モブvs卵!!
◇◇◇
(まさか、こんな落とし穴があるなんてな。いや、穴が開いてたらそこから出たんだが、ッフフ)
少し自暴自棄になってきた、卵が割れないことには外に出られない。
外に出られないってことは、何も食べることができない。つまり、俺以外の存在から力を取り込むことができない。
このまま何も口にできず体力が尽きれば、いつか俺は死ぬだろう。
つまり、時間が経てば経つほど俺は不利になるのだ。
とは言えもしかすれば、外にいる生き物が俺の卵の殻を砕いてくれるかもしれない。
だがこの場合には、もっと大きな別の問題が存在してしまうことになる。
俺自身が卵を割れない程の力しか無いということ。
これは裏を返せば、この卵を割ることができるような存在に出会った時、俺は恐らく勝てないということに他ならないからだ。
まあ、モブとはいえ腐っても龍種。そうそうそんなことにはならないと思いたいが……
(何とか自力で脱出する。どうやらそれしか道はないな)
内側から壊すことができないなら、何か外にある硬いものにぶつけてしまえばいい。
俺は狭い隙間の中で何度も自分の身体の位置を変え、何とか卵を動かせないか試みる。
ガタガタ……
卵は揺れるが、転がりそうな気配はない。
(いや、諦めんぞ……俺は! いまやらないで、いつ頑張るんだ)
ガタガタ……ガタガタ……
◇◇◇
ガタガタ……
ガタ……
……
あれから何時間、いや、何日が過ぎたのだろう
ものすごく長い時間が経っている様な気もするし、実はそれほど経っていないのかもしれない。
真っ暗な闇の中で、周囲からは俺が立てる音以外に何も聞こえない。
時間の経過を知る術はない。
だが一つ言えることは、俺は確実に弱ってきているということだ。
精神的な疲れもあるのかもしれない。
もう激しく身体を動かすことは愚か、身を捩るのさえ億劫だ。
(ああ、モブが身の丈に合わない野望を持つからこんなことになるんだ。やっぱりあの時、大人しく耳長族を選んでればよかった)
俺の脳裏に、ラブリエルが選ばせたがっていた耳長族の姿が浮かぶ。彼女の言葉に従っていれば、きっと今頃は美しい母親の胸に抱かれて、乳を飲んでいるに違いない。
なんでよりにもよって蛇なんぞに転生したのだろう。
(邪竜ウロボロス……か。そういえば、ウロボロスってどんな蛇だったっけな。なんか、元の世界にも同じ名前の蛇がいたような気がするな……)
朦朧とする意識の中俺が思い出したのは、自分で自分の尾を飲み込む蛇の絵だった。前世でそれを見た時は、なんだか気味の悪い蛇だと感じたくらいだったが、まさかそれに転生するなんて思いもしなかった。
(はは……自分で自分を食ってやがったな。はは……は……?)
その時、俺は一つの可能性に気がついた。
まさか、これが答えではないのか?
自分で自分を喰らう。何とも馬鹿げた考えだが、もはや力も尽きかけ、時が解決してくれるという望みもないいま、俺が唯一取ることのできる行動は。
(だけど……)
普通に考えれば、明らかに間違っている。そんなことをしても自分の死を早めることにしかならない。普通なら。
(いや、そもそも普通って何だよ。俺は転生までしてるんだぞ? 普通あるかよこんなことって。……ないよな? 普通に考えたら……)
俺の知っているこれまでの世界とは、多分もうその普通の基準が変わってしまったのだ。
俺はついに、覚悟を決めた。
◇◇◇