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三者三様


『一見と忍足の場合』

忍足と一見は解散を告げられた稽古場でぶっ通しで自主練を行っている。

暫く一人芝居を観察していた忍足が一見の芝居を止める。


「お前の芝居には癖がついている」


「クセ」


「独り善がりな芝居はするな」


「ちゃんと花井に合わせようとしてますよ」


「だからだ。花井しか見えてないだろう」


「……」


一見は図星をつかれて黙り込む。


「歌劇は全体で作り上げ、観客に魅せるものだ」


「はい」


「旦那役は女役を魅せるためにある。観客の視線を女役に集めさせるために存在する。なぜかわかるか」


「観客に男が多いから?」


「そうだ。稽古を始めるぞ」


――

『花井と三上の場合』


立ち稽古解散後、花井と三上はそれぞれシャワーを浴び三上の自室に集合していた。三上の部屋は一人部屋らしく、ファンシーな家具や小物で埋まっている。


三上は紅茶を淹れ正面に座る花井にサーブする。


「まずは女役の所作指導しながらお話でもしましょうか、花井さんだったわよね?」


「名字はあまり好きじゃないので楓って呼んでください」


「いいわよ。かえでさんうちの人たちは歌劇バカばっかりだから大変だったでしょう」


「まあ、はい」


「姿勢伸ばして、指先はおやかに。……そう、特に三年が問題よ。忍足さんは芝居バカ、樋口さんは歌唱バカ、特に問題なのは手越さん。あの人仕事量おかしいもの、もう宇宙人よ。本来の花組を改革したのもあの人よ」


「本来の?」


「元々花組は華がある子やビジュアル重視で、突出した才能がないバランスのいい子とか初心者の子が基礎からみっちり練習できるように花組に集められるの。でも、一昨年から去年にかけての花組は女役ができる子が次々辞めていって崩壊状態で、去年は組移動で立て直してなんとか形になったんだよ。私だって元々風組だったのよ」


「風組は……たしかダンスが得意だって授業で聞きました」


「移籍するや否やトップ女役にダンスの振り作れって無茶振りされるし大変だったわ」


「三上先輩も凄いじゃないですか」


「貴方もよ。今年の花組は即戦力重視で採るって手越さん言ってたけど、初心者ってことは手越さんよっぽどあなたに才能を見出してるのね」


「……はい、頑張ります」


「かえでさん女役の基礎はできてるのね。それじゃ台本を開いて、始めましょう」


――

『鹿耳と首藤の場合』


鹿耳と首藤は資料室に移動する。


「といってもな」


「首藤先輩ご指導よろしくお願いします!」


「鹿耳はよくやってるよ。目立つ役だが、脇役として弁えて支えようとしているのが分かる。セリフや立ち位置はもう入ってるだろ」


「僕は二人より出番少ないですから」


「強いて言えば、一見との喧嘩シーンがぎこちなく見えるぐらいか。弱気になるロミオにティボルトが思いの丈を隠しながら感情を発露する見せ場のシーンだ。もっと目立っていい」


「……はい」


「歯切れ悪いな。もしかして一見と鹿耳は喧嘩したことないのか?確か幼なじみだろ」


「うーん、ないですね」


「一度もか?」「一度もです」



「そうか。じゃあ一見に大切なものを傷つけられたと想像してみろ」


「瞳くんより大切なもの?」


真剣に考え込む鹿耳に首藤は背筋に冷や汗が走った。


「じゃあ一見を誰かに傷つけられたとしたらどうだ」


「それは、嫌ですね」


(こっわ)


「一見をジュリエットに傷つけてきた人間をティボルトに置き換えて演ってみろ」

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