モブとモフ×3
◇◇◇
「よし、各自必要なものは手に持ったか?」
「おう!」
「う、うん」
「ええ、特にないわ!」
俺が問い掛ければ、三者三様の答えが返ってくる。
「それじゃ、この積荷も収納して……と。よし、それじゃ出発だ」
俺、セレーネ、コブとロッチの3人と1匹……いや、見た目的には1人と3匹(?)は、それぞれの準備を終えてから、サンディと呪いの人形を追いかけるため野営地を出発した。
とはいえ、セレーネは勿論、俺だって特に何か準備が必要なわけじゃない。衣服はひとまず交易品の中から幾つか拝借させてもらったし、食糧や水についても同様だ。そしてそれらは、既にしっかりと俺の腹の中に収まっている。
俺が荷台の中の物を次々に収納していく様子を、コブは目を輝かせながら見ていた。
「スッゲェ〜! いつか俺にも絶対教えてくれよな! 師匠ッ!」
そう言って後ろをついて回るコブに、これは魔法使いだけの企業秘密だと誤魔化したが、全く退いてくれる気配がない。
(うう〜〜ん……本当に教えられないんだけどなぁ……)
◇◇◇
「コブ、ロッチ。サンディの消えた方向はわかるか?」
「うん、血の匂いがかなり混ざってるけど、ちゃんとサンディの匂いの行く先はわかってる。こっち、尾いてきて!」
俺たちの先頭を、まだ少年と呼んで差し支えないほどの年齢のコブが行く。年は、10〜12歳ってところだろう。コブは元気いっぱいに街道を駆けていった。
コブの進んで行った方向は、彼らが本来向かうつもりだった街とは逆方向だ。つまり、キャラバンが進んできた道を戻る形になる。
(しばらくキャラバンの仲間とは合流できそうにないか……)
ロッチが言うには、キャラバンがはぐれた時には次の町で暫く留まって仲間との合流を図るのだそうだ。それでも会えない場合には、商人組合に今後の行き先の伝言を残して出発する。残された者は、他のキャラバンに一時的に所属させてもらい追いかける形になるが、組合に所属するキャラバン同士は相互補助の関係にあり、旅には危険が付き物のため、臨時の隊員は常に一定数需要があるそうだ。
「コブ! そんなに走っちゃダメだよ〜。危険な目に遭ったばっかりなのに、どうしてそう無鉄砲なのさ!」
コブを咎めるような言葉を口にしつつも、嬉しそうにその背を追いかけるのはロッチだ。二人とも本当に仲がいい。
「あらあら、本当に元気になったわねロッチは。しばらく心の傷は癒えないものだとばかり思っていたけど」
二人の後ろ姿を見て、セレーネがそう呟いた。
彼女の言う通り、つい先ほどまで泣きじゃくっていたとは思えないほどロッチは明るさを取り戻している。やはり、コブが元気になったのが大きいのだろう。
「あれくらいの年の子は、やっぱりああでないと。まあ、転んでできるくらいの怪我は直ぐに治してあげられるし、問題ないよ」
「ええ〜、でも丸呑みにしなきゃ治せないんでしょ?」
あ、そうでした。
少々の怪我は自然治癒に任せよう。成長には時に痛みも必要だからね、うん。
「けどそうね、あのくらいの子どもは……って、あれ? そういえばトモエって、まだ産まれて数ヶ月なんじゃ……」
「あ!? ああ、龍種は心身共に成長が早いからね!! 全ッ然、もう大人ですよ私は!! はっはっは〜〜」
「ふ〜ん、そういうものなの? いいのよ、周囲の警戒は私に任せてくれても。私は正真正銘、お姉さんなんだから!」
セレーネはクスクスと笑いながら、耳をぐるぐる回してそんな事を言う。
とんでもない! 俺は前世を含めればもう16年も生きてるんだから、立派な大人である。だが、二人だけ先行させては危険に対応しきれない可能性はある。子供を危険から守るのも、大人の立派な義務なのだ。
「セレーネ、せっかく外に出たんだ。俺たちも走るか」
「うん!」
そんなやり取りをしてから、俺たちも走って二人を追いかけた。
◇◇◇




