第10話:食堂での交流
昼食は有意義なひと時だった。
レイチェルとカーラもぎこちないながらも、お互いに会話をしていたし。
やや、情報交換っぽいやり取りに見えてしまったけど。
それにしても、レイチェルは相当にお姉さんが苦手なようだ。
彼女の姉、ミッシェルはズールアーク家でも稀代の天才として重宝されているらしい。
様々なものを作り出して世に出しているとか。
ただ、あまり領地や王都の邸宅からは出たがらないとのこと。
内向的というわけではないらしい。
ズールアーク家が出世していった過程に関係しているとか。
世間では彼女の家は、大した実績もないくせに戦時の立ち回りとゴマすりで大きくなった成り上がりと蔑まれているんだって。
知らなかったよ。
あまり、他所の貴族のことには興味が無かったし。
家庭教師の先生も、歴史的な事実のみを教えてくれるわけだしね。
とはいえ、聞けば確かに強かだとは思った。
それ以上に、当時の当主は勝負の帰趨を見るのに長けていたのだと思う。
機を逃さずに手を打てるのは、才能があったのだろう。
普段は兵を出さずに物資だけを提供し、ここ一番でのみ参陣する。
それも有利な時だけではなく、不利な時にも起死回生の手柄を立てる。
王族を助け出し、殿を務め逃がしたこともあったらしい。
常に戦場で矢面に立たされた他の領主たちにとっては、面白くない味方だったろう。
普段は日和見してるのに、最後は美味しいとこどりの常習犯なのだから。
そういった経緯もあってか、周囲の貴族からの評判は宜しくない。
逆に王族からは、覚えめでたいらしいけど。
そのことが、さらにやっかみを受ける理由だろう。
そんな状況下だからこそ、ただでさえ目立つような実績をあげている彼女は自身を目立たせたくないらしい。
下手したら危害を加えられかねないと危惧しているとか。
そんな彼女だが、レイチェルを社交界にごり押ししているらしい。
実際に私の婚約発表披露宴にレイチェルが来たのも、ミッシェル嬢が彼女を強く推薦したらしいし。
「お姉さまは常に何かを考えているのに、何を考えているのかが分かりません。私を褒めながらも、違うことを考えているのではと不安になります。たまに、凄く怖い目で見てこられることもありますし」
そんなことを彼女が言っていたけど。
ミッシェル嬢はレイチェルを利用して、何か企んでいるということかな?
「気が付けば、物陰やベッドの脇でジッと見つめられることもあります。やたらとあちらこちらを触れて、何かを確かめるようなこともされますし……無表情なのに口の端をあげてヒクヒクとさせているのが、何を思っているのか余計に分からず……」
そう言って、レイチェルは怯えた目をしていた。
そうなのね……なんとも言えない気持ちになった。
やっぱり、大変なお姉さんをお持ちのようだ。
レイチェルが二人前の食事を美味しそうに平らげるのを見ていけど、横でカーラは目を丸くしていたなぁ。
「確かにふくよかではありますが、それだけの量がお腹におさまるものなのですね」
と言われて、レイチェルが恥ずかしそうにうつむいてしまった。
思わずカーラが口を押えていたけど。
「申し訳ありません。謗ったわけではなく、純粋に驚いただけですの」
追い打ちだ。
しかも本当に嫌味ではなく、純粋な疑問っぽい声音だったから余計に性質が悪い。
ちなみにこの日の気紛れメニューは、美味しかった。
満足だ……味には。
ただ、量が……チャレンジメニュー並みに多かった。
肉も魚も入っていたし。
この日は違った意味で、どうにか食べきった。
「エルザ様も、よく食べられましたわね」
「わーい、褒められた」
「えっ?」
知ってるよ。
よく食べました! って保母さんが完食した園児を褒めるニュアンスじゃないってことは。
呆れられてしまったのは分かってるけど、自分的には完食した自分を褒めたいくらいだったんだから。
「女性の皆さんは一口ずつ残されますが、あれはよくないマナーですね」
「満足しましたって意味もありますし。全部食べてしまうと、足りなかったと思われますよ」
「知ってますが、世界にはその一口も食べられない子もいるのですよ? 料理人の方が時間を掛けて調理されたものを残すのもどうなのでしょう? それに、食材となったものたちの魂に対する冒涜だと思いませんか?」
「確かに、おっしゃられることは分かります」
私の言葉に、カーラが皿に残していたニンジンを口に入れた。
少し辛そうな表情だ。
うん……一口残すなら、嫌いなものを残すよね。
カーラはニンジンが嫌いと。
本当に、物語に出てくるような女の子だなぁ。
彼女が涙目でモキュモキュとニンジンを食べる姿は、可愛らしいけどね。
言動の割に、素直なことに驚きが隠せない。
レイチェルを馬鹿にしてたはずなのに、こうして会話の輪に加わると忌避感を露わにすることも無さそうだし。
周囲と同調することで、自身の立場を守るタイプ……なのか?
彼女の家、グレイブホルン家は歴史ある割と格式の高いお家柄だったはず。
建国してすぐぐらいに、当時の家長が伯爵として取り立てられたほどの名家だ。
伯爵家の中でも上位にいるはず。
「それで、レイチェル様は剣も嗜んでおられるとか」
「お恥ずかしい話ですが、自身の身は自分で守れるようにと姉と父に言われまして」
どうにかニンジンを飲み込んだカーラが、レイチェルに話しかけていた。
私との接触が目的かと思ったけど、場を立てるだけの分別はあるらしい。
「魔物狩りに出られたことも?」
「ええ、姉と騎士達に守られながらですが」
意外とレイチェルのことを知っているカーラに驚きが隠せない。
「最近のズールアーク家の躍進には、そのお姉さまが要所を担っていると噂になってます。なかなか、姿をお見せになられないことも」
「姉は表に出たがることが、あまりないもので。社交の場も私に譲られますし」
「ですが、お会いになった方からはとても美しいご令嬢であったとの評判ですよ」
2人の会話があまりにスムーズなのでついなごんでしまったが、私よりもレイチェルにばかり話しかけるカーラが不自然に思えてきた。
別に嫉妬とかってわけじゃなく、純粋にこの子の行動目的が分からないという意味で。
「その、カーラ様は私なんかとご一緒していて大丈夫ですか? 周囲から、何か言われたりしませんか?」
「大丈夫です。エルザ様もいらっしゃいますし、ここでの会話の内容は聞こえることもないでしょうし」
そうなのだ。
混雑する食堂なのに、なぜか私たちの周りの席は微妙に空いている。
傍に座った子たちは、とくにこちらを気にした様子もないし。
なんだかんだで時折、私も会話に混ぜてもらいながら楽しい昼食の時間を過ごせた気がする。
どこか釈然としないものはあるけど。
***
「カーラ嬢もご一緒だったのですか?」
帰り道に、迎えに来てくれたハルナに学校での出来事を話すと驚かれた。
いや、初日にカーラが私に声を掛けてきた話もしてたはずなのに。
「まさか、お嬢様の周りに2人も揃われるとは」
「ん?」
「いえ、こちらのことです」
こちらのことって……
私の友達の話なのに、ハルナのことに繋がる意味がよく分からない。
ハルナが私にずっと何か隠していることには気づいているけど、敢えて突っ込んでいない。
何故なら、ハルナは私に嘘が吐けないからだ。
彼女の秘密であっても、私が問い詰めれば必ずボロを出す。
流石に、なんでもかんでも明け透けにするのは可哀そうだし。
私のためにならないから、黙っているんだろうし。
いつか、彼女の方から話してくれるだろう……と思ってすでに6年。
私が気付いていることに、そして気にしていることに気付いてもいいと思うんだけど。
本当に気付いてないのかな?
私って、そんな鈍いと思われてるのだろうか?
まさかの、ハルナに。
「取り巻き4人衆のうちの2人が揃うなんて、やっぱりあれはただの夢だと思ったけど違ったのかしら……当時は2人の存在すら知らなかったし」
そして、この子は独り言が多く大きく長い。
情報量がいっぱいつまった独り言をよく言う。
レオハート領で彼女と同室だった侍女からは、よくクレームが出ていたとも聞くし。
夜中もうるさいらしい。
明け方に目が覚めてもうるさいらしい。
「でも殿下との関係は良好そのものだし、ソフィアとも……もしかして、私のせい? 私がイレギュラーとなって、未来を変えている?」
すぐ真横でこの独り言。
もはや一周回って聞かせようとしてるんじゃないだろうか?
ということもあって、別に問い詰める必要はない。
気には留めてないけど、記憶には留めてるし。
たまに小一時間問い詰めたくなるような、私に対して失礼な独り言もあるけど。
面白いから、やっぱりしばらく放置しておこう。




