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第百二十八訓 分からない事があればググりましょう

 「まっず……!」


 RULLYのトーク画面に、『またオレなんかやっちゃいました?』という、どこかの転生チート主人公みたいなメッセージが表示されてしまったのを見た俺は、顔面から血の気が引くのを感じながら、しきりに首を左右に振った。


「だ、だだ大丈夫だ。ま、まだ慌てるような時間じゃない……」


 と、俺は自分を落ち着かせるように独り言ちながら、スマホの液晶画面に忙しく親指を動かす。


「た……確か、LANEには、間違えて送ったメッセージがあったはず……」


 立花さんの目に触れる前に、こんなとぼけたメッセージは消しとかないといけない……!

 そう焦りながら、俺はLANEのメニューボタンや入力欄を押しまくって、どこかにあるはずの『メッセージを消せる機能』を探す。

 ……だが、どこを押しても、目当ての機能は一向に見つからなかった。


「こうなったら……!」


 自力で探し出す事を諦めた俺は、即座に次の手段へと移る。

 一度LANEの画面を消し、それからブラウザを起動し、『LANE メッセージ 消す方法』と入力し、検索ボタンを押した。

 コンマ数秒の時間をおいてから、画面に検索結果がずらりと表示される。


「……最初っからググッときゃ良かったな……」


 少し後悔しつつも安堵の声を漏らした俺は、親指で画面をスワイプしながら、表示されている中で一番分かりやすそうなまとめページを探してタップした。


「ふむふむ……なるほど……!」


 どうやら、間違えて送ったメッセージを長押しすると表示されるメニューの中に『送信取消』というボタンがあるらしい。

 それを確認した俺は、一度消したLANEのトーク画面を再表示させる。


「よ、よし……まだセーフだな……!」


 『またオレなんかやっちゃいました?』のメッセージに“既読”表示がまだ点いていないのを見た俺は、ホッとしながらメッセージを長押ししようと――したが、


「あ――ッ!」


 指が画面に触れる寸前で、唐突に“既読”の文字が表示されたのを見て、思わず絶望の叫びを上げた。


(見られた――!)


 今度は全身から音を立てて血の気が引いていくのを感じながら、俺は固唾を呑んでトーク画面を凝視する。

 そして、約五秒後――、


 “ピロリンッ”


「ひっ! 来たっ……!」


 手にしたスマホからの通知音と振動(バイブ)に、俺は悲鳴を上げた。


「……」


 俺は、深く息を吸ってから、薄目で恐る恐るスマホを覗き込む。

 ――トーク画面に届いた返信は、これ以上なくシンプルだった。


『は?』

「ひ――ッ!」


 たった二文字の返信を目にした瞬間、俺は恐怖で縮み上がる。

 文字だけのはずなのに、立花さんの「は?」という声と、呆れ果てたと言わんばかりの表情を浮かべた顔が、まざまざと脳内再生されたからだ。

 と、


 “ピロリンッ”


 再び軽快なチャイム音が鳴る。

 再びびくりと体を震わせた俺は、嫌な予感を覚えつつ、勇気を振り絞ってスマホの画面に目を遣ると、そこにはさっきよりも長いメッセージが新たに表示されていた。


『まさか、昨日の事覚えてないの?』

「う……」


 シンプルなメッセージに、胸を抉られる感じを覚えると同時に、昨日の俺が何かをやらかした事が確定した事を改めて思い知らされ、絶望感に頭を抱えた俺だったが、


「……うん、ここは前向きに考えよう」


 すぐに顔を上げると、自分に言い聞かせるように呟きながら深く頷いた。

 ……この返信(リアクション)から察するに、立花さんは俺が酔って忘れてしまった昨日の顛末を知っているのは間違いない。

 だったら、今この場で訊けばいいだけだ。元々、そうしようと思って立花さんにLANEしようとしたんだし……。

 問題は、昨日の事を覚えてないって返したら、彼女からどんな辛辣な返事が来るかだが――それは、まあ……しょうがない……うん。

 そう考えながら、俺はトーク画面のメッセージ入力欄をタップし、返信文を入力する。


「ええと……『申し訳ないんですが、覚えてないです』……と。これでいいか……多分」


 入力したメッセージを見返した俺は、そのまま送信ボタンを押した。

 ……文章がシンプル過ぎるような気がしないでもないが、どう言葉を飾ろうとも『覚えてない』という趣旨は変えられないから、ここはストレートにいった方が逆に良いだろうとの判断だ。


「……」


 メッセージを送信した俺は、針の筵の上に座らされている気分で、トーク画面を凝視する。

 だが、送ってすぐに“既読”の表示が点いたものの、立花さんからのリアクションはなかなか来なかった。


「あれ……?」


 俺は、うんともすんとも言わないスマホを前に、訝しげに首を傾げる。


「どうしたんだろ……? 既読ついてるから、もうメッセージを見てるはずだよな……?」


 せっかく決めた覚悟をすかされたようで、ホッとしたような拍子抜けしたような気持ちを抱く俺。

 何となく落ち着かないまま、取り敢えず食べ終わった食器を片付けようと席を立った。

 ――と、その時、


 ピロリロピロリロピン♪ ピロリロピロリロピン♪ ピロリロピロリロピン♪


「わっ!」


 沈黙していたスマホが、唐突に軽快なメロディー音を奏で始め、俺はビックリして仰け反った。


「こ、この音……通話の着信……!」


 慌てて液晶画面に目を落とすと、さっきまでのトーク画面から、黒くなった画面の真ん中くらいに“RULLY”というアカウント名と『通話』『拒否』のボタンが並んでいるLANE通話の着信画面に変わっていた。

 ……どうやら、メッセージのやり取りじゃすまなくなった立花さんが、直接通話しに来たらしい。


「マジかよ……」


 さすがにこの展開は予想だにしていなかった俺は、愕然として頬を引き攣らせる。

 だが、いつまでこうしていても始まらない。

 俺は、仰天した気持ちを落ち着ける為に大きく深呼吸をしてから、けたたましい着信音を鳴らし続けるスマホを手に持ち、震える指で緑の『通話』ボタンをスワイプした。

 そして、おずおずとスマホを耳に当て、緊張でざらついた声を上げる。


「……も、もしも――」

『アンタバカぁッ?』


 俺の声を遮って、受話口から上がったのは、聞き慣れた罵倒の声だった――。

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