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戦闘狂世界を渡る。  作者: 南十字
最終章 [安らかな日々に]
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五十八話 幸せと復興

 分厚く黒い雲の切間から太陽の光が差し込む。

 生命力が湧いてくる様な光が俺の辺りを照らす。

 空を仰ぎ、あの世の仲間達に祈りを送る。



 そんな事をしていると、パタパタと足音が聞こえて来た。

 その足音は俺の方に向かって来ている。


「エンジさん!」


 その声はとても聞き覚えのある懐かしいものだった。

 振り返ると、一人の女性が駆け寄ってきていた。


「お姉さん…」


 その女性は、この世界に来たばかりの頃にお世話になったギルド嬢のお姉さんだった。

 お姉さんは俺の元に来ると、俺に寄りかかる様にしてしがみつく。


「…俺はエンジなんて人じゃ無いです。きっと人違いですよ」


 俺はあえてとぼける事にした。

 俺はお姉さんが思っている様な良い人では無い。

 それに、姿形、性別すら変化しているのだ。



 しかし、お姉さんは、お姉さんよりも小さくなってしまった俺を叱る様な目で見つめる。


「嘘です。私を初対面でお姉さんと呼ぶ人なんてエンジさんしか知りません。姿が変わってもわかります。女の勘、舐めないでください」


 お姉さんは、泣き出しそうな表情で言った。


「女の勘とか知りません。それに、小さいからって子供扱いしないでください」


 俺は子供扱いされた様に感じたので、少し拗ねながらお姉さんを突っぱねる。


「はぁ、ホムラさんもなんか言ってくださいよ。いるんでしょ?」


「っ!?…ホムラなんていません」


 ホムラの事を言われ、驚いたが、直ぐに平然とつくろう。


「私、念力魔法が得意なんです。念力魔法は極めれば魂すら見えるんです。もう言い逃れは出来ませんよ。エンジさん、ホムラさん」


 お姉さんはまるで、犯人に証拠を突きつける探偵の様に人差し指で俺を指す。


「ハハッ、もう言い逃れは出来ませんね、当たりです。大当たり」


 俺が観念して両手を挙げると、お姉さんは胸をドンッと張ってドヤ顔をする。


「凄いでしょ!これが私の力です!」


 そうやって柄になく振る舞っていたお姉さんだが、次第に顔が歪み涙が浮かぶ。


「…でも…エンジさんの方が凄いです…あんな強い人をやっつけて…。ホムラさん、亡くなってしまったのでしょう?それなのに頑張って…私…そんなエンジさんみたいな事…出来ないですよ…」


 俺に抱きついて泣くお姉さんの頭をポンポンと優しく叩く。


「違いますよ…全部、全部俺が悪いんです…自分の始末は自分でやらないと…漢として、当然の事をやったまでですよ…」


 俺は申し訳ない気持ちでお姉さんに語りかける。

 お姉さんは俺を瞳を見て、また抱きついてきた。


「私…私達、ずっと心配してたんです。エンジさん、少し助長しやすい性格じゃないですか、それに、色んな人と喧嘩するから怖かったんですよ。いつか大きな傷を負うんじゃ無いかって」


 お姉さんがそう言うと、後から男がやってきた。


「そうですよ、エンジさん。心配だったんですから」


 それは、大きくなったルークだった。

 今、俺が小さいのもあるが、それでも大分大きく逞しくなった。


「ルーク…見違えたな」


 そう言うとルークは自慢げな顔をする。


「そりゃそうですよ。何年あったと思ってるんですか。僕ももうBランク冒険者です。一人前ですよ!それに、エンジさんだって大分見違えたんじゃ無いですか」


 ルークはニヤッと笑い、俺を揶揄う。

 少しイラッときたので炎を指先に出してやる。


「ちょ!?やめてください!危ないなぁ」


 ルークが慌てふためく。


「ふぅ、びっくりしたなぁ。エンジさん、今滅茶苦茶強いんですから、ちょっとの魔法でもかなり影響与えてるんですよ!」


 ルークの言葉に俺は呆れる。


「影響だって?そんなのあるわけ…」


 ふと、お姉さんの方を見ると頭を押さえて震えていた。


「お姉さん?え?え?」


「だから言ってるじゃないですか!エンジさんの炎は魂が震えるというか!なんか怖いんですよ!」


 ルークは、ほら!と言った感じで捲し立てる。


「すまん…」


 お姉さんを気遣い、背中に触れてあげるとお姉さんが顔を上げる。

 見るからに顔色が悪い。


「なんなんですか…あの…生命が危うくなる様な気配は…」


 お姉さんにトラウマを植え付けてしまった様だ…すんません。


「あぁ…女神様だ…」


 そうやって雑談をしていると、背後から声が聞こえた。

 振り返ると、沢山の人が俺を崇める様な目で見ていた。


「女神様だ!」


「救世主様!」


 人々は、言葉は違えど口を揃えて俺を褒め称え、崇める言葉を吐く。

 感謝の混じった言葉に、俺は申し訳無くなった。

 別に感謝を求めてはいない。

 結果的にそうなってしまっただけだ。だから、申し訳無い。


「エンジさん、何申し訳無さそうにしてるんですか?皆、エンジさんが居なければ死んでいたんです。だから、良いじゃ無いですか!何事も結果が大切ですよ!」


 ルークが慰めてくれる。

 あんなに頼りない奴が、今では俺を慰める。なんだか感動してしまう。


「わわっ!なんで泣いてるんですか!?」


 無意識のうちに泣いてしまっていた様だ。


「なんだか、最近涙脆いんだ。人の愛情に触れたからかな…」


 大切なものは無くなってから初めて気がつく。その言葉を改めて痛感したからな…


「エンジさん…大変だったんですね」


 ルークが生暖かい目で見ている。

 なんだかムカつくが、今はそれどころではない。

 俺が泣いた事で、人々が祈り始めたからだ。


「おお…女神様が慈悲の涙を流してらっしゃる…」


「ふつくしい…尊い!」


 なんか異物が混じっている気もするが気のせいだろう。


「エンジさん、なんか演説とかしないんですか」


 お姉さんがニヤニヤと俺を小突く。また炎を出してやろうか。


「こほん、皆さま…私は貴方達に慈悲の手を差し伸べました。それによって災害は退けられましたが、貴方達だけに手を差し伸べるのでは他の方々に不公平です。しかし、私の手は二つ。これでは世界の生命に差し伸べられません!なので!貴方達が私の手となり、救いを求める命を助けてあげてください!何も他の国の生命を助けろとは言いません。貴方の近くにいる、顔馴染みの方でも構いません。助けの手を…慈悲の心を持って差し伸べてあげてください」


 そう演説すると、祈っていた人々は感動の言葉を口にする。


「なんてお優しい方だ…」


「我々だけで無く他の人々も心配する清い心…ふつくしい。尊い!」


 うん、明らかに異物が混入してるな…



 まあ、これで世界は平和になるんじゃない?知らんけど。


「ハァ、柄にも無い事言っちゃって、どうするんですか?エンジさん」


 お姉さんがジト目でこちらを見てくるが、俺は何も知らないし、問題無い。


「それにしても!エンジさん、滅茶苦茶様になってましたよ。本当に女神様みたいで、僕も祈りそうになっちゃいましたよ」


 マジかよ…俺そんな容姿してるの?気になる。


「お姉さん、なんか鏡かなんか持ってない?」


 顔を確認したくなったので、お姉さんに鏡を求める。


「鏡なんて持ってるわけ「女神様が鏡をお求めだ!持ってる人はいるか!」


 なんかオッサンが割っていってきた。

 すぐさま、別のオッサンが可愛い手鏡を献上してきた。


「…ありがとう…ございます。助かります」


 感謝の言葉をかけると、何故かオッサン達が空を仰ぎ祈る。


「おぉ、有り難きお言葉だ」


「なんてふつくしい美声。尊い!」


「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます…」


 なんか…滅茶苦茶宗教じみてきたんだけど…



 取り敢えず、手鏡を見てみる。

 するとそこには、滅茶苦茶美しい女性が映っていた。

 中性的な見た目だが、幼くも神々しい雰囲気がある。これは崇めてしまうな…


「エンジさんは滅茶苦茶可愛くなってるんですから、くれぐれも言動には気をつけてくださいね。勘違いから襲われかねませんから」


 ルークが釘をさす。



 マジかよ。じゃあ…


「皆さん…この地は魔王によって破壊されてしまいました…私は、私はとても悲しい…」


 祈る様なポーズで上目遣いをしてみると、人々が荒れ狂う。


「テメェ等!女神様に目苦しいものは見せられねえ!ちょっぱやで復興させるぞ!」


「「「「「うおおおおおお!」」」」」


 全員が道具を持って復興に走っていった。

 こりゃ便利だ。


「ちょっと!ルーク君!貴方まで狂ってどうすんの!それにエンジさん!あまり揶揄わないでくださいよ!」


 お姉さんが洗脳されかけたルークを抑えながら俺を叱る。

 良いじゃんなんやかんや良い方向に行ったんだし。士気を上げられたし…



 それから、街の復興は著しい速度で進んだ。

 大体の街の外観が戻るのに一ヶ月も掛からなかった。

 むしろ前より一軒一軒が大きく豪華になっていた位だ。


「ハァ、エンジさん。しっかり責任取ってくださいね!」


「程々にお願いします…」


 かなり面倒くさい事になったな…それに、俺を讃える宗教が出来てしまった。俺は今後どうすれば良いんだ…

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

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