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閑話2-3:ケルガーの受難 前編

 さて……好みど真ん中の女性冒険者に振られて、傷心のふりをしてギルドを出たはいいが。

 やはり後ろを付けられている。

 相当な手練れだ。

 2人……いや、5人か。

 敢えて尾行が下手な2人をつけて、その後ろに本命の3人。

 いや、下手な2人ですら、僕の手には負えそうにない。

 後ろの3人に至っては、気配をまったく感じる事すらできない。

 僕の持つスキルでどうにか補足できたけども、普通の冒険者ならまず気付けないだろう。


 ギルド内で、視たこともない綺麗な女性冒険者に一目ぼれして、思わず声を掛けたはいいけど。

 周囲から、無視できない殺気が膨れ上がるのを感じた。

 なぜか、受付の方からも……

 まずいと思わないことも無かったけど、そんなこと無視するくらいに綺麗な女性だった。

 これを逃したら、二度と関わることが無いと感じた。

 だから、迷わず声を掛けた。

 彼女を逃したら、これから先に出会う女性全てを彼女と比較して落胆することになるだろうと。


 ……自分の直感を信じたのは間違いだった。

 危機感の方を信じるべきだった。


 とりあえず襲われたらたまったものじゃないと、敢えて町で騒ぎを起こして衛兵に連れて行ってもらえた。

 

「申し訳ありませんでした」


 すぐにギルドから迎えが来た。

 しかもギルマスが、保釈金を肩代わりしてまでの緊急招集。

 目の前には、さきほど声を掛けた女性冒険者が。

 少しだけ気持ちが浮ついた。

 ギルマスに促されて、さきの不躾な行動を謝罪する。

 これで、リセットされてまた一から出会いをやり直せるなら、頭を下げるくらい安いものだ。


「レオハートの冒険者ギルドから期間限定で移籍した、S級冒険者のエリーズ殿だ」


 一瞬で打ち砕かれたけど。

 まさかの、超格上冒険者。

 しかもレオハート領のエリーズといえばレオハート大公の肝いりの冒険者……

 彼女のパーティである獅子の心から不興を買うと、レオハート家から報復があるとかないとか。


「お前は去年来たばかりだから知らんかもしれんが、3年前にはギルドで模擬戦もしたことがある。S級に相応しい素晴らしいものだったぞ」

「本当に申し訳ありませんでした」


 僕の心の内を読んだのか、あまり反省の色が見られないと判断されたのか。

 すぐにギルマスが追い打ちをかけてきた。

 どうりで、ギルドの面々が絶対に振られると分かり切ったような表情をしてたわけだ。

 いや、こっちもダメ元だったけどさ。

 顔を覚えてもらおうと必死であんなことをしただけで。

 じっくりと仲を深めていけたらなと。

 でも……無理かぁ……


 さて、そんなエリーズ様がなぜ僕を呼んだかというと。

 ポイズンボアの巣穴の件だった。


 その巣穴を見つけたのは偶然だったんだけどね。

 場所?

 勿論、分かりますよ。

 近くまでいけば、スキルで簡単に見つけられますし。

 目印はきちんとつけてますよ。


 えっ? 案内役?

 もしかして、まだワンチャンあるこれ?

 このまま、巣穴に案内する道中で色々と話をして……

 あっ、ギルマスに睨まれた。


 でも、相当にでかい巣穴だったし。

 中にいるポイズンボアも見当がつかないくらいに、うじゃうじゃいて気持ち悪かった。

 たまたま野営場所を探して、スキルで周辺の地理を見ていただけなのに。

 うん、遠視のスキル。

 しかも空から見下ろす、俯瞰の視点タイプ。

 そのうえ目印をつけたら、そこまでのルートが実際の視点で見られる感じの便利スキル。

 遠視のスキルの中でも超レアスキル。


***

「へえ、航空写真とストリートビューみたいな感じか」

「ストリートビューって何ですか?」

「いや、みんなでゴルフの落下点確認のカメラワークの方が近いか?」

「ちょっと何言ってるか、分からないです」


 僕のスキルの説明をしたところ、エリーズさんは何やら考え込んで楽しそうに笑っていた。

 そして興味を失ったのか、荷運びでついてきた新人の子たちの方に行ってしまった。

 いや、案内役からもっと情報収集をした方がいいと思いますよー!


 心の叫びも虚しく、後ろの方が盛り上がっている。

 ぐぬぬ……

 僕の横には眼鏡をかけたインテリ職員と、補助でついてきた奇特なベテラン冒険者が。

 うん……この冒険者、グランドさん。

 どう考えても、僕の見張り役だよね?

 本人は暇だから見学させてくれってついて来たけど。

 勝手に付いていくだけだから、金は要らないって言ってたけど。

 たぶんギルドから、別口で報酬出てますよね?


 目で伺うと、良い笑顔が返ってきた。

 威圧のスキルとセットで……


***

 やばい。

 エリーズさんやばい。

 新人たちからの人気がイールライジングだ。

 

 というのも、道中でいきなり出てきた暴れジャイアントボアを、一撃で仕留めて手料理を振舞っているから……かな?


 ああ、これから討伐に向かうポイズンボアは蛇だけど、ジャイアントボアは猪だ。

 そしてこのジャイアントボア……通常のより、遥かにでかかった。

 体高が2mを越えている。

 だから、遠くからでも良く見えた。

 回避するかと思ったら、普通に真っすぐ進めとか。

 いや、新人がたくさんいるのに。


「ふっ、私がいて怪我人が出るとでも? S級も見くびられたものだな」

「いやいや、敢えて危険な道を進まなくても、避けて通れるならそれに越したことはないでしょう」


 静かに下がって距離を取ったあとで、迂回するように進言したら不敵な笑みが返ってきて本当に焦った。

 せっかく風下にいて、向こうがこっちに気付いていないという好条件なのに。


「ふむ……危険? どこに危険があるというのか? わざわざ路傍の小石を避けて通るなど、慎重を通り越してただの臆病者だぞ?」

「臆病者で良いです。あれは、ちょっと子供達を守りながらだと厳しいです」

「でかい子供も混じっているがな」


 確かにそこそこ歳を経てから、何故か冒険者になる人もいるしね。

 10代前半の子たちに混じって、30前後の新人も混じってる。

 身に纏っているオーラが、すでに僕より遥かに強そうだけど。

 あれかな?

 騎士を引退したとか、兵士の休日の小遣い稼ぎのためとかのプロの初心者かな?


「うわぁ!」

「すげぇ!」


 そして、一瞬だった。

 木を思いっきり打ち鳴らして、巨大猪の注意を惹き付ける。

 この時点で、アホかと。

 せめて、遠くから投擲武器で数の暴力で押し切るかと思ったのに。

 それか近接に拘るなら、静かに近づいて不意打ちで攻撃するとか。


 音にイラついたジャイアントボアが突っ込んできた。

 凄い速さ。

 木々を障害とも思わぬ、力強い走り。

 一直線にエリーズさんに向かってきて……何故か、彼女の横を通り過ぎ横倒しになってしまった。

 

「さて、木から吊るして血抜きをしよう」


 エリーズさんが手を叩くと、年取った新人たちがテキパキと動いて猪をあっというまに木から逆さづりにした。


 そして若い新人たちが、歓声をあげていたというわけだ。


「S級ってのは、本当に別格ですねぇ」

「いや、え? あっ、はい」


 横で眼鏡のインテリ職員に声を掛けられて、慌てて答えた。

 少し声が上ずってしまったけど、別格というか……本当に人なのかな?

 僕があんなに強くなれるとは思えないけど。


「これは血抜きに半日は掛かりそうだね……仕方ない、魔法でなんとかしよう」


 うん、言ってる意味が分からない。

 分からないけど、そういう魔法なのかな?

 猪の首や身体から赤黒い液体が溢れ出て、空中で球体になってた。

 それをおもむろに地面に埋めてたけど。

 その深い穴も魔法でですか……


 うん、完全に下手したら僕も殺されて、こうやって地面深くに掘られた穴に捨てられそうだ。

 そしたら、絶対に見つからない自信がある。


 その後、吊るし切りとかっていう意味の分からないことを言いながら、肉を切り分けていた。


「これが枝肉だな。ギルドの解体場や肉屋でお馴染みの光景だ」

「わぁ!」

「凄い」

「なるほど。勉強になります」


 うん、素直だなー……新人の若者たちは。

 ちょっと、子供っぽい気がするのも混じってるけど。

 そしてそのまま焼肉に。

 転移魔法で野菜を取りに行ったりとかしてませんでした?

 一瞬、消えましたよね?


「気にするな」


 猪は確かに剣で倒してた。

 見た。


 見えなかったけど、見た。

 剣を振りぬいた姿勢のエリーズさんを。

 だから、すれ違いざまに首を斬ったのだろうと。

 実際は首を斬ったうえで、心臓も一刺ししてたみたいだけど。

 全然見えてない。

 だから、剣士だと思ったのに。


 魔法も規格外……

 えっ? S級って、ここまで鍛えないとだめなの?

 

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