第1話:聖属性少女みーつけた
「そうなのか? それは、楽しみだな」
「ええ、是非ご覧になってください」
レオハート領に向かう馬車……に、何故かダリウス王子が同乗していた。
本来なら2泊3日で王都を発つ予定だったのだが、色々と予定が狂ってしまったのだ。
まず、私とおじいさまの話を聞きつけた、王都の冒険者ギルドのマスターが面会を申し込んできた。
うん……私もおじいさまも、王都の冒険者ギルドという響きに惹かれてしまった。
だから、簡単に面会を受け入れてしまった。
一応、私は大人の姿に偽装して冒険者をしているが、レオハートの冒険者ギルドでは公然の秘密となっている。
当然、王国の冒険者ギルドを取り仕切るグランドマスターである、王都のギルマスも知っている。
王族と、一部の上位貴族も
いや、2年目くらいから秘密ですらなくなっていたけどね。
こちらから言わないだけで、聞かれても肯定も否定もしない。
なので、私とおじいさまのことを知らない冒険者は語りか、モグりだ。
だって、新人にはアンタッチャブルな4人として、説明されるからね。
私とおじいさま、そしてセバスとマリアは。
主な話は、冒険者の前で演習をしてもらいたいということ。
それから、ギルドの改修のための援助をモゴモゴと言っていた。
前者はともかく、後者は……先に、陛下にお願いしてみてはどうだろう?
他の町だと、冒険者は兵士と協力して色々な問題を対処することがあるけれども。
王都だと、軍が強すぎてそれがあまりないらしい。
だから関係が希薄だし、王族にとっては冒険者ギルドの重要性が低いらしい。
ところがレオハート領では私が冒険者びいきというか冒険者なので、割と潤沢な資金がある。
いや、勘違いしてもらっては困る。
確かに、領主としての援助もおじいさまがしてはいる。
でも、主な収入源は私たち獅子の心が狩ってくる、レア素材がメインなのだけれどもね。
まあ、本部が支部よりしょぼいのは、面子や体裁に関わるのだろう。
他にも地方から来ている貴族の面会依頼や、商人との顔つなぎ。
王族を交えてのお茶会などなど、予定になかった予定がたくさん増えたのだ。
途中で護衛に連れて来ていた騎士を数人伝令にして、物資の追加搬送をお願いするレベルで。
王都を発つ日に配るお土産類とかだから、ギリギリ間に合った。
その結果が、これだ。
殿下との馬車旅。
もともと、レオハート領に視察に来る予定だったダリウス殿下の日程と、私の帰郷の日が重なってしまったのだ。
王妃様が、これは運命だとばかりに殿下を押し付けてきた。
同じ馬車に乗りなさいと。
王族の馬車に乗ればよさそうなものを、うちの馬車の方が乗り心地がいいという理由でこっちになった。
馬車、お尻割れる問題は私も知っていたので、最初のうちは椅子に綿と厚手の生地を取り付けて、さらに細かく砕いた堅い木の実と粘度のある液体を詰めた革袋を置いて、その上にさらに座布団に近い厚みのクッションを使って座った。
座布団といっても、法事とかでお坊さんが座るあれくらいには厚みがあるものだけど。
その間にトーションバーだの、ダブルウィッシュボーンだの、訳の分からないものを開発してもらった。
サスペンションの種類だということは、分かった。
サスペンションが何かということも。
サスペンション自体は聞いたことあるけど、それが何でどうなってるのかなんて知らなかったからね。
訳が分からないものの名前が分かったのは、初心者パックの全言語理解のお陰なのだろう。
はは……知らないものを通訳できるのは、便利……なのかな?
というわけで、我が家の馬車は乗り心地が良い。
今はタイヤに魔物の皮を使っているけど、いずれはゴムをと願っている。
そのためにも、道の整備も同時に必要かな?
うちの領内の道の整備はある程度は、出来てるけど。
殿下と同乗した際にハルナが小声で「これって、出会いイベントどうなるんでしょう?」と、訳の分からない言葉を呟いていた。
本人は本当に小さな声で呟いて、誰にも聞かれてないと思ったのでしょうが。
私も、おじいさまも耳はかなり良いのです。
レベルに比例して。
「それで、この先の関所を越えるとヒビエランド領で、その先にレオハート領があるのですよ」
「ああ、俺もこの国の地理くらいは、理解しているから知っているさ」
うん、余とも私ともいわず、一人称俺なんだ。
王都から離れたからかな?
油断していると、従者から告げ口されますよ?
そんなたわいもない話をしていると、私の耳がか弱い少女の悲鳴を拾った。
「おじいさま!」
「うむ、行くぞ!」
当然、おじいさまも。
「あっ……お嬢様がいっちゃうんだ……」
ハルナの呟きが遠くに聞こえる速度で、馬車を飛び出し声のした方に向かう。
実は馬車より走った方が、おじいさまも私も速いのだ。
「エルザ嬢!」
殿下の焦った声と、続けて護衛の騎士にすぐに私たちを追うように指示を出していたけれども。
スキル込みなら、私たちは鎧を着た騎士を乗せた馬よりも速い。
「この、くされ外道が!」
「私の目の黒いうちは、天使ちゃんに危害を加える者に手加減抜きの天誅が下りますわよ!」
視界の先に、野盗っぽい男たちが一組の家族を襲っていたのが見えた。
私たちの声に気付いた盗賊が、剣を抜く。
「馬鹿が、助けに来たのならば黙って不意打ちっ……」
遅いですわね。
こっちに向かって何やら喋ろうとしていたみたいですけど、すでにセバスとマリアは接敵している状態だというのに。
気配探知も……ああ、二人は気配を消すのが上手なのでした。
すぐにマリアに、針を刺されてました。
「くそっ、この家族をひとじっ……」
残念、そんな暇は与えませんよ。
父親らしき男性に手を伸ばそうとしてた野盗の腕に、ナイフを投げつける。
眠り薬と痺れ薬を塗った。
「やばい、こいつら手練っ……」
しゃべらないといけない病気にでも、掛かっているのでしょうか?
こちらには不意打ちは黙ってなんちゃらとアドバイスしようとしてたくせに、手よりも口が動く方が目立ちますね。
教育に時間が掛かりそうです。
「終わりました」
私が3人倒す間に、セバスとマリアが12人ずつ……おじいさまは、そのまま森の奥に突っ込んでいきました。
あっ、戻ってきました。
「あっちにねぐらがあったが、中には3人しかおらんかった」
3人のごつい男どもをひきずって。
全員の右の頬が嘘みたいに腫れているので、張り手一発で倒してきたのだろう。
おじいさまは大雑把に見えて、実は手加減が上手なのだ。
本気なら三人とも首の骨が折れるか、首から上が千切れて飛んでいくか、頭が破裂していただろう。
「ちゃんと生きてますね」
3人の容態を見て、ほっと溜息を吐く。
これでまた、低賃金労働力を確保できた。
殺人犯ならば強制労働施設で一日10時間労働、10日に1日休みという条件で死ぬまで。
それ以外は、同じ施設で一日8時間労働、4日に1日休みだ。
ただし、模範的なら緩くなる。
外で働いて生活することも可能なくらいに。
賃金はピンハネされるので、楽な暮らしはできないけどね。
たくさん稼げば、手元に残るお金も増えるけど。
こちらが紹介する仕事の範囲で。
副業等は認められていない。
それから、襲われていた家族の方に視線を向ける。
父親は腕を斬られたのか、袖口から大量の血が流れていた。
「お父さん」
「ソフィア、駄目だ!」
そこに娘が駆け寄って手を翳そうとすると、父親が慌てた表情で娘を制止する。
そして、ソフィアと呼ばれた娘の掌から光が放たれ、父親の腕を包み込んだ。
「回復魔法……それも、聖属性……」
おじいさまと、マリアが口を押えている。
後から来た、殿下の護衛も驚いて立ち止まっていた。
へぇ……聖属性の回復魔法って珍しいのかな?
私も使えるんだけど。
「エルザ以外にも使えたのか……」
思わず漏れ出たおじいさまの言葉に、マリアとセバスがあちゃーといった表情を浮かべていた。
そして、それ以外の全員がギョッとしていた。
うん、聖属性ってバレるとまずいのかな?
しかし、この子めちゃくちゃ可愛い。
私と同い年くらいだけど、白い髪に青い瞳の綺麗で可愛い女の子。
ぜひ、お友達になりたい。
というか、欲しい。
連れて帰りたい。
「おじいさま、私はこの子が欲しいです」
「どうか、それだけは許してください」
「お貴族様に逆らうことがどれだけ不敬か存じております。それでも、う……うちの子を、連れて行かないでください」
あっ……本音を交えた軽い冗談のつもりだったのに、両親のマジ泣き土下座が始まってしまった。
そして、護衛の騎士が慌てて殿下に報告に走っていった。
厳密には殿下に付いてきている、王城の偉い役職の人の下に。
「フラグはちゃんと立つようですね……お嬢様に見つかってしまっては、消すのが難しくなってしまいました」
遠くで、ハルナの物騒な独り言がこだました気がした。




