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戦闘狂世界を渡る。  作者: 南十字
5章 [復讐の一歩]
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五十四話 ああ、懐かしき地よ

 仲間との死別から月日が経った。

 夏の暑い日も恋しくなるほどの冷え込む日々、雪がチラチラと降る。


「兄貴、もう少しでウィールデン王国です」


「懐かしいな、お前と会ったのもそこだったな」


 懐かしい日々に思い巡らす。

 自分の事ばかり考えた愚かで楽しい日々を。



 ふとジェールの方を向くと、何やら暗い顔をしている。


「どうした?ジェール、何かあったか?」


 ジェールに問うと、何かを言おうとして口籠る。


「…いえ、大丈夫です。なんでもありません。気にしないでください。些細な事なので…」


 そう言っているが、ジェールの顔は暗いままだ。


「そう…か、何かあったら言ってくれ」


 少しモヤモヤするが、本人がそう言うなら大丈夫だろう。

 自分から言うのを待てばいい。


「……」


 無言が続く。

 遊び盛りな年齢のエールも、種族的特性なのか一日中寝てばっかりだ。

 今も俺の背中でスヤスヤと寝息を立てている。



 数時間が経った。

 チラチラと降っていた雪はより勢いが強くなり、地面にもかなり積もっている。



 雪の所為で視界は悪いが、遠くに城壁が見える。


「兄貴、やっと見えて来ましたよ」


「みえたー!」


 ジェールの声をエールがおうむ返し?をする。



 俺達は門をくぐり、無事入国できた。


「祝…入国…」


 嬉しくも無いが、ひとつ呟いてみた。



 以前来た時よりも閑散としており、道にも雪が積もり境目がわからなくなっている。


「静か!みんな何処いったの?」


 エールが疑問を投げかける。

 確かに静かだ。

 雪のせいだと言えば終わりだが、家の中からも人気を感じない。


「兄貴、何かがおかしいです」


 ジェールが警戒を強める。

 その手は剣の柄に添えられている。


「おにーちゃん…」


 俺の服の裾を掴むエールの手から不安が伝わってくる。


「大丈夫だ…」


 エールを安心させる様に声をかけながら、警戒は切らさない。



 警戒を続けながら歩いていると、足元に何か転がっている。


「!!」


 その何かを足で転がすと、人の死体が露わになった。

 その死体の正体は、いつか見たギルドの職員だった。


「クソ!」


 より一層警戒を強める。



 幾分か歩いていると、霧の中に何やら巨大な影が映る。

 影は細長い首を持ち上げる。

 影は視界を全て埋める程の翼を勢いよく広げる。


『グルァァァァァァァァァァァァァァァァ!』


 翼の羽ばたきによって霧散し晴れた視界に、巨大なドラゴンがどっしりと構える。


「兄貴!」


 飛んできた火球を避ける。

 その際に三人散り散りになる。


「お前等!生きることに専念しろ!」


 指示を飛ばして行動に集中する。



 乱れ飛ぶ火球を必死に避ける。

 ドラゴンの方を見ると、巨大な鯨…エールが突進しているのが見えた。

 着弾し、ドラゴンが怯むと同時に人型に戻り、ドラゴンの足元から岩の棘を生やす。



 これを好機と見たのか、ジェールが飛び出す様にドラゴンに駆け寄る。



 しかし、ドラゴンもそうやすやすとやられてはくれない。

 貫かれた身体を無理矢理動かし、岩を破壊する。



 翼を羽ばたかせ、暴風で辺りを破壊しながら空高く舞い上がる。


「何かしてくるぞ!」


 俺は叫ぶ。

 ドラゴンは上空で止まると、口に凄まじい熱気を蓄える。

 そして、口に炎を蓄えたまま急降下してくる。

 近づくにつれて気温が上がる様に感じる。


「兄貴!逃げましょう!」


 ジェールが叫ぶ。

 エールは鯨になって、もう遠くにいる様だ。


「いや、大丈夫だ。お前だけでも逃げてくれ。何か…何かが見えそうなんだ」


 俺は笑顔でそう言う。



 ジェールは困惑し、迷っている様だった。


「俺は炎に耐性がある。大丈夫だ!」


 そう言うと、渋々ジェールが離れてゆく。



 前方に向き直り、視界に入るは太陽の様な豪火。


「来い!俺の…糧となれ」


 炎が辺りを飲み込む。


「ぐゥゥあァァァァァ!」


 肌が焼ける。

 だが、耐性がまだ残っているのか損傷は少ない。



 しかし、長時間受ければ確実に死ぬだろう。



 まだ、まだだ!炎を感じろ!我がモノとしろ!



 痛みに耐えながら、炎を纏う感覚を思い出す。


「うおォォォォ!」


 炎が身体を焼き、身体を蝕んで行く。

 こんな所で死ぬ訳にはいかない!

 力を取り戻して復讐を果たすんだ!



 俺は炎に消えていった…











―――――――――――

 後方から放たれる轟音と熱気に思わず足を止める。



 遠く離れていても身を焼く様な熱さの風に不安を覚えるジェール。


(兄貴…生きていてください…)


 ジェールの頭上では、エールがその有様を見ていた。


(お兄ちゃんが炎に食べられちゃった…どうしよう)


 二人の胸に広がる黒い不安感。



 それは杞憂に終わった。



 光が治まり、焼けた大地が広がる爆心地。



 身体をフラフラと揺らして歩く。


(分かった…分かったぞ!)


 身体を縮ませ、力を込める。



 身体に力を張り巡らせ、圧縮し…………解放する!!


「クハハハハハッ!」


 溢れ出る炎、懐かしい感覚。

 辺りを染め上げる炎は、柱の様に立ち上る。


「戻ったぞ!俺は元に戻った!」


 身体に纏う炎の心地よさ、何と心地いいことか。



 懐かしい見慣れた風景だが、唯一違う所があった。


「黒い…炎!」


 ドス黒い炎。

 それは、怒りの…復讐に燃える炎。

 その炎は大地をも容易に溶かす熱量を持つ。


「燃やし尽くしてやる!全てを!」


 巨大なアギトを開き、口に炎を蓄えたドラゴン。

 その先には俺がいる。



 放たれた火球は一瞬で俺を飲み込んだ。



 しかし、炎が霧散し、その中から俺が飛び出す。



 握り込まれた拳。


「下克上じゃぁぁぁぁ!」


 その巨大な頭を拳で穿つ。

 その時、拳から黒炎が溢れ出す。

 黒炎は大地を溶かし、鱗を炭化させ、ドラゴンを蝕んだ。



 頭に撃ち込まれた打撃の威力は、昔の俺の拳を凌駕していた。

 頭を地面に打ち付けるドラゴン。

 その下には沸々と湧くクレーターが出来上がっていた。


「勝った…勝てた…勝てるまでに戻れた!やったぞぉぉぉぉぉぉッ!」


 歓喜の声が響く、それは復讐の鬼の二度目の産声だった…

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

評価や感想などもお待ちしてます。

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