六十話 成長
日が山の端から顔を出す頃、俺とルークは街の門に居た。
「よし…行くか…ん?」
暫しの別れなので街を見納めていると、二人の人影が近づいてきた。
「オイ!別れの言葉も無しに出ていくのか?」
誰かと思えば、武具屋のフェイトスだった。
「まさか、あの兄ちゃんがこんなちんまい女の子になっちまうとはな!」
ガハハッと笑うフェイトス。
「ちんまいとは失礼な、コレでも元男だ」
軽く抗議するが、聞き流される。
「こんにちは、お久しぶりです」
追加で文句を言おうとすると、フェイトスの横から声が聞こえる。
そこを見ると、中学生くらいの少年が居た。
「?何処かであったか?」
少年はにこりと微笑み、口を開く。
「わかりませんよね、俺はフェイトスさんの元でお手伝いをしていたあのちっちゃい子供です」
「…え?あの少年が?俺よりデカくなってんじゃん!」
驚いた、あの幼い子がこんなにも大きくなるなんて、滅茶苦茶イケメンじゃん!
「はは、よく言われます」
そう言って笑う少年。
「そうか、皆成長してるんだな」
「そりゃそうだ!人の成長は著しいからな!」
何だか親の様な気分だな。
「おっと、あまり長話もアレだな。じゃあ、行ってこい」
二人が俺達を送り出す。
気がつけば他の人達も見送りにきた様だ。
「行ってきます!」
沢山の人に見送られて旅は始まった。
まず初めにウィールデン王国に赴こうと思う。
ジェールとエールに顔を出さないといけないからな。
「む?エンジさん、なんか居ますね」
ルークはのほほんとした表情で言う。
確かに、街道の横の藪に何かがいる。
「で?お前が対処してくれんのか?」
ルークに押し付けると、あからさまに嫌な顔をする。
「嫌ですよ。面倒くさい」
「はあ、仕方ない…」
俺は右手のひらに蒼炎を生み出す。
これは薮の中の何かに向けたものではない。
「ちょっと!やめ、やめて!それを僕に近づけないでぇ!」
ルークは涙目で、腰が抜けている。
そんなやり取りをしていると、薮から大きな虎が現れた。
青白い体毛に電気を迸らせ、見るからに強そうだ。
しかし、子鹿の様に足がガクついており、面白い事になっている。
「ほらぁ!あの虎だって怯えてるんです!可哀想でしょ!」
ルークが必死に抗議をする。
その最中、命の危機を感じたのか虎が襲いかかってきた。
「危な…」
俺がそう言い切る前にルークは動いていた。
飛びかかってくる虎の下に入り込み、その顎を風魔法で生み出した小さな竜巻を乗せた掌底でかち上げる。
身体を仰向けにして倒れる虎だったが、空中で体勢を整えてしっかりと着地する。流石ネコ科の動物だ。
しかし、ルークも強くなっている。
着地の僅かな隙で肉薄し、腰に下げた片手剣で切り刻む。
細かい傷が刻まれた虎だが、致命傷にはなっておらず、怯まず襲い掛かる。
しかし、ルークは虎に背中を向けて残心している。
「風魔法•鎌鼬 残」
ルークが魔法を唱えれば、虎に刻まれた傷が更に深く抉れる。
その傷は鎌鼬に切り裂かれた様。
倒れた虎は僅かに唸り、息耐えた。
「お疲れさん、強くなったな」
納刀しながら帰ってきたルークに労いの言葉をかける。
昔はそこらのチンピラに怯えていたのに、まるで別人の様な強さだ。
「そりゃ強くなってますよ」
ルークは俺に呆れた様な顔を向ける。
「だがなぁ、何年冒険者やっても一向に成長しねぇ奴も居るからな。お前は強くなってるよ」
そう言うと、ルークはどこか嬉しそうな明るい雰囲気になった。
「さ、先を急ぎましょう!」
誤魔化すようにルークは先を行く。
あれから歩いて数時間、もう日が落ちてシルエットだけが見える黄昏時だ。
森に入って野営をしよう。
街道のど真ん中じゃ、邪魔になるからな。
パチパチと爆ぜる焚き火を眺めながら雑談をする。
「エンジさん、その身体になって何か不便とかあるんですか?」
「不便…か、特には無いな。身体が縮んで攻撃も当たりにくくなったし、身体が軽いから動きやすい。ただ、リーチが少し短くなったのと、抜刀が幾分かしにくくなったな」
「そうですか」
この身体で不便な事はこのくらい…あ!
「そうだ!胸が無い」
そう言い、ルークの方を向くと、ルークはフリーズしている。
「なんです?そのアホみたいな悩み」
そんなフリーズする程呆れてんのか?アホとはなんだアホとは。
「でも、エンジさん、気をつけてくださいね。子供でも襲う変態がいますし、不埒な輩がエンジさんを襲ってくるかも知れません。信者さん達だってあまり信用なりませんから」
ルークが説教じみた事を言い出す。
確かに信者の中にド変態が混じってるきがする。
まあ、俺の強さがあればどうにかなるけど用心に越した事はないからな。
「でもなぁ、なんでこの身体には胸が無いんだよ。ちょっとは欲しいじゃん」
「でも、あまり大きくても邪魔になるんじゃ無いですか?」
「そうだけどそうじゃないんだよ。浪漫なんだよ、コレは…」
尻尾に全部取られたのか?などと呟いていると、遠くから微かに狼の遠吠えが聞こえてきた。
その声を聞いてルークが俺に質問する。
「あの、エンジさん。ホムラさんって狼だったんですよね?エンジさんの尻尾って狼のものなんですか?少し違う様に見えますけど」
俺は思わず固まる。
今まで目を逸らしていた事だったからだ。
確かに、俺の尻尾は狼のものとは違う。狼よりも毛の密度が高く、ふさふさよりかは、もふもふの領域に近い。
「はあ、俺もそれ思ってたんだよ。なんでかなぁ、確かにホムラは狼だったんだけど…」
俺の中にいるホムラの魂に問い掛けるが、ホムラもわからないらしい。
まあ、悩んでいても仕方がない。
今日は寝て旅に備えよう。
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