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第23話:噂の兄妹

 成果発表会が終わった翌日。

 いよいよ、長期休暇も目前に迫ったその日は授業はもうない。

 長いホームルームと、荷物の整理だ。

 明日はもう終業式なので、今日は机の中も空っぽにしないといけない。

 しかし、貴族の通う学園だけあって学習机も立派だ。

 袖机が無いだけの、事務に使えそうな引き出しが四つもついた机。

 左に一つ、右に三段。

 だから、ちょっとずつ持って帰っていないとそれなりの荷物になる。

 私は終わった教科の教科書や道具は持って帰っているから、一般的な量だ。


 まあ、彼らが家まで自分で持ち帰るわけないからね。

 せいぜいが校門までだ。

 そこからは使用人が運んでくれる。

 寮組は敷地内に部屋があるから、学校が終わった後も少し猶予がある。


 あっ、あと補習組も必要なものは置いておかないといけないから、荷物は少ないんだ。


 今日はお兄さまと一緒に登校できるので、気分がウキウキしてる。

 毎日、お兄さま(クリント)と登校している?

 あれは、別物だ。

 同級生だし。

 

「エルザ、準備は終わったかい?」

「はい、もう出られます」

「ゆっくりでいいよ。クリントも、いま終えたみたいだから」


 部屋の外から扉をノックして、お兄さまが声を掛けてくれた。

 ノックはしても、扉は開けない。

 こういう気遣いって、大事だよね。

 準備が終わってなくても、終わりそうならつい答えちゃうし。

 急かさないところも、ポイントが高い。


 私の居たところでは妹の準備を待たずにそそくさと、玄関の外までいっちゃうお兄ちゃんも多かったみたいだし。

 うん、あれはお兄さま(・・)ではなく、お兄ちゃん(・・・)だね。

 部屋を出て玄関ロビーに向かうと、お兄さまはソファに腰掛けてロンと談笑していた。

 私に気付くと、笑顔で手を振ってこっちに向かってくる。


「何の話をしていらしたのです?」

「ん? 前期の間のエルザについてだよ」

「まあ、恥ずかしい話をされてないでしょうね」


 お兄さまの言葉に、思わずロンの方をチラリと見た。

 すまし顔で頷いているだけだから、何を話していたのか全然分からない。

 碌でもない話じゃないと良いけど。


 それから兄と手を繋いで、屋敷の外に出る。

 兄の反対側にはクリント、ということはない。

 彼は普通に横を歩いている。

 流石に門を出るころには手を離したけど「別に、恥ずかしがらなくてもいいじゃないか」と、お兄さまが苦笑していた。


「もう、子供ではありませんわ」

「まだ、十分に子供だと思うけどね」


 そう言いながらクスクスと笑うお兄さまを見て、やっぱりロンが何か余計なことを言ったなと屋敷を睨んでみた。


「そういうところだと思うよ、お嬢」


 そんな私の後姿を見ながら、クリントが大げさな溜息を吐いていた。


「クリントにも迷惑を掛けるね……というのも、おかしな話か。母は違えど、血の繋がった兄妹だしね。うん、兄としてよく頑張ってるみたいだね。と言うべきだったかな?」

「ありがとうございます。クリスさ……在りし日のクリス兄上の苦労が、偲ばれる日々でしたよ」


 ちなみに他人行儀なクリントの対応に、お兄さまは思うところがあったのか滾々と何かを言い聞かせていた。

 最初のうちはクリントも言い募って食い下がっていたけど、お兄ちゃん寂しいオーラを織り交ぜて話すお兄さまに完敗していた。

 外ではそれなりに取り繕っているけど、家だとクリントもお兄さまべったりの弟に戻ってしまった。

 良い事だ。

 やはり、子供は子供らしくないと。


「お嬢のその目、ちょっと気分悪いですね」

「年長者が子供を見る目みたいだね」


 2人が何か言ってるけど、気にしない。

 久しぶりに3人で歩けて、気分が良いからね。

 後ろでハルナが首を傾げているけど。


「クリス様がお嬢様と一緒に学園にいる描写は、無かったと思うのですが……」


 何を言っているのだろうか。 

 言ってる意味が分からない。

 分かりたくないという方が、しっくりくるかもしれないけど。

 この子がこういう状態になったら、気にしない方がいい。

 気にはしないけど、やっぱり発言は記憶に留めておこう。

 いつか、役に立つかもしれないし。


「それではお兄さま! 高等科の成果発表会、頑張ってください」

「健闘を祈ってます」

「はは、2人ともありがとうね。おじいさまも後から来られるみたいだし、恥を掻かないようにしないとね」


 そう、今日は高等科は成果発表会を学園で行う。

 といっても生徒数が減っているので、午前中で終わる予定だ。

 希望があれば、食堂で食事も出来るみたいだ。

 学園の味を懐かしみたい生徒も、少なくないらしいからね。


 この日ばかりは、特に気紛れメニューが人気だとか。

 ふふ……とはいえまだまだ、学食は蛇フィーバーが続いてるんだけどね。


 校門でお兄さまとハルナと別れを告げると、クリントと2人で教室へと向かう。

 ハルナは結局、学園に通う間はずっと送迎をしてくれていた。

 そして、別れ際には毎回悲痛な表情を浮かべていたけど。

 子離れできない親というか、主離れできない従者というか。

 少しはこの間に、羽を伸ばせばいいのにと思わなくもない。 

 いつでも学園からの呼び出しに対応できるよう、屋敷で待機していたみたいだけど。

 従者の鑑だね。

 幸い、私が学園生活で病気や怪我をすることは無かったけど。


 そもそも、多属性の回復魔法が使えるし。

 治療室という名の前世でいう保健室に、お世話になることもない。


 校門から校内に入るまで、こちらをチラチラ見てひそひそ話す生徒の多い事。

 主に女子に多い気がする。


「お嬢、気にするな」

「えっ?」


 いや、別に特に気にしはしていないよ。

 何人か、超聴力を使って盗み聞きしたけど。

 主に、クリスの話ばっかりだったし。

 昨日の講堂前でのお兄さまと私のやり取りや、カーラとのやり取りを思い出しながら話してる子たちばかりだった。

 中には若干の敵意を向けてくる娘もいたけどさ。

 無理だよ……

 あの子じゃなくて、私が妹だったら……とかって言ってるけど、こればっかりはどうしようもない。

 そんなことを思わずに、産んでくれた親に素直に感謝しときなさいとしか言えない。


 うん、クリントと結婚したら、妹になれるよ?

 義理がつくけど。

 でも、3年経って今のクリスと同じ歳になったクリントも、それなりに良い男になってると思うけどね。


 教室に入ると、珍しくカーラが人に囲まれていた。

 いつも通り、大きな声で元気よく皆に挨拶して入ったら、ほとんどの子が返事を返してくれた。

 大きな声で挨拶を返してくれる子も、少しずつだけど増えている。

 入学当初よりは、だいぶ進歩した。

 でも、私がやりたいのは挨拶運動じゃなくて、友達作りだったんだけどね。


 一応、カーラを除いて3人はよく話す子もいるし。

 たまに一緒になった時に、話す子も数人はいる。

 無駄な3ヶ月ではなかったようだ。


「エルザ様、おはようございます」

「あら、今日のカーラは人気者ね」


 最初は、他の生徒に囲まれるカーラを見てすわ何事かと! 目くじらを立てそうになったけど。

 そんな私の思いとは裏腹に、和気藹々とした空気に思わず脱力してしまった。


「ええ……その、エルザ様のお兄さまとのことで、色々と聞かれてまして」

「あら? クリスお兄さまのこと?」

「カーラ様が、クリス様に頭を撫でてもらったと聞きました」

「凄く良い匂いがしたんですって。その、どこの香水を使ってらっしゃるのでしょうか?」

「仕立ての良い服を着てらしたみたいで、どこのお店のものかなって想像で話し合ってたりしてたんですよ」


 おおう……凄い勢いで、他の子たちまで私にぐいぐいと話しかけてきてくれてる。

 圧が凄いから、少し落ち着こうか。

 カーラの机に手を置いて、前のめりになってる子もいるし。


「香水……いえ、兄はそのようなものは使ってないですよ。おそらく、服を洗う洗剤か身体を洗う石鹸の匂いじゃないでしょうか?」

「まぁ! ということは、あれはクリス様の匂いということなのですね」


 おお、どうやらどさくさに紛れて、カーラ以外に兄の匂いを嗅いでいた子もいたようだ。

 それとも、超嗅覚のスキルでももってるのかな?


「服はたぶん、レオハートの町で仕立てたものじゃないかしら」

「あのぴっちりとした綿のパンツ、良いですね。クリス様の長いおみ足をそれとなく主張しておりましたし」


 おみ足って……

 どうやら我が兄は、他人から見てもイケてるみたいだ。

 ふふん、妹として鼻が高いよ。

 でも、あげないけどね。


 それからブライト先生が教室に来るまで、私とカーラは他の子たちからずっと質問攻めだった。

 身分至上主義派閥の子たちが、この時ばかりは忌々し気に遠巻きに見てくるだけだった。

 いや、女子たちは混ざりたさそうに悔しそうな表情を浮かべていたけど。

 だったらそんな派閥なんて、とっとと抜けてしまってこちらにいらしては? と言いたくなったけど、グッと我慢。

 煽ったところで、得るものはない。

 それに親の派閥を子がどうこう出来ることは、ほぼ無いからね。

 学園内だけでも、その派閥から解放してあげられたらいいけど。


「ふふ、悔しそうな様子」

「普段から、意地悪ばかりしてるからですよ」


 なんて言い出す子たちもいたから、被害者だから性格が良いとも限らないことが分かる。

 いや、気持ちも分かるけどね。


「あらあら……立場が変わったからといって、彼らみたいなことを言いだしたら何も変わりませんよ。許す心も大事ですよ」

「はい」


 まあ、私の言葉を素直に聞いてくれるから、それだけでもありがたいんだけどね。


「あなた達もそんなところに居ないで、興味があるならこちらにいらしては?」


 先ほどの我慢はなんだったのだろうか?

 いや、微妙にニュアンスが違うから、セーフだ。


 そう思ったけど、身分至上主義派の女子たちにはプイっとよそを向かれてしまった。

 素直じゃなくて可愛くないというか、素直になれなくて可愛いというか。

 まあ、少しは何か感じてくれるといいけど。


 そうそう、この子たちの中にもお兄さまと同じ歳の姉を持つ子がいて、朝のホームルーム後の休憩時間に面白いことを言っていた。

 どうも兄と同世代の方たちは、身分至上主義派の子が大人しいらしい。

 というのも兄が女性のタイプを聞かれたときに、身分を気にせずに上とも下とも付き合える妹のような女性と答えらしい。

 もう、お兄さまったら! なんて、ちょっと照れてしまったけど。


 そのことが割と効果的だったみたいで、女性陣は表立って身分を笠に着るようなことをしなくなったらしい。

 そして、身分至上主義派の男子を抑える役回りに回っていたとか。

 付き合ってみれば、案外面白い個人というのは少なくない訳で。

 そこそこ、変な組み合わせのグループも出来てたとか。

 うーん……恐るべし公爵家の貴公子。


 あっ、もちろん貴族の子息令嬢が通う学園に、大掃除なんて習慣があるわけもなく終始オリエンテーションだ。

 残念ながら長期休暇に課題はあるらしい。

 その課題の内容の説明や、提出期限等の説明。

 学園後期が始まってから10日も猶予があるのか。

 過去に何かしらの圧力があったのかもしれない。

 他には、長期休暇の間の過ごし方の注意。

 まあ、前世と似たような感じだ。

 気を緩めず、規則正しい生活をみたいな感じだね。

 他には、長期休暇中に学園でも色々と企画があるらしい。

 合宿なるものも、自由参加ながらあるらしい。

 うん、これは是非とも参加したい! と意気込んでみたけど、クラスの子の大半は興味が無さそうだった。

 とりあえずカーラとレイチェル、ソフィとテレサとフローラは誘ってみよう。

 あと、私には関係ないけど補習についても説明があった。

 カーラ含め、数人の生徒がどんよりとしたオーラを放っていた。

 それ以外の生徒は、のほほんとしたものだ。

 他人事だね。

 他人事だけどさ。

 後期もその余裕が保てるといいね。

 授業を重ねる毎に、内容は難しくなっていくはずだし。

 年々、補習を受ける生徒は増えるらしいよ。

 うん……私も気を付けよう。

 でも、友達と一緒なら楽しめそう。

 及第点を取ってても、不安なら別に参加しても良いと。

 これは、良い事を聞いた。

 カーラがちょっと可哀そうだったし、補習はクラス関係なく全員で受けるみたいだからね。

 他のクラスの子との交流も捗るかもしれない。

 ちょっと、検討してみよう。

 カーラとフローラが合格するまでの間だけでも、受けても良いかもしれない。


 そうこうして、全ての説明が終わって下校の時間になった。

 隣のクラスは終わったらしく、廊下が少し騒がしい。

 うちのクラスも、あとは先生との挨拶だけだ。


 と思ってたら、廊下が一際騒がしくなった。

 

「それでは、くれぐれも休みの間は問題起こさないように」


 なぜ、私の方を見ながらそれを言うんだブライト先生は。

 まるで、私が問題児みたいじゃないか。

 もっと、問題を起こしそうな子はたくさんいるよ?

 ほら、一部の派閥の子とかさ。

 

 そんなことを思いながら、良い笑顔で睨み返しておいた。

 盛大に溜息を吐かれてしまった。

 うん、この前期はよく人に溜息を吐かれることが多かったな。

 私のこと、何か皆に勘違いされてないかな?


「ありがとうございました」


 全員で先生にお礼を言って、席を立つ。

 それから廊下に出ようとしたら、外から声をかけられた。


「終わったかい? 迎えに来たよ」


 どうりで、廊下が騒がしかったわけだ。

 黄色い声で。

 

 外から金髪サラサラヘアーのイケメンが、私に微笑みかけてくれた。


「お兄さま」

「荷物多いよね? 一年生には重いだろうからね。ほら、貸してごらん」


 おおう……皆が最低限校門までは頑張って持っていくだろう重い荷物。

 まさかのお兄さまが、その荷物持ちに立候補してくれるとは。

 見れば、他にも高等科っぽい生徒が数人、うちや他のクラスに迎えに来ていた。

 中には弟を迎えに来て荷物を受け取る、お姉さんの姿も見られた。

 勿論、身分至上主義派ではない方が殆どだ。


 あっ、一部の女性は身分至上主義派っぽい。

 お兄さまの方をチラリとみながら、彼女たちの弟や妹の荷物を預かっていた。

 ポイント稼ぎに余念がないようで何より。


「それでは、クリス様。ごきげんよう」

「ええ、気を付けてね」


 中にはわざわざ、兄に挨拶をして帰る方もいた。

 そして、周囲からは私に対する羨望の眼差しが。

 いや、まあ……正直、気持ちが良かったりする。

 ふふん。

 私のお兄さまは、こんなに素敵なんだと誇らしい。


 しかし、お兄さまモテるな。

 それもそうか。

 私が順当にいけば、次期王妃だからね。

 そして、クリスお兄さまは次男だ。

 すなわち、婿養子として迎え入れやすい。

 もしクリスお兄さまを射止めて、結婚することが出来れば。

 我がレオハート家を通じて、次期国王と縁続きになれるのだ。

 クリスお兄さまはレオハート公爵の孫、そして公爵の息子、その後は公爵の弟へとクラスアップしていく。

 加えて、私を通じて義理とはいえ王兄殿下になる。

 そう、卿から殿下になるのだ。

 そうなれば、その家は兄がいる限りは安泰だ。


 子供が出きれば、王妃の姪や甥になるわけだ。

 そして国王陛下の義理の姪や甥になると。


 いやーん、姪っ子とか甥っ子とか絶対に可愛いに決まってるじゃん。

 でもお兄さまを取られるのは嫌だなぁ。


 とにかくそんなわけで、この国の男児の中でダントツの優良物件候補だ。

 下手したら嫁取りとなる長兄のギルバートよりも、価値は高い。

 直接的に家の価値が上がる分だけ。


 私とクリントの後ろをお兄さまが、楽しそうについて校門まで一緒に歩いてくれたけど。

 その後ろに少し距離を開けて、たくさんの女子生徒が付いてきていたのは少し引いたよ。

 その中に目を輝かせた男子が、数人混じっていたのは目を引いたけど。


 ちなみにカーラも一緒だったけど、かなり恐縮していた。

 良いんだよ。

 これで箔が付いたら、後期はもう少し過ごしやすくなると思うよ。

 本当はレイチェルやソフィも誘いたかったけど、流石にお兄さまをそこまで引っ張り回すのは気が引けたのでやめておいた。

いいね、ありがとうございます。

励みになってます♪

これからも、よろしくお願いします。

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