この話に出てくる勇者のタイプが知りてえ!てな訳で勇者判別テストの出番だ!
「勇者デニーロが荷物持ちロバーに命令する!お前との契約を破棄する!俺は真の友情パワーに目覚めたのだ!」
トアール王国領から少し離れた高難度ダンジョン、そこでS級パーティの荷物持ちロバーが勇者デニーロから追放を言い渡されていた。デニーロの後ろでは、宰相の息子と騎士団長の息子がそーだそーだと騒ぎ立てる。
「あのさデニーロ、ちょっと良いかな?」
「なんだ!お前が俺達の足を引っ張る事への弁解か?」
「いや、それはお前らがアホ過ぎて何言っても無駄だから別にいいや。それとは別に聞きたい事があってさ」
「言ってみろ!」
「実は俺は以前からこの追放ものについて気になる点があったんだ。多分読者も一番お前に聞きたい事だと思う」
「なろう主人公はソロで年内に世界救うのに、俺達と組むと五年掛かってまだA級冒険者な事か?」
「それは三番目に聞きたい事だね」
「知らないスキルやジョブをハズレと断言し、恩恵を受けてるのを忘れバカにする事だな?」
「それは五番目に聞きたい事」
「最初は無知から主人公を追放したのに、途中から主人公に嫉妬していた事になるやつ?」
「それは四番目」
「簡単な依頼も失敗するのに、野盗になった途端一定の成果だす事か?」
「それは八番目」
「魔王撃破が目的なのに一般冒険者に混じって普通の依頼受けている事が?」
「それは十番目」
「あーっ!わかんねえよ!さっさと正解言えよ!」
正解が分からす、地団駄を踏むデニーロと宰相の息子と騎士団長の息子。彼らの頭では一生正解出来そうもないので、ロバーは仕方なく正解を教えてやる。
「俺か、そして読者が一番気になってるのはお前がどういう立場の存在かって事だよ」
「俺は勇者だそ。そうだよなお前ら?」
宰相の息子と騎士団長の息子がうんうんと頷いているが、ロバーも読者もそれでは納得出来ない。
「デニーロ、勇者って何さ?」
「んなもんも知らねえのか!勇者は魔王倒すアレだよ!アレ!」
「じゃあ、デニーロは魔王を倒せって誰かに言われたの?」
「えっ?」
デニーロが間抜けな声を出して石のように固まる。彼は自分が勇者だという認識より先の事は何も考えて無かったのだ。
「読者はね、作中に出てくる勇者がどういう勇者かをすっごく気にしてるんだよ。神から選ばれた存在なのか、王から任命されたのか、国から支援を受けてるのか受けてないのか、ゲーム世界の操作キャラなのか、それが分からないと感情移入も出来ないんだ」
「別にいーだろ。第一章の終わりには勇者の地位を剥奪されるんだしよお」
「だから、その勇者の地位とやらを最初に掲示してくれないとデニーロの一挙一動が勇者として妥当かの判断に困るんだよ。感想欄で色々言われるんだよ!」
「知るか。全部、俺と王国がバカで無駄にプライド高いからって返信しとけよ」
「プライドやバカで何でも解決すんな!ヒール!」
ロバーはヒールにより生じた空間の隙間から一冊の本を取り出しデニーロに渡した。
「何だこりゃ?」
「それは勇者がどんなタイプの勇者かを調べる事が出来る勇者判別テストの簡易版が書かれた本だ。デニーロ、今からその本に書かれてる質問にはいかいいえで答えるんだ」
「まあ、そんな簡単なテストなら受けてやんぜ。えーと、まずは問1から始めるっと」
最初のページには次の様に書かれていた。
『問1.貴方は神やそれに類する存在から勇者と任命されましたか?はいなら問2へ、いいえなら問3へ進め』
「神?知らん。でも俺勇者なら夢とかで神様に会ってるかも。知らんけど」
「分からない時は、いいえにしろって書いてあるから。それじゃあ、次は問3に答えて」
『問3.貴方は国王か皇帝か法皇から勇者に認定されましたか?はいなら問6へ、いいえなら問7へ進め』
「これはイエスだな。俺は五年前、十八歳の時に公爵令嬢に婚約破棄してな、その翌日親父から勇者認定され魔王倒す旅に出ろって言われた」
「そうそう、そういう情報が欲しいんだよ読者は。じゃあ、デニーロが王太子だと分かった所さんで次の質問だよ」
『問6.貴方は魔王を倒すドラゴンを倒す等の勇者としての目的を実現する力を持ってますか?はいならEへ、いいえならFへ進め』
「おいロバー!なんか急に行き先がアルファベットになったぞ!」
「じゃあそれが最後の質問だ。答えは?」
「んなもん、いいえで決定だ!俺は親父の都合で勇者として追い出されただけのザコだからな!」
「それじゃあ、巻末のFの項目を見てみよう」
ページを捲って最後の方に書かれていたFの項目を見ると、勇者(笑)と記されていた。
「デニーロ、君は勇者(笑)だ。本当は何の力も無いけど、勇者にしておくと都合の良い存在。真の勇者に倒されるかその辺の魔物にゃられるか市民からリンチに遭うか、いずれのざまぁもこなせる逸材だってさ」
「マシか!俺すげーくね?でも、だったら何でS級まで行けたんだよ!?」
「ヒールだ」
「そっか!ヒールか!そんじゃ、俺がどんな勇者か読者に分かって貰えただろうし、追放シーンの続きやんぞ!」
そう言うと、デニーロはロバーをダンジョン内の大穴の前に立たせ、自分は十メートル程下がって助走しながらドロップキックの体勢に移る。
「うおおお!俺はデニーロ・トアール二十三歳!トアール王国の王太子だった俺は卒業パーティで婚約破棄をし、居場所を失った!翌日親父から魔王を倒す勇者に任命されたが、当然俺にはそんな力は無い!だが、俺達勇者パーティは五年掛けてS級となり、魔王が支配する領域の探索資格を得た!だから、後ろでヒールしてるだけの役立たずのロバーはいらねえ!お前は公爵家の執事で俺達を監視する役目を担っていたから前から邪魔だったのも理由の一つだ!という訳で、モンスターに襲われた事にして始末する絶好の機会だし死ねよやー!」
読者が疑問に思う点を可能な限り説明しながらデニーロはドロップキックを放つ。
「ヒール!」
だが、ドロップキックはヒール(右に一歩動く)で回避されてしまう。結果、ロバーではなくデニーロが大穴に飛び込む形となった。
「テメェ、何で避けた!せっかくお膳立てしたのに、これじゃあ追放ざまぁにならないだろがい!」
デニーロは必死に手足をジタバタさせ空中に留まり、ロバーに文句を言う。
「だって、お前の方がずっとキャラ立ちしてるじゃないか。俺ヒール言ってるだけの没個性キャラだし、デニーロが主役した方が皆喜ぶって」
「でも、俺婚約破棄王子だし戦闘力皆無でアホだぞ?」
「公爵家側が悪で、お前は無力だけど正しかった事にしておくよ。じゃあ、ざまぁに向けて頑張って」
「チクショー!お前ら絶対復讐してやんからなああああ!読者の皆様、そういう訳なんでよろしくお願いいたします!!!」
主役交代を納得したデニーロは手足のジタバタをやめて、読者に一礼して穴へ落ちていった。
この後、なんやかんやでむちゃんこ強くなったデニーロが帰還し、ざまぁが実行されていく訳だが、それはまた別の話。