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戦闘狂世界を渡る。  作者: 南十字
4章 [魔王]
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五十話 邂逅

とうとう大台の五十話です!

百話までは行きたいですね…

「ぅ…ゥ…」


 微かに呻き声を上げる肉塊、それを放置してエールの元に駆け寄る。



 未だに意識は無いが、息はある。

 安心しているのかはわからないが、安堵した表情をしている。



 このまま起こすのも忍びないが、まだ倒すべき相手が居る。

 エールを揺すって起こす事にした。


「うぅん…は!おにーちゃん!」


 エールが目を覚ました。

 特に異常な所は無く、無事の様だ。



 エールが辺りを見回した後、俺の方を見つめてきた。



 安堵した顔が歪み、瞳から涙がこぼれ落ちる。


「おにーちゃん…ありがとう…本当に…ありがとう…」


 えずきながら感謝を述べる。

 奴が居なくなってかなり安心したのだろう。

 大粒の涙がぼろぼろ溢れ出る。



 そっと抱きしめてやる。

 俺の胸にしがみつき、ワンワン泣くエールは普通の女の子の様だった。



 このまま泣き止むまで抱きしめていたいが、なんと言っても俺には時間が無い。

 どうにか説得してここを離れたいものだが、こんな幼子を放置するのも良く無いだろう。


「エール、よく聞いてくれ。俺はどうしても倒さなくちゃイケない奴が居るんだ。すぐに行かなくちゃいけない。だから…お前はどうしたい」


 そう告げると、少し考えた後に口を開く。


「おにーちゃん。私の事はいいから、行って。行って倒してきて!そしたら…迎えに来て!約束!」


 はにかみながらそう言うと、俺の背中に回り込んで背中をそっとを押してきた。


「がんばって…おにーちゃんなら出来る」


 そう言うと、エールは俺から少し離れる。



 エールは次第に大きな大きな鯨と成り、日の傾く茜色と藍色の間を螺旋を描きながら泳いでいく。


「オォォォォォ…」


 鯨の鳴き声が響き渡る。

 それは、俺を応援している様だ。



 俺は立ち上がり、踵を返して歩き出す。



 夕暮れの薄暗い時。

 俺は気付けば闇に吸い込まれていた。



 視界が回復したかと思うと、無機質な石造りの部屋に居た。



 部屋と言っても、上下左右前後全てが広く、足元から続く赤いカーペットの先には立派な玉座がある。



 なんだここ…俺は砂漠にいた筈…



 取り敢えず辺りを見回すが、俺以外誰も居らず静寂だけが空間を支配していた。


「こんにちは…」


 静寂を破り、低く抑揚の少ない声が前方から響く。



 咄嗟に振り向くと、立派な玉座にスーツ姿の男が座っていた。

 それは、あの時のスーツの男だった。


「四天王を倒したのは知っています。おめでとうございます。()()()の戦いぶり、しっかりと拝見させていただきました」


 男はゆっくり立ち上がり、しっかりした足取りで此方に歩き出す。


 気が付けば男は玉座の前にある階段から降りていた。

 男は俺の前で止まる。


「お久しぶりです。焔木延治さん」


 なッ!何でコイツは俺の名前を知っているんだ!


「おや?その顔は、なんで名前を知っているのかと思ってる顔ですね?ええ…貴方の事は調べさせていただきましたよ。以前会った時から()()()()


 男はそう言いながら俺の真横に移動していた。

 全く認識が出来なかった。


「まさか私の望んだ者が産まれるとは思いませんでした」


 耳元で囁く男。


「ご主人様!」


 何者かが俺のそばに来て男を攻撃する。

 男はやはり瞬間移動をして避ける。

 そこにいた人物は…


「ホムラ!」


 ホムラは炎を纏い、低く獣の様な姿勢で構えている。


「ふふ…エンジ様、私達もいますわよ」


 ルージュと、その後ろに侍るクロウが優雅に歩いて来た。


「全員揃ったか。じゃあ…佐藤!殺ろうか」


 刀に手をかけ、口端を吊り上げて笑う。


「しょうがない…」


 佐藤はおやおやと言った感じで肩をすくめる。


時空神(クロノス)鍵錠(ロック)


 呟きと共に佐藤は消えた。


「エンジ様!」


 ルージュが叫ぶ。



 ルージュの方を見ると、そこにはルージュは居らず佐藤が立っていた。



 その足元にはべったりと広がる闇が。


「ルージュ様は頂きましたよ。私の目的は彼女の能力ですから。後は…暇つぶしにでも付き合ってやりましょうかね」


 佐藤は不敵に笑う。


「おい!ルージュを何処にやった!」


 佐藤に問う。


「私の闇の中ですよ。彼女は殺せませんからね。だから、生かさず殺さず。私が取り込み、私の力にするのですよ…あぁ、ちなみにもう遅いですから。事実、私は不死身になってます」


 佐藤はそう言いながら自らの胸に腕を突き刺す。

 胸から抉り出された心臓はドクドクと脈打っていた。

 心臓が無くなった佐藤だが、一向に倒れる事は無い。



 次第に傷口に血が集まり、穴を埋めていった。

 気付けば元に戻っていた。


「どうです?凄いでしょ。私の能力(ちから)


 佐藤は誇らしげに笑う。

 佐藤が片手を持ち上げる。

 そして手を振り下ろすと、()()()()が俺達に襲い掛かる。



 直ぐ様炎を展開して全員を守る。


「成程、こうやって使うのですね」


 背後から奴の声が聞こえる。



 振り向くと何かを考えている様子の佐藤。



 警戒していると、俺の横から何か黒い物体が走り出す。



 それは佐藤に襲い掛かる。



 佐藤は楽々とその攻撃を避ける。

 時折動きに違和感があるが…


「使うな!貴様が!その汚らしい身でルージュ様の!お嬢様の!ご主人様の力を!血液を!使うな!」


 骨の外装で身を包み、強靭な肉体で限りない力を込めて攻撃を振るうクロウ。

 その表情は怒りと焦燥に支配されたものだった。


「返せ!私のご主人様を!」


 怒りに身を任せて必死に攻撃を振るう。

 しかし、それは虚しくも避けられ、標的を失った攻撃は辺りを破壊する。



 佐藤は瞬間移動で背後に周り、クロウの骨を引き抜く。


「ハハハ…どうです?骨を抜かれた気持ちは。悔しいですか?守れなくて。無惨ですね」


 倒れるクロウ。

 その顔には正気が無く、代わりに絶望があった。


「さあ、次は…」


 そう呟くと佐藤は消える。



 ヤバいと思って振り返るが、もう遅い。



 ホムラの胸を貫き、心臓を握り潰す佐藤が居た。

 滴る血液。

 溢れる涙。


「ホムラァァァァァァァ!!!!」


 虚しく響く俺の絶叫…

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

評価や感想などもお待ちしてます。

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