表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘狂世界を渡る。  作者: 南十字
最終章 [安らかな日々に]
67/68

六十五話 最後の一日

遅くなってすみません

 あれから一年と少しが経った。



 信者達は建設地へと向かい、俺の城を建設してくれている。

 行くだけで数ヶ月かかるため、建設にあたるまでに時間がかなりかかる。

 建設自体も、小さいが城なのでかなりかかる。

 それを一年と少しでやってくれているのだ。

 ありがたい。



 部屋でのんびりしていると、なにやら外が騒がしい。

 外を覗いた途端、大きな歓声が上がった。


「あぁ…久々の女神様だ…」


「お麗しい」


「もう無理…尊死…」


 信者達が帰ってきており、久々に見る俺に感動しているようだ。



 どこまで狂信的なんだ…このままじゃ、奴ら俺を崇めて死んでゆくんじゃないか?



 取り敢えず、部屋から出て信者達の元に行く。

 俺が見えると、信者達は発狂する勢いで近寄ってきた。


「女神様ぁ!」


「俺達やりました!」


「尊い…グフッ!」


 信者達の中には吐血して倒れる者もいた。

 どれだけ感極まったんだよ。



 何はともあれ、頑張ってくれたんだ。

 労いの言葉でもかけてやろう。


「皆様、私の城を建ててくださりありがとうございます。さぞお疲れになったでしょう。身をお休めになってください。私の炎で、微力ながら皆様を癒します」


 そう言い、空に向かって蒼炎を放つ。

 蒼炎は上空で弾け、雪の様にふわりと舞い降りる。


「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます…」


「ハァッ!」


「語彙力消し飛んだ…ガクッ」


「おい!死ぬな!」


 信者達は恍惚とした雰囲気で俺の炎を眺めている。

 実を言うとあの炎には何にも効果は無い。



 それなのに信者達は気力が復活した雰囲気で、明らかに元気になっている。


「凄い!これが女神様の力…」


「力が湧いてくる!」


「語彙力が戻った!」


「生き返ったぞ!」


 プラシーボ効果って凄いね。



 人の思い込みの強力さを実感した後、俺は早速身支度を整えた。

 勿論、この街を発つ為だ。



 信者達は嘆き悲しむかもしれない。

 しかし、俺は決めたのだ。

 人里離れた場所で、静かに世界を見つめる。

 この新しい身体で、新たな人生を歩むのだ。


「よし、皆に挨拶して行こう」


 数年単位で会えないのに一言も無く行くのは失礼だ。

 まずは人の多いギルドからか?

 あそこならお姉さんとルークも居るし、他にも絡みのあった冒険者が居るしな。



 と、言うわけでやってきました冒険者ギルド。

 中は賑わいがあり、昼間から呑んだくれている阿保もいる様だ。


「ちわーっス」


 挨拶をしながらギルドに入る。

 挨拶をして入る人はそれ程いないので、多少注目されてしまったが好都合だ。

 取り敢えずお姉さんを探す。


「おねーさーん!」


 後ろの方で事務仕事をしているのが見えたので、お姉さんを大声で呼ぶ。


「ハーイ、なぁに?そんな大声出して」


 やれやれといった様子で出てくるお姉さん。


「それがですね!今日、俺の家が完成したとの報告がありまして、明日出てこうと思うのですよ!」


「ああ、だからそんなにテンションが高かったんだ」


「そそ、んでルークって何処にいるん?」


「ルーク君ならあそこ」


 お姉さんの指差した方を見ると、此方に手を振るルークが居た。

 ルークは駆け足で寄ってくる。


「エンジさん、聞きましたよ。明日出て行くんですね」


「情報が早いな」


「実は信者の中に友達がいまして」


「おっと、俺に近づくな」


「なんで!?」


 ルークから距離をとりながらお姉さんと会話をする。


「俺が居なくて大丈夫か?この街。俺を崇めることで成り立ってる様なもんじゃ無いか」


「大丈夫ですよ。この街の人達は一から立て直す程強い方達ですから」


「そうか」


 相変わらず煩いルークを置いて話をしていると、ギルドに一人の男が入ってきた。

 誰かと横目に見てみると、見知った顔だ。

 彼は俺達に気がつくと、こちらに歩いて寄って来た。


「うい〜。久しぶり少年」


「お久しぶりです。エンジさん」


「また随分と凛々しくなったな」


「ありがとうございます」


 彼は武具屋の手伝いをしている少年だった。

 少年は懐から紙を取り出してお姉さんに差し出す。


「お姉さん、コレお願いします」


「依頼ですね?わかりました。掲示しておきます」


「ありがとうございます」


 成程、ああやって依頼をするのか。

 今までみたことなかったから勉強になるな。


「少年、俺は明日からこの街を離れるんだ」


「えっ!この街を離れるんですか?旅とかじゃ無くて?」


「ああ、別の場所に家を構えたからそこで暮らすんだ」


「寂しくなりますね」


「ああ、だけど偶に来てやるよ」


「楽しみに待ってます」


 その後、少し世間話をして別れた。



 フェイトスにも少し顔を出すため、街の西側に足を運んだ。



 前と変わらない武具屋の戸を開け、フェイトスを探す。

 キョロキョロと見回していると、作業場で作業しているのが見えた。


「お〜いっ!フェイト〜ス」


 大声で叫ぶと、のっそりとフェイトスが作業場から出てきた。


「誰かと思えば兄ちゃんか。それで?何の用だ?」


「この街を出るんだよ。顔くらい出してもいいだろ?」


「そりゃそうだ。むしろ顔を出さなかったら拳骨食らわしてたとこだ」


 ガハハっと笑ってフェイトスは拳を見せる。


「おっと、そりゃぁ怖ぇ。来て正解だわ」


「大正解だったな。ついでと言っちゃ何だが、お前に装備を作ってやってたんだよ。前の装備も合わないだろ?次出て行く時に渡そうと思ってたんだ」


 そう言って作業場に向かう。

 少しして出てきたフェイトスの手には、何やら布の様なものがあった。


「コレは龍のタテガミを編んだものでな。柔らかくて肌触りもいい。だけども硬く強い。どうだ?今なら金貨十枚で売ってやろう」


「金取るのかよ」


「あったりまえだ。金貨百枚はくだらねぇ物を十枚だぞ。コレをお友達価格で十枚だ」


「そりゃ破格すぎるな。でも良いのか?こんな安くて」


「兄ちゃんはこの街…いや、世界の英雄だ。これくらいはさせてくれ」


「わかった。ありがたく買わせてもらうよ」


「よし、そこで着替えてこい」


 フェイトスが店の端にある試着室を指差す。



 俺は試着室に入り、カーテンを閉じる。

 受け取った布を広げて袖を通すと、絹の様な柔らかい肌触り。



 一通り着て鏡を見ると、和服を着た俺が立っていた。

 和服と言っているが、動きやすい様に足の前方の丈が短く、後ろが長くなっている。

 袖も丈が少し短く、袖口も広いので腕が曲げやすい。



 淡い青と薄いピンクの様な色合いで、紫陽花を連想させる。

 桜の花弁が散る華やかな上部とは反対に、下部は徐々に色が抜けるグラデーションになっていて、桜の花弁も裾に数枚舞っているだけだ。


「こりゃいいな。着やすい」


 カーテンを開けながらフェイトスに言う。


「そりゃ、戦闘をする事も考慮しているからな。それに、中に着るインナーもあるから、暑い時ははだけさせても良い」


「だからインナーもあるのか」


 そう言いながらはだけさせてインナーを見せる。


「ハッお前の貧相な身体じゃちっとも色っぽくないな」


「うるせぇ。どうせお前の性癖も混ざってるんだろ。この服に」


「そりゃ、作ってる時からビビッときてたからな」


「変態が」


「ハッハッハ!」


 フェイトスと雑談をし、気がつけば夕方になっていた。


「そろそろ行こうかな」


「おう、寂しくなるな」


「柄にも無いことを」


「うるせぇ」


 笑い合ってフェイトスと別れ、帰路に着く。


「ただいま」


 部屋に戻ると、お姉さんが迎えてくれた。

 お姉さんと夕食を取り、ベッドに潜る。



 名残惜しいが、明日は早い。

 この街最後の一日を振り返り、噛み締めながら目を瞑った。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

評価や感想などもお待ちしてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ