四十一話 足止め
魔王城の門が見えてきた時、そこには異様な光景があった。
まるで砂糖に群がる蟻の様に大量の兵が待ち構えていた。
俺達に気がついたのか、一人の指揮者らしき人物が声を上げる。
「魔王様の野望を阻む者がここまでやってきた!先鋒で向かったグルドガード様もやられてしまい、我々では勝てない実力者だ!しかし!例え勝てなくても、束になれば勝機がある!魔王様のために!その命をもって倒そうぞ!」
そして、一呼吸の間を取ってから、大声で命令を下す。
「全軍!突撃!」
その命令と共に兵が押し寄せる。
地上からは幾万の魔族が、空からは幾万のワイバーンが。
しかし、いくら集まろうと雑魚は雑魚。
結果は分かりきっていた。
「桜火乱舞・桜風」
放たれた炎により、道ができる。
積み重なり、燻る黒焦げの死体を踏みにじり、歩く。
俺の殺気に気圧され、及び腰になっていた兵達だが、仲間の死体を踏みにじられた事で怒りを覚える。
「貴様ッ!死体を踏み躙るとは何事だッ!…殺す…殺すぞ!」
その声を皮切りに、兵達の怒りの声が溢れ出す。
『殺せ!』『死ね!』『一片残らず!』
数々の罵声、迫り来る兵士…
その怒りを持ってしても俺には届かなかった。
それはもう清々しい程に一方的だった。
炎に焼かれ、声も発さず燃え尽きる者。
炎で内臓を焼かれ苦しみ死ぬ者。
血液の針山に貫かれる者。
闇に飲まれ圧死する者。
一時間もかからずに敵は全滅した。
血の染み付いた大地。
倒れた、首の無い死体。
悲しいかな、この世は、どれだけ足掻いても乗り越えられない大きな壁があるのだ。
圧倒的強者。
皮肉な事に、魔法によって災害と化したそれは、同じ災害で無いと止められる事の無いものに成ってしまった。
そして、その災害は今、別の災害に挑もうと歩む。
暗い城の中に消えてゆく災害からは、歓びが滲み出ていた。
仄かに光る壁掛けの松明をあてに、暗い城内を歩く。
石造りの城内は直線が続いており、足元もしっかりしている。
先程までは雨は降っていなかったのだが、今は雨が降っており、より暗くなっている。
時折雷鳴が轟き、城内の不気味さを際立てている。
ふと気がつくと、仲間の気配が無くなっている。
振り向くが、そこには暗い闇しか無かった。
「!?ホムラ!ルージュ!クロウ!何処だ!?お前ら!」
名前を呼ぶが、声が虚しく闇に消えてゆく。
仲間が急に消え、焦りが隠せない。
大丈夫なのか?攫われた?死んで無いか?
ネガティブな思考が脳内を染めてゆく。
不安に苛まれ、息が荒くなる。
すると、何処からか声が響く。
「また会いましたね、延治さん」
その声は抑揚が少なく、冷たいものだった。
「誰だ!?何で俺の名前を知っている!?」
不安、驚き、怒り…沢山の負の感情が渦巻く。
「貴方の仲間は四天王の元にいます。貴方もこれからそこに送ります。せいぜい楽しませてくださいね…」
そこで声は途切れ、視界が歪み捻れる。
気がつくと、薄暗い洞窟の中に居た。
何処だ此処?全く見覚えが無い。
辺りを見回すと、微かにだが光が見える場所がある。
「取り敢えず出るか…」
独り言が漏れでる。
独り言は反響し、消えてゆく…
すると、いきなり地面が揺れる。
揺れはどんどん強くなり、洞窟がミシミシと軋む。
このままでは潰れちまう!外に出ないと死ぬ!
崩れて出た小石が降る中、全力で足を動かして走る。
光が徐々に強く大きくなる。
視界が光に包まれ、思わず竦む。
視界が元に戻ると、砂の世界が広がる。
「?此処はあの砂漠だよな?どうしてこんなに遠い場所に居るんだ?」
困惑が隠せない。
この砂漠から何ヶ月もかけて魔王城に向かったのに、また砂漠に戻って来たのだから。
唖然としていると、またあの地震が来る。
今度は先程よりも揺れが強く、震源が近く感じられた。
揺れにひたすら耐えていると、砂漠のむこうから砂が噴き上がる。
砂が噴き上がったと思うと、今度はやや右にずれて砂が噴き上がる。
今度は左。
また右…
明らかに砂の柱が近づいてくる。
すると、俺の少し先が今まで以上の大きさで爆ぜた。
太陽を遮って出て来たのは、砂の色をしたザトウクジラだった。
ゆっくりと弧を描いて宙を跳ぶ。
そして…
俺の元に落下してきた。
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