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第6話:学園生活の始まり

「今日から君たちのクラスを受け持つブライトだ。担当科目は剣術だから、令嬢方とはあまり授業で接することはないだろう。ただ、相談等は気軽に来てくれて構わないからな」


 教室の壇上で、茶髪の男性が笑みを浮かべて自己紹介を始める。

 私たちの担任の先生だろう。

 なかなか人好きのする、優しそうな先生で良かったよ。


「それでは、順番に自己紹介をしていこうか」


 それ、いります?

 他の生徒たちも困惑気味だ。

 それもそうだろう。

 こんな大人数を相手に、自己紹介とか。

 あまり経験したこともないだろうし。


「静かにしなさい。じゃあ、右の一番前の席の君からだ。そのまま後ろに順番に続けてくれ」


 確定事項のようだが、先陣をきる子は可哀そうだな。

 頑張れ、クリント。


「クリントだ。レオハート伯爵の第二夫人の息子ではあるが、光栄なことに公爵家に名を連ねさせてもらっている。特技は剣術だ。よろしく頼む」


 まったく気負った様子もなく、さらっと自己紹介を終えたクリントにたまらず拍手を送る。

 ……拍手を送ったのが私だけだったので、周囲に注目されてしまった。


「お嬢……」


 クリントが少し呆れた表情をしているが、お前はこっちを見んな。


「良い自己紹介だった。思わず拍手したくなるのも分かるな。そうだな、自己紹介がきっちりと行えたら皆で拍手を送ろう」


 ブライト先生が白い歯を覗かせながら、良い笑顔でそんな提案をしてくる。

 みんな、迷惑そうだ。

 周囲からの余計なことをといった視線を浴びて、思わず睨み返してしまった。

 一部の子たちは慌てて視線を反らしていたけど、睨み返してくる子もいた。

 いいね……仲良くなれそうだ。


「エルザ・フォン・レオハートですわ。そちらのクリントの妹ですよ。特技は、武術全般と魔法です。皆さん、仲よくしてくださると嬉しいですわ」


 私の自己紹介に、まばらに拍手が起こった。

 そして、先ほど睨み返してきた子たちが、青い顔でうつむいてしまった。

 怖くナイヨー。

 仲よくしよぉ。


 全員の自己紹介が終わったあとは、校内の施設の説明を受ける。

 順番に施設を見て回るのだけれども、ソフィアはどうやら別のクラスのようだ。

 おかしいな……校内では、公私ともに私が補助をするということで、学校には話が通ってたはずなのに。

 そして、レイチェルとも違うクラスだった。


 代わりにカーラが居たけど。

 ソフィアの印象に対して、面白いことを言ってた子。

 キラキラとした視線をこっちに向けて来てたけど、私と仲良くするともれなくソフィアも付いてくるよ?


 そして1年生はそれが終わったら、とりあえず下校の流れ。

 寮生は敷地内の寮に戻って、学園が始まってからの寮に関する説明が行われるらしい。

 昨日までは、特に厳しい規則もなく宿のような感じだったらしい。

 だけれども、学校が始まって学生になったからには、色々と寮に関する校則が適用されるとのことだった。


 門限とか厳しそうだし、いっそのことソフィアはうちから通わせるべきだったかもしれない。

 一緒に夜のお出かけも出来そうにない。

 出来るかな?

 おじいさまの権限で。


「エルザ様は、これからどうされるのですか?」

「ん? 普通に帰るよ。学園に残っても、やることもないし」


 学食を楽しみにしていたけど、明日までお預けだ。

 だから、とっとと帰って遊びに出かけたいんだけど。


「そうなのですか? これから仲の良い子たちで集まって、私の家でお茶会を開こうと思っているのですが。ぜひ、エルザ様にも来ていただけると嬉しいです」


 学校で配布された教材のせいで重くなった鞄を持って、クリントの方に向かおうとしたらカーラに引き留められた。

 平民を見下してるくせに、上位貴族の私には平気で近づいてこられる根性は素晴らしいと思うよ。

 でも、お茶会は興味ないかな?


「仲の良い子たちで集まるんでしょう? だったら、私が行っても仕方ないよね? もう少し仲良くなったらまた誘ってくれたらいいよ」


 それだけ言って彼女に別れを告げると、今度こそクリントと合流する。

 後ろでカーラがポカンとしているけど、すでに出来上がった仲良しグループに混ざったところで、浮いてしまうのは考えるまでもなく分かるよ。

 それに身内ネタで盛り上がられたら、退屈で仕方ない。

 それならクリントを連れて冒険者ギルドに行って彼を登録させるとか、ハルナと町に買い物に出かけた方がよっぽど楽しいし。


 てっきり舌打ちでもされるかと思ったけど、なんか微妙に熱っぽい視線にも見える。

 なんだろう?


「相変わらずお嬢様らしくない口調ですね。昔は、もっとしっかりされてたのに」

「大丈夫よ、きちんとした場所では弁えてるから」

「普段から気を付けないと、いざという時にボロが出るとマリアもハルナも言ってますよね?」

「ボロが出たところで、それがなんだというの? 私が私であることには変わりないじゃない」

「はぁ……」

「というか、普段はもっと酷い言葉遣いしてるからね? おじいさまと、冒険者やってる時とかは……ちなみに、おじいさまのアドバイスでもあるから」


 そうなのだ……強者は強者らしくあるべきというのが、おじいさまの考えだ。

 だから、某劇団の男役のイメージで、会話をしていることが多い。


「ソフィは寮だから、今日はこれからは会えないか」

「これからいつでも会えるじゃないですか」

「教室でも会えると思ったのに、まさかの違うクラスになるとは……」


 クリントの言葉に対して、私は思ったのと違うとあからさまにガッカリしたことを態度で表現しつつ先に教室を出た。

 ソフィアは無理でも、レイチェルには会えるかな?

 ダリウス殿下は午後からも、学校の予定があるし。

 家の人と遊ぶしかないかな?

 

 そんなことを考えながら、校門を出ると不安そうなハルナが迎えに来ていた。

 相変わらず過保護だなぁと呆れつつ、彼女と笑顔で合流する。


「まさか、いの一番に学校から出てこられるなんて」

「いの一番?」

「いえ、なんでもありません」


 いの一番って……異世界語翻訳の仕事が、今日も全力で捗ってるようで何より。

 せっかくハルナがいるんだし、このまま町に行っても良いか。


「お兄様、私の荷物も持って先に帰ってて」

「はっ? いや、俺はお前の護衛でもあるんだぞ? そんなこと、出来るわけないだろう」

「ええ、これからハルナと町に遊びに行こうかと思ったのに」

「だめに決まってるだろう。出かけるにしても、一度家に帰ってからにしなさい」


 おお、お兄ちゃんらしいこと言っちゃって。

 しっかりしてる12歳児だねぇ。


「お嬢様、クリントお坊ちゃんの言う通りです。学校から家にも帰らず寄り道なんて、あまり褒められたことじゃありません」


 ハルナまでクリントと一緒になって、私に注意してくる。

 むぅ……家に帰る時間がもったいないから、このまま出かけようとしたのに。

 

 ちなみに荷物も持ってくれなかった。

 両手が塞がったら、いざという時に護衛の仕事が出来ないと言われて。

 私の両手が自由の方が、荒事のときによっぽど役に立つと思うんだけど。

 そんなことを言わないくらいの分別はちゃんとあるけどね。


 とりあえず明日は他のクラスの様子も見ないと。

 レイチェルとソフィアのクラスがどこかも気になるし。

 2人が同じクラスだったらレイチェルにも助けてもらおうと思うけど、それはそれで私だけ仲間外れみたいで嫌だなぁ。


 そういえば、レイチェルって結構レベル上げしてたよねぇ。

 だったらクリントとレイチェルとソフィアで、放課後にレベル上げとかするのもいいかも。

 ソフィアも強くなったら、いざという時に私が助けに駆け付けるまで時間を稼げるかもしれないし。


「変なことを考えてますね? 他所のご令嬢を、ご自身の趣味に巻き込まないようにしてください」

「ハルナは大袈裟ねぇ。私が何を考えてるかなんて、分からないでしょう」

「お友達を連れて外に魔物を狩りに出よう等、考えておられないと?」


 ……無駄な抵抗だった。

 ふーんだ、それだったら一人で行くだけだもんねぇ。


「だめですよ」

「まだ、何も言ってない」


 家に帰ると、面倒な作業が待っていた。

 持ち物に、自分のものと分かるように名前を書く作業。

 笑えない。

 いや、もちろん書くのは私じゃなくて、達筆の使用人だけれどもさぁ。

 これは、あまり上品じゃないと思うなぁ。


「本は高価ですからね。伯爵家でも上の方なら、汚れたり失くしたりしてもすぐに買えるでしょうけど」


 そして屋敷一番の達筆のロンが、私の教科書に名入れをしながら教えてくれた。

 確かに、財政の厳しい領地なら紛失とかしたら、結構大変なことになりそうだ。

 いや、だったら兄姉とか先輩に譲ってもらったら良いんじゃないかな?


「それこそ、貴族としてどうなのかと思われますよ」

「物を大事にすることも大切だと思うんだけどね」

「低位から中位の貴族は美徳よりも面子を重んじるところがありますからね」


 分かったような、分からないような。

 ロンがくすんだ金色のインクを使ってくれたおかげで、趣のある名入れになったけど。

 これは違った意味で、大事にしないといけなくなった気がする。


「せっかく綺麗に名前を書いてもらったから、大事に使わないとね」

「そう言ってもらえるように、真剣に真心を込めて一冊一冊に名前を記させてもらいましたからね。私も、良いものは大事に長く使うべきだと思いますので」


 うちの王都邸の執事長は、立派だなぁ。

 当主の孫として、鼻が高い。


「私の分まですまないな」

「何をおっしゃいますか。クリントお坊ちゃまも、我がレオハート家の至宝ですから」


 そうだね。

 クリントは一昨年くらいから、第二夫人の息子であることで私たちに遠慮することが増えた。

 最初は嫌だったけど、彼の処世術だと言われたらねぇ。

 野心がない事をアピールするためにも、一歩下がったポジションの方が良いらしい。

 私の護衛に堂々となるためじゃないとは思うけど。

 流石にそこまで、自意識過剰じゃないよ私は。

 

 そもそも、いまこの国で私に傷をつけられるのは、おじいさまとサガラさんくらいだからねぇ。

 

「ソフィアさんのことは、王族にとっては壮大なマッチポンプの道具ですからねぇ……もしかしたらそれに感付いて、横槍を入れようとしている者がいるのかもしれませんね」


 ソフィアとクラスが一緒じゃないことをハルナに愚痴ったら、そんな答えが返ってきた。

 いや、話が飛躍しすぎなんだけど。

 ちょっとした手違いかな程度にしか考えてなかったのに、回答が重いから。


「色々と考えて、おかしな点と照らし合わせた結果ですよ。身分至上主義のトップごと引きずり落として、さらには貴族の不正を暴いて聖女を救う美談を交える。綱紀の乱れを正し、弱きを助ける第一王子。国民の支持を集めて、次期国王としての足場を固めるには都合の良い存在でしょうね……ソフィアさんは。だから、エルザ様という婚約者をないがしろにして……」

「おーい、ハルナー? ハルナさんやぁい! ちょっと何言ってるか分かんないんだけど? 私、ダリウスにないがしろにされてるの? 普通に、大事にされてるっぽいんだけど? おーい!」

「はっ! いえ、なんでもないです! 忘れてください」


 私の呼びかけに、正気に戻ったハルナが慌てて手を振って弁明してきた。

 なんでもないことは無いと思うけど、かなり怖い顔してたから聞かなかったことにしよう。

 昏い目で張り付けた笑みを浮かべながら、ありもしないことに対して怨嗟を吐く彼女はビョーキかもしれない。

 なんか、妄想癖が凄いという噂も聞いたことがあるし。

 心配だ……


「お嬢様が、私を真剣に気に掛けてくださっている! ああ、ハルナはいま世界で一番の果報者です」


 うん……色々な意味で、心配だ。

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