モブは家族の絆をリビルドする
◇◇◇
俺はアシェルを伴い、丘の上の小屋にはいる。
木の床がきしり、小さな窓から差し込む朝の光が、薄く埃を照らした。ここは、かつてアシェルとその妻子が過ごした家だ。
「こっちだ」
俺は寝室の扉を開け、そこに眠る二人の姿をアシェルに見せた。ベッドの上には、ウェーブがかった金髪の美しい女性と、その顔にそっくりな金髪の少年が静かに寝息をたてている。
「エヴリン! マルス!」
アシェルはその姿を見るや否や飛び出して、二人を抱きしめて号泣した。
しかし、二人は目覚めない。それは──魂がもうそこにないからだ。
「……なぜだ? 二人は、どうして目を開けない。温かい。息も……なのに、なぜだ?」
「二人の身体は、あの祠にあった遺灰から俺が再構築した。だが、あそこにはもう二人の魂はなかった」
俺が答えると、アシェルは肩を落とした。けれど、それだけで終わりではない。
「確認だが……アシェル。デュモスは、お前と契約を交わす時言ったんだな? 二人を“蘇らせる”──と」
「ああ。やつは、そう言っていた」
アシェルは泣き腫らした目で力無く応える。
「そうか……それなら──」
ラブリエルは言っていた。魂は世界を巡る、と。また、そのとき前世の記憶は綺麗に洗い流される、とも。だから蘇らせるには、その魂が輪廻の輪に還る前に捕まえておく必要がある。
もしアシェルが妻子の死後すぐに、デュモスと契約したのだとしたら──。
「二人の魂は一度死んだ時、輪廻に踏み出しかけていたはずだ。そこにデュモスが口を挟み、“蘇らせる”ために魂を掬い上げた……と考えるのが自然だろう」
つまり。
「アシェル。お前の妻子の魂は恐らく──あのデュモスという悪魔に囚われている。だから、アイツを倒して魂を取り戻すことが叶えば、お前の妻子は再び目を覚ますはずだ」
「……な、なんだと!? それは、本当か?」
アシェルは縋るような眼差しでこちらを見つめたかと思えば、床に手をついて懇願する。
「どうか……どうかエヴリンとマルスを助けてやってくれ! 俺はどうなってもいい! だが、彼女たちだけは……お願いだ……どうか……どうか……」
その背は震えていた。それは英雄と呼ばれたほどの男のものとはとても思えない。弱く、小さな男の背中だった。
俺はその背にゆっくりと手を当て、そのまま優しく抱擁した。こういう時、どうすれば良いかなんてわからない。ただ、同じ空っぽを知る者として、そうしてやりたいと思った。それくらい、その頼りない背中が、なぜか愛おしく思えた。
「……大丈夫だ。俺も一緒に戦う。デュモスを見つけて、ぶん殴って、連れ戻そう」
そう告げると、アシェルの震えは少しだけ収まり、かすれた声で「頼む」と呟いた。
◇◇◇




