第19話:成果発表会
習熟度テストが終わって10日後、次は成果発表会が行われる。
これは実技系の科目で、この前期での成果を親族の前で発表する日だ。
そして、それが終わればいよいよ長期休みに突入する。
長期休み目前となったことと、テストが終わったことで生徒たちはだいぶ気が緩んでいる様子だ。
楽しそうな声が、廊下や教室のそこかしこから聞こえる。
一部を除いて。
そう、補習組だ。
彼らは最初の一週間で補習を終えるために、いまも机にしがみついて勉強をしている。
うーん……こうなる前に、先に勉強しておけば良かったのに。
お茶会や、パーティを開くことに余念がないのは良い事だけどさ。
だから、身分至上主義派閥に多いんだよ。
補習組。
……それで、いいのかな?
身分に見合った能力が無いって、証明しちゃってることにならない?
そんな感じだから、派閥に属していない生徒からの彼らに対する視線はかなり冷たい。
普段は人を見下しているくせに、大したことない連中だとでも思っているのだろう。
口ほどにもないと。
「もう……私の横で、楽しそうに休みの予定を立てないでくださいませ!」
「あはは、カーラもちゃんと呼んであげるから、早く補習を終えられるといいね」
カーラの側で、皆で休みのことを話していたら怒られた。
だいぶ馴染んでくれたというか、私に慣れてくれたみたいで嬉しいよ。
やっぱり可愛らしい子は、性格も可愛くないとだめだよね。
ちょっと癖があるくらいならそれも愛嬌だけど、可愛げのない苛めを計画するような子は道を正してあげないと。
「というか、長期休み始まったらうちに2日間くらいフローラと泊まりに来たらいいよ。私も勉強を見てあげるし、うちの先生も呼んであげるから」
「そ……それは、物凄く嬉しいのですが。ご迷惑じゃありませんか?」
「いいの、いいの。なんか楽しそうじゃん」
そうだ、レイチェルとソフィとテレサも呼ぼう。
皆でお泊り会。
とても楽しそうだ。
その前に迫りくる成果発表会。
私たちは、剣術だからねぇ。
対抗戦というか、模擬戦と演武になるわけだけれども。
おじいさまが、見に来るらしいから手を抜くわけにもいかないし。
まあ、なんとかなるかな?
***
「さて、ソフィの親も来ることになったわけだが。非常に、面倒だな」
「そうですね」
そして、成果発表会前日。
王城の庭にある東屋で、殿下と一緒にお茶を飲んでいる。
話の内容は、ソフィアについてだ。
ナチュラルに殿下もソフィアのことを愛称で呼んでいることに、少しモヤっとする。
ソフィって呼んでいいのは、私だけだよ!
「彼女の髪色は非常に目立ちますから」
そして私の横でシャルルが優雅にお茶を飲むと、頬にそっと手を当てて困りましたわと首を傾げている。
うーん、絵になるなー。
金髪縦ロールではあるけれども、そういう世界の住人だし。
何より素材が良いから、よく似合っている。
……彼女が小さいころから見てるから、見慣れているというのもあるかもしれないけれどもね。
「一応、白ではなく銀色であるという風に、周囲には印象付けてますから。髪の話題だけで、ギールラウ子爵もその関係者もそこに思い至ることは無いと思いますよ」
ロータス先輩……そんなことしてたんだ。
割と、強引な力技だったけど。
シャルルや、殿下の側近候補の方が銀髪綺麗とか、銀髪珍しいと大きな声で話しかけるだけ。
こんな雑な印象操作でいいのかとも思ったけど、言われてみればそう見えなくも……無くもないくらい。
光の当たり方によっては、ギリ見え……るかな?
綺麗な白髪だけど。
まあ、その力技で結果は出てるから、余計なことを言って水を差すのも褒められた行為ではないか。
成果発表会の日にギールラウ子爵が彼の娘を見るために、学園にわざわざやってくるのだ。
普通かな?
でも遠方の領地だと……うん、長期休暇で社交シーズンに入るし。
ついでに、そのまま一緒に領地に帰るから、身内の誰かは来るだろうね。
それに、王都の貴族との顔つなぎもあるだろう。
どっちがついでかは、分からないけれども。
そして……私は、そのことをすっかり忘れていた。
「異母妹の方は、どのような様子だ」
「まったく気づいてない様子ですね。というか存在自体が家でも秘匿されてますから、知っているのは一部の使用人とギールラウ子爵と、夫人だけですね」
「なるほど……しかし、グレイドルフ学園長もやってくれたな」
そう、そのギールラウ子爵の後妻との間の娘。
なんと、ソフィアと同じクラスだった。
こうなってくると、確実に学園長は敵だね。
何を考えているのか分からないけれども、王族の意向を無視するようなやり方をして大丈夫だと思っているのだろうか?
思っているのだろう。
自分大好き人間っぽかったし。
「とりあえず、引き続き学校内では気に掛けてやってくれ。私も同じ選択科目ではあるけれども、学年が違うからな。エルザが気に掛けてくれると助かる」
「ドンと任せてください! 大船に乗ったつもりで、例年通りに過ごしてもらって大丈夫です!」
「なんだろう……手漕ぎボートで渡るような川で、大船というか……軍艦というか……艦隊の旗艦船に乗ったような不安が湧き上がってきた」
どういう意味だろう?
対岸を渡りきると同時に、えぐり取るとか?
それとも砲撃で、対岸を消し飛ばすようなイメージだろうか?
それは物騒だし、大げさな気がするよ。
***
「では、胸を借りるつもりで、挑ませていただきます」
「お前、本気で勝とうとしてるだろう?」
「いえ、スキルや身体強化は使いませんのでご安心を」
いざ、成果発表本番の日。
ブライト先生相手に、模擬戦を行うことになった。
しかし、先生に恥をかかせるわけにもいかないので、手加減ではなく全力を出さない方向で挑む。
ようは、剣術以外にバフを使用しないっていう意味ね。
ノーマル状態で全力を出すけど、全能力を使わないという意味で。
「くっそ、相変わらず抜ける気がしない防御だ」
「ふふ、素晴らしい剣技ですわ」
ブライト先生の流れるような突きを、全て剣先をはたいて軌道をずらしながら身を捻って躱す。
「まるで、ダンスのようね」
「へえ、綺麗な戦い方だ」
「先生も軸がしっかりしているから、本当にダンスをリードしてるようだな」
保護者からの評価は、概ね良好だ。
先生も、満更ではないだろう。
剣術の発表が行われるのは、校庭の一角にある闘技場のような施設だ。
コロシアム状といったら分かるかな?
円形の建物で、観客席が上にいくほど高くなっているあれ。
そこの真ん中に生徒たちが集まって、順番に手合わせを行っている。
希望者は、こうして先生とも手合わせが出来る。
これが終われば、学年別に演武の発表だ。
息の揃った集団での剣の演武は、さぞや見ごたえもあるだろう。
「隙あり!」
「ありませんよ」
そしてその会場の上の方に、おじいさまを見つけたのでそっちに視線を向けたら、先生が渾身の袈裟斬りを放ってきたので剣の腹で受け流す。
そのまま剣が滑る流れに合わせて、先生の横をクルリと回転しながら移動し背後を取る。
こっちのセリフだったね、先生。
「背中ががら空きで、隙だらけですよ」
「ないよ」
ゆっくりと首筋に剣を当てようとしたら、すぐに剣を引き戻し柄頭をこちらの剣に合わせてきた。
だからさらにその柄を握った手の内側に剣を滑りこませて、先生の身体の外側に弾いて首に剣を添えてあげたよ。
「ありましたね」
「はぁ……酷い生徒だ。先生に花を持たせてくれてもいいだろう」
「あら? 先生が私に花を持たせてくださったのでしょう?」
「言ってろ」
終わったあとで、軽く頭を小突かれてしまった。
体罰反対。
しかし……ちらりと、おじいさまの方を見る。
いかにもおじいさまの従者ですといった態度で、ソフィの育ての両親が後ろに控えていた。
平民だから見に来られないだろうと、ソフィは言っていたけど。
おじいさまが、しっかりと気を遣ってくれたようだ。
そして、おじいさまの従者ポジで見に来ているということは……彼らはうちに泊まるはず。
泊まるよね?
勿論、泊まるに決まってるよね?
ということはだ……
ソフィがうちに泊まりに来ても、問題ないってことだよね。
やっふーい!
これは、テンションあがりますわ。
ちょっと、やる気が凄く出てきた。
今日の成果発表会、まだまだ頑張れる気がしてきたよ。




