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第二百七十五訓 奢ってもらったらキチンとお礼を言いましょう

 「ごちそうさまでした、藤岡さん」


 会計を終えて“寿司王(スシオー)”から出て来た藤岡に、一足先に外に出て待っていた俺たちは頭を下げた。


「ホントに奢ってもらっちゃって……」

「え? あ、ああ、うん」


 俺の言葉に、空返事をする藤岡。スマホに目を落とす彼の表情は暗い。

 もしかしなくても、ここでの会計が、彼の財政状況を著しく悪化させたらしい……。


「あ……や、やっぱり、自分たちが食った分は払います……」

「え? あ、いやいや」


 さすがに罪悪感を覚えて、割り勘しようと財布を取り出そうとしたが、そんな俺に藤岡は首を横に振った。


「だ、大丈夫だよ。奢ると言ったのは僕の方だからね。気にしないで」

「は、はあ……」


 言葉とは裏腹に、明らかに大丈夫そうじゃなさそうな顔色をしながら、それでも微笑む彼を前にして、俺は申し訳なさでいっぱいになりながら手を戻す。


「ほ、本当にすみません。今度機会があったら、俺の方が奢りますんで……」

「おっ、本当かいっ?」


 罪悪感から口にした俺の提案に反応したのは、藤岡じゃなく、ただでさえ出っ張った腹を更にパンパンに膨らませた豚野郎(一文字)だった。


「じゃあ、いつにしようか? 今度は焼き肉がいいなあ……あ、いや、駅ビルの最上階に入っている中華点心の店も捨てがた……痛ッ!」

「テメエには言ってねえよ“暴食”のグラト〇ーッ! 賢者の石のストックが切れるまで何度でも焼き殺すぞボケ!」

「それは違うよ本郷氏! 大佐に死ぬまで何度も焼かれたのは、グ〇トニーじゃなくって、“色欲”の〇ストの方……痛いッ!」

「どっちでもいいわ、そんな事ッ!」


 一文字が浮かべた、まるで“傲慢”のプラ〇ドのような嫌味たらしいドヤ顔にイラっとして、そのふくらはぎにローキックを放つ俺。

 蹴られた脚を抱え、ゴム毬のように跳ねながら痛がる一文字の事は置いておいて、俺は藤岡に向かって頭を下げる。


「その……今日は、相談に乗ってもらって、ありがとうございました」

「あ、ああ……どういたしまして」


 俺の礼の言葉に、藤岡は戸惑った表情を浮かべながら頭を掻いた。


「……と言っても、そんなに役立ちそうな事は言ってないような気がするけどね」

「いえいえ……」


 藤岡の言葉に、社交辞令的に首を横に振る俺だったが、内心では(……確かにそうだなぁ)と同意する。

 ――あの後、藤岡から、『彼がルリちゃんと一緒に出掛ける時に着ていく服の傾向』について色々聞き出したが……それは傾向と言えるほどの統一性が無く、結局『ルリちゃんが好むであろうファッション』が何なのかは分からずじまいだった。

 というか――『藤岡だったら何を着ててもルリちゃん的にはオッケーだった』っていうのが結論のような気がする……。

 ……単に、男のファッションに拘るタイプじゃないだけかもしれないけれど。


「結局……ファッション誌とかに載ってるデートファッションを丸パクリするのが無難ぽいなぁ」

「……ん? 何か言ったかい?」

「アッいえ! こっちの話っス!」


 無意識に呟いた独り言を聞きつけた藤岡に問いかけられ、俺は慌ててかぶりを振った。

 そんな俺の反応に怪訝そうな表情で首を傾げた藤岡だったが、気を取り直すように咳払いをしてから、駅ビルの方とは反対の方向を指さす。


「僕は地下鉄(あっち)だけど、君たちは違うかい?」

「あ……はい、俺は赤発条(あかばね)線っす」

「ボクは北武線ですぞ!」

「そっか」


 俺と一文字の答えを聞いた藤岡は、「じゃあ、ここで解散だね」と言って微笑み、俺たちに向かって軽く頭を下げた。


「今日は楽しかったよ。また会おう」

「ボクも楽しかったですぞ!」


 藤岡の社交辞令っぽい挨拶に、一文字は大きく頷く。


「是非とも、またお食事をゴチに……ぐふふ」

「あ、いや……そ、そうだね……」


 まるで某カードゲームの“強欲な壺”もかくやというような気持ちの悪い笑みを浮かべながら揉み手をする一文字に、藤岡は顔を強張らせながらぎこちなく頷いた。

 ……まあ、遠慮の“え”の字も無く、高額ネタ(色付き皿)ばかり十皿以上食ってからデザートのチョコパフェとバニラストロベリーアイスクリームまで残さず平らげ、その上で更なる次の機会(タダメシ)を切望するような食欲と図々しさの権化のような奴に対してにこやかに接しろというのは無理な注文だろう。むしろ、頭ごなしに怒鳴らないだけ偉い……。


「ほ、ホントにすみません。この埋め合わせは、次の機会に必ず……」

「はは、期待してるよ」


 なぜか責任を感じて頭を下げる俺に爽やかな微笑みを向けた藤岡は、「そうそう」と続けた。


「ルリの事を頼んだよ」

「え? あ……はい」


 唐突な藤岡の言葉に、一瞬何の事か分からず戸惑った俺だったが、すぐに意味を解してコクンと頷く。


「秋祭りの事ですね。解ってます。ボロを出さずにルリちゃんの彼氏役を演じられるよう、頑張ります!」

「あ……うん。まあ、確かにそれも頼みたいんだけどね」


 だが、俺の決意表明を聞いた藤岡は、少し困り笑いを浮かべながら言った。


「良かったら……そこからもう一歩先に進む事も考えてもらえないかなぁって」

「……? もう一歩先に……?」


 藤岡の言いたい事が何なのか良く分からず、俺は首を傾げる。


「どういう意味っすか? 『もう一歩先に進む』って……どこへ?」

「ごめん。さすがに抽象的な喩え過ぎて分かりづらかったよね」


 俺の問いかけに苦笑いを浮かべながら頭を掻いた藤岡は、「つまり……ね」と言いながら、俺の目を真っ直ぐに見た。

 それから、藤岡は真顔になり、真剣な口調で言葉を継ぐ。


「……“彼氏役”じゃなくて、ルリの本当の彼氏になってやってくれないかな?」


 ――と。

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