閑話:2-4 ケルガーの受難後編
さてさて、本当にピクニック気分でポイズンボアの討伐は終わった。
終わってしまった。
エリーズさん一人の力で。
中から20mオーバーのポイズンボアが引きずり出される光景を見ながら、思わずため息を吐く。
さしずめ、ジャイアントキングポイズンボアかな?
「ふむ……てっきりエキドナでも居るかと思ったが、ただのクイーンか」
20代から30代くらいの割と歳のいった新人冒険者が、息の合った様子で引きずり出したけど。
エキドナっていったら、神話級の魔物ですよねぇ……
上半身が人の女性に似ているから、ラミアのユニーク種とされてるみたいだけど。
しかし、クイーンポイズンボアかぁ。
「もはやコロニーだな。数百どころか、数千の蛇とか気持ち悪くて笑える」
全然笑えないですよ?
最初に、エリーズさんは巣穴の入り口から白い霧のようなものを魔法で放っていた。
体感で2分くらいかな?
そして、終わったぞと言って、冒険者達を中に入らせようとしたけど。
当然、若い連中は誰も入りたがらない。
そして、年取ってる連中はさっさか入っていった。
すでに、エリーズさんを妄信しているかのような動きに、戦慄を覚えた。
「殺してはいないが、2~3日は目覚めないからな。ギルドに持ち帰ってゆっくりと処理すれば、柔らかい肉が食べられるぞ」
なんて言ってるけど。
消費しきれる量じゃないんだけど。
一応、絶滅させないためにも20匹程度は、残しているらしい。
その優しさ、いるのかな?
確かに、多くの人手がいるのは理解できた。
帰り道、何をしたのか聞いてみた。
「笑気ガスのようなものと冷凍ガスのようなものの混合魔法だね。まあ、気分が高揚してリラックスできる魔法を使いつつ、冷気を流し込んで冬眠状態にもっていっただけだ。その後、半冷凍にして仮死状態にしたからしばらくは目覚めんはずだ」
説明ありがとうございます。
前半が全く理解できませんでした。
「分からないなら分からないでいい。素直なのは良い事だ」
首を傾げていたら、褒められた。
しかしそうか……簡単にこれだけの蛇を無力化できるんだ。
僕なんか、簡単に殺せそうだ。
第一印象最悪だったかもしれないけど、ポイズンボア相手に捨て駒にされなかったところを見るにそこまででもないのかな?
「軽薄な男は嫌いだぞ?」
「はい……申し訳ありません」
調子に乗ってはいけない。
あとエリーズさんが睨むと、メガネのインテリ職員から殺気が漏れるのですが?
グランドさんからも。
そして歳いってる新人たちからも。
流石に、格下に嘗められるわけにはいかない。
新人たちに関しては、睨んで牽制を。
これでも、A級冒険者よりのB級だ。
お前ら如きが、嘗めて掛かって良い相手じゃないぞ?
「ああ?」
「おい、俺のこと睨んでるのか?」
「やんのか、コラ?」
活きが良い新人どもだ。
これは、可愛がり甲斐がありそうだな。
身の程と、立場ってもんを分からせてやろう。
1対1で……
「騒がしいな。ほら、子供たちが怯えているぞ」
「申し訳ございません」
エリーズ様が小さな声で注意すると、全員がピシッと姿勢を正して敬礼していた。
……うん、本職だよね君たち?
というか、エッ……A級冒険者クラスの兵隊あがりとかじゃないですよね?
隊長クラスとかの……
でも、強面の方たちが多いし。
深く考えないようにしよう。
そして、新人には優しくしよう。
***
「なんだ、生きて帰ったのか」
戻って報告のために、応接室にいくとギルマスが僕の顔を見てがっかりしていた。
「てっきり、どこかで始末して帰ってくるかと思いましたよ」
「ふむ、私をなんだと思ってるんだ? まあ、良い。これでもなかなか便利なスキルを持ってるみたいだしね。性根さえ直せば、使い道はいくらでもあるさ」
まるで、性根が良くないみたいに言いますね。
出会って、そんなに時間も経ってない相手に。
「これでも人を見る目は確かでね。お前のそのスキル……街中でも便利に使ってそうだね」
「えっと……」
すっごく怖いです。
威圧というか、もはや物理的な圧力を感じるほどの圧が掛かってます。
「女性の尊厳を踏みにじるような使い方をしてるなら、正直に言えば両眼だけで勘弁してあげるよ」
「……」
それで勘弁されたとは、とても思えないのですが。
いや、確かにその女性の水浴びを覗こうとしたことは、あったような無かったような。
でも、王都では一度もそんなことには使ってない。
これは、堂々と言える。
「お……王都ではまだ」
「王都では? まだ?」
オオウ……つい、恐怖で口が滑ってしまった。
でも、王都ではまだやってないです。
だから、柄に手を掛けるのはやめてください。
「とりあえず、認識阻害の呪いをスキルに付与しておいた。スキルで女性を見たら、全部大根に見えるようになってるはずだ」
「なに、その高性能に無駄な呪い」
「安心しろ、害意や危険性によって色は変わる。白なら無関心に近い、そして黒に近いほどお前に敵意を持っているということだ。試しに私を見てみるといい」
あっ、エリーズ様が大根になった。
どちらかという茶色い。
白ではない。
微妙に嫌われているのか……
「軽薄な男は嫌いだと言ったばかりだろう……物覚えはよくないみたいだね」
あっ、そういえばそうだった。
しかし、この呪い。
地味に嫌だ。
「これ、効果はどのくらいの期間あるのでしょうか?」
「ん? そんなに魔力は込めてないから200年くらいだ」
一生ですね。
200年続く呪いとか、結構な魔力を消費すると思うのですが。
そんなにで言い表せるものではないと思いますよ。
「ああ、そういう意味ではない。私にとってはという意味だ。私の保有魔力量からすれば、2秒で自然回復する程度だよ」
S級って本当にヤバイんですね。
それから、しばらく市場にはポイズンボアの肉が出回っていた。
あと、毒液もかなり。
エリーズさんもだいぶ買っていってたなぁ。
肉は、王都内の教会や孤児院に持っていくらしい。
お裾分けだとも言ってた。
知り合いの子にもあげると。
それから、毒液の方は色々と知り合いに研究させるらしい。
血液を凝固させない効果があるとかって言ってたけど、それがなんだというのだろうか。
コウギョウコザイがなんたらかんたらと呟いてたけど、よく分からない。
ちなみに1~2mサイズのポイズンボアは全部で2212匹。
3~5mクラスのラージポイズンボアが211匹
6~10mクラスのジャイアントポイズンボアは12匹だった。
クイーンは綺麗に解体されて、皮はギルドの壁に飾られている。
子蛇や卵は数えきれないほど……
冷凍されたまま近隣の町のギルドの解体場にも送られていた。
しばらくは、蛇肉に困ることはないだろう。
そして、僕はギルドでがっつりと絞められた。
ギルマスじゃない。
怖い人たちに。
あまり、見かけない冒険者や、ついてきていた歳がいってる新人。
さらには、若い新人の中の数人からも。
新人ってなんなんだろうね……
すっごく低姿勢で指導をお願いした若い子がいたから、快く応じたんだけどね。
手を合わせた瞬間にギルドの鍛錬場で剣を落とされた。
顎をしゃくって、早く拾えと言われた。
いや、さっきまでの丁寧な態度は?
と思う間もなく、また剣を弾き飛ばされた。
そしてまた、すぐ拾えと指示が来る。
10分で、20回も落とされた。
どっちが、指導を受けているのか分からない。
分からないが、僕に指導を頼んで来た新人はこの子だけじゃない。
6人……全員、まとめて面倒見るって言ったのは失敗だった。
だって、残りの5人がにやにやとこっち見て、待ち構えてるんだもん。
いやいや……よく見たら、そのうち3人は最初にエリーズさんに出会った日に、僕をつけて来ていた気配を消せる3人だった。
そりゃ気配を自在に扱えるなら、弱そうな振りも簡単だよね。
つながった。
このギルドにいる、微妙な違和感を放つ冒険者達の正体が。
うん、レオハート家の子飼いの冒険者たちなのだろう。
それか、レオハート領の兵士や騎士か。
エリーズさんの護衛として、レオハート大公が送り込んだのだろう。
「勘違いしないように。私たちは、エリーズ様による被害者を出さないために、ここにいるのです。相手をしているのがエリーズ様じゃなくて、私であることに感謝しなさい。あの方は手加減が苦手なくせに、容赦もありませんので」
「そうですか……」
「容赦がないといっても悪い意味ではないですよ? エリーズ様基準で考えられるので、あの方はそんなに酷いことをしているつもりはないので。ただ、結果として受けた側が容赦のない状態になるだけです」
いや、良い意味での容赦がないってのは理解に苦しむけど、続く説明で理解できました。
彼女は普通に軽い気持ちで、こちらに命がけの鍛錬を求めてくると。
「そしてエリーズ様は気に入られた方と、気に入らない方をよく鍛錬で手合わせに誘いますので」
「……なんて、面倒な人なんだ」
「さて……あなたはどちらでしょうね?」
えっと、僕もそのエリーズ様の鍛錬を受けることができるのかな?
光栄ですね。
「受けることになったから、私たちが代わりを行っているのです」
やっぱり、エリーズさんの関係者で確定だった。




