五十六話 懐かしい、見知らぬ景色
重い瓦礫がのしかかり、息がしずらい。
また俺は負けてしまうのか、力が戻っただけで何故勝てると思ったのか。
愚か者だ…とんでもない愚か者だ俺は。
暗闇の中で懺悔する。
肋骨が砕けて肺に刺さっているのか、呼吸をいくらしても苦しく、呼吸をするたびに痛い。
酸欠で視界が歪む。
(ハァ…死ぬ…のか…)
死期を悟り、このまま身体を委ねても良い気がしてきた。
目を瞑り、後は待つだけだ。
思考がゆっくりと減速してゆく。
ふと目を開くと、視界に強烈な光が差し込んできた。
(なんだ?この光は…強烈だが懐かしい…まるで真夏の光のよう…)
光に目が慣れ、辺りを見回す。
辺り一面の田んぼ。
ここは農道の様な場所だろうか?
俺の横にはバス停があり、後ろには待機所がある。
(取り敢えず…座ってみるか…)
まるで吸い寄せられら様に待機所のベンチに座る。
夏の様な暑さで、日陰に入った途端に涼しくなる。
(夏か…暑いの…好きなんだよな)
聞き慣れた蝉の唄とその風に暫し癒される。
暫くすると、人影が見える。
「お隣…いいですか?」
その凛とした声は、とても聞き覚えのある声だった。
驚き、顔を上げると、そこには死んだ筈のホムラが白いワンピースを見に纏い、麦わら帽子を被って立っていた。
「何で…死んだ筈…」
声が震える。
「俺のせいで…何で…」
涙が溢れ出す。
「俺が馬鹿で我儘で…」
ホムラは俺の横に腰を下ろす。
「そうやって自分を責めないで。私は好きな人が好きなことをやっているのを見たかっただけ。好きな人の笑顔を見たいのはエンジも同じでしょ?」
まさにそのとおりだが、それで死んでしまっては元も子もない。
「私が良いって言ってるの、だから…今は勝つことだけ考えて」
ホムラが真面目な顔で言う。
そういえば、ホムラはこんなにも自論を話すタイプだったかな?
「私は貴方の事が好き。貴方が壁にあたって挫けそうになってるのを見て、黙っている訳ないでしょ?貴方が楽しそうにしていれば静かに、一瞬に笑うの」
ホムラは立ち上がって日向に出てゆく。
「貴方が悲しそうにしていれば隣で静かに、一瞬に泣くの」
日に照らされるホムラはこの世のものでは無いような、美しさがあった。
まるで木漏れ日の様な、まるで燻る炎のような
「そして、貴方が挫けた時には、私が貴方を支えるの。それが、私が貴方へ送る愛の形」
気がつけば日が傾き、茜色の光が山際からこちらを覗く。
「そろそろお帰りの時間ね。ひぐらしの鳴き声は綺麗ね」
ホムラは笑う。
日はどんどん沈む。
「さ、貴方も現世に帰って、私は見ている。そこに居る」
日が沈みきり、闇に包まれる。
読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。
評価や感想などもお待ちしてます。




