八話 飢狼
クレイヴァイパーを倒してから3日経った。
一週間程度依頼が受注できない状態なので昨日、一昨日は宿や街で過ごしていた。
一昨日街の外に出ようとしたら門番をしていた衛兵に止められてしまったからだ。
強行突破すれば余裕で行けたが後々が面倒臭くなるのでそれはやめた。
昨日は警戒されているかもしれないので止めておいた。
だが、宿で2日も娯楽の無い中過ごしているとすぐに飽きてしまう。
外で素振りをしたが緊迫感が無くて面白くなかった。
と言うわけで、今日は朝早くから宿を出ていた。
何故かというと勿論外に出て狩りをするためだ。
流石に門から堂々と行けば止められてしまうのでコッソリと外壁を超えていく。
外壁は約十五メートルでそれなりに高い。
しかーし!俺には炎がある!炎を噴出させた推進力で"飛んで"行くのだ!
と、いうわけで。今俺は外壁の下にいる。
ホムラも短時間なら飛べるらしいので一緒に行く。
早速、辺りに人や建物が無いのを確認して空を飛ぶ。
両手足から炎を出せたがそれだけではバランスが取りにくいので身体の周りに炎を纏わりつかせバランスを取る。
これが上手く行き、無事に空を飛んで外壁を越せた。
外壁の上の兵士にバレてしまったが流石にすぐには降りてこれないようなので一安心。
ホムラも四つの足全てに炎を纏わせ、炎の勢いと炎の足場で駆けるように飛んでいた。
無事に外壁の外に出れたので森の中に入ろうとした。
うあぁぁぁぁ! バキッ!バキバキ!
が、その時森の中から悲鳴と戦闘音が響いてきた。
いや、あれは戦闘音ではなくあきらかに何かを噛み砕く音だ。
何が居るのかと森を見ていると、森の木々がざわめき、揺れる。
その後すぐに、森を揺らした犯人が現れた。
森からゆっくり、歩いてきたのは白い大きな狼だった。
体長七メートル、体高三、四メートル。純白の身体には返り血が着いており、まるで悪魔の様な形相だ。
飢えているのか口からは涎をダラダラと垂らしていた。
飢えているようだか、身体は艶があり、痩せているようには見えなかった。
口には無惨に殺された調査隊の上半身が咥えられていた。
森を出てすぐに俺達に気付くと、調査隊の死体を放り投げ此方を睨み付けてきた。
俺達が炎を出して戦闘態勢に入ると、それを見た大きな狼…飢狼と呼ぼうか、が走ってきた。
大きな身体だが軽やかに走り、身体の周りには凄まじい風が吹き荒れていた。
俺とホムラは左右に分かれて飢狼に向かって走る。
飢狼は俺に向かって走ってきた。
俺が出している炎が奴の暴風によって散らせれている。だが、それに構わず走りながら居合いの準備をする。
しかし、飢狼が此方に向けて放った何かによって邪魔をされてしまった。
その何かの攻撃は不可視で、一見気が付かなかった。
強烈な悪寒と、攻撃に巻き込まれた木葉がなければ避けることが出来なかった。
攻撃を避けた際、凄まじい風が吹いていた。恐らくそれは風の刃だったのだろう。
避けられなければ俺は上半身と下半身に分かれて死んでいただろう。
冷や汗を流しながら飢狼の方を向く。
ホムラが飢狼に向かって炎を放つが辺りに散らせれていしまっている。それどころか、風の玉を放ってホムラを吹き飛ばしていた。
「ホムラ!」
ホムラは大丈夫だろうか、だが今の言葉で飢狼が此方に意識を戻した。今は自分の心配をした方が良さそうだ。
取り敢えずまた飢狼に向かって突っ走る。今度は炎を飢狼のに向かって大量に放つ。こうすれば、もしまた風の刃が飛んできても炎の動きで多少は判るはずだ。
早速飛んできた風の刃を避けて飢狼に接近する。
飢狼はその鋭い爪のある、丸太の様に大きい前足で引っ掻いてきた。
上からくる足を刀で逸らし、そのまま刀を下の方に回して接近し、下顎を真下から切り上げる。
だが、強烈な暴風に阻まれてしまい僅かに切れ込みを入れる程度にしか攻撃が出来なかった。
飢狼の腹の下辺りに着地しようとするが、暴風によって吹き飛ばされる。
吹き飛ばされて着地すると脇にホムラが駆けつけてくれた。
すぐさま納刀し炎を溜めて構える。
先にホムラが駆け出す。飢狼の攻撃をサイドステップで回避し、すぐさま炎を纏って飢狼の横っ腹に体当たりする。
飢狼は大きくよろける。その影響で風の勢いが弱まった。
その隙に溜めた大量の炎を飢狼に放つ。
炎は極太レーザーの様に、飢狼に向かっていく。
飢狼が体勢を立て直して風を出すがもう遅い。
大量の炎が飢狼を飲み込み焼き尽くす。
「グルアァァァァァ!!!」
物凄い絶叫が響く。
やった。倒した。そう確信して安堵する。
ホムラも駆けよって来る。
「やったぞホムラ倒した!」
「ワンッ!ワンッ!」
ホムラも誇らしそうだ。
「グ、グルアァ…」
ホムラと勝利の余韻に浸っているとそんな鳴き声が聞こえてきた。
それは弱々しい声だった。
その声の方を見ると、飢狼が立っていた。
だが綺麗な体毛は燃えて無くなり、焼け爛れた皮膚は飢狼を醜く見せていた。
震える足は今にも折れてしまいそうだった。
しかし、飢狼は此方に向かって走ってきた。
速度も遅くふらつきながらも、見えているかわからない目の鋭い眼光で此方をにらみつけながら走る。
すると、ホムラがそれに応えるように走り出す。
端から見ると醜い大きい狼とその二分の一にも満たない大きさの狼が駆けているように見えただろう。
飢狼がホムラにその大きな口で噛みつくが、それをホムラが半身になって避け太い首元に噛みついた。
飢狼は首を振りホムラを引き剥がそうとする。
だが焼け爛れたのも相まって肉が抉れるように千切れてしまった。
着地したホムラは抉った肉を吐き出し飢狼に向かって突進する。
炎を纏わせ、炎の勢いも相まって凄まじい速さで飢狼に突進していく。
それは俺と会った時に、俺に向かったものと同じだった。
首の痛みにのた打っていた飢狼の首にぶち当たり、飢狼を大きく浮かす。
そのまま飢狼は半回転して背中から仰向けに倒れ、身体を横に向けて動かなくなった。
ふう、攻撃に耐えられた時は少しビビったな。
ホムラが此方に向かって走ってきた。
「ワンッ!ワンッ!」
「ホムラ!よくやった!」
ホムラを受け止めて撫でてやる。
いくらか撫でてやった後飢狼を剥ぎ取りに行く。
飢狼からは大きな翡翠色の魔石が剥ぎ取れた。
剥ぎ取った魔石を眺めていると、突然ホムラが魔石を奪い取った。
「おい!ホムラ!魔石を返してくれ!」
そう言て止めたが、ホムラは何かに取り憑かれた様に魔石を噛み砕き飲み込んでしまった。
すると、ホムラが呻き声を上げて苦しみ始めた。
「ホムラ大丈夫か!?」
ホムラから炎が出てきてホムラを覆い隠してしまった。
読んでいただき有り難うごさいます。誤字脱字などがありましたら指摘していただければ有り難いです。