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モブ転生〜ザコで影薄くてトラブル体質だけど、種族値ボーナスと鑑定あるから何とかなるかもしれん〜  作者: やご八郎


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モブは自分を飲み込んだ!(その2)

 ◇◇◇


「じゃあ、始めるか」


 ──パクリ……


 俺は、自分の尾の先を口で咥えた。


 ……ちゅるる。


 そして、少しずつ自分の身体を喉の奥に送り込んでいく。


 ──卵から出るときは必死だった。


 あの時は、まさしく生死が懸かっていたし、なり振りなんて考えられなかった。それに卵の中は真っ暗闇で、俺自身が自分の姿を想像するのには情報が少なすぎた。


 だが──今は違う。


 真昼間の日差しの下、どんどんと喉奥に吸い込まれていく自分の身体を明確に意識できるのだから。


(こうして目の当たりにしてみれば、何とも言えん気持ちの悪さだな……)


 そんなことを考えていた時だった。


 ──ッズズズ……


「むごご……ッんぐ!?」


 身体を四分の一ほど呑み込んだところで、突如俺の身体に変化が生じる。物凄い勢いで力が削られていくのを感じたのだ。


 この怠さは、俺の身体が喉の奥──つまり、異空間に到達し、経験値として吸収され始めたということなのだろう。


 一方で、そんな怠さなどお構いなしに、俺の本能は自分の胴体を喉の奥へ奥へと呑み込んでいくのを止めない。


(前回は無我夢中でわからなかったが、こいつはなかなかキツいな……ッ!!)


「……うぐッ……むむぅぅッ!!」


 その不快感に、俺の口から自然と呻き声が漏れる。


「だ、大丈夫!? トモエさん!!」


 一瞬、視界の端で荷車がグラリと揺れた。


 ロッチが心配して立ち上がったのだろうか? この状況を見られてはまずいと思いつつも、いまの俺には打つ手がない。


「行っちゃダメ!! コブが助からなくてもいいの!? 心配ないわ、トモエは大丈夫だから」


 続けて、荷車の中からセレーネの声がする。一度カーテンがふわりと揺れたが、そこからロッチが顔を覗かせることはなかった。


(頼むぞセレーネッ! こっちも頑張るからなッ!!)


 ──ッズズズズズ……ズンっ!!


 全身の疲労感から意識が朦朧となり、身体の感覚が徐々に失われていくのを感じていると、突如俺の身体が一回り大きく膨張する。


 ────ミシミシミシミシミシミシッ……


 骨が軋む音。続けて、鋭い痛みが俺を襲った。あまりの痛みに、先ほどまで朦朧としていた意識が強制的に覚醒させられる。


「んぐぐぐ……ギィィィィッ……!?」


『レベルアップ! 待ってましたよ萌文様、このまま頑張って下さい!!』


 直後、ラブリエルの声。やっとレベルが上がったようだ。


(……ラ……ラブリエル……ッ、()()()()()だな!! 一応尋ねるが……レベルは、いま幾つだ?)


『まだ3です! 萌文様のレベルが上がれば上がるほど、得られる経験値は増加します。ただ、次のレベルに必要な経験値も増加するので、このままのペースを維持してください!!』


 ──ッズズズズズ……


 ────ミシミシミシミシミシミシッ……


 自らを取り込んでレベルアップし、レベルアップにより成長した自らをまた取り込んでいく。


 経験上、レベルアップはそれが起きた瞬間に体力が全快まで回復する。だが本来俺が有しているはずの身体のうち、かなりの部分は異空間に取り込まれている。当然全快できるわけがない。


 成長した身体の端から、感覚の及ばない異世界へと存在が溶け出していく……充填と喪失、再生と崩壊? この状態を、どう表現すればいいのかわからない。


 だが、一つだけ間違いなく感じられるのは、俺の身体の中で存在を増していく──チカラの奔流。


 それは、消えては生まれ、生まれては消えながらも、より太く紡がれていく生命の巡りそのもののようだった。


(……これ、思っていたよりもめちゃくちゃキツいんだが……ッ!? それに身体中から変な音してるしッ!?)


『自分を喰らうことによるレベルアップで無理矢理身体を再生し、そのうえ急成長までさせているのですから当然です!!』


(……ッぐっ、このぐらいの痛みで済んで、むしろ重畳(ちょうじょう)ってわけか!!)


『こんなことをして死なない生き物は、龍種強しといえどウロボロスだけです、レベルアップ!! これでレベル5になりましたよ! 頑張って堪えて下さい!!』


「ぐ、ぐぎぎぎぎ……」


 レベルアップによる覚醒で倍増された痛みに、俺は思わず口を食い縛る。


 牙が身を裂く。


 傷から溢れ出る血は赤く、熱い。


『ダメです!! 牙を立ててはいけません!!』


 ラブリエルから(げき)が飛ぶ。


(わ、わがってる!!)


 俺が顎に込めたチカラを緩めれば、傷ついた身体はそのまま喉奥に吸い込まれていった。

 

『レベルアップ!! あと2です! レベルが8になったら合図するのでステータスを開いてください!! そしたらスキル欄の《???》に意識を集中させて、()()()()だけです!!』


(マジか!? ……この状態でステータスを開くなんてできるかよッ!! あと《???》って何なんだよ!?)


『大丈夫です、最初に開いた時のように、私がアシストします!! 取得条件を満たしたスキルは当初《???》で表示されますが、普通は一定の熟練度を上げてスキルレベルが1以上になるまで習得できません……ですが、萌文様には《鑑定》があります。そのままステータスに鑑定を発動させて、スキルを“()()()()()”ください!! 万が一、それが終わるまでに尾を吐き出せば、条件未達で習得は叶いませんよ!!』


(な、難易度高くないか!?)


『だから、()()()()()言いましたよねッ!?』


(いや、俺が聞いてたのは()()だけどッ!?)


『ほらほら、レベルアップ!! あと少しです、ファイト!!』


(ご、誤魔化すなぁ!?……ぐぉおおおおおおお!?)


『いまですッ!! ここ!!』


 ──バチンッ!! 


 ラブリエルの念の籠った一撃が、俺の意識の一点を刺激する。


(……ッが!? ス、ステーダス!!)


 開かれたステータスに《???》と表示された欄が見えた。


『次! ココです!!』


 ──バチンッ!!


(ん……ぐがががががががががっがぁ!! 鑑定(がんてい)!!)


 《???》の項目が消えて現れたのは《再構築》の文字。


 そこで俺の口内に、一気に血の味が広がった。無意識のうちに、俺は自分の尾を噛みちぎろうとしていたらしい。


『噛むな!! 痛いのは当然ですッ!! 吐き出しなさいッ!!』


「ん……ぐぎぎぎぎぎぎぎぎ!!」


 吐き出そうとするも、一度込められたチカラは強制的に顎を閉じようとする。


(ダメだ、このままでは……ッ!!)


 俺が限界を迎えようとした時、ラブリエルの声が一層強く響く。


『……もうッ仕方ありませんねッ!! 《再構築(リビルド)》!!』


 ──バチンッ!!


(ッうお!?)


 刹那──眩いばかりの光が視界を埋め尽くした。


 何が起きたのかわからないまま、俺の視界は白に染まる。

 メキメキと身の軋む音だけが、しばらく俺の頭に響いていた。


 ◇◇◇

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