第18話:習熟度テスト
「何やら、ご機嫌ですね」
教室でいつものように、大声で皆に挨拶をしたらカーラが声を掛けて来てくれた。
他の生徒も、チラホラとだけど大きめの声で挨拶を返してくれるようになった。
そして、カーラの他にも3人の女子生徒が。
うんうん、少しずつだけどクラスに馴染めてるようで良かった。
クリントは少し、不満そうだけど。
私が気安く他の生徒に接するのが、気に入らないらしい。
嫉妬かな?
いや、身分至上主義派閥の子にも積極的に、声を掛けていることにモヤっとしているらしい。
なんせ、彼らの反応は割と塩対応だからね。
目礼で済まされる程度。
一度クリントがブチ切れて、リベラル伯爵の子息の胸倉を掴んで恫喝していた。
「クリントこわーい」
って茶化したら、怒りの矛先がこっちに向いてしまった。
藪蛇だったよ。
実力はこっちが上でも、兄として詰められるとごめんなさいをするしかない。
なんともまあ丁寧な口調で下手に出ながら、あそこまで高圧的に説教が出来るものだ。
本当に器用になったし、周囲から早熟な子供と評価されるのがよく分かる。
それでクリントのクラス内の評価が上がるもんだから、今度は私がモヤっとすることになったけど。
そもそも精神年齢でいったら、私の方が遥かに上なのに。
早熟ではなく、お転婆と言われるのはどうなのだろうか?
今度二階の部屋の壁を壊して、屋敷を抜け出してみようか。
とりあえず、カーラと他の子たちとホームルームまでお喋り。
周囲はとても静かだから、なるべく小声でね。
「分かる?」
「ええ、いつもより声が弾んでますから」
「昨日は久しぶりに、外でストレスを発散できたからね。可愛いもの成分も補給できたし」
「へえ……余裕ですね」
蛇狩りのことを話すわけにもいかないので、適当に濁しながら機嫌の良い理由を言ったらそんな答えが返ってきた。
うん、周囲が静かなのは、みんな教科書を一生懸命読んでるからだね。
今日は、前期の習熟度テストの日だ。
期末テスト的なものかな?
私は全教科満点を取る自信があるから、そこまで焦ってもいない。
というか、今更悪あがきをしたところで手遅れだと思う。
一個二個何かを覚えてテストに出たら、その分点数は増えるだろうけど。
そんなもの焼け石に水だ。
当日にやるなら復習であって、詰め込みではないと思うよ。
「まあ、基礎しか習ってないしね。家庭教師に習ったことを再確認しただけの、3ヶ月だったよ」
そういうことだ。
それに加えて、前世の知識もある。
四則計算で躓くことはまずないし、語学系は異世界翻訳さんの仕事の範囲内。
魔法世界の理科も、特にこれといって問題はない。
ファンタジー要素が楽しくて、するすると身に付いた気がする。
世界史は……うん、異世界語翻訳さんと独自の勉強法で隙は無いと思いたい。
適当に80年前の国境の戦争で敵軍の大将が病気になった隙をついた戦いって思い浮かべると、エリウッド岬の奇襲という風に言葉が思い浮かぶのだ。
まさに逆引き辞典だね。
同様にオスワルドの救出劇って言葉を見ると、152年前の国境侵犯戦争でオスワルド伯爵が孤立した際にといった形で内容が思い浮かぶ。
言葉に対する鑑定っぽいけど、翻訳の範疇らしい。
ザルすぎるよ、このスキル。
まあ、便利だけどね。
というわけで、本当に余裕だったりする。
「おはよう」
「おはようございます、ブライト先生」
そんな感じでカーラ達と話をしていたら、担任のブライト先生が教室に入ってきた。
朝のホームルームの時間だね。
「さて、諸君たちがこれまでどれだけ真面目に授業を受けてきたか、今日のテストでぜひ証明をしてもらいたい」
そして話題はテストのことに。
そこでチラリと私を見るのは、ちょっと失礼だと思うよ先生?
確かに授業態度はあまりよくないかもしれないけど。
ついつい別のことを考えて、上の空になっちゃうことが多いし。
ファンタジーな授業って、妄想も捗るもんね。
「授業もちゃんと聞いていないんだから、ホームルームの俺の話くらいは真面目に聞け」
あっ、別のことに思いを馳せていたら、先生に怒られてしまった。
こういうところだろう。
でもまあ、テストの結果を見てから怒ってもらおう。
怒れるものならね。
「なぜ、レオハート嬢はいつもそう挑戦的な不敵な笑みを浮かべて、俺を見るんだ」
先生が何やらぼやいているけど。
「ふふ、先生が皮肉の利いた挑戦状を送り付けてくるので、受けて立っているだけですのよ」
「挑戦状ではなく、自ら自身の問題点に気付いてもらうための指導の一環なんだけどな」
「私に、問題など何もございませんので」
あっ、盛大に溜息を吐かれてしまった。
そして、テストの注意事項が説明されて、10分の休憩の後にテストが開始されるらしい。
ふふ、腕が鳴る。
***
「今日の日替わりは蛇肉か」
「何やら、大量の蛇肉が王都と周辺領地に納品されたみたいで、価格が暴落しているみたいですよ」
「へぇ……蛇祭りでもあったのかな?」
食堂で日替わり定食を頼んだら、蛇肉のシチューが出てきた。
それと蛇肉のベーコンサラダっぽいのも。
あと焼き蛇肉。
食感といい味といい、鶏肉っぽいけどさ。
肉推しが過ぎる内容だね。
誰だ、大量の蛇を市場に流した奴は!
「こんな時でも、お二方とも美味しそうに食事をされるのですね」
一緒のテーブルのカーラは少し暗い。
テストの手応えがいまいちだったのだろう。
テレサとフローラはあまり気にした様子は無さそうだ。
まあ、将来は騎士希望ということもあるのだろう。
勉強はさほど出来なくても良いと思ってるのかもしれない。
駄目だと思うけど。
「騎士であれば護衛対象との会話で、知識を求められることもあると思いますよ」
と2人にアドバイスしたら、青い顔をしていた。
本当に腕っぷしだけで、どうにかしようと考えていたのか。
「簡単な計算や、地理や歴史が分からないと任務に支障をきたすこともあるでしょうし」
さらに、落ち込んでしまった。
今更、カーラに教科書を見せてもらっても、手遅れだと思う。
午後からの2教科で、習熟度テストは終わるしね。
食事中に本を読むのはマナーとしてどうなのかなと思うけども、目を瞑ろう。
気持ちは分からなくもない。
「レイチェルは、問題なさそうね」
「はぁ……姉と姉が用意した家庭教師の方のお陰で、大体のことは覚えてますし」
「そうよね。私も、お兄様や家庭教師の方の授業で学んだことばかりで、授業が退屈でどうしようかと思ったよ」
「エルザ様は、割と楽しそうでしたよね?」
うーん……カーラは集中力が散漫なのかもしれない。
教科書とにらめっこしながら、こっちの会話に口を挟んでくるなんて。
マルチタスクって感じの子には、どう見ても見えないもんね。
それだと、苦労しそうだ。
とりあえずレイチェルと話をしながら、周囲の様子を伺う。
あまり話し声が聞こえないし、話しているのはテストに対して余裕な者とテストを気にしない者だけだろうし。
この日ばかりは、身分至上主義派閥の子たちも大人しいね。
まあ、食堂で毎度毎度騒ぎを起こされても、本当に迷惑だ。
他には先のテストの答えについて、話し合ってるグループもいる。
「えっ? あれって、13じゃなかったの?」
「あれぇ? 俺も13だと思ってた」
「えっ? じゃあ、俺が違う?」
「でも、グスタフも1291って言ってたぞ」
3年生の先輩方のグループだけど、答え合わせの結果が13と1291って数字が違いすぎるんだけど。
なに、その問題。
気になりすぎる。
見知らぬ先輩方に、いきなり声を掛けるわけにもいかないもんね。
二年後の楽しみに取っておこう。
二年後も、この内容を覚えていたら。
まあ、あくまで習熟度テストであって、点数を競うようなものではないし。
一定水準を満たしていたら、オッケーって内容のテストだ。
ちなみにこの一定水準を満たしていないと……休み返上で補習が行われるわけだ。
一週間単位で習熟度テストを受けなおして、基準を満たしたら順次休暇に入れる。
ソフィは大丈夫だったかな。
少し心配になってきた。
彼女とは長期休暇で、是非遊びたいと思っているし。
「おかわりもらっても良いですか?}
「よく食べるねー」
「今日の蛇肉は、美味しいですから」
周囲の様子を伺っていたら、レイチェルが食堂の給仕の方におかわりをお願いしていた。
どうやら蛇肉が気に入ったみたいだ。
ちょっと嬉しい。
間違いなく、私が納品したものだろうし。
このポイズンボアフィーバーの王都で、他の蛇肉を出すことは無いはず。
それから、それぞれがエールを送り合って午後のテストへと向かった。
私とレイチェルは、わりとヘラヘラした感じだったけど。
死角なしと思ってるし、油断してても満点取れるくらいの自信はある。
そうやって嘗めてても、足元を掬われないくらいにはイージーモードだった。
***
「解せぬ」
一週間後、テストの結果を伝えるときにブライト先生が、渋い顔でそう呟きながら答案を返してくれた。
当然の如く、全科目満点だった。
ズルかもしれないけど、テストにスキルを使ってはいけないってルールは……あったね。
カンニング防止のために、一部のスキルは使用できないように見張られてるんだった。
けど異世界翻訳さんはスキルっていうより、才能だからね。
仕方ないよね。
そもそもまったくの別物だから、監視に引っかかることもないし。
そして、テストの上位5名は発表されるらしい。
私とレイチェルが全教科満点で同率1位だった。
うーむ……レイチェルさん、やりおる。
3位はフィフスとかっていう、良く知らない男の子だった。
5位じゃないんかいと、突っ込みたくなったけど顔も知らないから仕方ない。
ちなみに5位はテレサだった。
本人に話を聞いたら、授業で聞いたことしかテストに出なかったから簡単だよね? って言ってたけど。
それを横で聞いていたカーラが、悔しそうにハンカチを噛んでいた。
話をするに、テレサは一度聞いたことはしばらく忘れないらしい。
意識したら、ずっと覚えていることも出来るとか。
うん……ガチの天才だった。
なんで、騎士の道を目指したんだろう……
「剣技も一度見たら覚えて再現できるから、簡単だなって」
……思わぬ強敵だ。
この子鍛えたら、最強のライバルが生まれそうな予感がしてきた。
自分の強敵を育てるのも、面白そう。
「わ……私だけ、補習ですの?」
カーラが私たちを見て、切なそうな表情を浮かべている。
そして、その肩に手を置く少女が一人。
「一緒に、頑張りましょう」
フローラ……名前は勉強できそうなのに。
ちなみに、カーラは算数と理科が基準を満たしていなかったらしい。
そしてフローラは、理科だけらしい。
カーラ……頑張って。




