入らない使用人をぶったりしてるのね。

 なんて、失礼な決めつけをしていました。


 彼女は私を見つけると、小走りに駆け寄ってきて満面の笑みで声を掛けてこられました。

 ああ……厄介な子の面倒を押し付けられた。

 このために、歳周りの近い私が連れてこられたのか……そう思って、辟易した記憶があります。


「私はエルザ。貴女は?」


 子供らしいというか、馴れ馴れしいというか。

 まあ、王族に次ぐ地位の家庭のご令嬢ですからね。

 他者に遠慮など必要ない方ですし。

 そう思って、私も自己紹介を返しました。


「お初にお目にかかります。シャルロットと申します。本日はレオハート家に祖父と共にお招き頂き感謝いたします」

「これはご丁寧に、ありがとうございます。それで、シャルロット嬢のおじいさまは、どちらに?」

「はい、あちらにおります。この国の侯爵ですの」

「ああ、ニシェリア侯爵の。なるほど、お話は伺っておりますわ。本日は私と歳の近い子を連れて来られるとのことで、とても楽しみにしてましたの。貴女がお孫さんね」


 意外と言葉遣いはしっかりとしていらっしゃる。

 というか、思い返すと3歳児にしては少し異常かもしれない。


「それで、エルザ様は何をしていらしたのですか?」


 私の言葉に、エルザ様が手に持った剣を見て首を横に振っていた。


「日課の素振りですね。おじいさまに言われて、毎日するようにしてますの。お昼ごろに来られると伺ってたので、それまでに終わらせて水浴びをする予定でしたが……うちには大きな湯船がありますので、一緒に入りません? 水よりもお湯に浸かった方が汚れが落ちますし。それにシャルロット様にとっても馬車旅の疲れを取るのにも、いいですわよ」

「いえ、そんな申し訳ないです」

「申し訳なくないから、そうしましょう! おじいさまー!」


 そう言って、エルザ様は私の意見を無視してギース卿と私のおじい様から許可をもぎ取ってましたね。

 裸の付き合いねなんて言われて、反応に困ったのを覚えてます。


「へえ、シャルルは偉いのね。もう、領地について学んでいるんだ」

「ええ。といっても、大きな地図で領内の街の名前を覚えているところです」


 一緒にお風呂に入ったあとで、侍女の方に身だしなみを整えてもらってお茶を飲みながらお話をしましたね。

 流石に身ぎれいにすると、ハッとするような美少女になられましたが。

 凄く気安いというか……すぐにシャルロット嬢がシャルルに変わってましたね。


「やあエルザ。お母様にこちらに行くように言われてね。こちらのご令嬢を私に紹介してくれないかい?」

 

 2人で会話に花を咲かせていたら、エルザのお兄さまであるクリス様が声を掛けにきてくれました。

 私は初めてだと思ったのですが、赤子の頃に何度かお会いしているようでした。


「これは、とても綺麗になっていて驚いたよ。うちの妹を可愛がってやってね」


 そう言いながら自然な動きで私たちのテーブルに座ったクリス様の前にも、侍女の方がすぐにお茶を用意しておりました。

 

 それから3人で仲良く会話したのを覚えてます。

 詳しい内容までは思い出せませんが、色々と驚かされた記憶がありますね。


 翌年も、レオハート領にお邪魔させてもらいました。

 エルザ様に会えるのが楽しみでしたし、クリス様にもお会いしたかったので。


「あら、シャルル1年ぶりですね。背が伸びたんじゃない? 子供の成長は早いっていうけど、本当ねぇ……若いって素晴らしいわ」


 ……1年ぶりのエルザ様を見て、ああ、そういえばこういう方でしたと思ったのを思い出しまた。

 お互い様じゃないかしらと思ったけど、衝撃的過ぎて笑うだけで精いっぱいでしたね。


 学園で再会した時には、彼女も成長していたので段々言葉に容姿が追い付いてきているような。

 いや、やっぱり内面が結構……

 これ以上はどう頑張っても、ポジティブな表現が難しいですわね。

 謗るつもりはないのですが……どう言いつくろっても、悪口になりそうです。

 良い意味でという枕詞を付けたとしても……いや、それを言ったら、ところでそれはどういう意味ですか? と聞き返されるのが分かり切ってますので。

 形容しがたいので、これ以上は言葉を慎みます。


 ただ、相変わらず面倒見が良くて、優しい方だというのだけは安心ですね。

 そこが変わっていないのなら、何も問題ありませんとも。


 その、鞄からどんどんお菓子が出てくるところとか。

 しかも、他人に配る用のお菓子とか。

 


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