六十五話 最後の一日
遅くなってすみません
あれから一年と少しが経った。
信者達は建設地へと向かい、俺の城を建設してくれている。
行くだけで数ヶ月かかるため、建設にあたるまでに時間がかなりかかる。
建設自体も、小さいが城なのでかなりかかる。
それを一年と少しでやってくれているのだ。
ありがたい。
部屋でのんびりしていると、なにやら外が騒がしい。
外を覗いた途端、大きな歓声が上がった。
「あぁ…久々の女神様だ…」
「お麗しい」
「もう無理…尊死…」
信者達が帰ってきており、久々に見る俺に感動しているようだ。
どこまで狂信的なんだ…このままじゃ、奴ら俺を崇めて死んでゆくんじゃないか?
取り敢えず、部屋から出て信者達の元に行く。
俺が見えると、信者達は発狂する勢いで近寄ってきた。
「女神様ぁ!」
「俺達やりました!」
「尊い…グフッ!」
信者達の中には吐血して倒れる者もいた。
どれだけ感極まったんだよ。
何はともあれ、頑張ってくれたんだ。
労いの言葉でもかけてやろう。
「皆様、私の城を建ててくださりありがとうございます。さぞお疲れになったでしょう。身をお休めになってください。私の炎で、微力ながら皆様を癒します」
そう言い、空に向かって蒼炎を放つ。
蒼炎は上空で弾け、雪の様にふわりと舞い降りる。
「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます…」
「ハァッ!」
「語彙力消し飛んだ…ガクッ」
「おい!死ぬな!」
信者達は恍惚とした雰囲気で俺の炎を眺めている。
実を言うとあの炎には何にも効果は無い。
それなのに信者達は気力が復活した雰囲気で、明らかに元気になっている。
「凄い!これが女神様の力…」
「力が湧いてくる!」
「語彙力が戻った!」
「生き返ったぞ!」
プラシーボ効果って凄いね。
人の思い込みの強力さを実感した後、俺は早速身支度を整えた。
勿論、この街を発つ為だ。
信者達は嘆き悲しむかもしれない。
しかし、俺は決めたのだ。
人里離れた場所で、静かに世界を見つめる。
この新しい身体で、新たな人生を歩むのだ。
「よし、皆に挨拶して行こう」
数年単位で会えないのに一言も無く行くのは失礼だ。
まずは人の多いギルドからか?
あそこならお姉さんとルークも居るし、他にも絡みのあった冒険者が居るしな。
と、言うわけでやってきました冒険者ギルド。
中は賑わいがあり、昼間から呑んだくれている阿保もいる様だ。
「ちわーっス」
挨拶をしながらギルドに入る。
挨拶をして入る人はそれ程いないので、多少注目されてしまったが好都合だ。
取り敢えずお姉さんを探す。
「おねーさーん!」
後ろの方で事務仕事をしているのが見えたので、お姉さんを大声で呼ぶ。
「ハーイ、なぁに?そんな大声出して」
やれやれといった様子で出てくるお姉さん。
「それがですね!今日、俺の家が完成したとの報告がありまして、明日出てこうと思うのですよ!」
「ああ、だからそんなにテンションが高かったんだ」
「そそ、んでルークって何処にいるん?」
「ルーク君ならあそこ」
お姉さんの指差した方を見ると、此方に手を振るルークが居た。
ルークは駆け足で寄ってくる。
「エンジさん、聞きましたよ。明日出て行くんですね」
「情報が早いな」
「実は信者の中に友達がいまして」
「おっと、俺に近づくな」
「なんで!?」
ルークから距離をとりながらお姉さんと会話をする。
「俺が居なくて大丈夫か?この街。俺を崇めることで成り立ってる様なもんじゃ無いか」
「大丈夫ですよ。この街の人達は一から立て直す程強い方達ですから」
「そうか」
相変わらず煩いルークを置いて話をしていると、ギルドに一人の男が入ってきた。
誰かと横目に見てみると、見知った顔だ。
彼は俺達に気がつくと、こちらに歩いて寄って来た。
「うい〜。久しぶり少年」
「お久しぶりです。エンジさん」
「また随分と凛々しくなったな」
「ありがとうございます」
彼は武具屋の手伝いをしている少年だった。
少年は懐から紙を取り出してお姉さんに差し出す。
「お姉さん、コレお願いします」
「依頼ですね?わかりました。掲示しておきます」
「ありがとうございます」
成程、ああやって依頼をするのか。
今までみたことなかったから勉強になるな。
「少年、俺は明日からこの街を離れるんだ」
「えっ!この街を離れるんですか?旅とかじゃ無くて?」
「ああ、別の場所に家を構えたからそこで暮らすんだ」
「寂しくなりますね」
「ああ、だけど偶に来てやるよ」
「楽しみに待ってます」
その後、少し世間話をして別れた。
フェイトスにも少し顔を出すため、街の西側に足を運んだ。
前と変わらない武具屋の戸を開け、フェイトスを探す。
キョロキョロと見回していると、作業場で作業しているのが見えた。
「お〜いっ!フェイト〜ス」
大声で叫ぶと、のっそりとフェイトスが作業場から出てきた。
「誰かと思えば兄ちゃんか。それで?何の用だ?」
「この街を出るんだよ。顔くらい出してもいいだろ?」
「そりゃそうだ。むしろ顔を出さなかったら拳骨食らわしてたとこだ」
ガハハっと笑ってフェイトスは拳を見せる。
「おっと、そりゃぁ怖ぇ。来て正解だわ」
「大正解だったな。ついでと言っちゃ何だが、お前に装備を作ってやってたんだよ。前の装備も合わないだろ?次出て行く時に渡そうと思ってたんだ」
そう言って作業場に向かう。
少しして出てきたフェイトスの手には、何やら布の様なものがあった。
「コレは龍のタテガミを編んだものでな。柔らかくて肌触りもいい。だけども硬く強い。どうだ?今なら金貨十枚で売ってやろう」
「金取るのかよ」
「あったりまえだ。金貨百枚はくだらねぇ物を十枚だぞ。コレをお友達価格で十枚だ」
「そりゃ破格すぎるな。でも良いのか?こんな安くて」
「兄ちゃんはこの街…いや、世界の英雄だ。これくらいはさせてくれ」
「わかった。ありがたく買わせてもらうよ」
「よし、そこで着替えてこい」
フェイトスが店の端にある試着室を指差す。
俺は試着室に入り、カーテンを閉じる。
受け取った布を広げて袖を通すと、絹の様な柔らかい肌触り。
一通り着て鏡を見ると、和服を着た俺が立っていた。
和服と言っているが、動きやすい様に足の前方の丈が短く、後ろが長くなっている。
袖も丈が少し短く、袖口も広いので腕が曲げやすい。
淡い青と薄いピンクの様な色合いで、紫陽花を連想させる。
桜の花弁が散る華やかな上部とは反対に、下部は徐々に色が抜けるグラデーションになっていて、桜の花弁も裾に数枚舞っているだけだ。
「こりゃいいな。着やすい」
カーテンを開けながらフェイトスに言う。
「そりゃ、戦闘をする事も考慮しているからな。それに、中に着るインナーもあるから、暑い時ははだけさせても良い」
「だからインナーもあるのか」
そう言いながらはだけさせてインナーを見せる。
「ハッお前の貧相な身体じゃちっとも色っぽくないな」
「うるせぇ。どうせお前の性癖も混ざってるんだろ。この服に」
「そりゃ、作ってる時からビビッときてたからな」
「変態が」
「ハッハッハ!」
フェイトスと雑談をし、気がつけば夕方になっていた。
「そろそろ行こうかな」
「おう、寂しくなるな」
「柄にも無いことを」
「うるせぇ」
笑い合ってフェイトスと別れ、帰路に着く。
「ただいま」
部屋に戻ると、お姉さんが迎えてくれた。
お姉さんと夕食を取り、ベッドに潜る。
名残惜しいが、明日は早い。
この街最後の一日を振り返り、噛み締めながら目を瞑った。
読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。
評価や感想などもお待ちしてます。




