四十五話 本質を見抜け
(此処は…何処?)
ルージュは思う。
先程まで吸血鬼の王に恐怖し、処刑されていた筈だった。
なのに、今はそれが無い。
目の前に広がるのは万華鏡の様な景色。
(これは…記憶?)
自らの身体は見えず、視界のみがある。
その視界も動かない。
(破片の中に何かが写ってる?)
万華鏡の欠片の一つに、景色が映る。
(これは…卵?中で動いているわね)
透明な卵の中で何かが蠢く。
卵は徐々に形を変え、姿を変え。
(魚?)
卵から魚に姿を変えた。
(また姿が…)
魚の鰭が長く太くなってゆく。
魚はやがてイモリの様な両生類に。
両生類に鱗が付き、爬虫類の様な見た目に。
そこから鱗と毛の生えたものに分かれ、更に鱗が羽毛に。
そう、これは脊椎動物の進化だ。
しかし、この世界の人々は知らないものだった。
ルージュがふと気がつくと、他の欠片でも進化が起こる。
もっと細かい進化…もっともっと細かい進化…
(魚がイモリに…イモリがトカゲに…これは生命の軌跡かしら?)
やがて分かれたうちの、体毛のある方が人と成った。
(凄い…これが…生命)
ルージュが感動していると、奥の方から穴が広がる。
穴の縁が徐々に崩落し、やがて闇に包まれた。
(暗い…冷たい…)
何処からか血液が流れ込み、視界が真っ赤に染まる。
(暖かい…)
突然、頭の中に途方もない情報が流れてくる。
(痛い!痛い痛い痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…)
ルージュはもがき、苦しんだ。
上へ上へ。
血液の海を泳いで。
光が見える方へ。いや、見えなくても見える筈の方へ。
やがてルージュは精神的に疲れ果て、沈んでいった。
(エンジ様…)
ルージュが見たのは今まで啜ってきた血液の持ち主の記憶…
愛する者の名を思い、記憶の果てに。
奇しくも、首を切られる瞬前に思ったのと同じに…




