六十四話 戯れ
最近投稿が少なくてすみません。
夏休みを満喫していてなかなか執筆ができていません。
必ず週に一回は投稿しますので、楽しみにして待っていてください。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
ルークが悲鳴をあげる。
それもそうだろう。
俺に抱えられ、高速で空中を移動しているのだから。
炎を噴射する勢いで、ロケットの様に空を飛ぶ。
「エンジさん!もう無理ですぅぅぅぅぅ!」
「男の癖にこんくらいで喚くな。第一、冒険者だろ!」
「じゃあ女の子になりますぅぅぅ!」
ルークが恐怖でおかしくなってるな。
全く、後三日も続くんだから慣れてもらわないと。
―――――――――
「もう無理ぃ…」
一日中飛び、ぐったりしたルークを雑に下ろして焚き火の準備をする。
「はあ、情けねぇ。お前、そんなんでよく冒険者やれたな」
「冒険者で飛ぶ事なんてありませんよ!」
「それでも恐怖に慣れろよ」
「人間の本能に抗えと!?」
まあ、慣れすぎてもダメだけどなぁ。
取り敢えず、その日はルークの為にすぐに眠りについた。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!もうやだぁぁ!」
相変わらず涙目のルークが悲鳴をあげる。
五月蝿え。
「あ、帰ったら手合わせしようぜ」
「やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
―――――――――――――――――
「やっと…着いた…」
涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃになっているルークを放置して街に入る。
入って早々に信者共に囲まれた。
喚く信者共を無視し、建築担当の奴らに今回の事を伝える。
あらかじめ描いておいた要望書と地図を渡したところ、すぐさま出発してしまった。
あれ?そういえばアイツらは俺の居る場所を崇めようとしているんだよな?あんなに遠くだと無理じゃね?
まあ、鬱陶しくなくて楽だから良いけど。
「あ、帰ってたんですね?エンジさん」
揉みくちゃにされている俺の元に、お姉さんが来た。
お姉さんが信者の群れの前に立つと、信者達が左右に寄って道ができた。
「おかえりなさい」
「ちょっと待てぇい!なんで信者がそんな従順なんだ!?俺が崇められてるんだから俺に従順な筈なのに!なんで!?」
そう捲し立てるが、お姉さんはキョトンとした顔で首を傾げる。
「まあ、そんな事よりも旅の話を聞かせてください」
そんな事…え?そんな事だったの?
「ちょっと待ってぇ!」
踵を返して何処かへ向かうお姉さんを追いかける。
お姉さんはギルドに入ったので、俺も入る。
ギルドに入ると、お姉さんがギルドの応接間へ向かっているのでついて行く。
応接間の椅子に腰掛けると、お姉さんが笑顔で話しかけてきた。
「此処なら信者に邪魔されないでしょ?」
「成程、でも一声欲しかったなぁ、なんて…」
そう返すと、お姉さんはやれやれというような仕草をする。
「そんな事をしたら信者達が先回りするでしょう?アイツらは無視が一番なのよ。それでもダメだったら念力でチョチョイのチョイよ」
ヒェッ…
お姉さんの言葉に思わず背筋が凍る。
俺も弄られたらどうしよ…
「大切な人にはそんな事しませんよ」
お姉さんの優しい顔が心をほぐすが、やはり先程の発言もあるので警戒はしといた方がいいだろう。
お姉さんが不服そうな顔をしているので、話題を変えることにした。
「そう言えば、ルークの奴。アイツ飛ぶ時にメッチャビビってたんですよー。ハハ…」
「ハァ、さっき考えていた事全部丸聞こえですから。まあ良いでしょう。旅の話を詳しく教えてください」
お姉さんは機嫌を取り戻してくれたのか、優しい顔に戻ってくれた。
その後、俺は旅の話をした。
久しぶりに会った仲間達。
師匠の優しさ。
ルークの痴態百選…
「…なんて事があったんですよ」
話し終え、気がつけばいい時間になっていた。
「いい時間ですね。お昼でも食べましょうか」
「そうですね。じゃあ、お昼の後に手合わせですね」
「え?お姉さんと?」
「違うわ。ルーク君とエンジさんよ」
「そういや言ってたな…でも、いつとは言ってねぇぞ」
「思い立ったら吉日よ」
「えぇ…」
と言う訳で、俺達は街の外の平野に来た。
「女神様ぁぁぁぁぁ!」
「やっちまえ!」
「戦う女の子…尊い!」
俺達の周りに大量の野次馬が集った。
いや、野次馬と信者と変態だな。
「エンジさん、俺こんな大勢の前で恥晒したくないっすよ」
「よせルーク。ここで拒否すれば、命すら危うくなる」
「なんで!?」
おっと、お姉さんがコチラを睨んでる。
くわばらくわばら
「お願い説明してぇぇぇぇ!」
そんなルークの為、お姉さんはルールを説明する。
「説明が求められたので、ルールを説明します。大規模魔法無し。死亡や障害が残るのはもってのほかですのでご注意を」
「その説明じゃなぁぁぁぁい!」
「それでは、両者位置について…」
おっと、早いな。
俺はルークから少し離れた位置に立つ。
今回は素手でやろうと思う。
「ちょっ待っ」
「始め!」
ルークの声は届かず始まってしまった。
ルークには悪いが先に攻撃させてもらう。
俺はルークに拳を見舞わせる。
まずは牽制に軽く殴る。
「そっちがその気なら…」
ルークは俺の拳を掌で止めながら、空いた手で片手剣に手を伸ばす。
「本気で行かせてもらいます!」
逆手に持った片手剣で切り付けて来たので、バックステップで距離を取る。
着地して息を整え、構えをつくる。
足を肩幅より少し開き、身体を横にして右手を引く。
カウンター主体の構えだ。
「では…っ!」
ルークが空気の弾と共に攻めてくる。
勿論空気の弾は見えないが、妖術で冷気を放ち可視化する。
「見えれば無論問題ない」
僅かな体重移動で弾を避け、それでも避けきれないものも拳で逸らす。
ルークは這い寄る蛇の様な超低姿勢で肉薄し、掌底を俺の顎目がけて放って来た。
「甘い」
それを倒れる様な踏み込みで避け、掌底を放った事によってガラ空きの鳩尾に、衝撃を内部に伝える様な掌底を放つ。
「ガハッ…!」
痛みによって動きが止まったルークに、右フックと後ろ回し蹴りを加える。
ルークが距離を取ろうとバックステップをするので、張り付く様に肉薄し、僅かに浮いて身動きの取れないところで頭を掴みながら足を引っ掛けて地面に叩きつける。
「終わりだな」
そう呟く。
その時、指の間から爛々と獣の光を灯す瞳が覗く。
咄嗟に追撃を加えようとするが、流石に遅かった。
「吹き飛べ!」
ルークの放った風の弾が腹に当たり浮かされる。
たった一メートル程だったが、それで十分だった。
ルークがすぐさま掌底を加える。
それは衝撃を伝えようと意図もなく、ダメージなど関係無しに放たれた一撃。
それだけだったら痛くも痒くも無いものだった。
しかし、ルークの掌に創り出された小さく圧縮された竜巻は、俺の身体など軽々と吹き飛ばす威力を持っていた。
「ぐうッ!」
俺は回転しながら凄まじい勢いで吹き飛ぶ。
このままでは地面に叩きつけられてしまう。
流石にそれは免れたいので、掌から炎を噴出させて勢いを上に変える。
空中に浮いてしまったので、すぐさま地面に着地する。
「いい度胸してるじゃねえか」
本気でやってやるよ。
地面を蹴って肉薄し、拳で三連撃を見舞わせる。
ひらり落ちるは散り桜。永遠の命に夢を馳せ、吹いて荒れる桜の吹雪!
ルークのカウンターをひらりと躱し、流れる様に追撃を放つ。
濁流の様に、吹雪の様に吹きつける攻撃に、ルークは手も足も出ない。
出そうとした手を拳で止められ、避けようとした先には拳が放たれる。
反撃できない。
その状況にルークは焦りを覚えている。
しかし、その焦りは俺にとって好状況!
必死なルークの胴に四つ撃ち、顎に一つ撃つ。
「終わりだ!」
衝撃で上を向いたルークの心臓を両手の平で掌底打ちする。
「グフッ!」
息を吐ききり、倒れるルーク。
勝者は…
「勝者、エンジさん!」
野次馬から歓声が上がる。
「ふぅ…楽しかった」
倒れるルークを見下ろし、昔を思い出す。
あんなヘタレが虎を倒せる様になり、俺と手合わせをしてくれる様になった。
今夜はぐっすり眠れるな。
そんな事を考えながら野次馬と信者に揉まれた…
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