モブはエコーロケーションを覚えた
◇◇◇
ズガァァアアアン……
ズガァァアン……
ァァアン……
ン……
猟師が銃をぶっ放したような音が、壁に何度も反響して俺に届く
カラカラカラ……
振動で崩れた岩の欠片がパラパラと俺の頭に落ちてくる。
(いてて……痛ったぁ〜〜。……ふぅ。なんとか出られたぁ〜〜〜〜!!)
気がつけば、俺は爆発の衝撃で口から尾を吐き出していた。
身体はまだギシギシと音を立てて収縮を繰り返しているが、体感的には元の大きさとほぼ同じくらいまで戻っているような気がする。
チロチロと舌を出しつつ鎌首をもたげて辺りを見回してみるが、周囲には卵の殻の欠片と小石が散乱しているだけで、生物らしいものは近くに居ないようだ。
外に出てきたというのに、辺りは暗い。
見上げれば、“狭い空”には星が幾つも見える。
どうやら今は夜らしい。
(ほえ〜。やっと息苦しさから解放されたけど結局暗いのか〜〜。とりあえず寝た方がいいのかな?)
外には出られたものの、結局何をしていいか不明だ。されとて、こちらで生きることに特に何か目的をもって生まれ変わった訳ではない。ただ俺は、自分の思いつくままに生きてみたいと思っただけである。
前世では、いつも“誰か”と比べられて生きてきた。萌香や、周りの優等生達。ここに彼等はいないし、たとえモブでも死にはしない程度の力さえあればいい。
食べたいものを食べ、疲れたら寝て、誰かから押し付けられた義務や責任に振り回されることのない。そんな生活が送られればいいのだから。
そんなことを考えていると、頭の中にブワァと地図のようなものが浮かび上がってきた。
(っえ!? 何コレ何コレ!?)
ズォォと浮かび上がる地図は立体的で、俺を中心にして描かれているようである。地図によれば、俺は大きな地の裂け目のような場所にいるようだ。
(ほええ……どうりで空が狭いと思ったらここは峡谷の底なのか)
卵の中でも感じたことではあるが、この身体。どうやら物の振動を通じて“空間把握”をすることができるらしい。種族として自然と持っている力だということを直感的に理解する。爆発音の反響を通じて、エコーロケーションのように周囲の状況がわかったのである。
こうした感覚は人間の時には無かった物なので不思議な感じもするが、結局は自分が理解できる状態でしかうまく認識することができないために、立体地図のような形に脳が変換してくれているのだろう。
(めちゃめちゃ便利だな……流石は異世界──というか、邪竜か?)
俺は改めて、自分が転生したものがこれまでの自分とは全く異質な存在であるということを再認識する。
(何はともあれ、周りに敵性反応はなさそうだし、ひとまずゆっくり眠らせてもらうか)
よほど疲労が溜まっていたのか、目を閉じると俺はあっさり意識を手放した。
◇◇◇




