激闘の後で……
◇◇◇
デュモスを退けた俺は、隣で虚空を見つめるアシェルを見遣る。アシェルは満身創痍ではあったが意識を失うことなく、ただその場に仰向けに倒れ込んでいた。そして、その視線はアシェルとの戦いで俺が呑み込んだ、祠のあった場所へと真っ直ぐに向けられている。
「アシェル……何を思っている?」
俺はその横顔に向かって問いかける。
「……妻と息子のこと。そして、俺が自分勝手に殺めた数々の罪なき人間のことだ。俺は……随分と人を殺めてしまったようだ……。デュモスに洗脳されていた時の記憶を、いまならしっかりと思い出せる。この少女を含めて、お前の仲間たちにも酷いことをしたな……すまなかった」
そう言ってアシェルは起き上がろうとするが、上手く力が入らないようだ。それもそのはずである。サンディの身体は、デュモスの魔力によって限界以上に酷使されていた。身体中の筋繊維がボロボロになっているはずで、普通なら激痛で話すことさえできないだろう。
「いや、別に俺はその娘の仲間じゃない。ただの通りすがりだ。だから許すとは言えないが……お前が今もその身体に憑依しているのは、その娘、サンディに痛みを感じさせないためだろう? 流石は英雄だな」
もはや、指先さえ動かせない身体に憑依を続けても、アシェルにとっては苦痛を感じるだけで何のメリットもない。
だが、アシェルはサンディの身体に留まっている。
これは、サンディに対するアシェルなりの謝罪なのだろう。
「はは……英雄なんて評価は少々重すぎるな。俺は単なる賊だ。好きに生きて、そして、結局は何も果たせず死んだ。妻と子のために……魂を悪魔に委ねた愚か者だよ。そう言うお前こそ……ああ、まだ名前を聞いていなかったな。名は何というのだ?」
アシェルは時折苦痛に顔を歪めつつ、しかしそれを感じさせないほど穏やかな口調で話す。
「俺は名をトモエという。アシェル、傷に障るからもう喋らなくていい。これからまず、その子を治療する。そのまましばらく憑依しておいてくれないか?」
「……わかった……元よりこの身体が癒えるまではそうしているつもりだった。お前……トモエは見たことのない術を使っていたが、やはり聖職者なのか? まさか癒しの奇跡まで扱えるとはな……」
アシェルは眼差しだけで頷くと、そう言って目を閉じた。
俺はスキルを使い、アシェルごとサンディの身体を異空間に取り込んでいく。その間も、アシェルは何ら抵抗することはなかった。
サンディの身体の状態を確認するが、再構築は問題なくできそうである。
それに……どうにかアレも間に合いそうだ。
俺は目を閉じ、ゆっくりと自らの意識の中へと潜り込んでいく。
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