霊白の聖龍 アンダルシア編
その龍は自分が生まれた事を知らない。
いつからそこにいたのか、なぜここにいるのか全く知らなかった。
食べるものには困らなかった。最初は、自分を包んでいた殻であった。
殻がなくなると、眠りについた。
物音に起きると、必ず食料が目の前にあり、それを遠慮なく食べた。
時には、物音がしてもあえて起きない時もあったが、その時は必ず自分の脱皮した時の皮や寝ているときに上がれた鱗がきれいになくなっていた。
そんな生活が続いたある日、とうとう現状を変えるものが現れる。
それは、自分の事を聖女レイセ・ファンカレと名乗った。
「私はあなたと共に居たいのです」
そう言ったのは何度目か訪れた時であった。
とはいえ、最初からこのように友好的ではなく、最初に訪れたときは、生贄を求める邪龍の討伐として訪れていた聖女と戦いを行っていた。
ただ、そもそも今まで何がここに来ていたかわかっていなかった龍にとって、自分と互角に戦う聖女が初めての友達として認識してしまっていた。
そのため、幾度となく現れては遊んでくれる聖女に対して、言葉はわからなくとも一緒にいたいと思っていた龍はついていくこととなる。
その後の龍には激動の時間が流れていった。
空を飛ぶことを教えてもらい、言葉を理解し、狩りの仕方も覚えた。
聖女との関係は、ともであり、親子でもあった。
そして、聖女とともに聖域にいるこの純白のうろこを持つ龍に対し、いつからか『霊白の聖龍』と誰かが言い出しそれが定着していった。
聖女以外のだれからの呼びかけにも答えることのないこの龍を皆は神聖化していった。
聖女の死後、聖女とともに生きたこの地に居続ける龍に対し皆は神格化し、守り神として祭っていくこととなる。
ただ、龍はもう一度、聖女につけられた名前を呼んでもらえることをじっと待っているだけなのに。
ただ、誰かに『アンダルシア』と呼ばれて一緒に遊べることを楽しみにしているだけなのに。
この子は無邪気なただの子供なだけです。