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戦闘狂世界を渡る。  作者: 南十字
最終章 [安らかな日々に]
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六十三話 師弟

 あれからと言うもの、たまに村や街による程度で特に変わった事は無く、順調に旅は進んだ。


「エンジさぁん、目的地まで後何日ですかぁ?」


 早々に飽きたルークが度々聞いてくる。


「やっと折り返しくらいだ。ざっと、あと十五日くらいだな」


 そう伝えると、ルークは面倒くさそうな声を上げる。


「俺達、一ヶ月も歩くんスか!?」


「そうだよ!お前ソレ出発からずっと言ってるじゃねえかよ!」


 イラッと来たので頭を小突く。


「痛っ!何するんスか!いってぇ〜」


「うるせぇ。オーバー過ぎるだろ」


 うだうだ文句を垂れるルークを横目に、目的地目指して一心に歩き続ける。



 また十五日が経過した。



 見覚えのある霧がかった森を抜けて、開けた場所に出た。

 そこに見える光景に、二人して目を見開く。


「はあぁぁ…」


「すげぇ…」


 目一杯広がる淡いピンク色の花。

 懐かしく儚い満開の桜が、周りの新緑に映えており、思わず感嘆の声が漏れる。

 初めて見る桜に、ルークは感激しているようだ。



 暫く、声も上げずに眺める。

 久しぶりの桜、美しい光景、そのどれもが俺の心を揺さぶる。


「やっぱり桜は良いもんだな。美しい」


 すると、一陣の風が吹く。



 風に吹かれ、桜の花弁がひらりと舞い落ちる。


「久しぶり。愛弟子」


 背後から聞き覚えのある声が聞こえる。


「お久しぶりです。天様」


 振り返りながら再会の言葉を放つ。


「それでぇ?何をしに此処に来たの?」


「天様なら分かっているでしょう?」


 天様はその言葉を聞くと、にこりと笑みを浮かべる。


「天様は、俺達をずっと見守ってくれたでしょう?ホムラの事だって、天様のお陰ですよね?」


「流石ねぇ、ホムラの魂を貴方の内に留めるのもかなり大変だったのよぉ」


 推測が確信に変わった。


「ありがとうございます…本当に…」


 天様のお陰でホムラがこの世留まる事が出来た。

 ルージュやクロウとは会えなくなってしまったが、ホムラが居てくれた。

 それだけで俺の生きる目的が生まれた。

 もし、ホムラがいなければ、最終的にホムラ達の元に行く気でもいたから、命の恩人でもあるかな。


「それで…貴方の尻尾、とか違和感があるでしょう?」


 天様は気まずそうに視線を逸らしながら続ける。


「それぇ…私のせいなのよねぇ」


「天様の…?」


「か、勘違いはしないでよねぇ。私がホムラをこの世に留める為には、どうしても魂の形を近しいものに変えないと行けなかったの」


 成程、だから狼ではなく狐になったのか。


「あ…天様、ホムラが話したいと言うので、変わってもいいですかね?」


「いいけど、器用な事をするのね」


 俺は身体をホムラに譲る。

 譲っても、視界などは共有されているので何があったか分かる。


「天様、私とエンジを繋いでくれてありがとう。感謝してもしきれない」


 そう言いながらホムラは、天様に近寄り抱きついた。

 そこで俺とホムラは入れ替わった。

 すぐに天様から離れる。


「ホムラめ、なんつータイミングで変わりやがる」


「ふふ、面白いけどねぇ」


 天様はクスクスと笑った後、踵を返して離れてゆく。


「貴方の家が出来たら、また来るわ。その時は歓迎してねぇ」


 そう残して消えてしまった。


「ありがとう天様」


 感謝の言葉を虚空に残す。


「あの〜エンジさん?あの方は結局どなただったんです?」


 話している途中、ずっと困惑していたルークが気まずそうに聞いてくる。


「ああ、あの人は俺の師だ。一時期修行をつけてくれたんだ」


「成程」


「まあ、教わった事は中々使えなかったんだけどな」


 そう言いながら手のひらに氷を作り出そうとするが、氷では無く蒼い炎が燃えた後、炎が凍って氷ができた。

 此処にまでホムラの影響が出てきたのか。


「へぇ〜凄い。炎から氷だなんて、器用ですね」


「いや、本当は氷だけのつもりだったのだが、恐らくホムラの影響で炎が凍る事になった」


 そう告げると、ルークは関心と疑問が混じった様な顔をして氷を見つめる。


「そろそろいいか?仲間の墓を整えたいんだ」


 ルークは一つ頷いて離れる。



 俺は桜の根元に向かう。

 そこには、刀が一本突き刺さっていた。

 以前、クロウ達の為に作った簡易的な墓だ。


 クロウ、ルージュ、ただいま。此処に俺の家を建てるんだ。ルージュが俺の事を王と言ってたな。それを思い出したから小さな城みたいな形にしようと思うんだ。それと、この墓標じゃアレだろう?だから改めて立派な墓標を作ろうと思うんだ。此処は桜の木の下だから、春になったら花見をしよう。皆で。


 声を出さず、心の中で二人に語りかける。

 すると、二枚の桜の花弁が俺の頭に乗っかる。

 そうか、二人はちゃんと此処に居るんだな。



 墓参りが終わったので、ルークと共に調査をする。

 ルークの風魔法は辺りの様子が分かるとの事なので、ルークに調査をしてもらう。

 地中はかなり難しいとの事なのだが、頑張って地中まで調査してもらった。

 この土地は固く、そして地下には水が滲み出る層があるらしい。

 辺りには凶暴な生物も居るが、森の霧のお陰でこちらには来れないらしい。


「ふぅ、疲れたぁ」


 すっかり日も暮れ、桜が茜に色づく。


「お疲れさん。明日は帰路につくから、今日はゆっくり寝な」


「だぁー!また歩くんですか!?面倒くさいですよ!」


 ぶーぶーと文句を垂れるルーク。



 仕方がない。

 少し疲れるが、アレをするか。


「じゃあ、明日は俺の炎で飛ぶか。これでいくらか短縮されるぞ」


「じゃあなんで最初からそうしないんですか!?」


「お前に旅の経験をさせたかったんだよ。かなり駆け足だったが、良い経験になったろ?」


 そう言うと、ルークは不貞腐れてそっぽを向く。


「経験は力だぞ…じゃ、おやすみ」


 俺は毛布にくるまって眠る。

 焚き火の音が静かに響く…

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

評価や感想などもお待ちしてます。

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