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第12話:ウール商会商会長

「まさか、王都でお嬢様とお会いできるとは」

「はは、知ってて来たくせに。それよりも、今日は何を見せてくれるのかしら?」

「いえ、この度は拝謁の機会を賜りまして、誠に感謝いたします。であれば、道すがら手に入れた面白い物をお持ちいたしましたので、是非ご覧頂ければ教悦至極にございます」

「周りくどい挨拶は良いから、お掛けなさい」


 王都レオハート邸の一室で、一人の男性と対面する。

 礼儀正しく挨拶をしてくれた彼に、席を勧める。

 すぐにハルナがお茶を出してくれたので、それを一口飲んでから彼に勧める。


 質の良い服に身を包んで小奇麗にしている目の前の男性は、チャド・ウール。

 ウール商会の商会長だ。

 撫でつけた緑の髪の毛を手で押さえながら、ハルナに一礼してからお茶を口に運んでいた。

 うん……自前じゃないからね。

 その緑色の派手な髪の毛。

 別に剥げてるわけでもないけど、彼は被り物が大好きなのだ。

 そのため、髪の毛は綺麗に剃髪されている。

 仏教徒でもないのに。


「まずはこちらを」

「あら、何かしら」


 チャドが差し出してきた箱を開けると、小さな赤い光が揺れる宝石だった。

 これは……


「ついに入手できたのね?」

「ええ、火属性ではなく火の魔法そのものを閉じ込めた人工魔石です」


 目の前にあるのは、魔法を閉じ込めた魔石。

 製法は一部のドワーフのみに受け継がれているらしく、とても高価な品だ。

 過去、多くの研究者たちが製法の解明に努めたが、どうやってもその秘法を明かすことは出来なかった逸品。

 作り手が少なくとても希少なため、ほぼ市場に出回ることもない。


「どうやって……とは、聞かないでおくわ。とりあえず、言い値で買いましょう」

「では、金貨13枚で」


 金貨13枚。

 日本の物価の感覚でいくと、130万円か。

 目の前の物と比べると、随分と安い。


「20枚出すわ。随分と奮発したみたいだけど、私に何か頼みたいことでも?」

「仕入れが金貨12枚なので、利益はあるのですけれどね。頼みたいことというよりも、ここでもレオハート領と同じようにお付き合いさせていただければと、ご挨拶がてらにお持ちした次第です」

「手土産ってわけね。まあいいわ。それよりも、こちらが頼みたいことがあるのだけれども」

「なるほど、それで金貨20枚というわけですか」


 このチャドという男、本人もだが従業員にも行商を定期的に行わせている。

 従業員に関しては一定数の商品と現金を渡して、それを増やして帰るようにという修行の旅を兼ねさせているとか、

 勿論、厳しい査定と経験を積まないと、その大役を任されることはない。

 荷馬車ごと持ち逃げされたら、たまったもんじゃないもんね。


 本人は、趣味と実益を兼ねた息抜きのようだけど。


「ええ、情報を流して欲しいの」

「ほう?」

「ギリー伯爵領の村や集落によって、レオハート領が移民の受け入れキャンペーンをしていると」

「キャンペーンですか?」

「ええ、お得なサービスを提供する機会のようなものね」


 私の言葉に、チャドが首を傾げている。

 髪の毛がずれるよ。

 いや、もうずれてる。

 心情を表してるみたいで、面白い。


「その、内容というのは?」

「まず、うちの当たり前の情報からね。うちは、税金は収入によって変わるけれども、小規模農家に関しては三公七民で一律。そして開拓民は初年度の納税義務はなしで、その後開拓地となる集落が村として認められるまで二公八民というのはチャドも知ってますよね?」

「ええ、うちの商会でも商人が肌に合わなかったものが、お世話になってますからね」


 そう、うちの領地の税金は他所に比べると、かなり安い。

 理由としては特産品が豊富なのと、領民が多いこと、さらには大規模農家や大手商会の関係者等の高額納税者の存在がある。

 他に、私自身がおじいさまと一緒にお金を稼いでいるのも大きい。

 冒険稼業以外で。


 自主納税という名の、公的資金への寄付もある。

 返礼品目当てかもしれないけれども、馬鹿にできない収入源だったりする。

 そういうわけで、無いところからは無理に絞りとることはしていないのだ。


「まず農家として移住してきた場合、最初に与える整地され土地は150㎡で考えてるわ。それ以上はその周りを開拓してもらうしかないけど。あと住宅に関しては、最初は集合住宅のようなものを提供するようにしてるの。一つの建物に大体10家族程度は住めるけど、壁でしっかりと区切ってあるし家族向けのものはそれぞれに大部屋1つに小部屋が2つもついてるわ」


 この国の単位だとヘベーとなるらしいけど、そこは翻訳さんが仕事をしてくれているから大丈夫だ。

 言語に関しては、本当にザルだなと思うことが多々あるけど言っても仕方ない。

 都合がいいスキルなんだろう。 

 知らないもので、翻訳されて意味が理解できるようになるのとかチート過ぎるけど。

 集合住宅は、アパートのようなものだ。

 今回用意したのは、平屋だけれども狭いということはないだろうし。


「なかなか、広い場所をもらえるのですね。それに住むところまで」

「勿論! キャンペーンですから」


 私の言葉に、チャドが笑顔で頷いている。

 チャドは基本、私に好意的なのだ。

 上得意様だからだろう。


「さらに2年間は税率を一公九民で、2年目の終わりにまとめて徴税することになります」

「ということは、実質初年度無料で、2年目に収穫の2割の税を納めるということですね」


 ふふ、これはかなりお得だと思う。

 これだけの条件が揃えば、移住がしやすいだろう。


「あとは開拓民は3年間の税金免除、1年間の物資援助。状況次第ではもう1年援助を延長することもあるわ。他には、商人や他の職業の方も各種控除を用意してるの」

「それはギリー伯爵領の領民だけですか?」

「どこの領民が来てもそうだけど、宣伝を流して欲しいのはギリー伯爵領だけね。おじいさまから、キャンペーンの受け入れの人数制限はつけられたから」


 露骨な領民の引き抜きだけれども、ギリー伯爵的には全然問題ないだろう。

 彼の娘の発言を聞く限りだと。


「大体、何名くらいをお考えですか?」

「ん? ギリー伯爵領からの領民は無制限ですけど、他の領地だとそれぞれ10家族限定ですね」

「特定領地に対する露骨な領民の引き抜きは、侵略行為とみられて反感を買うと思うのですが」


 別に、反感を買ってもなんとも思わない。

 平民に優しくしない方が悪い。

 もし娘だけがねじ曲がった根性をしていて、ギリー伯爵が人格者ならば移住してくるものもさほどいないだろうし。


「平民をかなり軽く見てるから、いいのじゃないかしら? 一緒にいるのも嫌らしいので、むしろ我が家に感謝してくれると思うわよ」

「はぁ……学園でジニー嬢と揉められましたか? ギリー伯爵家は典型的な身分至上主義派閥の一員ですからね。エルザお嬢様とは合わないでしょう」

「よく分かったわね」

「よほど、面白くない思いをされたのでしょう」


 凄いなー。

 流石は商人さん、情報通だと感心する。


「良いですよ。あの家は、平民の商人にとってもやりにくい家ですし、意趣返しをしたいと思っていたところです」

「本当にどうしてああいう考えになるのか、理解に苦しむよね? 平民の居ない生活なんて、送られるわけがないのに」

「ははは……平民が居なくても、一人で生きていけそうな貴族筆頭の家がレオハート家なのですけれどね」

「不便このうえないでしょう」

「不便……家、魔法で作れますよね? 食料も……魔法や武力で肉は狩れますし。お嬢様も奥方様も料理は上手ですし、土系統の魔法と時空魔法で農作物も育てられそうですよね? 水の確保や火おこしにも困りそうにないですし」

「そうかもしれないけど、娯楽も楽しめそうにない生活になるわね」

「……ん?」

「ん?」

「……いえ、余計なことを申しました。では、早速手の者を使って噂を早急に広めるようにいたしましょう」


 ちょっと待って!

 チャドさん、いま一瞬魔物狩りが私たち一族の娯楽になるとか思ったよね?

 完全に私の発言に対して呆れた視線を向けて変な声まで出してたのに、何事も無かったかのように辞去しようとするな。

 ちょっと待て!

 

 チャドさんの肩を掴もうとした私の手が宙を切る。

 絶妙なタイミングで彼が椅子を引いて、スッと立ち上がったからだ。

 そしてチャドさんはそのまま後ろに二歩下がると、頭を押さえて深く頭を下げる。


「それでは、そろそろお暇させていただきます」

「いや、待って! まだ、話が……」


 あっ……逃げられた。

 もう! 許可してないのに退室するのは、貴族に対する不敬罪だと思うよ。

 でも仕方ない……チャドさんは役に立つから許してあげるけど。

 当家お抱えの諜報要員を集めてくれたのは彼だし、彼自身そういったスキルに長けているからね。


 そして、魔石の代金をまだ払ってないんだけど、良いのかな?

 仕方ないから、家の者に王都内にある彼の商会に届けさせるけど。

 わざとかな?

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