五十話 邂逅
とうとう大台の五十話です!
百話までは行きたいですね…
「ぅ…ゥ…」
微かに呻き声を上げる肉塊、それを放置してエールの元に駆け寄る。
未だに意識は無いが、息はある。
安心しているのかはわからないが、安堵した表情をしている。
このまま起こすのも忍びないが、まだ倒すべき相手が居る。
エールを揺すって起こす事にした。
「うぅん…は!おにーちゃん!」
エールが目を覚ました。
特に異常な所は無く、無事の様だ。
エールが辺りを見回した後、俺の方を見つめてきた。
安堵した顔が歪み、瞳から涙がこぼれ落ちる。
「おにーちゃん…ありがとう…本当に…ありがとう…」
えずきながら感謝を述べる。
奴が居なくなってかなり安心したのだろう。
大粒の涙がぼろぼろ溢れ出る。
そっと抱きしめてやる。
俺の胸にしがみつき、ワンワン泣くエールは普通の女の子の様だった。
このまま泣き止むまで抱きしめていたいが、なんと言っても俺には時間が無い。
どうにか説得してここを離れたいものだが、こんな幼子を放置するのも良く無いだろう。
「エール、よく聞いてくれ。俺はどうしても倒さなくちゃイケない奴が居るんだ。すぐに行かなくちゃいけない。だから…お前はどうしたい」
そう告げると、少し考えた後に口を開く。
「おにーちゃん。私の事はいいから、行って。行って倒してきて!そしたら…迎えに来て!約束!」
はにかみながらそう言うと、俺の背中に回り込んで背中をそっとを押してきた。
「がんばって…おにーちゃんなら出来る」
そう言うと、エールは俺から少し離れる。
エールは次第に大きな大きな鯨と成り、日の傾く茜色と藍色の間を螺旋を描きながら泳いでいく。
「オォォォォォ…」
鯨の鳴き声が響き渡る。
それは、俺を応援している様だ。
俺は立ち上がり、踵を返して歩き出す。
夕暮れの薄暗い時。
俺は気付けば闇に吸い込まれていた。
視界が回復したかと思うと、無機質な石造りの部屋に居た。
部屋と言っても、上下左右前後全てが広く、足元から続く赤いカーペットの先には立派な玉座がある。
なんだここ…俺は砂漠にいた筈…
取り敢えず辺りを見回すが、俺以外誰も居らず静寂だけが空間を支配していた。
「こんにちは…」
静寂を破り、低く抑揚の少ない声が前方から響く。
咄嗟に振り向くと、立派な玉座にスーツ姿の男が座っていた。
それは、あの時のスーツの男だった。
「四天王を倒したのは知っています。おめでとうございます。貴方達の戦いぶり、しっかりと拝見させていただきました」
男はゆっくり立ち上がり、しっかりした足取りで此方に歩き出す。
気が付けば男は玉座の前にある階段から降りていた。
男は俺の前で止まる。
「お久しぶりです。焔木延治さん」
なッ!何でコイツは俺の名前を知っているんだ!
「おや?その顔は、なんで名前を知っているのかと思ってる顔ですね?ええ…貴方の事は調べさせていただきましたよ。以前会った時からずーっと」
男はそう言いながら俺の真横に移動していた。
全く認識が出来なかった。
「まさか私の望んだ者が産まれるとは思いませんでした」
耳元で囁く男。
「ご主人様!」
何者かが俺のそばに来て男を攻撃する。
男はやはり瞬間移動をして避ける。
そこにいた人物は…
「ホムラ!」
ホムラは炎を纏い、低く獣の様な姿勢で構えている。
「ふふ…エンジ様、私達もいますわよ」
ルージュと、その後ろに侍るクロウが優雅に歩いて来た。
「全員揃ったか。じゃあ…佐藤!殺ろうか」
刀に手をかけ、口端を吊り上げて笑う。
「しょうがない…」
佐藤はおやおやと言った感じで肩をすくめる。
「時空神ノ鍵錠」
呟きと共に佐藤は消えた。
「エンジ様!」
ルージュが叫ぶ。
ルージュの方を見ると、そこにはルージュは居らず佐藤が立っていた。
その足元にはべったりと広がる闇が。
「ルージュ様は頂きましたよ。私の目的は彼女の能力ですから。後は…暇つぶしにでも付き合ってやりましょうかね」
佐藤は不敵に笑う。
「おい!ルージュを何処にやった!」
佐藤に問う。
「私の闇の中ですよ。彼女は殺せませんからね。だから、生かさず殺さず。私が取り込み、私の力にするのですよ…あぁ、ちなみにもう遅いですから。事実、私は不死身になってます」
佐藤はそう言いながら自らの胸に腕を突き刺す。
胸から抉り出された心臓はドクドクと脈打っていた。
心臓が無くなった佐藤だが、一向に倒れる事は無い。
次第に傷口に血が集まり、穴を埋めていった。
気付けば元に戻っていた。
「どうです?凄いでしょ。私の能力」
佐藤は誇らしげに笑う。
佐藤が片手を持ち上げる。
そして手を振り下ろすと、血の矢尻が俺達に襲い掛かる。
直ぐ様炎を展開して全員を守る。
「成程、こうやって使うのですね」
背後から奴の声が聞こえる。
振り向くと何かを考えている様子の佐藤。
警戒していると、俺の横から何か黒い物体が走り出す。
それは佐藤に襲い掛かる。
佐藤は楽々とその攻撃を避ける。
時折動きに違和感があるが…
「使うな!貴様が!その汚らしい身でルージュ様の!お嬢様の!ご主人様の力を!血液を!使うな!」
骨の外装で身を包み、強靭な肉体で限りない力を込めて攻撃を振るうクロウ。
その表情は怒りと焦燥に支配されたものだった。
「返せ!私のご主人様を!」
怒りに身を任せて必死に攻撃を振るう。
しかし、それは虚しくも避けられ、標的を失った攻撃は辺りを破壊する。
佐藤は瞬間移動で背後に周り、クロウの骨を引き抜く。
「ハハハ…どうです?骨を抜かれた気持ちは。悔しいですか?守れなくて。無惨ですね」
倒れるクロウ。
その顔には正気が無く、代わりに絶望があった。
「さあ、次は…」
そう呟くと佐藤は消える。
ヤバいと思って振り返るが、もう遅い。
ホムラの胸を貫き、心臓を握り潰す佐藤が居た。
滴る血液。
溢れる涙。
「ホムラァァァァァァァ!!!!」
虚しく響く俺の絶叫…
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