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戦闘狂世界を渡る。  作者: 南十字
最終章 [安らかな日々に]
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六十一話 久しぶり

 はあ、それにしても旅というものは暇だな。

 最初は辺りの景色が美しく感じるのだが、慣れてしまえば有象無象に変わってしまう。

 多少は警戒しているが、そうそう魔物も出てこない。

 街道だから尚更だが。


「ルークぅ、暇ぁ」


 暇すぎるのでルークにちょっかいをかけてみる。


「そんな幼い子共みたいな声出しても何も出てきませんよ」


「ぶぅ〜ケチ」


 ルークは遊んでくれそうに無いので、干し肉でも食べよ。

 干し肉を食べていると、ルークが何処か物欲しそうな顔をしてチラ見してくる。


「なんだ?欲しいのか?」


 試しに干し肉を差し出すと…


「くれるんですか!?ありがとうございます!」


 目ぇ、キラッキラやな。

 食いつきが飢えた獣並みだ。



 ルークが干し肉を噛み切って咀嚼すると、みるみる顔が明るくなる。


「旨!何ですか!こんなに美味しい干し肉食べた事ないですよ!」


「マジ?嬉しいな。その干し肉、俺が作ったんだよ」


「え!?作った!?」


 ルークは心底驚いた様な反応をする。


「そそ、ここのところ暇だったからな。色々作ってたんだよ」


 復興当初は仕事も多く大変だったが、かなり落ち着いて暇が出来た。何もしないのもアレなので、試しに料理をしてみたらハマってしまった。

 色々、足りない知識を使って日本の料理を再現していたらその内調味料も欲しくなったので、醤油モドキを作ったものだ。

 カビが生えたりなんだりですごい事になったが…



 まあ、閑話休題。旅を決めた日に肉を調味料に漬けたりして作ったのだ。


「凄いっすね!へぇ、旨い!」


 自分の作ったものを褒められるとなかなか嬉しいな。


「今度、料理も教えてくださいよ!」


「気が向いたらな」


「やったー!」


 その後も色々な話をして暇を潰した…



 出発から三日が経った。

 約三日でウィールデン王国に着くので、今日が最終日だ。


「いやぁ、やっと休めますね!」


「まあ、旅にしては短いがそれでも疲れるよな」


 そういえば、ルークは今まで旅をした事はあるのだろうか?


「なあ、お前って旅した事ある?」


「ありますよ!まあ、エンジさん程遠くじゃ無くて近場ですが」


 へぇ、そうかそうか。


「そういえば、エンジさんのお仲間がウィールデン王国に居るんですよね?」


「そそ、エールとジェールの二人な。いやぁ、俺が絶望してる所に丁度来てくれて、ありがたかったなぁ」


 おっと、思わず涙が。


「相変わらずですね、それ」


「そうなんだよ、仲間を失って以来ずっと…」


 そんな話をしていると、前方の森の切間から壁が見える。


「お、見えてきたなぁ」


 佐藤の部下の攻撃でボロボロだった街も、建設途中の壁が出来、活気も戻ってきている様だ。


「アイツらも頑張ってるなぁ」


 ウィールデン王国は俺達の居た領よりも損傷が激しく、王族までもが消えてしまった。

 恐らく、ジェール達が長となって人々を率いているのだろう。


「ん?誰かがコチラに駆け寄って来てません?」


 街道を、土煙を上げながら何かが迫る。

 よく見れば、子供かもの凄いスピードで走っている。


「多分…エールだ…」


 何故俺の接近がわかったのだ?しかも見た目も違うし…



 そんな事を考えていると、エールがすぐそこまで迫っていた。


「おにぃーーーーーーーちゃぁーーーーーーん!」


 加速を利用して俺の元にダイブしてくるエール。


「ちょ、危ない!」


 エールのスピードをどうにか去なして、力の方向も上に逸らした。

 その為、上空にエールが打ち上がってしまった。


「何でぇぇぇぇ!?」


 エールは叫びながら落ちてくる。


「何で!何で受け止めないの!」


 着地したエールが俺に怒る。


「しょうがないだろ、あんな速度咄嗟に受け止めたらケガするし、なんだ?なんなら避けても良かったんだぞ!」


「もう!お兄ちゃんのバカ!」


 あ…バカって言われた。


「もういいもん、帰る!」


 帰ろうとする俺をルークが何とか宥める。


「ちょっと!二人とも喧嘩はやめて下さい!久しぶりの再会でしょ!それにエンジさん!貴方は大人なんだからしっかりしてください!」


 ふぇぇぇ、ルークに怒られたぁ。


「でも仕方ないだろ、この身体相応の精神年齢になっちまうんだから」


 どうにか訓練しているのだが、ちょっとやそっとじゃ治らないかも。

 多分、劇とかでやったキャラクターが抜けきらないヤツの逆みたいなヤツだ。


「じゃ、気を取り直して…久しぶりだな、エール」


 その言葉を聞いたエールの顔には、先程まで拗ねていたのも分からない程の笑顔が咲いた。


「久しぶり!お兄ちゃん!」


 エールと共に、国に行く。

 国の入り口では、ジェールが待っていた。


「兄貴、久しぶりですね」


「おう、久しぶり」


 そう返すと、少しジェールが驚いた顔になる。


「やっぱりエンジさんでしたか。半信半疑だったんですよ」


「そりゃそうだな。男がこんな少女に変わる。なんとも素っ頓狂な話だ」


「でも、変わりませんね。兄貴は兄貴のままです」


 ありがたい事言ってくれるなぁ。


「あ、そうそう。この身体でエンジはなんかアレだから、今後は霊華って呼んでくれないか?」


「わかりました。頑張ってみます」


「えぇー、お兄ちゃん、名前変えちゃうの?」


 エールが名前を変える事に難色を示す。


「でもな、初対面の人だと少し違和感を感じるだろ?」


 どうにか宥めようとする。


「でも、霊華って名前も違和感あるよ」


 そんなエールをジェールが叱る。


「コラ、兄貴を困らせちゃだめだろ」


「はーい」


 エールの仕方無さそうな返事。

 可愛い奴め。


「そう言えば、其方の方は?」


 ジェールがルークを見て言う。


「あ、そうそうコイツは…」


「初めまして、Bランク冒険者のルーク•ギビフスと申します」


「こちらこそ、初めまして。元Aランク冒険者、現在はウィールデンの仮の長を勤めてます。ジェール•エペルス•ウィールデンです。仮の長になった際、民の願いでウィールデンの名を頂きました」


 ああ、成程だからウィールデンなのか。


「では、ここで話すのも何なので街に行きましょう」


 ジェールに促され、街の中に入る。

 街は、外から見えた以上に人がおり、復興に勤しんでいた。


「どうです?大分復興して来たでしょう。これからはもっと良い国にしていきますよ!」


 ジェールは胸を張って宣言する。


「それにしても、ジェールは人気だな」


 何処に行ってもジェールの名を呼ばれ、ジェールはそれに手を振って応える。

 俺には出来そうにない。


「エンジさん、多分それエンジと似たようなものですよ。ジェールさんが主となって復興したのですから、言わば救世主なんですよ」


「成る程」


 だけど、俺とは違って対応が丁寧だなぁ。面倒くさくないのかな?


「兄貴、取り敢えずギルド内で話しましょう。ここなら話しやすいでしょうし」


 ジェールはギルド内で話そうと提案してくれた。やはりジェールは観察力があるな。堅苦しい場所よりも、どちらかというとガサツな場所の方が好きだから有難い。



 ギルドの端の席に座る。


「え!?ここのギルドって、食べ物とかも注文出来るんですか!?」


 ルークが初めての事に目を輝かせている。そう言えば、ルークのいたギルドでは、飲食物は取り扱ってなかったな。


「そうですね、取り敢えず腹ごしらえでもしましょうか」


 ジェールの提案で食事をする事になった。


「お待たせしました」


 暫くして、俺達の前には沢山の食べ物が並んだ。

 肉や魚や野菜や、種類の豊富なメニューに、思わず悩んでしまったものだ。


「いただきます」


 俺は鶏肉の酒蒸しとサラダを頼んだ。


「兄貴、やけにサッパリした料理ですね」


「ああ、ガッツリしたものを食べたいのも山々なんだがな。ガッツリしたものだと量が多くて食い切れないんだ。身体が小さくなった分、食べる量も減っちまった」


「それなら私が食べてあげるのに」


 エールが言う。

 エールの前には大量の料理が並んでおり、喋りながらもどんどん無くなってゆく。

 あの身体の何処に入ってゆくのか、不思議である。


「そう言えば、エンジさんのランクって幾つなんですか?」


 忘れていたが、俺もギルドに登録していたのだった。

 大量の報奨金が手に入ってから依頼を受ける必要がなくなって、いつしかギルドにも出向いていなかったな。


「確か、Cランクで止まってたんだっけ?無くしたからわからん」


 佐藤との戦闘やら何やらで紛失してしまったのだ。

 もう見た目も違うし、そもそも必要無いので大丈夫だろう。


「勿体無いですね。兄貴程の強い方がCランク止まりって」


「元Aランクのお方が何を言う。なんなら手合わせ願いたいね」


 少し煽る様に言ってみる。

 字面だけ見ると、元AランクがCランクをおだてている様に見えるからな。


「ハハッ怖い怖い、遠慮しときますよ」


 ジェールは困った様な顔で断る。


「さ、ご飯が冷めちゃいますよ」


 あ、話を変えやがったな。


「兄貴、この国にはどのくらい居るんですか?」


「そうだなぁ、ここにはついでで来たからな。居ても二日三日だろう」


「ついでって事は、何か目的があるんですか?」


「あぁ、実は俺の家を建てたくてな。それを建てる場所はある程度決まってるから後は確認だけだ」


 ジェールは成る程と頷く。



 その後も和気藹々とした雰囲気は続き、気が付けば日が暮れていた。


「ジェール、俺達は明日発つ事にする」


「明日、ですか。エールが寂しがりますね」


 話しながら、ジェールについて行く。

 ジェールは、森の中を突き進む。


「なんならエールもついて来ちまうかな」


「かも知れませんね」


 ここで、心地の良い沈黙が流れる。

 初春の、まだ肌寒い風が地を這う様に吹き抜ける。


「兄貴、一つ手合わせ願います」


 ジェールは、少し開けた場所で止まり、虚空から(つるぎ)を取り出し、真正面に構える。

 俺を貫くその目には、覚悟が宿っていた。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

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