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閑話:娑伽羅竜王

「ふわぁぁ……」


 退屈な世界だ。

 海底の奥底に作った結界の中で、寝て過ごすだけの一日。

 悠久を生きる我にとっては一瞬のこととはいえ、特にすることがないというのもな。

 まあ、元居た場所でもそれはあまり変わらなかったが。

 あちらの世界では、楽しい物がたくさんあった。

 我を……そして我らを信仰するものも、多くいたからな。

 祭りに呼ばれるのは、嫌いではなかった。

 

 彼らに我の存在を感じ取ることができるかどうかは別として、我は確かにそこに存在した。

 そういえば、我が宮に招かれたものもおったな。


 心優しき青年であった。


 善女とは別の娘が招いた者であったが、人との色恋はままならぬものと嘆いておったな。

 

 久しぶりに身体を動かそうという気になったのは、この地に生まれた異質な魂が我を呼んだからだろうか?

 しばらくは海中深くで様子を見ていたのだが。

 我はある時海を飛び出し、導かれるようにその者の生まれた地へと勝手に身体が進んでいったのだ。

 気になる気配を感じ取って、そこに行くべきだと思い至った。

 あまりに退屈な日々に、気まぐれにそう思いたかっただけかもしれぬな。


 我がひたすら空を駆けたその先にあったのは、陸地の森の手前にある海に面した断崖絶壁。

 壁の途中にある横穴だった。


 その穴を覗き込んだときに、その少女と出会った。

 10歳にも満たぬ少女。

 名をエルザといった。

 不釣り合いな場所に確かにあるそれに、思わず間抜けな声を出してしまったものだ。

 

 その声に反応した少女の祖父がいきなり槍を投げてきたのには面食らったが、その直後に彼女から氷の槍をぶつけられたのにはさらに驚かされたな。

 あまりの大きさと勢いに、肝を冷やしたものだ。

 全て我の鱗に弾かれていたが、即座に少女を背に庇う(おきな)の姿には微笑ましくも頼もしいものを感じたものだ。

 我にとってはほんの数日前のことのように思えるが、あれから3年も経ったのか。

 海の底の住処を捨ててここに移住することにしたのも、我がこの地にある原因の一つがその少女だからだ。


 とはいえ懐かしい匂いと面影に、(ほだ)された部分もある。

 かの魂の面影は、倭の国や唐の国のそれに似ておったからな。


 我は彼女の宝物殿を守る護神龍となることを決めた。

 どうせ、人の生涯など一瞬のことよ。


 我の本体が住まう世界の海中に作った宮殿を模したものを、横穴を改造して造ることにした。

 一瞬で出来上がるが、どうやらダンジョンと呼ばれるものらしい。


「最高難易度の初見殺しダンジョンですね。入り口にダンマス兼、ヘルモード裏ボス級のラスボスがいるとか極悪すぎます」


 そう言って興奮していたが、何を言っているのかさっぱりわからなかった。

 色々と聞いて理解はしたが、ここは洞窟ではなく我の宮殿だ。

 竜宮城なる場所であるというのに。


「なるほど、異文化を取り込んだダンジョン。まさに隠しダンジョンのテーマにもってこいです」


 外見はこちらの世界のものであるにも関わらず、魂の面影で黒髪と茶色い瞳の少女が重なって見えるゆえ懐かしく思ったのだが。

 言動がまったく懐かしくも、感慨深いものでもない。

 彼女の祖父が一緒にいればまともなのだが、一人で物を入れに来たり出しに来たりするとおかしなことを喋り出す。


 もう少し信心深いものは、おらんかったのだろうか?

 我のことも、結局サガラさんで落ち着いておるが。

 凄く気安い。

 まあ、サーガラと呼ばれることもなくなったし、娑伽羅という名なので間違いではないが。

 どうも相良と呼ばれているような気がしないでもない。

 ちなみに、それなり以上に偉い竜王でもあるのだが……分体ではあるし、拘らなくともよいか。


 慌ただしく宮殿の宝物庫に何か放り込むと、宜しくお願いしますと言って我の頬に唇を寄せた彼女はまた出て行った。

 今日は、何やら忙しいのだろう。

 いつもなら1~2時間くらいは、我の指を枕に寝転がっておしゃべりをしていくのだが。


「随分とお気に入りみたいだね」


 彼女が出て行ってすぐに、若い男が入れ替わりで現れる。

 この世界の主神だ。


「まあ、彼女は特殊だからな。見守るくらいのことはしよう」


 この世界において、彼女が少し稀有な存在であることは確かだ。

 望んで来たわけじゃないという意味で。


「君のことだから、火の国か大陸に行くかと思ったのだけれどもね」

「常に内乱が起こっているような場など行ってもな。大嵐でも呼んで禍根とともに全て洗い流してやろうか?」

「それは困るなー、国が亡んだだけでも大変なのに、島ごと潰されたらどうなるんだろう?」


 我の言葉に男が慌てた様子で首を横に振っている。

 若い男と言ったが、見た目はあてにならんがな。

 年老いた姿や、少年の姿の時もある。

 そして、我にとってみれば赤子に近い童子のような存在だ。

 可愛げはないが。


「であれば、我の機嫌を損ねぬことだ。この地に望んで来たものはその方らの好きにしてよい。だが、そうでないものは(ゆかり)ある神に任せることだな」

「分かってるよ」


 このような新参の神にふざけた態度を取られるのは、いささか業腹(ごうはら)だが言うても栓のない事だ。

 そのように生まれた神であるからな。


「それにしても主神なのに、僕の立場って弱いよね?」

「仕方あるまい。創造主でもなければ、全知全能でもないのだからな。その方が出来るのは、せいぜいが転生してきたものの能力を弄る程度のことだろう」


 そう、この神は転生神とでもいうべきか。

 人の思いの強さをまざまざと見せつけられた存在ともいえるな。

 信仰が神の力とはいえ、無から新たな神を生み出すとは。


 多くの世界から力が送られた結果に産まれた神であるが、望まれた通りのスペックしかない。

 にも拘わらず、この世界の主神であることを望まれている。

 可哀そうな存在だともいえる。


 とはいえだ……

 特に地球、さらには日本に多くの救援を要請するのはどかと思うがな。

 勿論、西洋や北欧の神の方が需要が多いらしいが。

 世界を維持するために、多くの神が日本からも召喚された。

 その殆どが分体ではあるが、顔見知りも多くいる。


「だって、そっちの世界でそういう話が大量に生み出されて、多くの人が思いを馳せることになったんだからね。他の世界からも願望という名の信仰が集まってるとはいえ、熱量が凄い人が多すぎるんだよ。君のところは」


 その結果、転生や召喚された魂に、器とチートを与える存在として目の前の神が産まれたのだ。

 人にとって都合の良い神という存在なのだから、哀れだとも思う。


 そして、この世界にはいくつもの平行世界まで存在する。

 望むシチュエーションや舞台が多く必要だからだ。


 勇者として魔王を倒す。

 王子として、英雄を目指す。

 のんびりとスローライフを送る。

 魔王となって、人との友好関係を模索したりする。

 魔王となって、魔族同士で争う。

 敵役の悪役令嬢のはずなのに、ヒロインになる。

 冒険者として頑張るはずなのに、家を買って、奴隷を買ってハーレムを形成する。

 最強だけど目立たないように生きると言って、俺また何かやっちゃいましたをする。

 本気で英雄への道を進むために、苦難の道を突き進む。

 巻き込まれたけど、呼ばれた人たちよりは優秀。

 巻き込まれたけど、生活に便利なスキルで悠々自適。

 従魔が聖獣や神獣。

 竜などの最強種に生まれ変わる。

 巻き込まれたけど、優しい世界。

 凄いステータスや職歴をもって、引退して悠々自適。

 仲間外れにされて、真価を発揮。

 技術も経験も、神がよこす能力任せの物づくりに没頭する。


 これをそれぞれの対象があまり鉢合わせないように対応するには、世界が一つでは足りないのは分かる。

 だから目の前の幼神は、産まれたてなのに分体をいくつも作っている。

 必要とされているからだ。


 それだけじゃない。

 

 戦国時代で、そこより先の世界の知識を使って下剋上や天下統一を狙うもの。

 チートをもって、元居た世界に戻りたいもの。

 この辺への対応も必要になっているらしい。

 まだ難しいらしいが、火の国というのはこの未来の知識チート生かすための舞台だな。

 だから、倭の国の者に似た者が多くいる。

 日ノ本と呼ばれた時代の者たちだな。


 実在の人物像など分かりえないから、これもまた望まれた願望に近い者たちが産まれる。

 同じ人物ですら、千差万別だ。

 織田信長なる人物や足利義満なる人物の多様性を見れば、なるほど大変だと笑いだしてしまったくらいだ。


「でも、彼女はなんでこの世界に来たんだろうね?」

「お主が知らなければ、誰も知りえないことだろう。何か裏があるのかもしれないのう。何者かの暗躍か……」

「絶対にサガラさんとこの神様とかじゃない?」

「違うと思うが……あと、人の苗字っぽい響きで呼ぶのはやめよ」

「彼女だって呼んでるじゃん」

「あれは可愛げがあるから許せるが、お主は海中深くに送り込みたくなる」

「洒落にならないからやめてね」


 はあ……仕方ないと分かっていても、癪に障るのは仕方ないな。


「仕方ないからって、雷を落とすのは酷くない?」

「子供のおいたが過ぎれば、大人は雷を落とすものだ」

「比喩だからね? げんこつとか説教って意味だからね? 物理的に落とすのとは違うよ?」

「物理的に落とすのがげんこつだろう? 雷は自然現象で自然災害だからな?」


 とっとと自分の家に戻って、女神にでも慰めてもらえ。

 たくさんいるのだから……複製神が。


 担当は女神が良いとか、女神と旅をしたいなんて願望も少なくないらしいからな。

 本体の女神はいるが、偽物の複製した神に近い存在を多く生み出しているらしい。

 中には駄女神なるものを望むものもおるらしい。


 巻き込まれたり、追放されたがったり、解雇されたがったり、無能の烙印を押されたがったり、駄目な女神と仲良くなりたがったり、嫌われ者の悪女や悪役令嬢になりたがったり。

 いろんな世界からの願望が集まっているだけあって、変な願望も多いのだな。


「君があげた変な願望は、主にサガラさんの世界からだよ?」


 雑多な世界から集まる願望故に、特殊なものにも多様性があるのだろうな。


「聞いてる? サガラさんところからが、一番多いからね」


 さて、そろそろ眠るか。


「おーい!」 


 うるさい童子だ。

 また、雷を落とされたいのか?


「はぁ……、とりあえず何かあったら僕を頼ってね。それと、報告連絡もお願いだからね」


 それだけいうと、目の前からこの世界の主神が消えていった。

 名前もたくさんあるんだよな、あやつ。

 面倒なやつよ。

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