第11話:食堂騒動再び
「と、このように魔石と私たちの生活は切っても切り離せない関係で……」
学校が始まって10日。
普通の授業が毎日行われている。
普通かな?
異世界っぽい授業?
魔石と私たちの生活が切っても切り離せないと言っているが、意外とそうでもないと思う。
光魔石を灯りに使うのなんて、金持ちだけだしね。
どちらかというと、魔木を使った松明が多いかな?
それと蝋燭。
魔木の中には樹液が燃えやすいものもあるらしく、傷をつけて樹液を出してそこに火を着けると割と長く燃えるらしい。
水に浸けるとすぐに消えるけど、また樹液に火を着けたらある程度は繰り返し使えると。
逆に火が点きにくい魔木は建材として人気だ。
ちなみに私の領地では、私費で雇った研究者たちに魔石の研究を行ってもらっている。
いずれ出来たらいいなと思っている、魔石発電所の為に。
魔石同士を並べた場合は、小さい物から大きい物に魔力が移るという特性をどうにか利用できないかと魔石回路の研究とかも平行して行っているから時間は掛かりそうだ。
「レオハート嬢、聞いているのかね?」
「はい、聞いてませんでしたが何か?」
そういった研究に携わっているからか、一年生の理科は特に難しいと感じていない。
授業に身が入ることもないので、ついよそ事を考えてしまうのだ。
正直な私の反応に呆れているのは、クリントだけだ。
他の生徒たちは、笑うでもなく微妙な表情を浮かべている。
「学校では教師に敬意を払うように言われなかったかね?」
「ええ、それは覚えているのですが……授業の議題が色々と考えさせられる興味深い内容でしたので、考えに耽っておりました。お気になさらず、続けてください」
「いや、そういう意味ではないというか……君はいま、私に注意されているということを自覚しているのかね?」
私の反応に、先生が少し困った様子だ。
注意されていたのかもしれないけど、別に感じることもないし。
「そうでしたの? てっきり、私がついていけているか心配なされて、声を掛けてくださったものだと思いましたわ」
「意味合いとしてはそうなのだが……」
「ご安心ください。分からなければ、きちんと尋ねますので」
「ならば、宜しい。あまり、授業中にぼーっとしないように」
これが注意だね。
うん、ぼーっとはしていないけれど、前を向いて真面目に授業を受けている振りだけはしておこう。
***
「エルザ様は、全然板書をなさらないのですね」
またまたカーラに連れられて食堂に向かっていると、そんなことを言われた。
板書……板書かぁ。
確かに、ノート使ってない。
いま習っている基礎部分は、ほぼ完ぺきに出来るからねぇ。
考えたことも無かった。
板書かぁ……暇つぶしにはいいかもしれない。
せっかく買った筆記具も使わないと、勿体ないしね。
使うのが勿体ないともいえるけど。
「すでに知っていることを書いてもねぇ。でも暇つぶしにはいいかもしれないから、次は先生の言葉を一字一句逃さず書き留めることに挑戦してみるよ」
高レベルステータスによる聴力と記憶力、さらには瞬発力をもってすればできなくもないだろうし。
あの早口の神語学の先生とか、相手にとって不足無しだね。
「思ったのと違う答えが返ってきましたわ」
神語学とかって大層な名前だけど、ただの古代言語だしね。
教会関係者が好んで使っているから、そう言われてるだけだし。
海底に沈んで滅んだ文明国家、カイ帝国の言葉だってさ。
あっ、もしかしたらサガラさんなら、場所がわかるかも。
「エルザ様は、今日も気紛れメニューですか?」
「勿論。あれが一番、楽しいからね」
カーラは私に露骨に近寄ってくることと、レイチェルと親しくしたことで少しクラスで浮いてしまった。
というか、身分至上主義派閥の子たちから距離を置かれ始めている。
そうじゃない子たちは……元から親しくなかったから、関係性が変わったわけじゃないけど。
もはや、一蓮托生とかって思ってそう。
将来の王妃候補だから、このまま私が順当にいけば勝ち馬に乗れるけどね。
今日はレイチェルはまだ来ていないのか。
それとも、先に食べちゃったかな?
教室出るのが、いつもより遅れちゃったし。
とりあえず、座って料理が出るのを待っていると遠くで騒ぎが聞こえてくる。
うーん、もしかしてまたレイチェルが絡まれてるとかかな?
たまにそういう子いるけど、よくやるよね。
レベル差が結構あるから、レイチェルが我慢の限界でキレたらたぶん大怪我させられる気がするんだけど。
ただ、キレてもそんなこと出来ないのが、レイチェルだけどね。
「まあ、今度は平民の子よ」
なぬっ!
カーラが騒ぎの方を見て呟いたのを、私は聞き逃さなかった。
「いい加減にしてくださる? 平民風情が私たちと席を並べようだなんて不敬にもほどがありますわ」
おおう……テーブルに座って食事をしていただろうソフィアが巻き髪集団に囲まれている。
「何か、おっしゃったらどうですか?」
ああ……あの子、私のソフィーを小突いた。
「すみません」
「はあ? 聞こえないわよ。それに、悪いと思ってるなら、行動で表すべきじゃない?」
大きい声で、怒鳴った。
ギルティね。
これは、有罪だわ。
「どうすれば……」
「そうね……」
赤い巻き髪の子がソフィアの料理をお盆ごと手で払って、床に落としやがった。
「こうすれば、地べたに這いつくばって食べることになるでしょう? 私たちより頭が下に来るし、良いと思いませんか? 皆さん」
その子の言葉に、あちらこちらで頷く姿が。
というか、なんて治安の悪い場所なんだ。
貴族の子たちが通う学校だというのに。
こんないじめがまかり通るとか、意味が分からない。
「これは、何事かしら?」
とりあえず、颯爽とソフィアを助け出さないと。
人ごみをかき分けるように騒ぎの場所に向かうと、赤い巻き髪の子を睨みつけながら問いかける。
「貴女には、関係ないでしょう」
「ジニー、もしかしたら先輩かもしれないよ」
私に対して挑戦的な視線を向けながら、赤巻き髪が怒鳴りつけてきた。
すぐに横の茶髪の巻き髪に耳打ちされて、顔を青くしていたけど。
「そ、その制服は1年ね。大丈夫よ、マーニャ」
一瞬挙動不審になってたけど、袖と襟の刺繍の色を確認してまた強気な態度に戻っていた。
ちなみに、赤巻き髪がジニーで、茶巻き髪がマーニャね。
金巻き髪と、あと二人茶巻き髪がいるけど。
このジニーって子が、率先して動いてるのか。
「どこのどなたか存じませんが、余計な口は挟まない方が身のためよ。この平民のせいで不快な思いをしてる全ての子息令嬢が、貴女の敵に回ることになってもよろしくて?」
「よろしくてよ」
「えっ?」
即答で応えたら、ジニーが驚いた表情を浮かべていた。
いやいや、そのくらいの覚悟が無いと突っ込んでこないでしょう。
こんな厄介そうな現場。
ちなみに私の顔を見た野次馬の何人かは、慌ててこの場を離れていってたけど。
「別に良いよって言ってるんだけど? それよりも、私は貴女の方が心配ね」
「はあ? 私の何が」
「学校のシェフが一生懸命に私たちのために作ってくれた料理にこんな仕打ちをして……明日から、ここで昼食が食べられるとでも?」
「それの何が問題なのよ! 私はギリー伯爵家の娘よ! たかが学園の雇われ料理人なんかのことを、なんで配慮しないといけいの?」
へぇ……そういうこと言うんだ。
別に良いけどね。
「そこの貴方、彼女に新しい物を用意してあげて」
「はい」
私のことを知ってそうな男の子に、ソフィアの料理の追加を頼むと快く受けてくれた。
うんうん、優しくて素直な子は好きだぞ。
君は、将来きっと出世するだろう。
あっ、あれ2年生っぽい。
先輩だったかぁ。
まあ、良いか。
「ついでに、そのギーリ某の娘さんの言動は、しっかりとここの調理スタッフの責任者に伝えておいてね」
「分かりました」
料理を取りに立ち去ろうとした先輩に後ろから声を掛けると、振り返って良い笑顔で頷いてくれていた。
よしよし、行動力も二重丸と。
「ジニー、この子ちょっとヤバイくない?」
「大丈夫よ。どうせ、どこかの田舎貴族の娘が私たちのことを知らずに、調子に乗って良い子ぶってるだけだから」
「大丈夫じゃないでしょう……」
マーニャの問いかけにジニーが怒りを隠そうともせずに、こちらを睨みつけながら何やら言っていたけどすぐに否定されていた。
この集団とは別にいた、金巻き髪に。
この学園、巻き髪多いなあ……
お嬢様ばっかりだから、仕方ないか。
「シャルロット様?」
「お久しぶりですね。エルザ様」
「シャルル? まあ、本当ね。2年ぶりかしら? こんなに大きくなって」
よく見たら面影がある。
数少ない幼馴染の一人の。
そう、ニシェリア侯爵令嬢。
私の言葉に、シャルルが顎に手を当てて首を傾げる。
「私の方が一つ年上なのですけれどね。本当エルザ様ったら、昔から変わりませんのね」
「もう、前みたいにエリーって呼んでいいよ。そうそう! それよりシャルルってば、殿下と同じクラスなんでしょ? この間そのことをダリウス殿下から聞いて、ちょうど会いたいなと思ってたところだったのよね」
「幼馴染が、ますます親戚の叔母さまに似てきてるのですが。どうしたら、良いでしょう?」
シャルルが困惑しているのを見て、冷静になる。
久しぶりの再会にテンションが上がりすぎたようだ。
「で? ギリー伯爵令嬢?」
「はい」
私を手で制しながら、シャルルがジニーの方に視線を送る。
「どうやらレオハート公爵令嬢は、あなた達にご不快のようよ……私もだけれども」
「えっ?」
「消えてくださる?」
逃がしちゃうんだ。
シャルルは優しいな。
巻き髪軍団が、顔を青くしてどうしたらいいかアタフタとし始めるのをみて、売った喧嘩は最後まで始末しろと祈ってみた。
尻尾を巻いて立ち去っていったけど。
なんだろう、この不完全燃焼感。
「そんな顔しないの。貴女が暴れたら、後が大変だから」
「失礼な……いや、そうかも。どうしてやろうかと、色々なパターンを考えてたし」
「ほらね」
そんな私たちのやり取りに、周囲から人が離れていくのを感じる。
いや、近づいてくる気配も。
「はい、料理取ってきたよ」
おおう……さきほど、ソフィアの料理を頼んだ先輩だった。
ソフィアは……私とシャルルを見て、固まってるし。
いや、どちらかというとシャルルを見て、固まってるのかな?
「と、事の顛末はしっかりと報告いたしましたので、ご安心を」
そして、私には礼儀正しく、声を掛けてくれた。
「申し訳ありません。先輩を使ってしまうようなことをしてしまって」
「いえ、こんな素敵なレディに頼られることは、男としてこのうえない栄誉ですから」
おお、キラキラしてる。
ただの、一般人的な人かと思ったけど、出来るタイプの人間かもしれない。
「気を付けてね、彼……ダリウス殿下の側近候補だから」
「ああ、道理で」
なるほど。
私が揉めた時に、すぐ声を掛けやすい位置に居たけど……殿下の婚約者である私が中心にいたから、いつでも助けられる位置に移動したのかな?
ガチで出来る男だった。
いや、出来る男だから側近候補に選ばれるのか。




