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戦闘狂世界を渡る。  作者: 南十字
最終章 [安らかな日々に]
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六十二話 手合わせ

 刀を炎から創り出し、左手に持つ。


「それで、ルールはあるのか?」


「ルールは、魔法なし、致命傷なし、こんくらいですかね」


 ルールを言い終え、ジェールは真剣な顔に戻る。


「俺はいつでも良い、お前次第だ」


「……」


 沈黙が流れる。

 ヒリつく殺気が全身を刺す。


「スゥゥ…」


 ジェールが深呼吸をしてから肉薄をする。

 下段からの切り上げを居合いの構えのままバックステップで回避し、すぐさま反撃をする。

 鞘から走る刃は、あと少しで届かない。

 ジェールは剣の勢いを利用して後ろに回避した。



 俺はゆっくり刃を納め、居合いの構えを取り直す。


「今度は俺から…」


 行くぞ、と言い切る前にジェールが攻撃を繰り出してくる。

 真っ二つにせんと上段から切り下ろし、遠心力で身体を独楽の様に捻り横に一閃。

 更に蹴りを放つ三連撃。

 それを僅かに出した刃で添える様にして逸らし、最後の蹴りを回って回避、その勢いで抜刀をして腹を切り裂く寸前で止める。



 暫しの沈黙が流れる。


「俺の、勝ちだな」


 そう言い放つと、ジェールは大きく息を吐く。


「流石です。手も足も出ませんよ」


 ジェールは苦笑いをしながら言う。

 相当悔しかったのか、俯いて震えている。


「……」


 静かにジェールに近づき、抱きしめてやる。


「…疲れてたんだな。たまには、休んでも良いんだぞ」


 そう言うと、ジェールの強張った身体から力が抜ける。

 今まで負った事のない重圧は、少しずつジェールの身体を蝕んでいたのだろう。



 辺りを見回し、何か腰掛ける事の出来る物は無いかと探すが、どうも無さそうだ。



 もう少しこのままでも良いか。



 僅かにかかるジェールの体重を感じながら、その暖かさに浸る。



 もうどれほどこうしていたのだろう。

 そろそろ、互いに疲れてしまう。


「ジェール、一旦休める場所に行かないか?お前も疲れているだろ?」


 そう言うと、ジェールは頷く。


「私の…屋敷に帰りましょう」


 屋敷か、ジェールが今日泊めてくれるらしいしな。遠慮なく入らせてもらおう。

 ジェールを半ば支える様に屋敷まで歩いて行く。



 屋敷に着くと、使用人がジェールの部屋まで案内してくれた。

 その際、ルーク達もこの屋敷にいる事も教えてくれた。


「ジェール、お前の部屋だ。安心して休め」


 そう言いながらベッドに寝かせてやる。

 ジェールは、安心した様に瞼を閉じて眠る。


「俺もルークと合流するか」


 ジェールの部屋を後にし、ルークのいる部屋を探す。

 ルークの部屋が何処かは、ルーク達の話し声で即わかる。

 ルークとエールはちゃっかり仲良くなり、馬鹿話で盛り上がっているからだ。

 だから、笑い声の聞こえる部屋に行けば…


「ウッス、エンジさん」


 ほら居た。


「こら、エール。コイツの真似をするんじゃない。馬鹿が映るぞ」


「え!酷くないですか!」


「わかった、馬鹿にはなりたくないから真似しない」


 俺はエールの座っているベットに腰掛ける。


「エール、突然だが俺達について行く気はあるか?」


「?」


 エールは、何がなんだかわからない様な顔でキョトンとしている。


「俺達は明日、旅を再開させる。勿論、エールとは一旦離れ離れになっちまう。それでもいいか?」


 それを聴くと、エールは首を縦に振る。


「私行かない!おにーちゃんの邪魔になっちゃうし、お家を建てるんでしょ?何処にあるかわかったらつまんなくなるから出来るまで行かない!」


 エールはそう言い切る。


「そうか、じゃあ完成したら一緒に行こうな」


「うん!」


 エールの顔に純粋な笑顔が浮かぶ。


「よし!そろそろ寝よう。明日も早いからな」


「了解です!」


「ラジャー!」


 おやすみ、と一声かけてから部屋を出て自分の部屋に戻る。



 まだ初春の凍える夜を暖かいベッドで明かした。



 まだ空も明けきらず、明けの明星が月の隣で瞬いている。


「おはようございまぁ〜」


 ルークは欠伸をしており、とても眠そうだ。


「ルークぅ、お前朝は弱いなかぁ?」


 まだ眠い目を擦りながらルークに聞く。


「エンジさん…ベッドが暖かいんですよ」


 互いに間の抜けた口調で話していると、エールが呆れた顔でこちらを見る。


「二人とも寝ぼけてる」


 そう言われても、眠いものは眠いんだ。



 立っていても、夢と現の境目を漂っている俺達の背中に、強い衝撃が走る。


「ほら!二人ともシャンとしてください!」


 俺達とは対照的なテンションのジェールが背中を叩いた様だ。


「痛いじゃないですかぁ!あー目が覚めた」


 ぐちぐち言うルークを横目、俺はジェールと話す。


「ジェール、余り頑張りすぎるなよ」


「兄貴こそ、たまには帰ってきてくださいね」


「ハハッ、早いうちに帰って来そうだな」


「楽しみにしてますよ」


 ジェールが右手を差し出してくる。


「俺は兄貴を越します」


「また手合わせしような!」


 がっしりと握手された二人の間から太陽が昇り、暖かな光が俺達の出立を讃えてくれた。


 次は、本当に目的の地だ。

 着く頃には桜の散る季節かな?

 楽しみで仕方がない。


 背後から聞こえる別れの声に手を振って応えながら、これから始まる本格的な旅に思いを馳せた。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

評価や感想などもお待ちしてます。

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