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第九訓 勝手に他人のスマホをいじるのはやめましょう

 「め……名案……かあ? それ……」


 立花さんの口から出た『お互いの幼馴染を自分の元に奪い返す為に、お互いに協力し合う』という突拍子もない話に、俺は思わず目をパチクリさせる。


「……何よ、その顔は?」


 当惑する俺の反応に、立花さんは不満げな表情を見せた。


「あたしとアンタが連携して、あのふたりの関係が発展するのを妨害するの。それと同時に、それとなく自分の幼馴染にアプローチをかけていってさ。それで、どっちかが幼馴染と恋人同士になれたら、もう片方にも幼馴染をゲットできるチャンスが出来る訳じゃん!」

「ま、まあ……確かにそうだけど……」


 立花さんの主張に、どう判断していいか解らず言い淀む俺。

 すると彼女は、おもむろに右手を俺の方へ伸ばしてきた。


「ねえ! スマホ貸して!」

「……へ? な、何で?」


 突然の要求に、俺は当惑を隠せない顔で訊き返す。


「い、いきなりスマホを出せって……話の脈絡が分からないんですけ――」

「いいから! ゴチャゴチャ言ってないで、早く出しなさいッ!」

「は……はいっ!」


 目を吊り上げながらの立花さんの強い口調に気圧された俺は、慌ててスマホを取り出した。

 そして、おずおずと彼女に向けて差し出す。


「気が利かないなぁ! ロックも解除してよ!」

「アッハイ」


 居丈高な立花さんの要求にも素直に従し、俺は液晶画面の上で指を滑らせて、ロックを解除する。

 すると、立花さんは、まるでスリのような鮮やかな手際で俺の手からスマホをひったくると、着ていたパーカーのお腹の部分に付いたポケットから、ウサギ耳が付いたピンク色のハードケースが嵌ったスマホを取り出した。


「あ……あれ? 持ってんじゃん、スマホ……」

「……」


 てっきり、スマホを忘れたか何かした立花さんがどこかへ連絡する為に借りようとしていたのかと思っていた俺は、思わず驚きの声を上げる。だが、彼女は俺の問いには応えず、両手でふたつのスマホを同時に操作し始める。

 両手の親指を器用に動かして、画面をタップしたりスワイプし、更には俺のスマホのカメラで立花さんのスマホの画面を撮影したりもする。

 その間、俺は呆気に取られたまま、彼女のする事をただただ傍観しているだけだった。

 ――それから三分ほど経ってから、彼女は「……よし!」と、満足げに呟く。

 そして、


「はいっ! アリガト!」


 と、大した謝意も感じられない感謝の声を俺にかけると、無造作に俺のスマホを突っ返してきた。


「あ……うん」


 俺は、戸惑いつつスマホを受け取り、まだ開いたままの液晶画面を一瞥する。

 画面はいつの間にか、LANEのホーム画面になっていた。

 ……その時、俺はある違和感を覚える。


「……あれ? なんか増えてる……?」


 そう。ホーム画面に並ぶフォローアカウントの一番上に、見慣れぬアイコンがあったのだ。


「こんなアカウント、登録してたっけ……?」


 思い当たる節の無い俺は、そう訝しげに呟きながら、そのアカウント名を読み上げる。


「ええと……アール・ユー・エル・エル・ワイ……何コレ? ろ、ロリー……?」

「“ルリー”だってば、“RULLY(ルリー)”!」


 見慣れぬアルファベットの羅列に首を傾げる俺に、怒ったような声を上げる立花さん。

 突然怒られた俺は、キョトンとしながら彼女の顔を見返す。

 すると、立花さんはニヤリと口角を上げ、エヘンとばかりに胸を張った。

 その顔と仕草を見た俺は、唐突に理解する。


「ま、まさか……! こ、このアイコンって――君の?」

「そう!」


 俺の上ずった声に、立花さんはニシシと笑いながら、大きく頷いた。


「“瑠璃(るり)”だから“RULLY(ルリー)”! どう、結構イイ感じでしょ?」

「い、いや、まあ、そうだけど……」


 俺は戸惑いながら、訝しげに首を傾げる。


「なんで、いきなり俺のLANEに友達登録を……?」

「そんなの決まってるでしょ!」


 俺の問いかけに、彼女は口を尖らせながら声を荒げた。


「これから、あたしとアンタは、お互いの幼馴染をゲットする為に協力し合うんだから、お互いに連絡を取り合えるようにしとかなきゃでしょ!」

「い、いや……俺はまだ、君の案に乗るなんて言ってな――」

「さっき、『それはそうだ』って同意したじゃん」

「いや、あれは“同意した”って意味じゃなくって――」

「何よ。じゃあ、アンタはあのふたりが順調に行くところまで行っちゃってもいいって言うんだ?」

「……っ!」


 不意に真剣な表情を浮かべた立花さんが、低い声で紡いだ言葉に、俺は絶句する。

 そんな俺の顔をじっと見つめながら、立花さんは更に言葉を継ぐ。


「それで……そのうち、ふたりの結婚式に呼ばれて、チャペルでふたりがキスするところを見せられたり、キャンドルサービスの時に言いたくもないお祝いの言葉をかけてあげたり、幼馴染として披露宴でスピーチさせられたりしてもいいって言うんだ?」

「そ……それは……」


 立花さんの言葉を聞いた俺は、無意識に後退りながら、激しく頭を左右に振った。


「それは……絶対に嫌だ! み、ミクの結婚式で隣に立ってるのは、この俺だ! だ、断じて、あんなヒョロガリ鬼畜メガネヤローなんかじゃ無ぇ……痛ぇっ!」


 興奮して捲し立てた俺は、突然脛を蹴りつけられて悶絶する。

 そんな俺を険しい目で睨みつける立花さん。


「ちょっと! 誰がヒョロガリ邪悪メガネだってッ? アンタも人の事言えないくらいの虚弱体型じゃない! それに、ホダカは鬼畜メガネなんかじゃないよっ!」

「い……いや、果たしてそう言えるかなッ? 実は本性を隠していて、メガネを外すと人格が変わったり、CV(中の人)が子〇武人だったり石〇彰だったりするに違いないんだッ!」

「ちょっと! こんな所で〇安ファンや〇田ファンにまで喧嘩売らないでよッ!」

「痛っ!」


 今度は頭を引っぱたかれた。

 だが、そのおかげで、頭に上った血が少し冷える。


「……分かったよ」


 俺は、ズキズキする頭を押さえながら、立花さんに向けて頷いた。


「アイツの結婚式に、新郎以外で参加するのは、絶対に嫌だ。ここは君の言う通り、それぞれの恋愛成就の為に、お互いに協力しよう」

「……うんっ!」


 俺の答えを聞いて、目を輝かせる立花さん。

 そんな彼女に頷いた俺は、おもむろに右手を差し出す。


「じゃあ……これからよろしくお願いします」

「……なに、その手?」


 だが、彼女は目にありありと不審の光を浮かべながら、手を差し出した俺の事を睨みつけた。

 俺は、警戒しきった彼女の態度に戸惑いながら、おずおずと答える。


「あ……いや、こういうのって、握手するもんだろ?」

「え……そういうの、別にいいです」

「……」


 そうか……敬語になるくらい、俺と握手をするのが嫌なのか……。

 俺は、そこはかとない敗北感を胸に抱きながら、彼女と手を組んだ事を早くも後悔し始めるのだった――。

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