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クォーター  作者: トーニ
憎まれっ子世に憚る
27/42

対戦相手に御用心

エピソード4



「……」「パンパカパーーン」「パンパンパンパン」「パカパーーン」



太鼓の陽気なリズムが、会場となるコロッセオに響き渡る。


4万人を越す来場者が、大会の開会宣言を今か今かと待ちわびていた。


すると、選手の入場口から緑色のスーツを着こなす、スキンヘッドの男がメガホンを持って走ってきた。


「えー皆様」

「お待たせしました」

「3年間も大いにお待たせ致しました」「武道大会こと…」「キャラバンにご来場」

「誠にありがとうございます」


「これより第68回キャラバンを開催致します」


『わーー』『わーーーー」会場が響めき、割れるような歓声が鳴り響いた。


「えー」「今回のキャラバンのレフリーを務めさせて頂きますレナードでございます」「よろしくお願いいたします」スキンヘッドで筋骨隆々のレフリーがメガホンを使い挨拶をした。


レナードがもう一度メガホンで叫び出した「今回の対戦方式は…」「2グループ制の勝ち抜き方式・トーナメント戦になっており。全て1日で行います」


「一対一での真剣勝負!」「武器の使用は禁止で、相手を殺してはいけません」「そして、制限時間はありません」


「勝利の条件は…」

「1、相手にギブアップをさせる」

「2、相手を気絶させる」

「3、特設会場の外に相手を出す」


「以上になります…」「では皆さん、戦いを見届ける準備は出来ましたか?」『ワー』『ワーー』

「それでは、参りましょう」「今回の決勝トーナメントを行う全選手の登場です…」



ー コロッセオの真ん中には縦・横25メートルの広さの特設会場が用意されていた。特設会場の床は、手のひらサイズの正方形の石のブロックが見事に敷き詰めたれた会場であった。



そんな特設会場へ選手達が一人づつ順番に現れた…


「まずは、赤グループの4人を紹介いたします。」


「第一試合!」「ナナシ選手〜」「前大会優勝者〜サイゼ選手!」


「第二試合!」「タロウ選手〜」「前大会ベスト4」「カスミ選手!」


「続きまして」「青グループの4人を紹介致します」


「第三試合!」「ガストン選手〜」「ヤマノ選手!」


「第四試合!」「ヤン選手〜」「マメ選手!」


「以上の8名で第68回キャラバン決勝戦トーナメントを行いたいと思います」「……」「それでは、一回戦の準備がありますので」「全選手は一回控え室にお戻りください」

「……」


特設会場では試合の準備を行う、複数人の大会実行委員会が忙しそうに動き回っていた。


それを、コロッセオのアリーナと特設会場の間にある。関係者席兼VIPルームに一人の少女が椅子の座り誰かが来るのを待っていた。


その少女の名はチョコである。チョコは、決勝に出場するタロウとサイゼの友人という事でこの席に招待された。

チョコが座る特別席には、トーナメントに出場する者の関係者やお金持ちが大勢座っていた。その席にはチョコが探している、


ジロウの姿を無かった…


「もうすぐサイゼの試合が始まるっていうのに」「ジロウは一体何処にいるの?」


チョコの願いも虚しく、第一試合の始まりを告げるアナウンスが入った。


「それでは第一試合に出場する選手のお二人」「特別会場の真ん中にお越しください」


レフリーから特別会場に呼び込まれた、ナナシとサイゼ。指定された会場中央までゆっくりと歩いてきた。


二人は、会場の中心でお互いの顔を見つめ合っていた。


相変わらずの全身白の衣装を身に纏い、表情が掴めないナナシ。一方、終始ナナシに対して怯えている印象のサイゼ。


会場の観客は、前回大会のチャンピオンである。サイゼに対し観客は友好的であった。「頑張れよチャンピオン!」


「前回みたいな勝ち方期待してるぜー」


サイゼに対する多くの応援に対して、当の本人は耳を傾ける余裕は無かった。


「あの全身白色の洋服の人は」「1週間前にサイゼと久しぶりに再会した時」「サイゼの話に出て来た人じゃないかしら」


チョコは、昨日の最終予選から、今に至るまで。白装束とサイゼの関係を、誰からも教えてもらっていなかった。


「確か白装束の人が、前回のキャラバンでサイゼをスカウトして」「世界の秘密を知るきっかけを作った人の筈だけど?」「その人と同じ人なのかしら?」チョコは、サイゼと白装束の関係を一旦考えるのをやめ。二人の試合に集中する事を決めた。



ー ジロウの事も気になるけど、今はサイゼの応援に集中しましょう


「それでは、第一試合…始め」


『ジャーーーン』


ナナシは徐に両腕を組み始めた。そして、サイゼに向かって攻撃を仕掛けてきた。まずナナシは足だけで攻撃を仕掛けて来た。


『シュッ』『シュッ』『パッパ』『パッパ』


サイゼは、両腕を使いナナシの蹴りをうまく受け流した。


「この攻撃は?」「…」サイゼは攻撃を全て受け流しているが、どんどん後ろに下がり特別会場の端まで追いあられていた。腕を組んだままのナナシは、次に右のハイキックでサイゼの顔面に向かって蹴りを繰り出してきた。


サイゼは、ギリギリで左腕を使いハイキックをガードした。ぶつかり合う二人が拮抗した状態で硬直していたが、まだ余裕そうなナナシがサイゼに話しかけてきた。


「全然強くなっていないね」「むしろ弱くなってる」「このままじゃ僕に負けちゃうよ」


ナナシの挑発に、ガードを外し右手のストレートをナナシに繰り出した。「今度はこっちの番です」


ナナシは腕を組むをやめず、バックステップを使い。軽々サイゼの連続パンチを避けて見せた。


「あの時の修行のメニューと同じですね」「今修行の続きでもやってくれているんですか?」「師匠?」


サイゼはナナシの事を師匠と呼び、敬意を払いながら会話をしていた。


「今師匠て言った?」チョコは、全てではないが、サイゼ達の会話が聞こえてきた。「確実に知り合いではあるみたいね!あの二人は」

チョコが独り言を言っている時、チョコの隣に行方知れずだったジロウがやって来た。「何だ?もう始まってるのか?」


ジロウが何食わぬ顔でチョコの前に現れたのである。


「ちょっと」「ジロウ?」「一日中探しても見つからなかったのに!」「何処行ってたの?」「心配したんだからね!」チョコは、驚きと心配が入り混じった感情を上手く処理できなかった。


「悪い!」「ちょっと試したい事があって」


「一人で修行してた」ジロウはあまり自分の考えを人に伝えたがらない人間であった。


「このままどっかに居なくなっちゃうと思ったよ!」チョコはジロウに対して、最近出来た仲間ではあるが、一緒いて居心地がいい奴だと思っていた。


「ある程度修行は終わったから、切り上げて来た」「どうしてもサイゼが、あの邪魔者をぶん殴るとこ見に来たかったんだ」


「ちょっと!?ジロウ!?」「タロウ達に話聞いたけど」「ある意味あのナナシって人に」「助けられてみたいな物でしょ?」


「最後あの人を殴らなければ」「あなたが勝っていたんでしょ?」チョコは、ジロウの自分勝手さに呆れていたが、それよりもジロウを心配する気持ちの方が勝っていた。


「あの時は…どうかしてた」「力を手に入れて」「すぐにその力を試したかったんだ…」ジロウの少し反省した態度に説教をするのをやめた。


「まあいいわ」「正直に話してくれて、ありがと」「所で手に入れた?力って…」


チョコがジロウに質問をしていた途中で、『うおーー』という観客の大きな声援が聞こえ。話を中断し特別会場に再度、目を向けた。


チョコは、特設会場に、謎の丸い物体を発見した…少し時間が経つと、その物体から手が生えてきた。


同じく特設会場の様子を目にしたジロウはこう答えた…「あれ白いやつと、サイゼだよ」


チョコはその物体を凝視すると、戦っていた二人が近距離でくっついていた。全く理解できないチョコは、隣にいた男性に状況を教えてもらった。



「あれはすごかったよ」「あんな動き見た事ないよ」「白い彼が、両手を組んだ状態で、前方にジャンプしたんだ」「助走もせずにだよ!」


「そしたら、サイゼ君にそのまま飛びついたんだ」「ちょっと説明が難しいんだけど、例えると」「肩車の上に乗る人の位置が逆側になったような体制になったんだ」「それから、サイゼ君は白い子を肩に乗せたまま前に倒れ込んだんた」

「どうだい?全然理解できないだろ?」


チョコは、隣の男性に教えてくれた事を感謝した。もう一度、特設会場を見てみると、丸い物体から出ていた腕は、どやらサイゼらしい。腕をバタつかせ苦しんでいるように見えた。


時間が経つにつれ、腕の動きが段々と小さくなっていくのが解った。チョコは、直感的にサイゼの意識がなくなるのを感じた。



ー きっとこのままじゃ負けちゃう!「サイゼ〜」「ナナシごと飛んでっちゃえ〜」チョコは、周りの観客には理解できない行動をサイゼに指示した。


すると…特設会場が段々と揺れ始めた。


「じ、地震?「でも特設会場だけ揺れてない?」周りの観客が異変を感じ始めた。


なんと、ナナシとサイゼがいる周辺だけ中に浮いていた。会場に敷き詰められていた石の板が空中に浮。二人を乗せたまま、勢いよく二人が場外に放り出せれた…


その瞬間、二人は消え。特設会場の端と場外には多くの石の板が散らばっていた。


「あれ?」「二人は何処言った?」観客は二人がいた場所を目で追ったが、そこには居ずに。特設会場の中心に二人がいた。


ナナシは組んでいた腕を解いていた。サイゼは地面に両膝を着き、自分の喉を手で押さえ苦しそうに咳をしていた。


「サイゼくんすごいよ」「締められていたのに、よく頭が回ったね」ナナシは、両手で拍手をしサイゼを褒めた。


「師匠のおかげだよ」「頭以外動かせなかったから」「あんな事ができたんだ」


サイゼは、ピンチをチャンスに変えて見せたのだった。


「そうなんだ知らなかったよ」「君の技は本当に希少で、僕でも解らない事だらけだよ」「きっとアレを脳から出してるんだね?!」


「まあ!そんな事より」「よく僕の締め技から脱出する方法を見つけたね」「きっと君の新しい友達の助言のおかげだね」




「会場ごと僕を場外へ落とそうなんて」「しかも僕の締め技が緩んだ隙に、僕の腕を掴んでいたね」「僕の腕を掴んで、逃げた僕と一緒にここまで移動するなんて」「流石僕の元弟子だね」ナナシは、純粋にサイゼの判断に感動をしていた。




ナナシの褒め言葉に答える様に、サイゼが三年前と違う自分を説明した「身体のトレーニングは全くやっていなかったけど」「お金を稼ぐために」「悪い方に頭を使った事が、結果的に’脳波のうはを強化すること繋がったのかもしれません」


「意外と師匠から逃げ出したことも」「全部無駄じゃなかったかも」


サイゼは独自の解釈で、3年前との違いをナナシに示した。


するとナナシは声色が変わり不機嫌そうな声に変わった。

「……」

「いや」「逃げ出したこと肯定しないでね」「本当はまだ許してないんだからね」「それで、君が居なくなったおかげで」「僕の仕事内容は増える一方だったよ」


「しかも、今回の3年ぶりの休みも」「君が逃げ出さずに僕の右腕になるまで島にいてくれたら」「僕の休みも、もっと増えてたよ」


「…」ナナシの声が聞こえる特別席の観客は、ナナシが急に毒舌になり。日頃の愚痴を吐き出していた光景に驚かされた。


それを聞いていた、サイゼが食い気味で反論した。「それなそうと言ってくれれば」「しかも、笑顔で俺を逃がしてくれたじゃないですか?」


「あれは君がすごく号泣して頼んできたから」「何だか可哀想になって!つい」「僕の勝手な判断でやった事だから」

「物凄く怒られんだからね」「あの時僕は12歳だったし」「ちゃんとした判断ができなかったんだよ」

ナナシの発言で、ナナシが今15歳である事が判明した。それにより、これまでの発言が妙に違和感がなくなった。


15歳ならしょうがないか!という空気感に会場は包まれた。


「師匠年下だったんですね」「でも師匠が俺を逃してくれたお陰で今新しい仲間に会え」「もう一度、師匠に会う事がきました」

サイゼは、ナナシの年齢には驚かされたが、非常にナナシには感謝していた。


サイゼからの気持ちを受け取り、ナナシは先ほどとは違い。拳を構えた。「3年前の『僕に拳を握らす』の試験はやっとクリアーできたね」「じゃあ次の試験だよ」「僕の顔に一発パンチを喰らわせろ」「いつでもかかって来なよ」


「今は俺のペースだ」ナナシの発言を聞きサイゼは、ナナシに向かって突進していった。すると、すごい勢いで連続パンチを繰り出してきた。


ナナシは全ての攻撃を避け、拳を握り、腕を引いた。次の瞬間、『ドスン』という音と共にサイゼが場外に吹き飛ばされていた。


レフリーが壁にめり込んでいたサイゼの意識を確認すると、特設会場にいるナナシの前にやって来ると。ナナシの左手を高らかにあげ、ナナシの勝利を宣言した。


「只今の試合」「サイゼ選手の戦闘不能により」「ナナシ選手の勝利です」


『わーーー』『わーー』ほとんどの観客が見た事のない戦いに、多くの観客が魅了されていた。


ナナシは、レフリーの指示で会場を後にした。


そして、特設会場に残っていたレフリーが、観客達にアナウンスをした。


「只今、破損した特設会場の床の一部を交換いたしますので、それが済むまで少々お待ちください」


「すごい試合だったね」「サイゼも頑張ったけど、ナナシって人!強すぎよね」


チョコは、ジロウに、先程の試合の感想を述べ、ジロウの意見を聞いた。


「俺なら楽勝だ」ジロウの強気の発言に、強がっちゃって!可愛いわね!と密かに思った。


ナンダカンダしていると、特設会場の修理が終わった。すると、関係者口からレフリーが出てきた。


「えーとですね」「特別会場の床の石の張替えが終わりましたので」「第二回戦を開始致します」


『わーー』『わーー』先程の試合で観客の熱気が上がり、次の試合の期待感が増していた。



「それでは第二試合の参加者の方々」「こちらにお集まりください」レフリーが呼び込むと。タロウと褐色の肌の男性が現れた…


特別観客席から、タロウを応援するために。チョコとジロウが席の一番前に移動していた。


「では」「試合始め!」試合が始まったと同時に、チョコとジロウの後ろに人影があった。


…何とそこに、包帯でグルグル巻になったサイゼが現れた。


「俺の戦いのときは最前列じゃなかったけど」「なんでだよ」「寂しいじゃないか」


ボロボロになったサイゼで有ったが、小言を言える程、元気であった。


「あなたの試合は人気で前で応援出来なかっただけよ」サイゼには、そう伝えたが。タロウの試合の方が応援に対する熱を感じた。


サイゼはジロウを見つけるとホッとした顔で「なんだ来てたのか」「帰って来てくれて良かったよ」


短い間ではあるが、確実にサイゼはジロウの事を認めていた。


「ふん」「あんなヒョロイ奴に負けるなよ」ジロウは、ニヤッとしながらサイゼを煽った。


「ヒョロイって」「師匠は」「お前よりデカイし、お前の方がチビだろ!」サイゼは師匠を馬鹿にされ、少し意地になった。


「きっと俺はすぐにデカくなるぞ」ジロウの発言にサイゼは、妙に納得した。


「それよりも」「タロウは大丈夫か?」サイゼは、真顔でタロウを心配した。


「え!?何で?」「タロウくんなら大丈夫でしょ?」「……」「そんなに強いのタロウくんの相手?」


「前回の大会で、戦いはしなかったが」「かなり目立ってた印象だった」「それが3年経って、より一層強くなってる印象だ」「体が前回よりゴツくなってるし、奴から自信を感じる」


チョコはサイゼが、タロウの対戦相手の事を警戒していたので急にタロウが心配になった。


「……」「大丈夫かしらタロウくん?」チョコは、サイゼ達の会話を中断すると。特設会場を確認した…


「試合終了〜」


「え?」「もう終わり?」チョコは、倒れている人物を確認した。「もしかしてタロウくん?」


そこには、特設会場に大の字になって伸びている『カスミ』選手がいた。


「ほー」「タロウの奴やるじゃん!」ジロウは、特設会場の真ん中で拳を掲げるタロウを見て感心していた。


「やっぱりタロウくん凄いじゃない」チョコはタロウの勝利にホット一安心した。


ーあいつ急に強くなりすぎだろ。成長速度が異常だ。サイゼはタロウの成長ぶりに恐怖を覚えていた…



それをコロッセオの選手控え室でナナシが見ていた「やはり彼か…」「予言の子は…」


2組の戦いが終わり、赤グループの試合が全て終わった。残すは青グループの4人である。


しかし、優勝候補のナナシはタロウの事しか考えていなかった…


この後、大きな出来事はなく。青グループの試合が終わった。


そして、最重要のナナシ対タロウが今始まろうとしていた…




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