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戦闘狂世界を渡る。  作者: 南十字
4章 [魔王]
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四十六話 女王として

 今回は二話連続投稿しました。

 どうしても話を一旦区切ってから書き分けたかったので…

 宙を舞う生首、泣き別れた胴体。

 かつて美しかったそれは、常人が見れば恐怖と嫌悪感を覚えるような見た目になっていた。



 力なく、前方に倒れ伏す胴体。

 鈍く生々しい音を立てて落ちるだろう生首。

 それは確実に起こる未来だ。



 しかし、その結果は訪れなかった。



 人の色をしていた死体は真っ赤に染まり、途端に血となって溶けてしまった。



 ドラキュラは驚く。



 確かに先程…いや、殺す前までは生物だったのだから。


「私はまだ生きたい」


 ドラキュラの背後から声が聞こえてくる。


「私は死を、見たの。それは吸血鬼の本質でもある。死。それは終わりであり、始まりでもある」


「本質を見たからと言って我に勝てるわけがなかろう」


 ドラキュラは静かに切りかかる。



 ルージュは霧となり霧散する。


「私達は何にでもなれる。本質を見ぬけば」


 ドラキュラの足元に広がる血液から深紅の棘が伸びる。


「ぐぬぅぅぅ…」


 鋭い痛みに思わず呻く。


「私達は不老という死に最も遠い性質を持つ。そして、生命全てに流れる、生に最も近い、生命の源となる血液を啜り死をもたらす」


 ドラキュラが血液を操作し、ルージュに血の兵を向ける。



 ルージュが右手を突き出すと、襲ってきた兵が液体となって消える。


「な!?我の権限を書き換えただと!?」


 目を見開いて驚くドラキュラを横目に、ルージュは続ける。


「生と死、その矛盾する二つの性質を扱う私達。だけど貴方は生に取り憑かれているのね…」


 まるで憐れみを持った様な目をドラキュラに向ける。


「我は!我こそは!ヴァンパイアの帝王ぞ!そんな目を我に向けるなっ!」


 ドラキュラは激昂する。



 血液が竜巻の様にドラキュラを取り巻く。



 ドラキュラが咆哮を上げると、血液の竜巻が弾ける。



 ドラキュラは、変化していた。



 身体が膨れ、筋肉がより膨張していた。


「何が本質だ!我はそんなもの知らない!それでも帝王と呼ばれているのだ!」


 ドラキュラの姿が消え、気付けば目の前に居た。


「死ね!」


 ドラキュラの右腕がルージュを穿つ。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね…死ね!」


 目にも止まらぬ速さの連打。



 しかし、ルージュは動かない。


「どうした!本質を見抜いたんだろ!」


 ドラキュラは殴り続ける。



 すると、ルージュの殴られている箇所が次第に血液と化していく。



 終いには全てが血液と化して消えてしまった。


「この!何処へ消えた!」


 取り乱すドラキュラ。


「無様ね。初めはあんなに厳かで怖かったのに」


 ルージュの嘲笑の篭った声が背後から聞こえる。


「貴様っ!」


 振り向きざまに血液の剣を創り出して放つ。



 ルージュは真っ赤な霧と化して消え、また背後に現れる。


「あら、こんなのも良いわね」


 女王様は血液では無く霧と化した事でご満悦だ。


「なめてるのか!」


 ドラキュラから意識を外していた事で、自らを馬鹿にしているのかと怒る。


「あら、ごめんなさい」


 ルージュは嘲笑を崩さずに血の棘を放つ。


「グッ!く、クソ!」


 身体に刺さった棘を抜きながら悪態をつく。


「棘を抜く暇はないわよ」


 ルージュはドラキュラに接近する。

 手に持った(つるぎ)を下段から切り上げる。



 ドラキュラはそれを半身になりながら剣で受け流す。


「ッフ!剣の腕は無いみたいだな!」


 ドラキュラは横薙ぎに剣を振るう。



 もう少しでルージュを真っ二つに出来る。

 その時、ドラキュラの動きが止まった。


「残念ね。背後に気をつけて無いと」


 ドラキュラの胸を貫通する深紅の(つるぎ)

 ドラキュラの背後に立つはもう一人のルージュ。


「血液は生命の源。それを操る事が出来る。貴方もその片鱗を使っているじゃ無い?

 彼女は私自身であって私では無い。自我を持つ分身」


 背後のルージュが(つるぎ)を引き抜く。


「貴方が使うのは、()()が操作する兵。対して私は、()()()()()()。より簡単で精密なのはどちら?」


 ルージュの背後から迫っていた血の兵が新たなルージュにバラバラにされる。



 3人のルージュがドラキュラの前に立つ。


「「「一人一人は弱体化するけど、この数を捌けるかしら?」」」


 そう言って何人にも分裂する。

 ルージュが空間を埋め尽くす。


「ハッ!ハハハハハ!フハハハハ!」


 ドラキュラが笑い、立ち上がる。


「一人一人が弱体化するのなら!悪手だったな!女王よ!」


 ドラキュラの足元から血液が広がる。


「我が血の領域は!何人も逆らえん!」


 ドラキュラが叫ぶ。



 しかし、何も起こらない。


「何故だ!我が領域を広げた筈!」


「ざぁーんねぇーん。私は下克上を果たした様ねぇ」


 ルージュは馬鹿にする様に言う。


「あら!分からない?私の分身は私自身。例え分身しても総量は変わらない。つまり!貴方より私の方が強いのよぉ。一個体として曖昧な分身。()()()()()も曖昧となって私本来の強さとなるみたいね」


 ドラキュラは顔を真っ赤に染め、血が出るほど強く唇を噛む。


「さあ!皆で美しいお庭を作りましょう!紅血(ブラッドルージュ)()薔薇園(ローズガーデン)


 血液から薔薇の蔓が伸び、広がる。

 それだけでなく分身も血液に溶け込む。



 気付けば辺りが、真っ赤な花園(はなぞの)が生まれる。

 血液の滴る薔薇の蔓は鋭利に成っており、触れただけで皮膚が裂ける様だ。


「これは…素晴らしい造形だが!こんな雑草如きでこの我を止められると思ったか!」


 ルージュに攻撃しようと、蔓を引きちぎろうとするドラキュラ。

 しかし、それは迂闊な行動だった。


「甘いわね」


 蔓を掴むドラキュラだが、掴んだ瞬間薔薇の蔓が腕に巻きつき、皮膚を裂きながら、締めつきながら腕を登ってゆき、あっという間に全身を拘束してしまった。


「グウッ!こんなモノ…こんなモノ!」


 蔓から逃れようと力を込めるドラキュラだが、力を込めれば込める程棘が身体を切り裂く。


「我はこんなモノで無様に死ね無いのだ!ウオォォォォォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!」


 ドラキュラの叫びはどんどんと醜く、まるで飢えた獣の様に無様に変わる。


「ワ゛レ゛ハシナ゛ヌ゛…」


 ドラキュラの肉体がより膨張し、皮膚がギチギチと悲鳴を上げる。

 いたるところから血が噴き出し、とうとう筋肉が身体から溢れ出した。



 全身が醜く歪み、筋肉が身体を取り込んでゆく。


『ア゛ァァァァァァ…』


 出来上がった怪物は、筋肉と骨が剥き出しで、それぞれ不揃いの六本足を蠢かせる。

 背中にはボロボロのコウモリの様な一体の翼を生やしている。

 しかし、その翼は関節がやたら多く、ウネウネとくねらせている。


「より醜くなったわね。帝王と言われてもわからないわ」


 顔は二つあり、絶叫している様な憤怒している様な顔をしており、醜いという言葉がこれ程まで合うモノは無い。



 ドラキュラだった怪物は翼を前方に防御するように突き出しルージュに突進する。


「防ぎなさい薔薇の壁。血を啜る生垣(ルージュスペルヘイド)


 血液の薔薇が集まり、怪物の突進を受け止める。


「飲み込みなさい」


 ルージュの声に応える様に薔薇が怪物を飲み込む。



 怪物を飲み込んだ薔薇の塊は、怪物の足掻きによって動く。


「さあ、これで終わりよ…」


 ルージュの背後に全ての血液が集う。



 当然、怪物を飲み込んだ血の薔薇もなくなり、怪物はルージュを殺そうと攻撃する。



 その翼を地面に突き刺し、双頭に血液を蓄える。

 血液を飛ばす為なのか首が縮まり、筋肉がボコボコと湧き立つ。

 そして…巨大な血液の塊が放たれる。



 それは魔法でも種族的な能力でも無く、己の血液を力で押し出したものである。

 しかし、それでも力は凄まじい。



 地面を削り、抉りながら迫ってくる。


「さあ、貫きなさい。(トゥルー)死神(タナトス)()真紅を誇る闘槍(カーマインスピアード)


 集まり、紅玉と化した血液がレーザーの様に放たれる。

 只のレーザーでは無く、その周りを血液が渦巻き、阻む物全てを消滅させる。



 勿論、血液も例外ではない。



 巨大な血液の塊。

 その中心を一瞬で貫いたかと思うと、血液の塊が霧散し、怪物の身体を貫いた。



 声も上げずに倒れる怪物。



 最期は呆気ないものだった。


「貴方は生に拘り過ぎて、醜い肉体と弱さを手に入れてしまったのね…」


 ルージュは踵を返す。


「帝王の座は貰っとくわ。私が今日から帝王…紅血の女帝、ルージュ•カーディナルよ」


 ルージュが一歩踏み出す。



 そこには怪物の死体が静かに眠るだけだった…

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

評価や感想などもお待ちしてます。

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