第8話:クラスメイト達
「みんな、おっはよー!」
元気よく教室の扉を開いて、その場にいる生徒全員に勢いよく挨拶する。
扉の外まで各々自由に雑談していた音が漏れ聞こえていたのに、私が挨拶をした瞬間に室内は水を打ったような静けさに。
横ではクリントが溜息を吐いて、首を横に振っていた。
「領地に居る時より、酷くなってるな」
「あら? いま、私たちは学生なのですよ? 講義以外の時間では多少は気安くてもいいでしょう」
友達100人出来るかな計画の一発目、元気よく挨拶してクラスメイトのハートをキャッチは失敗したようだ。
注目を浴びることは出来たようだけど。
「お……おはようございます。エ……エルザ様にお……お……おかれましては、とても気分が良さそうでなによりです」
なんだ、歯切れが悪いな。
少し気を遣った様子でカーラが挨拶を返してくれたけど、この子もめげないな。
そういうのは、嫌いじゃないよ。
「そういうカーラは、何やら調子が悪そうね? 大丈夫? 朝食はちゃんと食べてきた?」
「えっ? あっ……はい……お気遣いありがとうございます」
凄く困惑した様子だけど、どうにか笑顔を返してくれた。
性格も根性も悪そうだけど、立場が上の相手にはやっぱりめっぽう弱そうだ。
それでも、健気に頑張って語り掛けて来てくれたのだ。
まだ仲の良いクラスメイトはいないし、とりあえず彼女を朝のホームルームまでの話し相手に捕まえておこう。
まだ子供なんだし、性格なんてどうにでもできるだろう。
仲が良くなった友達は、別枠扱いというパターンもあるし。
その代表例が私だと思うけど。
「お嬢、カーラ嬢が困ってる」
「あらそうなの? カーラは、迷惑だったかな?」
「いえ、めっそうもございません!」
私が不安そうに下から覗き込んで尋ねると、慌てて首を振って否定してくれた。
ほら、迷惑じゃないってさ。
「大丈夫みたいよ?」
「お前なー……公爵家の令嬢にそんな聞き方をされて、はい! 迷惑です! なんて返せる奴がいたら、見てみたいよ」
私の言葉遣いも大概だけど、クリントも乱れまくってるよ。
指摘はしないけどね。
「わ、私はエルザ様とお近づきになれたら、とても嬉しいです」
「あら、嬉しい。ありがとうね」
カーラが可愛いことを言ってくれる。
裏は確実にあるだろうけど、別に構わない。
それを知ったうえで、どう付き合うかだ。
そして、彼女の本質を引きずり出してあげればいい。
私は性善説派なので、きっとどこかしら良い部分はあると信じてるよ。
「はぁ……分かったよ。カーラ嬢、申し訳ないがうちのお嬢様にしばらく付き合ってあげて欲しい。何かあれば、私を呼んでくれ」
クリントが女の子とのガールズトークを楽しみにしている私に気を遣って、自分の友達の方へと向かって行った。
その後姿を見送って少しすると、一応クラスメイトの何人かが挨拶だけは返してくれた。
話が途切れるタイミングを見計らっていてくれたのか。
あの子たちは、空気が読める子たちと。
それから朝礼までカーラとおしゃべりをして過ごした。
ほぼ私が一方的に質問して、彼女が答えるといった形だったけど。
色々と彼女のことが知れて満足だ。
ピンク好き。
動物好き。
ぬいぐるみ好き。
お菓子好き。
ピクニック好き。
うんうん……本当かな?
どれも外向けの余所行き用の回答のように思える。
本人がそういうのだから信じるしかないけど。
「断崖絶壁に追い詰められたハリアドフ3世は、切り札を使うことでこの危機を脱出したわけだ。そう、当時彼自身秘匿していたユニークスキルだな。それが何か分かるか? クリント、答えて見ろ」
「はい! 飛翔のスキルです。そしてご自身が得意とされていた風魔法によって、投擲武具を躱しつつ加速して、自軍へと逃げ帰ったと聞いてます」
「正解だ! さて、そのハリアドフ3世。後世では色々と考察をされていると思うが、何か付け加えることはないか?」
「はい、そうですね。私はやはり有翼人種系の説を推します。もしくはハーフの可能性も。バードマン系の獣人だった可能性が一番高いと思います」
うーん……歴史の授業だけど、なかなかに面白い。
真面目に世界史でファンタジーな感じって、退屈しなくていいよね。
ただ、この辺りはクリントと一緒に家庭教師に習ったところだけれどもね。
算数は……簡単だよね。
国語は……ビバ、言語チート。
外国語も……ビバ、言語チート。
魔法言語学や精霊言語学が始まっても、無敵だと思う。
なんなら、竜言語魔法だって使えちゃうし。
理科(魔導学)……ファンタジー要素が足枷になってるけど、概ね理解できてる。
生活……前世一人暮らし経験者なめんなオラァ! 疲れてても毎日自炊してたし……とか思ってたけど、貴族の生活関連の授業にはあまり役に立たなかった。
体育……レベルって偉大だよね?
と、こんな感じで講義に関しては幸先のいいスタートを切れてると思う。
午後からの選択科目は、1週間は見学がメインだし。
決まってる子はさっさと申請して、授業の準備を行うみたいだけれどもね。
私は、色々見て決めたい。
剣術……女の子もいるし、レイチェルもいるからかなり惹かれてる。
問題は……受けたところで学ぶことがないだけかな。
魔法の実技関連は2年生からだし。
飛び級で入れてもらえるくらいの実力は、あると思うよ。
問題は……受けたところで、新たな発見は無いと思う。
お茶の授業は厳しいらしいけど、お菓子が食べられるみたいだし。
舞踏は……うん、恋愛結婚を目指す子息令嬢が多いみたいだね。
浮ついている子が多そうだ。
リア充の集まりかな?
それとも、必死なのかな?
お家柄的に、親の用意してくれる婚約者に期待が持てないどころか、絶望するレベルだったり?
音楽は楽しそう。
ピアノは小さい頃からずっと習ってたし。
他にもいくつかあるし、めいっぱい色々と見学しようとは思う。
レイチェルにソフィアとの顔繫ぎもお願いしたいし。
放課後に、寮に押し掛けても良いけどね。
居るかどうかという問題はあるよね。
何はともあれ、その前に昼食だ。
昨日は結局のところ、クリントと食べたけど。
今日はどうしようかな?
レイチェルやソフィアを探してみようかな?
***
「エルザ様がご迷惑でなければ、昼食を私たちとご一緒しませんか?」
午前中の講義が終わったところで、カーラが友達を連れて誘いに来てくれた。
なかなかのキラキラ集団だ。
しかし、ここで私が女の子たちとご飯に行くと、クリントがぼっちになって……なん……だ……と?
クリントの方に視線を向けると、男女混合メンバーにお誘いを受けていた。
どういうこと?
なんで、クリントがあんなに人に囲まれているのだろう。
「くっ……」
目があったクリントが私が女子に囲まれているのを見て、気にせずに行ってもいいよと目配せしてくれた。
どちらかというと、私がその立場だと思うけど。
クリントを見送る側という意味で。
裏切り者め。
靴の中に小石が入って取れなくなる呪いを掛けておこう。
魔法やスキルじゃなくて、ただの願掛け的な感じだけどね。
リアルに呪いが存在する世界だから、冗談が冗談にならない可能性もあるし。
「よ……よろしくってよ」
「ありがとうございます」
落ち着け……動揺してついつい、言葉遣いがお嬢様っぽくなってしまった。
いや、お嬢様だからこっちが正しいのだけれども。
そして、女子3人に囲まれて和気あいあいと食堂へ。
学食では、3つの日替わりメニューから選べるようになっているらしい。
肉、魚、気紛れメニューの三つだ。
この気紛れメニューというのが曲者で、当たり外れが大きいうえに頼んでみないとメインが何かも分からないらしい。
「気紛れメニューで」
となれば、当然それ一択だ。
昨日の気紛れメニューは……どうにか、食べきったとだけ言っておこう。
メインはお肉だったけど。
なんの肉かは不明だ。
「あら、やだわぁ……」
「あの子がいる」
「本当……せっかくの、お食事が台無しだわ」
食堂で椅子に座って料理を待っていたら、カーラたちが入り口を見て口々に文句を言い出した。
そして、そこに立っていたのは……まさかのソフィアではなくレイチェルだった。
あれ?
レイチェルももしかして、皆からそんなによく思われてない?
見ると、一人だし。
「あの子って?」
「あの太った子ですよ」
「食い意地が汚いから、あんな体形になるんですよねぇ」
「卑しいのは、親譲りかしら」
うんうん……体型だけの問題なのかな?
しかし、ここで波風を立てたら、教室での私の立場が。
クラスで孤立してしまうかもしれない。
全然、問題ないけどね。
「そうなの? 私は好きですよ。子供らしくて、可愛いらしいじゃないですか」
「そ……そうですか?」
「でも……」
私が彼女を庇ったことで、3人が口ごもってしまった。
どうやら私が考える以上に、公爵家の子供という立場は強いのか。
どこか不満そうな顔をしつつも、私の同意が得られなかったようで気まずそうだ。
仕方がない。
ここは、私が大人になろう。
精神的には、大人だと思うし。
「どうやら私の言葉で、空気を悪くしてしまったようですね。皆さんは、このままお食事を楽しんでください。彼女もおひとりのようですし、私はあちらで頂きますわ」
「いえ、そんなことはありません! 是非、一緒に頂きましょう」
私の言葉に、慌てて反応したのはカーラだけだ。
何が彼女をここまで必死にさせるのかは分からないけど、そっと目を反らした残りの2人を見れば先の発言でどう思われたかは想像つく。
というのは建前で、せっかくレイチェルと同じ時間に食堂にいて、しかも彼女が一人ならこんなチャンスは無い。
私は美味しそうに食事をするレイチェルを見るのが、大好きなのだ。
それにソフィアのことも聞きたいし。
「いいよ、気にしなくて。また、今度誘ってね」
私はそれだけ言うと、そそくさとレイチェルに声を掛けに行った。
目があったレイチェルが一瞬驚いたあとで、慌てて顔を伏せていたけど。
そっちの空気は読まないもんね。




