卒業試験1
エピソード5
ドーナツ島。密林エリアでタロウは一匹のゴリラに追われていた。
「はえ〜」「このゴリラ早過ぎだろ!」ゴリラから追いかけ回されているタロウがいた。
そんなタロウの右腕には黄金色をした草のような物を握り締める姿があった。
一方その頃、熱帯エリアでは…
ジロウもタロウと同じ様に何者かに追われていた。「ゼェゼェ」「こ…これでもスタミナは付いたはずなんだけどな」
『!?』『シュッ』
ジロウは何者かに背後から見えない攻撃を受けていた。見えない攻撃に悪戦苦闘しながらも、ギリギリで相手の攻撃を避けながら、何とか目的地まで逃げ切ろうとしていた。
さかのぼる事、1時間前…
タロウ達が拠点にしている塔の1階では作戦会議が行われていた。
「君達3人はこの2年間で、かなりの成長を遂げてくれた」
「そこで、ここ『シーワン』の卒業試験を行いたいを思っている」タロウ・ジロウ・サイゼ・チョコの四人の前に彼らの師匠であるゼントが、卒業試験の話を持ち掛けた。
「やっとここまで来たか!」
「長いようで短かったな」四人はこの2年間の出来事を各々思い出し、それぞれ違った表情で物思いにふけていた。
「君達には、この島に居る3匹のチャンプを一人一匹づつ対決してもらうよ」「そして彼らから、この島の宝を持ち帰ってもらうよ」
『ゴックリ』タロウ達はこの島に来て2年。この島のアスリートアニマルズ《A A S》の恐ろしさを肌で体感して来た。
島で一番弱いと言われている『AAS』ですら、島にやって来た当初は3人がかりであっても殺され掛けていたからだ。
タロウ達は、この2年間の修行の成果により。一対一で『AAS』に対抗できる様になっていた。
「まずタロウ君!」「君は、密林エリアで一度会ったことのある『ライス・ゴリラ』と戦ってもらう」
「君には、チャンプの頭から生えている黄金の稲を狩ってもらうよ」「そう!ライスゴリラから生成される特別な食材を取って来てほしんだ」
「アイツのモヒカンって食材だったのか?」タロウがこの島に来て初めて会った『AAS』はこの島でも珍しい食材が生える生き物であった。
「次にジロウくん」「君には、熱帯エリアにいる『黄金バッタ』を狩ってきてほしい」「黄金バッタの生死は問わないよ」
「ちょっと意地悪かもしれないけど」「見つければ分かるよ」「とにかく捕まえて僕の前に持って来れれば合格だよ」
「解った」「何とかするよ」ジロウは、ゼントの言葉に違和感を持ちつつも反論せづにゼントの言葉を飲み込んだ。
「最後にサイゼ君」「君は因縁のある洞窟エリアに居る『皇帝もぐら』が隠し持っている『赤トリフ』を持ち帰ってもらうよ」
「皇帝モグラとは戦っても戦わなくても、どちらでも良いよ」
ー 俺がこの島を逃げ出すきっかけになった奴。当時はチャンプでは無かったのに…アイツはこの数年でこの島のチャンプまで上り詰めたのか…
「…」「リベンジのチャンスをもらえて嬉しいよ」「奴にはキッチリ借りを返させてもらうよ」
サイゼは皇帝モグラに対して静かな闘志を燃やしていた。
「よし!」「説明が終わったところで」「最終試験を開始する」「3人とも!健闘を祈る」
ゼントの合図で、タロウ・ジロウ・サイゼは勢いよく目的のチャンプが生息しているエリアに向かっていった。
ー そして現在に至る…
サイゼは、洞窟エリアで目的の赤トリフを探し回っていた。
洞窟エリアの生き物の殆どが、洞窟で生活をしているため。島の外から島の中央にある塔に向かうルートの中では、一番島の生き物に遭遇する確率が少ないエリアなのである。
サイゼは5年前にこの島で生活していた時は、殆どこのエリアの植物を使って食事をしていた。当時のサイゼは危険が少ないこのエリアで地道に強くなる事を目指していた。
そんな中、ある出来事がサイゼの人生を大きく狂わした…
サイゼは、この島に戻ってきてまだ一回も皇帝モグラと出会っていなかった。その理由は皇帝モグラの習性にある。
普段の皇帝モグラの性格は大人しく。地中もしくは洞窟で生活をしている為、滅多に地上に姿を表すことはないのだ。
しかし、彼らの縄張りに一度侵入してしまったが最後。攻撃的な性格へと変貌を遂げてしまうのであった。
当時のサイゼは、実力差のあるAASとの戦闘を避け。木の実やキノコ類を主食としていた為、いつもの様に食材を採取するために何も知らずに皇帝モグラの縄張りに侵入してしまったのであった。
皇帝モグラは、サイゼを自分達の好物の赤トリフを狙った敵と認識し攻撃をしてしまったのだ…
サイゼは当時の記憶を頼りに、皇帝モグラの縄張りを目指した…そして何事もなく当時の自分が皇帝モグラに襲われた場所に5年ぶりに戻ってきた。そこには、白黒の斑点模様のキノコが生えていた。
サイゼは塔での座学の勉強で皇帝モグラの生態を調べていた。その本に記されていた内容によると、皇帝モグラは自分の縄張りにマーキングの為に糞尿をするのだと。その糞尿の分解によりは発生する高純度のアンモニアによりキノコが繁殖するのだと。
その為、白黒のキノコが生える場所が皇帝モグラの縄張りなのだと。
「ここだ…」「当時俺がヤられた場所は」「ここでキノコ狩りをしていた時に奴に殺され掛けたんだ」
サイゼは自分の古傷を手で押さえ、深呼吸した。そして、今までの弱い自分と別れを告げた。
そんなサイゼは、ここからが新しい自分の始まりのだと心に決めた。
「よし!」「今度は負けない」
サイゼの表情に一切の迷いが無くなった。そして、躊躇無く皇帝モグラのテリトリーに足を踏む入れた。
一歩…二歩…三歩…『ドドド…』次の瞬間、地面が大きく揺れ出した。
地面からの振動でサイゼは身動きが取れなくなった。「来たか!」
『ドッシュン』地面から勢いよく170cm以上ある皇帝モグラが飛び出してきた。「クックック」
皇帝モグラの登場にサイゼは微動だにしなかった。すると皇帝モグラは、首を左右に動こしサイゼのいる場所を確認した。
サイゼは皇帝モグラの生態を事前に調べていた。皇帝モグラの二つ目の特徴は、視力が退化している事だ。以前のサイゼは、皇帝モグラの登場に驚いて動いてしまった。
皇帝モグラは発達している聴覚と嗅覚によりサイゼのいる場所を直ぐに察知し、当時のサイゼに攻撃を仕掛けたのだった…
サイゼは過去の失敗を踏まえ、皇帝モグラの対策を事前に頭に入れていた。
サイゼは開いていた右の掌を、閉じた…次の瞬間『ギギギー』皇帝モグラの目の前にあった大きな大木が勢いよく皇帝モグラに倒れて行った。
『グッサ』皇帝モグラは木が倒れる音を感じ取り、鋭い爪で落ちて来た木を勢いよく突き刺した。
『サッサ』サイゼは木を突き刺した皇帝モグラに出来た隙を利用し、素早い動きで皇帝モグラの背後を奪った。そして昔の借りを返す様に、全力のパンチを叩き込んだ。『ドッスン』「俺はお前を倒して未来に進む」
皇帝モグラはサイゼのパンチをモロにくらい、たじろいだ。しかしこの島のチャンプである皇帝モグラは、すぐに反撃に打って出た。『シュン!』皇帝モグラのバックハンドブローがサイゼに襲い掛かった。
サイゼは動揺せずに皇帝モグラの攻撃を避け、すぐさま茂みに身を隠した。
もう一度首を左右に振る皇帝モグラ。すると、すぐにサイゼが次の一手を仕掛けてきた。
『ビュン』『ビュン』何と5本の丸太が順々に皇帝モグラへ倒れ込んできた。
『グッシャリ』『グシャリ』皇帝モグラは、避けることはせずに丸太一本一本を確実に自分の爪で破壊していった。
5本全ての丸太が皇帝モグラに破壊され、地面に散らばっていた。そして皇帝モグラは地面に穴を掘り、一回地面に逃げ込んだ。
「クソ逃げられたか?」皇帝モグラが地面に潜ってから30秒が経過した頃。茂みの中に隠れていたサイゼが、中腰の姿勢から立ち上がったその時!
『ドッッスン!!』
なんとサイゼがいる周囲の15メートルが陥没した。
「クッソ」「ヤられた」
サイゼがいた地面が円状に3メートルほど下に沈んでしまった。
地面にできた落とし穴にサイゼが動揺している隙に、皇帝モグラも次の手を仕掛けてきた。
周囲の壁からロケットの様に皇帝モグラがサイゼがいる所まで突っ込んできた。
『グッサ』
皇帝モグラの攻撃がサイゼを掠め、サイゼの右腕から血が流れてきた。サイゼは何とか致命傷は避ける事が出来たが、皇帝モグラは新しい穴を作りまた何処かに消えていった。『ゴゴゴ』確実に地面を自由に動いているのが伝わった。
サイゼが次の攻撃に備えていると、また皇帝モグラがロケットの様にサイゼに向かって突っ込んできた。
皇帝モグラは何回も何回も場所を変え、サイゼに向かって突っ込んできた。時間が経つにつれ、攻撃の速度が上がっていく。
その度にサイゼの体に傷が増えていった。
「このままではヤられる…」「横も下も全て奴のテリトリーになってしまった」
「閉じ込められてしまった」「どうするば…」「!?」「横?下?閉じ込める…」
「あの技をするしかないな」すると、サイゼは今いる落とし穴の中心に立った。そして、両手を開きバンザイのポーズをしだした。
『念動支配下』そう叫ぶと、サイゼの周囲の空気が変わった。
勿論その変化に動物の皇帝モグラも感じ取った。なんと一瞬でわあるが、動きが止まった。次の瞬間!本能的に次の攻撃を最後にしようと、全力でサイゼに突進してきた。
『ドドドド』
今日一番のスピードで元々作っておいた穴から皇帝モグラが出てきた。『ビューーン』
皇帝モグラがサイゼの背後から猛スピードで突撃したその時!何とサイゼは目を瞑っていた。
『ピーン』「気配を感じろ!」「…」
「今だ!」すると、サイゼが上空に掲げたいた掌を地面に向かって振り下ろした。
何と上空から複数の大木が滝のようにながら落ちてきた。『ドカドカドカ』
不意とつかれた皇帝モグラの無防備な体にカウンター攻撃の様な強力な蓮撃がヒットした。
「はあ…はぁ…」「何とかうまくいったな」
サイゼは自分が操った大木を自分に当たらない様にうまく調整していた。「これがモグラ叩きってやつか!」
落とし穴の上では、こっそりとゼントがサイゼを見守っていた。
「この2年間で、脳波のフィールドを作り出す事ができる様になるなんて」
「しかも、そのフィールド内なら目に見えない物の位置まで把握できる様になっている」「何と言っても両腕から熱気も出しているじゃないか」
「脳波と熱気を組み合わせて、大量の大木を動かすなんて」「あと、前に戦ったライバルの技も盗んでたね」「やっぱり彼は天才だよ」
ゼントは、サイゼの勝利を確信すると何処かに消えてしまった。
「きっとこの匂いは、赤トリフだ」「奴が目覚める前にさっさと持って帰ろう」
この後、20分かけて周囲の洞窟からこの島では珍しい小さい赤トリフを見つけ出すのであった。




